第34話 liVeKROne加入発表
「あ~なんでこうなったかなぁ……」
「まお様わたくしは楽しみですよ」
「そりゃ見てる方は楽しいでしょうねぇ……」
そんな私を見て同期のリーゼ・クラウゼことリーゼは純粋な笑みを浮かべ声をかけてくるが、私はそれを素直に受け止める事はできずにジト目で恨みがましく答える。
いよいよ迎えた9月12日、今日は
加入発表配信といっても二周年記念凸待ち配信をしたばかりだし、無難に雑談か歌枠くらいしか思いつかなかったのでリスナーにアイディアを募集したところ。それこそほとんどが『デビュー配信振り返りしかないよなぁ!?』と言わんばかりに要望が殺到した。
記念配信での定番といってもいいデビュー配信振り返りを今までのらりくらりとかわしてきたが、ツケをここにきて払わなくてはいけなくなるとは……。
無駄な抵抗とわかりつつも一応SNSでアンケートを取ってみたりしたが。
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黒惟まお@liVeKROne/9月12日加入配信 @Kuroi_mao
liVeKROne加入発表配信で何をするか
#liVeKROne加入記念配信
■普通に雑談
■■歌枠
■■■■■■■■■■■■■■デビュー配信振り返り
最終結果
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それはまぁ圧倒的な結果を再確認するだけになり。事務所に確認という逃げ道も「配信内容についてはこちらから制限するような事は基本的にありません」という、ありがたくも今だけは恨めしい返答で完全に逃げ道は塞がれてしまった。
しかも「せっかくなら配信スタジオでの配信も試してみませんか?こちらとしてもきちんと稼働するか確認したいですし」と言われてしまえば断る理由もなく。そこから「リーゼさんにも見学してもらいましょう!」と話がとんとん拍子に進んでいくのを眺めるしかできなかった。
マリーナに変わってマネージャーとして紹介された女性と運営スタッフはみなやる気十分でそれに水を差すことなんて出来るだろうか、いや出来ない。
そんな訳で今日は昼からスタジオに入って配信周りの設定と流れの確認、ついでに軽く収録を行った後は時間まで途中で合流したリーゼと事務所のリフレッシュルームで過ごしていたのだ。
「まお様のデビュー配信は定期的に見ていますので見どころの選出は任せてください!」
「うわああああ……」
ほんと無邪気な笑顔ほど怖いものはないよね。
────
【祝liVeKROne加入!】デビュー配信振り返り、プチお披露目も!?【黒惟まお/liVeKROne】
:待機
:デビュー配信振り返りきちゃ!
:初期まお様久しぶりだな
:最近初期まお様あんまり見かけないからな
:加入発表で振り返りとかドMかな?
「今宵も我に付き合ってもらうぞ?liVeKROne所属の魔王、黒惟まおだ」
:こんまおー
:おー配信画面変わってる
:所属おめでとー!
:雇われ魔王になったか
「こんまお。今宵は発表のあった通り、liVeKROne加入のお知らせと……記念にデビュー配信の振り返りを行うことになってしまった」
:義務こんまお助かる
:こんまおー(義務)
:明らかにテンション下がってて草
:そりゃ聞かれたら振り返りになる
:リスナーの総意なのでしゃーない
「ちなみに今日の配信はliVeKROneの配信スタジオから行っている」
:おー
:さすが企業勢
:だからいつもとちょっと違うのか
「配信画面も少しブラッシュアップしたものを用意してもらっているし、実はこの姿もいつもと少し違うのだが気付いただろうか?」
そう言って私が少し大げさに身体を左右に動かしたり首を振ってみたりわざとらしく表情を変えてみせると、画面に映る黒惟まおがいつも以上に動き表情も豊かになっている。実はリーゼのVtuberとしての姿を作る際、黒惟まおのモデルもバージョンアップを行ってもらった。実に二年ぶりのアップデートでその間にもモデルの表現方法なんかはどんどん進化していたらしく動いてみせればその違いは一目瞭然だ。
:めっちゃ動くようになってる
:ガンギマリ助かる
:これが2.0ってやつか
:お披露目ってこれ?
「たしかにこれもそうだが、もうひとつあるのでそれは後に楽しみにしておいてくれ。ただプチお披露目ということを忘れないように、先に言っとくと新衣裳ではないぞ」
:お?
:匂わせ助かる
:楽しみ
:地獄のあとには楽しみがなくちゃな
「さて、振り返りのまえに我が所属することになったliVeKROneについて軽く説明させてもらう」
いつもなら自分で配信画面の切り替えなどしなくてはいけないが今日はそのあたりはすべてスタッフがやってくれるのでそれだけでもかなり楽だ。
数枚のスライドを切り替えてもらいながら事務所についての概要を説明していく。
「liVeKROneのクローネとはドイツ語での王冠、英語でいうところのクラウンにあたるな。我の同期のリーゼも魔王見習いということで、ともに配信者としてもクラウンという頂を目指していくという。思うに運営もなかなかポエミーというか中二病というか」
:おまいう
:魔王がそれ言っちゃダメでしょ
:ブーメラン定期
:胃袋プロダクション
:クラウゼって食らうぜってこと!?
「その胃袋っていうのは運営も頭抱えていたのであまり言わないようにな?略すなら
ラ
「まぁともかく所属になった以上、皆をもっと楽しませて配信者としても上を目指していこうと思っているのでよろしく頼む」
一通り説明が終わり、進行的にはデビュー配信振り返りになるのだが……気が進まないなぁ……。もう少し何かで引っ張れないかと逡巡しているとスタッフからは「そろそろ」みたいな合図が送られてきている。これは腹をくくるしかないか……。
「はぁ……、ではそろそろ振り返りをしろとスタッフからの指示があったのでしようと思うが……」
:クソデカため息
:そんなに嫌か
:デビュー配信見返してきたわ
:楽しみすぎる
「振り返りをするにあたって一人、どうしてもというのでコメントで参加する者がいるので紹介させてもらう。もうリリースやSNSで知っている者も多いとは思うが明日初配信を行うリーゼ・クラウゼだ」
Liese.ch リーゼ・クラウゼ:よろしくお願いします!
:リーゼちゃんだ!
:コメントで参加か
:今日は噛まずに言えてえらい
:声聞きたかったなー
「声は明日の初配信を楽しみにな、なかなか凛々しくも可愛らしい声だぞ?」
Liese.ch リーゼ・クラウゼ:ハードル上げないでください;
最初は見学の予定だったリーゼがいつの間にか振り返りのシーン選出に参加し、さらには配信に登場して解説するのも面白いのでは?という流れになりかけていたが、一応デビュー前ということでコメント参加という形に留めることが出来たのだ。
「ではもう始める?振り返るだけなら我は見なくてもいいんじゃないか?」
:ダメでしょ
:はよ
:覚悟決めてもろて
私の抵抗空しく、スタッフの手によって振り返り用の配信画面が用意され目の前のモニターにもそれが表示される。
「あぁこの待機画面は懐かしいな……最初は配信画面も含めてほぼ全部我で用意したんだったか」
今となっては懐かしい待機画面、当時は我ながらなかなかのものだと思っていたが、今見てみるとなんていうかまだ探り探りというか粗が見えてくる。その分成長していると思えばまだ心の平穏は保てている。
「いや、おい。はやく始めないかこいつは」
配信開始時間はとっくにすぎてるのに待機画面のままフリーのBGMがただ流れている画面を見せられていても反応に困る。当時のコメント欄もなかなか始まらない配信に徐々に反応に困っているように見える。
:なっつ
:そういえば最初めっちゃ待ったな
:結構コメント早くね?
:SILENT先生デザインのVtuberってことで注目されてたし
『我の名は黒惟まお、とある世界で魔王をやっていたのだが──』
「はじまったか……」
:きちゃ
:初期まお様
:今より魔王様っぽい
:これは魔王様
:かなり作ってるなぁ
あぁ……。こんなだったなぁ……。久しぶりどころか見返すの自体が最初期以来なのだ。声とBGMのバランスも悪いし、かなり声も語り口も作っているのを感じる。しばらくはこんな感じだったなぁと当時の気持ちが少しづつ蘇ってくる。いまも配信中は時折出る素との差が結構あると言われてしまうが、なんというかどちらの私も自然と話せていると思う。
Liese.ch リーゼ・クラウゼ:緊張していましたか?
「それはもちろん、こればっかりは経験してみないとわからないと思うが……。リーゼも明日には経験すると思うから楽しみにしているといい」
配信上では最初の自己紹介も終わり、たどたどしくもなんとかコメントを拾いながら詳しいプロフィールの紹介を行っている。
『声かっこいいですね?あぁ、ありがとう。イケボで何か言ってほしい?ええと……何を言えばいいか……』
「ちょっ、ちょっと待ってくれ」
だんだんと配信を見るにつれて封印していた記憶が……たしかこの後は……。
私の静止も空しく動画を再生しているのはスタッフなのだ、容赦なくその続きが再生される。
『こ、子猫ちゃん?そんなことを言ってほしいのか?……フフッ、悪戯好きな可愛い子猫ちゃんは君かな?そんな悪戯しちゃう子は首輪をして捕まえておかないとね』
「あー!あー!ちょっやめっ」
コメントで提示されたセリフの上にさらにアレンジまで加えてバリバリに作ったイケボっぽい声で何を言っているんだこいつは。なにが嫌かって言い終わった後のやってやった感が画面からも伝わってきて辛い。
Liese.ch リーゼ・クラウゼ:キャー!飼われたいです!!
:キャー!まお様ー!!
:飼ってー!!
:ニャーン!
:w
:ノリノリやんけ
:草
単芝やめろぉ!それが一番精神的にくる。リーゼもコメントもノリノリだ。
当時のコメントも大盛り上がりで私はそれに気をよくしたのかプロフィール紹介そっちのけでセリフ読み上げ大会になっている。イケボで一通り言ったあとはかわいいのも欲しいと言われ、さすがにそれは恥ずかしかったのか躊躇しながらも私としては精一杯のかわいい声を出している様子が流される。
「はぁ……はぁ……。許してくれ……え?同じセリフを言ったら止める……?それはどれを……」
:そりゃ子猫ちゃんでしょ
:渾身のイケボで頼む
:カワボからもひとつ頼む
:許してニャンって
:ねこまお期待
Liese.ch リーゼ・クラウゼ:わたくしはどれでも美味しくいただけます!!
「くっ……。い、悪戯好きな……。っ。はぁはぁ。わかった言うからちょっと待ってくれ」
コメントにリーゼ、それにスタッフお前たち後で覚えておけよ。
「悪戯好きな可愛い子猫ちゃんは君かな?そんな悪戯しちゃう子は首輪をして捕まえておかないとね。これでいいだろ?……カワボで?そんなの需要ないだろう……わかったやるから」
「まおにゃんむつかしいことわからないにゃん……でもご主人のことは大好きにゃん」
Liese.ch リーゼ・クラウゼ:わたくしも大好きです!!!
:草
:w
:前のほうがかわいかったかも
:初期まおどこ?
:なんかすまんかった
「……貴様ら、覚悟はできてるだろうな?」
今ほどこの身に宿っているらしい魔力でどうにかできるようならどうにかしてやろうと思った日もないだろう。
そのあとも適度に暴走するリーゼを抑えながらなんとか振り返り配信を乗り切ることができた。
「さて地獄のような振り返りも終わったので最後にひとつ皆に見せたいものがある」
:にゃーん
:わかったにゃん
:まおにゃん実装くるか?
「別に見せなくてもいいんだが?」
:ごめんて
:見せて
:ゆるしてにゃん
「一部まだ反省が足りてない者がいるようだが……ちょっと待っていてくれ」
そう言い残し配信画面からは黒惟まおの姿が消え、スタッフの手によって準備が整えられるとOKサインが送られてくる。
「それではいくぞ?」
私の声と共に再び黒惟まおが配信画面に現れる。その姿はドレス姿ではなく黒地に白で駄魔王と縦書きでプリントされたダボダボのTシャツ姿である。
:駄魔王モードじゃん
:こっちも2.0になったのか
:めっちゃ揺れるじゃん
「せっかくなのでこちらも新しく調整してもらったが、これだけじゃないぞ?」
再び配信画面から消え再び現れると髪型はポニーテールになりさらにメガネ着用だ。
:メガネきちゃ!!
:ポニテや!!
:オフモードか?
:駄魔王モードに合いすぎる
:ポニテ助かる
「もちろんいつものドレスにも着替えられる」
:あっいい……
:すこ
:最高かよ
:いつもの髪型にメガネおなしゃす!
新たな髪型にアクセサリーもなかなかに好評のようだ。数パターンを見せ感想を聞いてみると結構メガネが人気のようだ。
「ほんとは調整だけの予定だったが運営からのプレゼントらしい、もちろんデザインはSILENT先生だ。忙しいだろうにありがとう」
:ありがとう運営!
:VKRO最高!
:さすがSILENTマッマ
:もっと差分頼む!
「これで今日の発表はすべて終わりだな。明日はリーゼ・クラウゼの初配信だ。あれだけ我の初配信を楽しんでくれたんだ、我もたっぷり楽しませてもらおう」
:魔王様の圧を感じる
:楽しみ
:今日結構はっちゃけてたしな
:見に行くよー
Liese.ch リーゼ・クラウゼ:お手柔らかにお願いします……
:魔王を超えていけ
:がんばれ!
:ファイト!
:おつまおー
:了解!
:任された!
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