第28話 二周年記念凸待ち配信①

───────────────────────────────

黒惟くろいまお@9月6日二周年!重大発表あり! @Kuroi_mao

今宵20時から二周年記念に凸待ち配信を行う!

そのあとは重大発表もあるので是非見に来てほしい

#黒惟まお二周年記念凸待ち

───────────────────────────────


『二周年おめでとうございます!』

『凸待ちきちゃー!!』

『発表気になる』

『これは黒惟まお被害者の会集合するわ』

『おっ、修羅場か?』

『防刃ベスト用意してもろて』


 いよいよ二周年記念の日を迎えて告知をすると、いつも以上におめでとうや楽しみといった反応が返ってきているのだが。一部がなんかちょっとおかしい。


───────────────────────────────

黒惟まお@9月6日二周年!重大発表あり!さんがリツイート

SILENT @SILENT_oekaki

おめでとう

#黒惟まお二周年記念凸待ち #まお様の肖像

pic.loader.com/mao2nd

───────────────────────────────


 しずも今日の配信のサムネ用に描いてくれたイラストを載せて応援してくれている。

 二周年記念で何をするかと考えたがここはやはり定番の凸待ちをすることにした。二年も活動していればそれなりに知り合いは増えるもので、ありがたいことに何人かには話を通しているから凸待ち0人なんてことにはならないはずだ。……それに少しだけサプライズも用意してある。


 そして凸待ちが終わった後には記念グッズの発表をして……。

 最後には黒惟まおが企業所属になることを知らせる。

 活動内容は変わらないものの、個人勢として応援してきてくれていた人の中には離れていってしまう人も出てきてしまうかもしれない。


 受け入れてもらえなかったらどうしよう……。

 ここ数日はそんな不安を打ち消すように配信も告知もとにかく頑張ったのだ。きっとリスナーは受け入れてくれるし、これからはもっとたくさん配信して一緒に楽しむんだ。


────


【#黒惟まお二周年記念凸待ち】二周年を共に祝おう!重大発表アリ!?【黒惟まお/魔王様ch】


──────────────────

 ¥10,000

 まお様二周年おめでとうございます!

──────────────────

 ¥9,610

 おめでとう!

──────────────────

 ¥961

 最高の日だ!

──────────────────

 ¥11,961

 これからもずっと推し続ける

──────────────────


 待機枠を見ればたくさんのコメントと共にスパチャもどんどん流れていく。どれもこれも見覚えのある名前でそれこそ初期配信からの人、一周年で初めてスパチャを投げた人も最近誕生日を祝った人の名前もある。どれもこれも二周年を祝ってくれる言葉ばかりで本当に暖かい。じっくりとひとつひとつ見ていきたいがそれをしているといつまでたっても配信が始められない。そう思って気持ちを切り替えようとしたところにまた新しいスパチャが流れていく。


──────────────────

 SILENT

 ¥50,000

──────────────────


 :ファッ!?

 :SILENT先生!?

 :マッマ!?

 :SILENT先生もよう見とる


 まったく、何してるんだか……。

 突然現れ無言で投げていった静に盛り上がるコメントを見てふふっと笑う。

 おかげですこしだけ緊張がほぐれたよ、ありがとう静。

 では……始めようか。


「今宵も我に付き合ってもらうぞ、魔王の黒惟まおだ。早いものでこちらでの活動も二周年を迎えることができた。いつも応援してくれているみなには深く感謝している」


 :おめでとう!

 :こちらこそありがとう!

 :こんまおー

 :こんまお忘れてますよ


「この挨拶にもすっかり慣れてしまったな、こんまおー」


 :嫌がってた頃がなつかしいこんまおー

 :実家のような安心感こんまおー

 :これがないと配信始まらないまである

 :親の声より聴いたこんまお


 たしかに最初はあまりに安直すぎる挨拶に使うのを避けていた気がするが……。今ではすっかり慣れて愛着すら湧いてしまっている。


「今日は告知の通り凸待ちを行う。そのあとに重大発表をする予定だが……、もう来たようだな」


 今日の流れを軽く説明しかけたところで催促するようにさっそく通知が届き言葉を切って通話を繋げる。


 :お?

 :早速?

 :誰だ?

 :凸待ち0人は回避したか


「コーンばんわー、いい夜やなぁ。まおちゃん二周年おめでとう」

「まだ説明の途中だったんだが……、ありがとう。名乗ってもらってもいいか?」

「はいはい、よいに呑むんは甜狐あまぎつね、Live*Live所属二期生の天狐てんこ宵呑宮よいのみや 甜狐てんこと申します」


 :甜狐ちゃんだ!

 :飲み屋きちゃ!!

 :こんコーン!


 相手が挨拶したのに合わせて用意していた立ち絵を画面上に表示させる。

 ふわりと少し癖のある白い髪をたなびかせ、和装の後からは4本の尾を覗かせ人をからかうような余裕のある笑みを浮かべる狐っ娘。

 そんな彼女の登場にコメントが盛り上がる。


「今日は来てくれてありがとう」

「甜狐とまおちゃんの仲やないの、声かけられなくても飛んで参りますえ?」


 独特の口調とイントネーションを操る彼女はここ一年ほどで急激に成長している企業、Live*Liveに所属しているVtuberだ。ほぼ同時期に活動を始めたこともあり、Live*Live所属Vtuberの動画制作なんかをきっかけに交流を持ち始め、今となっては気軽にコラボに呼びあえる仲になっている。


「最近はあまり声かけてくれないから甜狐に飽きてしまったんかと思うて……、まーた新しい女でも作ってはるんでしょ?」


 よよよ。と悲し気な声を聞くに実際に泣き崩れて見せているのだろう。


「甜狐がそういうこと言うからリスナーが真に受けて変な噂が立つんだが」

「火のない所に煙はたちませぬ~」


 :そうだそうだ!

 :だいたい飲み屋が正しい

 :言ってやってくださいよ宵呑宮の姉御!


 こいつらは……。


「このお人はそれはまぁ、たくさんの人をたらしこむ魔王様やから。甜狐も最初は……」

「好き勝手言ってくれて……、うたみた動画の作者に逃げられて泣きついてきたのはどこの狐だったか……」

「それで救いの手を差し伸べてくれたのが甜狐とまおちゃんの馴れ初めやね……、あんなんされたら好きになるなって言う方が無理やわ」


 仕返しのつもりで過去の話を掘り返しても、嬉々として話を広げてこられると返す言葉が無くなってしまう。どうしたものかと考えていると新たに通知が来ている事に気付いてメッセージに目を通し、ちょうどいいかと現在のグループにその送り主を追加してやる。


 :まおてん助かる

 :てぇてぇ

 :イケメンすぎる

 :狐までたらしこんでおられる


「ちょっとー、凸待ちで惚気るのやめてくれなーい?」

「あら、せっかくまおちゃんと甜狐の二人きりだったのになぁ……」

「はいはい、それじゃあ挨拶をどうぞ」

「どうもー!夜の闇と書いて夜闇やあんリリスでーっす!やーんエッチなリリスちゃんって覚えてね♪あ、個人勢のサキュバスVtuberでーす」


 :リリスちゃんも来た!

 :安定のトリオそろったな

 :センシティブが来たぞー!

 :まおの女たちが続々と


 慣れた手つきで新たに現れたリリスの立ち絵も甜狐の隣に並べる。

 金髪ハーフアップツインにジト目で獲物を見つけたような表情を浮かべ口元でピースサイン。

 一時期話題になった童貞を殺すセーターを身にまとっている。


「こっちじゃなくていつもの衣装はー?」

「それでお前のチャンネル一回BANになってたじゃないか」

「ほんまあれは笑えたわ~」


 :えっっっ

 :もはや伝説の衣装になりつつある

 :つべくん思春期だから……


 彼女の言ういつもの衣装というのはセーラー服とは名ばかりの超ミニスカートに上着も胸の半ばまでしかなく、布面積の少ない水着を惜しげもなく披露しているものだ。それで何回も収益化が止まったり、サムネイルBANされたり……。その対策で新たに出てきたのがあのセーターなのだからそのこだわりは凄まじいものがある。


「そんでリリスは何しにきたん?」

「そりゃもちろん愛しの黒様のお祝いに♪二周年おめでとう。そろそろ結婚する?身体だけでもいいよ♪」

「一応、ありがとう。身体は遠慮しておく」

「あーん、もうそんな冷たい黒様も、す・て・き♪」


 :サキュバスも落とす黒様

 :催淫なんていらなかったんや!

 :黒リリ最強!!

 :夜はリリ黒なんだよなぁ


 彼女とはいつもこんな感じだが、付き合いは甜狐よりも長く魔王時代からの知り合いだ。私よりも先に個人でVtuberになっていたため、こんなやりとりをしているが面倒見もよく私もかなりお世話になっている。

 黒惟まお、宵呑宮 甜狐、夜闇リリス。この三人はそんな縁もあって気安いVtuber仲間としてよく絡むようになり、それは今でも続いている。


「でもこの三人そろうのも久しぶりじゃーん」

「そういえばそうか」

「昔はよくコラボしとったよなぁ」


 リリスがかき回し、甜狐がそれに乗っかって、私が突っ込んだり場を収めたり……。思えば私ばかり苦労している気がするけど、それでも楽しい配信ばかりだった。


「今となっては甜ちゃんは天下のLive*Live様だし、黒様もなんだかんだでっかくなっちゃったからなー。……お胸はあたしが勝ってるけど」

「「リリス……」」


 付け足すように笑いながら話す彼女からは少しだけ寂しさのようなものも感じられて、私と甜狐の呟きが揃う。


「あーもう!せっかくの記念日だから湿っぽいのはナシナシ!そろそろ他の人来そうだし?あたしらはお暇しよっか」

「せやなぁ、このあともぎょーさんまおの女たちが行列作ってるやろし」

「あんまり増やしちゃイヤだよー?あたしはいつでも待ってるからネ♪」

「「それじゃ二周年おめでとう!」」


 最後は言いたい放題言ってタイミングも合わせていないだろうに息ぴったりで去って行ってしまった。


「言いたいだけ言って行ってしまったな、ありがとう二人とも。二人のチャンネルはあとで概要欄に貼っておくので登録していないものは登録よろしく頼む」


 :二人ともありがとう!!

 :またコラボ見たいぞー!

 :てぇてぇ助かる


tenco ch.宵呑宮 甜狐:お邪魔しましたーオイタは程々に

夜闇リリス/Yaan Lilith:黒様のために女磨いておくネ♪

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る