第21話 待ち合わせ

「──ということになりまして」

「なるほど……」

「なので予定通り週末に」

「わかりました、こっちもしずに伝えておきます」


 マリーナとの通話を切って一息つく。


 リーゼのVtuberデビューについて進捗があったと報告を受け話を聞いてみればなかなか難航していたらしく、難色を示す父親に対してリーゼがあわやもう一度家出しかけるところまでいってしまったらしい。なんでも、リーゼに何も言わずにマリーナを使って私に接触したことがまだ尾を引いているみたいだ。

 そんな時に私から静にデザイン依頼の打診をしているという話を聞いたリーゼは売り言葉に買い言葉でそのことを父親に話してしまったようで、『ではその先生とやらに認められれば許可しよう』という話になったらしい。


 大丈夫かなぁ……リーゼ。


 ともかく静に報告すべくマリーナとの画面を切り替えチャットを打ち込む。


 魔王まお:例の件、予定通りの日程で来るってよろしくね

 SILENT:了解

 魔王まお:本当に私着いていかなくていいの? 

 SILENT:ヤッテヤルデス

 魔王まお:お手柔らかにね


 ────


 迎えた週末、今日は静とリーゼが会う予定の日だ。本当は私も着いて行きたかったし仲を取り持つつもりだったけど、静からは一人でいいと言われてしまった。昔から若干、人とのコミュニケーションが苦手のように見える静が一人で会うなんて友として成長を喜びたいところだが、今回ばかりは心配が先に立ってしまう。

 そんな訳で待ち合わせ場所の駅前を見渡せるカフェで一時間前から待機中なのである。


 二人ともまだ着いてないみたい。

 駅前を見渡してもまだ目当ての二人は見当たらずスマホでチャットも確認するが特に変化はなし。少し早すぎただろうかとポーチにスマホを仕舞いかけたところで対面の席に誰かが座ろうとしている影が目に入る。


「あの、すいませんここ私の……」

「お久しぶりですわ、まおさん」

「え? っマリーナさん!?」


 満席でもないのに相席ということもないだろうし誰かと勘違いされてるのだろうかと顔を上げるとマリーナの姿があり思わずびくっと肩が跳ね上がる。


「そのどうしてここに……?」

「ご相席しても?」

「あっどうぞ……」

「理由は同じかと思いますけども」


 ふふっと笑いながら含みのある言葉を返されどうやら目的は同じらしいとわかり肩に入った力を抜くことができた。


「よく私のことわかりましたね?」

「そんなの魔力で一発ですわ」

「あっ……もしかしてリーゼも」

「わたくしでも気づけるのですから」


 つまりリーゼもすぐ気付くだろうと……。どうしよう。

 二人で会ってもらうと言っている以上私がここにいるのはまずいというか、決まりが悪い。幸いまだ二人の姿は見えないが時間の問題だろう。


「ですのでこちらをどうぞ」


 帰るべきだろうかとまごついてる私の様子を見たマリーナがくすりと笑いながら小さな箱を差し出してきた。アクセサリーが入ってそうなその箱を受け取り視線でこれは? と問いかける。


「ある程度なら魔力を抑えることが出来るものですわ。この先、外出する際はつけていただいたほうがよろしいかと思いましてご用意しました」


 説明を受けながら促されるままに箱を開けるとその中にはシンプルだが上品な細身のチェーンブレスレットが入っていた。いくつかの小ぶりなカラーストーンが等間隔に付いている所謂ステーションブレスレットというやつだ。


「もらってもいいんですか……?」


 高そうだけど……と口にしなくても伝わったのか「お気になさらず」と言われてしまったのでお礼を言いながら早速手首にブレスレットを付けてみる。魔力を抑えると言われても普段魔力を感じることなんてないので特に何かを感じるというわけでもない。手首で控えめに光るチェーンと石たちを見つめて首を傾げる。


「これで?」

「えぇ、ずいぶん気配は薄まりましたわ。この距離ならお嬢様でもそうそう気付かないでしょう」

「マリーナさんは大丈夫なんですか?」

「我々は慣れているので自身でコントロールできますもの」


 私も、そのうち魔力を自由に操れるようになるんだろうか。少しだけ期待してしまう。


 それから二人が現れるまで近況をお互いに報告し合っていると、先にマリーナが何かに気づいたように駅の方へと視線を向けたのでその視線の先を追いかける。すると、人混みの中から一際目を引く銀髪の少女が現れその姿を捉えることが出来た。水色のブラウスに膝丈の白いフレアスカート姿は涼しげでとても良く似合っているのが遠くからでもよくわかる。


 そんなリーゼがあたりをキョロキョロと見回すがまだ静は現れていない。すでに周りの視線を引きつつあるので変な輩に絡まれる前に来てくれるといいのだが……もしもそんな事態になったら飛び出してしまいそうだ。


 しばらく様子を見守っていると静と連絡を取り合っているのだろうかスマホを見るリーゼに男二人組が近づいていく。あれは確実にナンパだろう、お嬢様であるリーゼがうまくあしらえるだろうか……。いざとなれば私が出て行って……、なんて考えているとその二人を遮るように駆け足で現れた人物がリーゼに話しかけている。


「静、ナイスタイミング」

「あれがSILENT先生ですか」


 タイミングの良さに心のなかでナイスと称賛を送り、視線は二人に向けたままマリーナへは頷きを返す。


 それにしてもあんなに着飾っている静を見たのはどのくらいぶりだろうか……。基本的に引きこもり気質な彼女はあまり外に出ないので、しっかりと黒いアシンメトリーワンピースを着こなし艶やかな長い黒髪を耳のあたりでツインテールにしてる姿はなかなか見れない姿だ。私よりも小柄なリーゼよりもさらに身長は低く、完全にやみかわ美少女と化している。


 あれで私よりも年上なんだから本当に神様に愛されてるとしか思えない。


 突然現れた静によって出鼻をくじかれた男二人組は最初こそガン無視されてることに面食らっていたが、パッと見リーゼよりも更に幼く見える静の姿を見て気を大きくしたのかしつこく二人に話しかけている。あの手合は完全に無視するかはっきりと拒絶するしかないのだが、静の事だきっと最初に声をかけるのもかなり勇気を振り絞っての行動だったのであろう。これ以上の対応は望めない。


 静は所在なさげに視線を彷徨わせ、そして偶然だろうがこちらへと視線を向けたように見えた。

 私は腰を浮かせ二人の元へ向かおうとしたのだが、そんな静の手をリーゼが取り男たちに一言二言何かを言い静を伴ってその場を去っていく。

 まるで何が起きたか理解できていないようにその場に立ち尽くす男たちを見るにリーゼが何かしたのだろう。


「マリーナさん今のって」

「おそらく軽い暗示でもかけたのではないでしょうか、それよりも追わなくても?」

「静が頑張ってるのを見たら私が下手に手を出さないほうがいいんじゃないかと、少し危なかったけど」


 心の何処かで少し私がいないと……。と思っていたのだがあの二人の様子ならあまり心配はいらないような気がしたのだ。

 そう思いながら二人が向かう先へと視線を向けて微笑む。


「そうですわね、ではわたくしたちはどうしましょうか?」

「私達も親交を深めますか?」


 なんて、と少しからかい混じりに提案する。


「それはとても魅力ですが、そうですね……もしよろしければSILENT先生のお話を聞かせて頂いても?」

「静のことですか?」

「はい、わたくしの方でも色々と調べさせて頂いたのですが、ほとんどまおさんが情報ソースなので直接お聞きできればと」

「まぁ聞かれて困るような事でもないし、これからお世話になるので私の昔話と一緒でもいいなら……」


 是非とマリーナが聞く姿勢をとったので、何から話そうかと記憶を辿っていく。


 そう、それは私がまだ黒惟くろいまおになる前。

 ──ただの魔王と名乗っていた頃の記憶だ。

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