第20話 マシュマロ晩酌

「ただいまー」


 家に帰り誰もいない室内へと声をかける。

 そうするのがすっかり癖になってしまったが嬉しそうにパタパタと足音を立て出迎えてくれる少女リーゼはいない。中途半端に荷物だけが取り残されているので余計に不在が強調されているように感じてしまう。


 マリーナにはリーゼのVtuberとしてのデザインをしずに打診していること。条件としてリーゼと会わせるように言われていることを伝えてある。『絶対に説得してみせますわ』と力強い返信がきてはいるが魔王であるリーゼの父親の説得はうまくいっているのだろうか。


 そんなことを考えながらゆったりとした部屋着に着替え、昼のうちに告知しておいたSNSをチェックしつつ手早く夕食の支度をしていく。


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黒惟くろいまお@魔王様Vtuber @Kuroi_mao

今宵は久しぶりに晩酌配信をしようと思っているので 

つまみのマシュマロも募集している

好きな飲み物とつまみを用意しておくように

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『晩酌助かる』

『スナックまお開店だ!』

『ママー!!』

『飲み会キャンセルしてきた』


 仕事が忙しかったこともあったし、リーゼ滞在中に飲酒するのも気が引けたので久しぶりの晩酌配信ということもあり反応は上々だ。


 簡単に夕食を済ませてしまい届いたマシュマロに目を通して配信の準備を進めていく。

 私も何だかんだ久しぶりの晩酌配信ということでテンションが高まっていくのを感じている。


 取り上げるマシュマロの準備も出来たしお酒とおつまみの準備もOK! 

 立ち絵の設定も……これでよし。それじゃあ久しぶりの晩酌配信といこう。


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【晩酌】マシュマロつまみに語らおう【黒惟まお/魔王様ch】


「我に付き合う準備はできているか? 魔王の黒惟まおだ」


 待機画面の蓋絵を開けていつもの挨拶をする。

 今日の黒惟まおはいつものドレス姿ではなく、ダボダボの黒いTシャツ姿だ。胸元にはデカデカと縦書きでとある文字が白くプリントされている。


駄魔王だまおー』と。


 :こんまおー

 :だまおー様きちゃ! 

 :開幕駄魔王モードで草

 :その立ち絵でキメられても

 :草

 :まだおモードやんけ


 さっそくいつもとは違う黒惟まおの姿に対してコメントで総突っ込みが入る。


「最近この姿になってなかったなと思ってな、今宵は無礼講といこうじゃないか」


 静から黒惟まおの誕生日プレゼントとして贈られたのがこの姿、駄魔王モードである。

 完全に悪ふざけで作られた代物だが結構気に入っているのだ。ちなみに誕生日グッズとして同じデザインのTシャツも発売されたので部屋着として現在も着用中だったりする。


「それじゃあ乾杯するぞ、準備はいいか?」


 :まお様今日は何飲むの? 

 :もう飲んでる

 :酒! 飲まずにはいられない! 

 :準備OK! 


「今日は、というか今日もほのよいの桃だ」


 手元に準備していた缶を手に取り小気味いい音を立てて缶を開ける。


 :カシュッ

 :いつもの

 :あいかわらずお酒よわよわ魔王

 :ほのよいの音~^

 :チョイスがかわいすぎる


「では今週頑張った者、そうでもない者もみな楽しもう乾杯!」


 :かんぱーい! 

 :KP! 

 :乾杯! 


 持ち上げた缶をマイクの前に掲げ大量に流れるコメントを眺めながら口をつける。ほとんどジュースのような味わいだが体質的にとことん弱いのでわずかに感じるアルコール分でも晩酌気分が上がっていく。一缶を時間をかけてちびちび飲んでいくのがいつものペースだ。


「ではさっそくマシュマロを見ていくことにしよう」


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まお様、最近お忙しそうですけど大丈夫ですか? 

また沢山配信しているまお様が見られるように応援してます


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「同じようなマロがたくさん来ていたので心配かけてしまったようだな。それについては申し訳なく思っている。とりあえずは少し落ち着いたので徐々に前のペースに戻せるとは思うが、いい報告ができるように準備していることもあるからそれを楽しみにしていてほしい」


 :ええんやで

 :お? 

 :匂わせ助かる

 :応援してるよ


 溜まっていた分と追加で届いたマシュマロで一番多かったのが私の忙しさを心配するものだったので一番最初に取り上げて言える範囲で現在の状況を伝えて謝る。ほんとは企業所属になれてもっと配信に本腰を入れられるようになるんだよって言いたいけども、リーゼのことも魔王のこともまだまだどうなるかわからないので伝えられないのがどうにも歯がゆい。


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まおビームがいつ聞けるか気になって夜しか眠れません 

ご飯も三食しか喉を通らなくて……


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「いたって健康的でいいじゃないか、次」


 :草

 :まおビーム難民ニキ元気出して

 :落差で草


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SILENT先生お元気ですか? 

正座して反省する駄魔王まお様のイラスト最高でした 

もしかしてまお様何かやらかしました?


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「SILENT先生は相変わらずいつ寝てるのかわからないくらいすぐに返事くれるし元気だろう。あのイラストは……、どうしてあんな風に描かれたのか見当もつかないなー」


 :まおしずてぇてぇ

 :あら^~

 :しずまおてぇてぇ

 :寝てるような時間でも連絡取りあってると

 :これは嘘をついてる味だぜ

 :正座してもろて


 もちろん元ネタはこの前のやりとりだろう……。忙しいはずなのに相変わらず筆が早い。


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娘が反抗期なのか素直に頼ってくれません


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 :これSILENT先生じゃね? 

 :まさか

 :偶然じゃ

 :わざわざあの後に出すのがこれっていう


「単純に恥ずかしがっているか娘さんもきっと親である貴女のことを思っての事だと思うが……」


 コメントでも言われているように状況を考えれば静の仕業にしか思えない。しかし、匿名なので判断はつかない。それでもついそのていで答えてしまう。

 ちびちびとお酒を飲みながらもらったマシュマロに受け答えしていくうちにアルコールが回ってきたのか瞼が重くなってきているのを感じ始める。


 :まお様酔ってきたな

 :眠そう

 :ほのよい飲み終わった? 

 :寝るなー! 寝たらまた切り抜かれるぞー!! 


 ちょうどほのよいも一缶飲み終わり、顔が熱くなりふわふわといい気分だ。

 このまま目をつぶったら間違いなく寝てしまうだろう。

 流れるコメントを見るだけで楽しくなってくる。


「あー楽しいなぁ……。ふふっ」


 :これは完全に出来上がってますわ

 :かわいい

 :ほのよいで出来上がる魔王

 :くやしいけどかわいい


「それじゃあ次のマロで最後にしよう」


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リスナーに愛の一言お願いシャッス! 


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 酔っているのをいいことに照れくさくて普段はあまり取り上げないものを画面に表示させる。


 :期待

 :告白助かる

 :ナイスゥ! 


「……こんな私に付いてきてくれて本当にありがとう。愛してるよ」


 マイクに近づいて囁くように素直な気持ちを口にする。私の、そして黒惟まおの言葉としてきちんと気持ちは伝わっているだろうか。酔って火照った以上に頬が熱を持つのを感じながら画面をEDへと切り替える。


 :それは反則

 :私助かる

 :ガチやん

 :デレまお助かる

 :おつまおー愛してる! 


【黒惟まお/魔王様ch】:おやすみ、いい夢を

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