第13話 魔族と願い
「……あなたは何者なの?」
「そうですね……、時代によって様々な呼ばれ方をしましたが。……魔族、というのがわかりやすいでしょうか。魔力の扱いに長けていて、人間より長生き。おおよそ想像通りの者だと思ってもらって構いませんわ」
魔族……。今まで空想上のものだと思っていた人物が目の前にいる。とても信じられるものではなかったが先ほどの出来事によって強く否定できない。
「それじゃあ、リーゼさんも魔族でその父親が魔王ってこと?」
「ええ、魔王クラウヴィッツ様の一人娘が、エリーザベト・フォン・クラウヴィッツ様です」
貴族っぽいしお姫様みたいとは思っていたが……、王女様だったなんて。
「でもそれなら継ぐのはリーゼさんじゃないの?」
「本来ならそのはずでしたわ。しかし、とある魔王が現れて状況が変わってしまったのです」
「それって……」
「魔王
待ってほしい、どうしてそこで黒惟まおの話になるのか。確かに魔王と名乗ってデビューして活動はしているが、こっちはただの一般人だ。
「ただの配信者がそんな影響を与える訳……」
「自覚はないでしょうけど、貴女の纏う魔力のせいですわ。先代魔王のものによく似ているのです。わたくしも驚きましたもの。それにデビュー時のセリフ……信じる者がいてもおかしくありませんわ」
「魔力って……、そんなの一般人の私が持ってるわけ……。それにセリフ?」
思い返してみようとするがデビュー配信なんて恥ずかしくて見返せるわけもなく、ただただ緊張していたことしか思い出せない。
「我の名は黒惟まお、とある世界で魔王をやっていたのだが……」
「わっ、やめてやめて!思い出したから」
突然黒惟まおの声色を真似てセリフを口にするマリーナを慌てて止める。そうだ、たしかにそんなことを言ってた。あの時は緊張しすぎてとにかく魔王になりきって、思い浮かぶ言葉をそのまま口にしていたのだ。
「セリフなんてそんなのただの偶然なのに……、つまり私がその魔王だと思われてる?」
「そういう声もありますわ。他には転生したのではないか、血縁者ではないのかといったものも」
「そんな訳ないじゃない……、それでどうして私を本物の魔王にするなんて話になったの?」
「きっかけは活動一周年グッズですわ」
ん?この話の流れ前にもあったぞ?
「ちょっと待って、まさか直筆サインが原因なんて言わないでしょうね?」
「お察しの通りですわ」
「えぇ……どういうことなの……」
ついこの間、直筆サインのせいで特定されてしまったのではないかとリーゼと話した内容が頭によぎる。でも、それでどうして魔王になるのか話が見えてこない。
「配信から感じ取れる魔力は僅かなもので感じ取れる者も限られておりますわ。
ですから、わたくしたちも大事にならない限りは静観しておこうと思ったのです。
しかし、直筆サインによって半信半疑だった者も貴女の魔力に触れることが出来てしまった。
望む望まないに関わらず、次期魔王へと祭り上げられるのも時間の問題でしょう。
なので魔王になっていただき、然る後にリーゼ様へと継いでいただきたいのです」
まさか、あの直筆サインがそんなことになるなんて……。いや、そんな魔力なんて込めたつもりは一切ないのだが。おそらく特定されたのも業者から情報が漏れた訳ではないのだろう。
「嫌だと言ったら?」
「そのときは黒惟まおという魔王はいなかった……。というお話になるだけですわ」
「つまり、活動を続けたいなら従えと」
そんなのふざけるな!と言ってやりたい。なんでそんな事でやめなくてはいけないのか。
しかし、マリーナの話を信じるならば、黒惟まおとして活動をしている限り逃れられないのであろう。
「今すぐに継いでいただくという話ではございません。貴女がこちらの陣営であると示すことができれば時間はいくらでも作れますわ」
そんなことを言われてもあまりに想定外のことで簡単に頷くことも断ることもできない。
「もし頷いたとして私は何をすればいいの?今まで通り活動するって訳ではないんでしょう?」
「配信自体はこれまで通りしていただいて結構ですわ。ただし、わたくしが立ち上げる事務所所属という形で」
「事務所……?」
思わぬところから出てきた単語に反応してしまう。
「わたくしの立ち上げる事務所所属となれば、こちら側の陣営であることは明白ですわ。
貴女にとっても悪い話ではないと思いますが……」
それはたしかに魅力的ではある。もしかしたら、企業に所属しようとしていたという話も彼女の耳には入っているのかもしれない。
「それは……」
「契約内容についてはそちら側の条件を尊重させていただきますわ。所属していただくのが目的ですもの」
正直、喉から手が出るほどに望んでいた話だ。魔王云々関係なしにかなり心が揺れ動いている。
「さて、これ以上長引かせても怪しまれてしまいますし。話したいことは話せましたわ」
手元の資料を軽くまとめ始めたマリーナを見て、時計へと目を向けると思ったよりもずいぶん時間が経ってしまっている。
「お返事はなるべく早いと嬉しいですが、すぐにとは言いませんわ。名刺の連絡先まで、いいお返事をお待ちしております」
「リーゼさんはどこまでこの話を知っているの?」
「お嬢様にはほとんど伝わっていないはずですわ。今の状況は想定外でしたもの」
部屋で帰りを待つリーゼの事を思い浮かべる。これまでの話からすると彼女も私を本物の魔王だと信じているのであろう。
資料をまとめ終え立ち上がったマリーナに続いて立ち上がり、ずっと思っていた疑問を投げかける。
「……どうして私なの?」
「それはわたくしにもわかりませんわ。ですが貴女が、そして黒惟まおが選ばれるに足る存在だと。わたくしはそう思っていますわ」
それは答えになっていない言葉ではあったが、今までの活動が認められたような気がして少しだけ前向きに捉えることができた。
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