第14話 告白
まお:これから帰るね
リーゼ:お疲れさまでした! お気をつけて!
打ち合わせが終わった後は特に何事もなく一日の仕事を終え、メッセージを送る。結局、リーゼにはマリーナが現れたことは言えずにいた。話の内容はともかく特に危険があったわけでもないし心配させたくないからだ。と自分に言い訳をしているが、実際のところリーゼとどのように話していいのか、自分のことを本物の魔王と信じ込んでいるであろう彼女とどう接していいのかわからなくなってしまったのだ。魔王の娘であるリーゼがここまで慕っていてくれるのは、ひとえに
それが魔王を名乗っているただの
それを彼女が知ってしまったらどう思うだろうか。
『結局ガワだけなんだよな』
いつしかSNSで見かけた言葉が脳裏に浮かんでしまう。
配信者としても、魔王としても、結局中身が伴っていないなんて……。
そんな私が本物の魔王になる?たちの悪い冗談にしか思えない。
でも黒惟まおとして活動を続けるには受け入れるしかないような状況なのだ。
電車に揺られながらこれまでの事とこれからの事を考えるがどうしても思考はネガティブに寄っていってしまう。そんな考えを振り切るようにスマホを取り出しSNSの画面を開いてメッセージを入力していく。
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月曜日を乗り切った勇者たちよ褒めてやろう
まだ戦っているものは健闘を祈っているぞ
今宵は作業があるため配信はできないが
土日の配信を見ていないものは見てくれると嬉しい
わたしはどうしたらいい?❘
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いつもならすんなり入力できる文面も思ったように入力できていない気がする。
何度も文面を直してようやくいつもの黒惟まおらしい文章が出来上がる。
そのまま送信してしまえばいいものの心の声を誰かに聞いてほしくて、余計な一言を入力しすぐに消していく。
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黒惟まお@魔王様Vtuber @Kuroi_mao
月曜日を乗り切った勇者たちよ褒めてやろう
まだ戦っているものは健闘を祈っているぞ
今宵は作業があるため配信はできないが
土日の配信を見ていないものは見てくれると嬉しい
────────────────────────
別に配信しようと思えば出来るのだがこのようなメンタルで配信すればろくなことにならないのは目に見えている。作業をしなきゃいけないのは本当だし……。
いつもなら返ってくる反応を嬉々として眺めていたのだがそんな気分にもなれず、ぼうっとSNSの画面を眺めていると危うく降りる駅を乗り過ごしてしまいそうになり慌てて降りる。そこから家に帰るまでの足取りもどこか重たい。
「ただいま」
「おかえりなさいませ!」
鍵を開けてドアを開ければ小さな足音を立てながら出迎えてくれるリーゼが現れる。
その恰好は初日に渡したリラックスしたクマの着ぐるみパジャマで、最初はなんだかんだ恥ずかしがっていたのだがすっかり慣れたらしく気に入ってる様子だ。
「すぐにご飯にしようか」
「はい!お手伝いいたします」
魔王の娘とは思えないほどに献身的な姿は微笑ましいが心にどこか引っ掛かりを覚えてしまう。
「まお様なにかありましたか?」
「え?仕事でちょっとね」
嘘は言っていないし仕事だと言えばそれ以上は追及されないだろう。
心配そうにこちらの顔色を窺ってくるリーゼに気にしないでと笑って見せ、着替えてくるからと先にキッチンへと向かわせる。
「リーゼさんの方は変わりなかった?」
「こちらは特に何も」
「暇だったんじゃない?」
「まお様のアーカイブを見ていたので……」
着替えを終えてキッチンに並び立って話しながら夕食の準備を進めていく。渡したタブレットで私の配信を見返していたというリーゼの「あの配信はよかった……」「またこのゲームをやってほしい」なんて感想を聞いてるうちに夕食の準備は終わり二人でテーブルを囲んだ。
「そういえばリーゼさんはどうやって私の事を知ったの?
たしかマリーナさんがきっかけって言っていた気がするけど」
「はい、マリーナがお父様と話していたのを耳にしたのです。
それにこちらでもまお様は話題にあがっていましたから」
「それは、魔力のこと?」
食事を進めながらなんでもない話題として探りを入れてみる。
ここでリーゼから「魔力?なんのことですか?」なんて反応が返ってくれば……。
「はい、その、わたくしも驚きました」
そんな希望はあっさりと打ち砕かれてしまう。
「リーゼさんは私の正体に興味がある?色々と言われているみたいだけど」
「ないと言えばそれは嘘になってしまいますが、今となってはどうでもいいのです。
まお様が何者であろうと、その、わたくしの憧れの魔王様であることは変わりないので……」
まるで秘めていた気持ちを告白するように頬を赤らめ恥ずかしそうに言葉尻を弱めてしまうリーゼの言葉にこちらまで恥ずかしくなってしまう。
「どうしてそこまで?」
「どうして……。確かに最初はまお様のお姿と魔力に惹かれました。でも、配信を見ていくうちに……同じ時間を過ごしていくうちに色々な面が見えてきて……この人の力になりたい、もっと沢山の時間を共に過ごしたいと、そう思うようになったのです。そういうものではないでしょうか」
頬ばかりか耳まで真っ赤にしてしまったリーゼはとてもかわいらしく告げられた言葉は真っすぐでスッと心に溶け込んでいく。
そうだ推しなんてそんなものだ。結局小難しい理由なんてうまく言葉にできなくて、気づいたら推しになっている。配信者になってから、数字に思い悩んだころから。いつのまにか忘れてしまっていた好きなものを純粋に応援したいという気持ち。
「ふふ、まるでプロポーズね」
「えっ、あっ、いえ、わたくし……」
からかうように声をかければわかりやすく慌てる様子が面白く、くすくすと笑いを漏らす。
「ありがとうリーゼさん」
こんなに素敵なファンがいるのに何を思い悩んでいたのだろうか。そう思うと無性に配信がしたくなってくる。ちょっとしたことで喜び、笑って、楽しい時間を共有してくれるリスナーたち。
そんな人たちのためなら何だってやってやろう。こちとら元々魔王を名乗って活動を始めた痛い女だ、本物になったとしても変わらない。
──そう、黒惟まおは魔王なのだ。
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