第10話 負けられない戦い

「ッ……」


 ジリジリと追い詰められ気付けば絶体絶命……。

 ギリッっと相手を睨みつけるが相手は余裕の笑みを携えているように見える。

 完全に油断していたとはいえここまでボロボロにされるとは思っていなかった私の落ち度だ。


 せっかくリーゼがいてくれてたのに……。

 心配する彼女にそんなに心配しなくても大丈夫だと笑って済ませてしまったのを思い返す。

 こんな情けない姿を見せてしまっては幻滅されるだろうか? 


 せめて一矢報いようと覚悟を決めて一歩を踏み出す。


 しかし、そんな行動も読まれていたのかあざ笑うかのようにこちらの一撃は回避され。


 ──あぁ、ダメだったか……。


 次の瞬間、衝撃と共に世界が暗転した。


────


【スパブラ】リスナーと語り合う、拳で【黒惟まお/魔王様ch】


 いいところなく撃墜されてしまった自キャラを見届け、ふぅと息を吐く。


「MRNさん対戦ありがとう」


 :ああ! 

 :うっま

 :ボコボコだったなぁ

 :GG

 :ナイファイ! 


 リーゼと共にすっかり夜更かしをしてしまった翌日、配信をするか思い悩んでいたが「是非配信してください!」と前のめり気味に言われ予定通り配信を行うことにした。

 そう言ってくれた彼女は隣の部屋でこの配信を見てくれていることだろう。


 最近は雑談配信ばっかりだったので久しぶりのゲーム配信、リスナーとの交流もしたかったのでリスナー参加型の対戦格闘ゲームの『スパブラ』である。


 NTD社の人気キャラクターだけではなく他ゲーム会社の人気キャラクターたちも一堂に会して大乱闘を繰り広げる。昔から続く大人気ゲームシリーズのひとつであるが、インターネット対戦が容易にできるようになった近年では配信者の間でもリスナーとの対戦が人気コンテンツになっている。


「次の対戦相手はああああさん? なるほど、使用キャラは勇者か。対戦よろしくたのむ」


 :魔王vs勇者きちゃ! 

 :なお魔王側は魔王ではない模様

 :魔王(魔王ではない)

 :悪魔vs勇者かぁ


 コメント欄は魔王vs勇者ということで盛り上がりを見せている。スパブラ配信は何回かやっているが数人は元々の持ちキャラなのか面白がってか、この対戦カードが度々生まれるのだ。

 しかし、かくいう私は別に魔王キャラを使っているわけではなかったりする。一応、魔王キャラはいることはいるのだが、いかつくて必殺の一撃をドリャー!! と叫ぶようなおじさんを使うよりは美少女を使いたい。


「勇者よ、見事我を打倒してみせるがよい」


 対勇者戦でお約束になっているセリフを言い放ち対戦をスタートさせる。


「っと、よし」


 序盤は隙の少ない攻撃を振りながらリーチの長さを生かしてダメージを蓄積していき、スムーズに撃墜まで運んでいく。


 :とりあえず空Nと空前擦る魔王様

 :魔王のくせに立ち回りが堅実すぎる

 :リーチの暴力すぎる


「堅実に立ち回って何が悪い、ええい、うるさい、魔槍で刺してやろうか」


 :ヒェッ

 :槍より斧のほうがいい

 :すごく痛かったぞ

 :刺されたニキは成仏して


「あっ、まずっ」


 ちらりと別モニターに映しているコメントを見て突っ込みを入れてる隙にこちらも撃墜されてしまう。


 :かいしんのいちげき

 :コメント見てないで集中してもろて

 :あーあ

 :いまのは、メタゾーマではないメタだ

 :勇者は魔王だった!? 


「くっ……、やるではないか勇者よ」


 お互いの残機数がひとつになって後がなくなり、ダメージが蓄積していく。


 :一撃入れたほうが勝ち

 :見てる方がハラハラする

 :いけー! 

 :これはいい戦い


「崖で我に敵うと思うてか!」


 飛ばし飛ばされ壮絶な崖の奪い合いの末に蛇腹の剣が勇者を捕らえそのまま入れ替わるように叩き落す。


 :メテオ決まった!! 

 :GG

 :ナイスゥ! 


「勇者よまた強くなって挑戦しに来るがよい。ああああさん対戦ありがとう」


 :崖に強い女

 :崖っぷちの女? 

 :崖っぷち魔王? 


 なんとなく釈然としない言われようだが勝ちは勝ちだ。


「次の対戦者は、さえないおとうとさん対戦よろしく頼む」


 :あっ

 :あっ

 :弟……緑……うっ頭が

 :兄よりすぐれた弟なぞ存在しねぇ!! 


 相手のキャラはNTD社の看板兄弟の緑の弟の方。コメントがざわついているのは有名な即死コンボがあるからであろう。


「初見ならともかくそうそう即死コンなんてあたら……」


 なんて言いながらとりあえず掴まれないようにジャンプしながら牽制技を振る。

 あっこの人強い、最初の立ち回りでそう感じた時には掴まれ、コンボが始動し抵抗空しく即死コンボが完遂される。


「あっ! まずっ、えっ、私いま、ずらしたって!」


 :フラグ回収はやすぎる

 :GG

 :RIP

 :私助かる

 :あざやかすぎる


 そして、そのあとも即死コンボは食らわなかったが立ち回りに翻弄されストレート負け。


「さえないおとうとさん対戦ありがとう」


 :これはプロの犯行

 :RTAかな? 

 :勇者は弟だった

 :さえないとはいったい


「気を取り直して次に行こうか」


 何も言わずにキャラを変更する。


 :魔王キター! 

 :魔王おじさんきちゃ! 

 :パワー!! 

 :DORIYAH!! 


 やはり力こそパワー、魔王としての威厳を見せつけなくては。


 そのあと滅茶苦茶ドリャー!! した。

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