第9話 ご飯にする?お風呂にする?それとも……

 さて、リーゼの滞在が決まったので色々と準備をしなくては。

 ご飯にお風呂に……あとは着替えか。


「そういえば、リーゼさん替えの服とかは……ないよね?

 うーん、サイズが小さいってことはないだろうし、とりあえず私の着てもらおうかな」


 明らかに手ぶらで現れたリーゼは聞くまでもなく着替えなど持ってきてはいないであろう。さすがにドレス姿でそのまま過ごしてもらうわけにはいかない。ヒールを脱いだ姿だと身長差は15㎝程だろうか、私の服だとリーゼにとっては少し大きいかもしれないが小さいよりはましだろう。


「まお様の服を貸していただけるなんて……」


 何やら感動しているらしいリーゼの反応を横目にクローゼットの中身を思い返しどれにしようか思い悩む。


 あんまり着古したのを渡すのも申し訳ないし……。

 リーゼみたいなお嬢様ならジェラケピとか似合うんだろうなぁ。

 そんなものは当然ないんだけど。


 そういえばアレがあったな……、でも……いや……。

 思わずそれを着たリーゼを思い浮かべる。……正直見たい。


 よし、と頷いて立ち上がる。そうなれば着替えは後回しだ。


「それじゃお風呂の準備しちゃうから少し待っててね、すぐに入れると思うから」

「いきなり押しかけてしまったのに、何から何までありがとうございます」

「私の事を心配してくれて、実際助けてもらったし。それのお礼ってことで、ね。」


 あんまり気にしないでと微笑みかけ、お風呂の準備に向かう。浴槽と浴室を軽くシャワーで洗い流しお湯を貯めていく、お嬢様には手狭かもしれないがそこは仕方ない。

 さて、あとはご飯の支度をしなければ。途中で何か買ってくればよかったとは思うが、まさかこんなことになるなんて思ってもみなかったのだ。


 部屋に戻ってキッチンに向かいながらどこか手持ち無沙汰に見えるリーゼに声をかける。


「ご飯はどうする?お腹すいてる?」

「えっと、少しだけ」

「作り置きばっかりで口に合うかは自信ないけど、食べられないものとかはある?」

「大丈夫だと思います」


 食文化の違いもあるけど、まぁいきなり納豆とか出さなきゃ大丈夫かな?

 冷蔵庫からいくつか作り置きのおかずを取り出す。いつもなら適当に温めて皿に盛るか容器ごといくところだが人に出すのだからそういう訳にもいかない。

 二人分の食器を用意していたところで浴室の方からお湯が貯まったという機械音のメロディーが流れてくる。


「それじゃお風呂どうぞ、着替えとタオルは脱衣所に置いておくから、何かわからない事とかあれば声かけてね」

「そんな、まお様より先に……」

「はいはい、いいからいいから」


 遠慮しようとするリーゼを軽くあしらい脱衣所へと送り出し、少し間を開け頃合いを見て着替えとタオルを置いておく。


「これ使ってね」

「あ、ありがとうございます」


 浴室からくぐもった声が返ってくる。

 ふふ、リーゼはどんな反応をするだろうか。


 それからしばらくして一通り夕食の支度が終わり、あとは温め直すだけといったところでか細い声で呼ばれてることに気付きそちらへと顔を向ける。


「ま、まお様、その、この服は……」


 そこには茶色のリラックスしたクマの着ぐるみパジャマを着た美少女が立っていた。

 お風呂に入り血色がよくなった以上に頬を赤く染めこちらをジッと見つめてくるリーゼ。


 か、かわいすぎる。我ながら恐ろしいものを生み出してしまったと自画自賛してしまうほどだ。

 もともとはしずから冗談半分に送られてきて数回着たっきりだったソレは新たな主人を得て輝いて見える。


「ふふ、とてもかわいいよ」


 からかうように、しかし本心からの感想を述べるが、リーゼはますます顔を赤くするだけで恨めし気な視線はこちらから外れない。


「それじゃ私もお風呂入ってこようかな、上がったらご飯にしましょう?」


 その視線から逃げるように手をひらりと振り脱衣所へと向かう。

 あまりリーゼを待たせるのも悪い気がして気持ちいつもより短めの入浴を済ませ、ほかほかな気分で部屋に戻るとちょこんとソファーの上に座っている茶色いかわいらしい生き物リーゼが目に入る。

 つーんとこちらを見てこないそんな様子もかわいらしく、小さく笑いを漏らしながらご飯を温め直しテーブルへと運んでいく。


「まお様は普通のパジャマなんですね」

「私にはすこし可愛すぎるからね」


 実はクローゼットには色違いの白があることは黙っておいたほうがよさそうだ。

 そんなやりとりをしているうちに二人分の夕食がテーブルの上に揃う。


「それじゃ、いただきましょうか」

「いただきます、これがまお様の手料理……それを口にする時が来るとは」


 一応リーゼのためにフォークも用意しておいたがそんな気遣いは不要だったようで、箸を手に取るリーゼを見守る。

 大げさな言葉を残しながら蒸し鶏サラダを口に運び、味わうように目を閉じるリーゼ。

 そして、ぱちりと目を開きもう一口、二口。


「おいしい……」

「お気に召したようでよかった」


 こぼれ出た感想を聞いて一安心し、自身も夕食に手を付け始める。

 普段一人で食べてるときよりも美味しく感じたのは気のせいではないと思う。


「ふぅ、少し食べすぎたかも……」

「本当に美味しかったです」


 何を食べても美味しい美味しいと言ってくれるリーゼにつられて箸が進んだ結果、いつも以上に満足感を得て空になった食器たちを一緒に片付ける。


 片付けが終わった後は眠くなるまで配信についてや黒惟くろいまおについての話を色々聞かせてもらった。語らせたらすぐに暴走しはじめるリーゼを何度か止めながらも初期から推してくれていたらしい相手の言葉はとても嬉しく、こんな出会いを生み出してくれたマリーナに少しだけ感謝してもいいかなと思うのであった。

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