第8話 まさかの原因
「まずはマリーナさんとはどういう関係なの?」
「マリーナはお父様の古くからの知り合い、いえ友人でしょうか。
その縁もあってわたくしの家庭教師なようなものをやっております。
まお様の存在を知ったのもマリーナがきっかけなのです」
突如職場に現れた女性の姿と交わした会話の内容を思い返し更に質問をリーゼに投げる。
「どうしてそのマリーナさんが私のところに?」
「おそらくはお父様からの依頼であろうと思いますが、その理由までは……」
申し訳無さそうに瞳を伏せ歯切れの悪い回答をする姿からは本当に思い当たることがなさそうで一緒に黙り込んでしまう。
「──どうやってマリーナさんは私の事……
沈黙を破るように一番気になっている事を投げかける。そもそも何故私が黒惟まおであることがバレてしまっているのか。それこそ身バレに繋がるような情報は配信でもSNSでもほとんど話題には出していない。それほどに配信者、特にVtuberにとって身バレは致命的なのである。
「マリーナはお父様と違ってこちらの世界についてはかなりの知識を持っていますし、何らかの情報から……、例えば……あっ」
考え込んでから少し間を置きなにか思い当たることがあったようにぱっと顔を上げたリーゼを見つめる。
「活動一周年記念グッズ……」
ん? なにかこの場にはそぐわない単語が聞こえてきた気がするがうまく聞き取れない。
「え?」
「その……、まお様の活動一周年グッズが少し前に届いたのです」
いきなり半年ほど前に出したグッズの名前が出てきて困惑する。たしかに届き始めているという話は配信コメントやSNSで見かけていた。しかしそれがどう今の話に繋がるのか見えてこない。
「えっと、買ってくれてたのね。ありがとう」
「もちろんです!
急に声のトーンとスピードが上がるリーゼに少し驚いて僅かに身を引いてしまう。
ただ思った以上に購入してもらえたので予算的にもサインを書く時間的にも結構やばかった……。
早口でまくし立てるリーゼの言葉を聞きながら、グッズの苦労が思い起こされて遠い目になりかける。
って、いまはそれどころじゃなくて。
「リーゼさん、そのグッズがどう関係しているの?」
いかに素晴らしいグッズであったか力説しているリーゼを止める。
この子、黒惟まおのことになると結構暴走しがちね……、嬉しくはあるんだけど。
「その購入をマリーナに依頼していたのです、我が家では受け取れなかったので」
確かにあのサイト海外発送は出来なかったな……、要望も結構来ていたし次回はそのあたりも考えなくては……。
「まさかそれだけで特定したと……?」
直筆がなければグッズを業者から販売サイトに納品してもらうだけだったのだが、直筆もあるということで私を一度経由している。それにしたってそれだけで特定されるだろうか?
「直筆もありましたから……、マリーナならばそこから辿ったのだと思います」
まさかと思っていた内容がそのままリーゼから聞かされるがとても信じる気にはなれない。が、実際にマリーナは職場まで突き止めて訪ねてきた。それ以外に思い当たるところがないと言われてしまえば考えるだけ無駄だ。
そこまでして私に会ってマリーナは一体何が目的なのだろうか。彼女はたしか誰かに会って欲しいと言っていた。それは話を聞く限りリーゼの父親で間違いないのであろう。
「リーゼさんからやめるように言ったり理由を聞くことはできたりする?」
「それはもちろん可能ですが……、お父様からの依頼ですから素直に応じるかはわかりません。
秘密裏に事を運ぼうとしていたのでお父様も聞き入れていただけるかどうか……」
こうなってしまえばもう頼れるのは繋がりのあるリーゼか警察、という話になってしまう。
しかし、具体的な被害がない以上警察はあまり頼りにならないだろう。しかも、配信者やVtuberについて理解があるとも思えない。
「……とにかく理由を知らないことには説得も難しいかと思います」
「なるほどね……、ところで家に来てもらって今更だけど、リーゼさんは大丈夫なの? お家のこととか」
「わたくしのことでしたらおそらくマリーナからお父様に話は入っていると思います、伝言を任せたので」
そういえば「大嫌い」と言っていたなと思い返す、年頃の娘にそう言われたのであれば父親としてはなかなか堪えるのではなかろうか。
「おそらく、マリーナはもう一度まお様に接触してくると思われます。
その時にうまく目的を聞き出すことが出来ればなんとかなるかもしれません。
ですのでその時まではまお様のお側に置いていただければ……」
リーゼの言う通りマリーナは去り際に、いずれまたと言っていた気がする。それでもこのまま側に置いておいていいものかと思案する。
「こちらの都合で勝手を言っているのは十分承知しております。
でもわたくしがいないところでマリーナが来てしまった場合が怖いのです」
たしかにリーゼがいなければ今頃はマリーナに連れ去られていたであろう。そういう意味ではリーゼが側にいるというのはとても心強い。幸い明日から二日間は休日で予定といえば配信くらいしかないので都合がいいと言えばいいのだ。
なにより、責任を感じてすがるような目で訴えてくるリーゼの提案を断るのは心苦しい。
「それじゃあ、よろしくねリーゼさん」
私の言葉を聞いて安堵したように表情を明るくするリーゼを見て不安だった気持ちが少しだけ和らぐのを感じていた。
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