第5話
ワシな、出は舞鶴の端っこの方で……舞鶴てわかるか、京都やで。海があるとこや。
冬はぎょうさん雪が積もってさぶいし、夏はごっつ暑いし、そら不便なとこや。そもそも田舎やしな。羽振りのええとこなんか一握りで、狭こい畑でなんや作っても儲けなんか出ん、周りもみんなそういう家やったわ。
なんやかんやで借金もごつうてな、今年食えて来年食えるかどうか。
やから、ワシも中学出てすぐ家飛び出して……。
なにがあったわけと違うけど、ある日、ここにはもうおれん思てな。なんでやろなァ。
親父はしょうもない男やったけど、おかあはんは優しかったで。
でもあの頃の、あの辺の女は、今みたいに、自分で生きるなんてでけへんかったから。
さもしい男と一緒やったら、女もさもしい人間になるんやろか。
飛び出したワシがこんな体たらくで、言えた義理違うけどな。
うどんの話に戻ろか。
あまりに美味うて、ワシ同じもんお代わりしてん。
「あさりうどんもひとつ!!」て。
必死やんな。あないに必死にメシ食ったん、初めてやったわ。
それまでいうたら、なんや腹膨れたらなんでもええてなもんでな。あれもあれでまた懐かし。
ドヤの周りにある定食屋で、ぐらぐら煮立って味噌汁を白飯にぶっかけて、わーって食べたりな。
貝汁てかかれてたかな。そういやあれもまたあさりやったな。
申し訳ない程度に、一応わたしが貝ですぅみたいな顔して小こい身がへばりついてるようなやつが二個か三個だけ入ってるんよ。
ヒヒッ、外れは殻しか入ってへんねん。
黄色いだけの薄っすいたくあんふたきれか、しおしおの白菜の漬物がついてて。
なんせ馬力出すためにもメシを山盛り食いたいもんやから、ワシらみんな漬物に醤油どぼどぼにかけてひちみ振って辛ォして、おかずにして食べるねん。生卵追加してる奴うらめしそうに見ながらな。
結局、六十円の生卵ひとつ、躊躇なく頼むくらいに、えろぉはなれんかったけど、そんなんも悪ぅはなかったな。
ほんでや。
そんなんとは違う美味いあさりうどん食べてたら、なんや腹の下がぽっぽって熱ぅなってきてな。
メシ食べたから当たり前やねんけど、気持ちのいーい重さで、眠たなってきて。
気付いたら、ワシ机の上でうたた寝してたんよ。多分な。多分ていうか、なんやろ。夢見たんやろなぁ。
気付いたらワシ、あさりになっててん。
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