第3話

 ワシ、そん頃は現場で働いててな、みんな日雇いで……見慣れた顔もおったら、知らんやつも訳ありもごちゃまぜみたいなとこ。

 全員クズばっかや。

 やから、誰から聞いたんかは、覚えてへんのよ。

 仕事終わった後も夜な夜な集まって、ピーチクパーチクよう喋りはしてたんやけどな。

 ワシの頭もクズやさかい。みな忘れてもうた。

 あさりうどん、そう、でも、あさりうどん。

 美味いうどんがあるって話でな。

 店のメニューはビニールに印刷されとるような奴で、おまけにヤニで黄色くくすんでてな、そんなん見たらテーブルもなんや脂っぽいような気ィしたし、どうせろくなもん出てこォせんやろて、そう思たわ。下手な噂掴まされたぁ、て。

 でもなァ、あさりうどんだけは、あさりうどんって白い綺麗な紙に筆でおっきく書かれてて、壁に貼ってあったんよ。習字みたいにな。

 そんなん、ごっつう自信あるように見えるやろ。

 こら当たりや思て、ころっと手のひら返してすぐ「あさりうどんひとォつ!」

 ふん、ほんまにこんな感じの大声で。

 なんせ広いから、大声出さんと。

 でもそォいえば、店員のことは覚えてないな。

 お運びしてもろたり、金払ったり、した筈やねんけど。不思議やんね。

 とにかくまあ、あさりうどんや。

 その話をしたかったんや。ずうっとな。

 なんや、今日話すために、今まで喋らんかった。そんな気ィもするわ。

 なんかこない言われると、怖いやろ。でも怖い話、違うからな。心配もせんで、肩下ろしとき。

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