第2話

 うどんをな、食いにいったんや。

 うどん屋いうたかてピンからキリまで……ないな。うどん屋なんかうどん屋や。でもしいていうなら、ピンの方かな。悪い方や。

 滋賀の方の、きったないうどん屋でな。国道沿いにあったんやけど……何号線やったか……細かい数字は忘れてもうたわ。昔の……ほんま昔の話やさかいな。

 まあ、本質はそこじゃないから、ええやろ。ひひッ。本質て。おもろい言葉やんな。本で読んだんや。

 ワシ、本読むようには見えんやろ。たまに読むんや。図書館、涼しいし、無料やしな。

 あんまり字ィが細いのは読めへんさかい、時々は子どもに混じったりもしてな。

 あぁ、まぁ、そんで、うどんの話やね。

 それがまあまた、な話やねん。ひひッ。

 きったないくせに広い店でな、田舎の方やから。輪にかけて駐車場が広ぉて、日曜は家族連れで、メシ時はトラックばっかり停まってそうな、そういううどん屋や。

 なんや入った瞬間どころか外見からぱっとせん店で、入り口の、レジの前にな、昔の喫茶店みたいな赤いソファーがあるねん。

 わかるか?

 ビロォドいうんか、なんや、毛のやつや。ざらざらでもなし、さらさらでもなし、なんかけったいな、布キレのやつよ。

 今ドキそんなん置いてあるくらいには、しょうもない店やってん。流石に埃積もってるなんてことはなかったけどな。

 他の客も……全然っちゅうことはなかったけど、ま、二、三人くらいしかおらんで、貸し切りみたいなもんや。

 なんでわざわざそんな辺鄙なとこ行ったいうたらな、そんとき付き合うてた女が、めっぽうなうどん好きやったんよ。

 あ、そんときは一人で行ってたんやけどな。ちょっとええ店知っとるて見栄張りとぉなって。

 男ってアホやんなァ。

 でもほんま、ワシにはもったいないくらいの、ええ女やったわ。

 日本の女には珍しいタイプの……肌が黒うて、情も深ォて、毛深いのが難点やったけど、最近おらんようなちょっと影のある、でもさもしない女。

 なんや、妙に喜ばせたくなる女やったね。

 わざわざ下見に行きたなるくらいには。

 エート、そんで、あれは誰からやったか……なんや、珍しいだかウマイ店があるだか、聞いてな。

 そう、噂みたいに。

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