聞いても、聞かなくても

(数年前のお話)


とある日。

いつものようにふたりは一緒にお菓子を食べていたが、いつの間にやら後残りわずかとなっていた袋の中を見たおみは少し躊躇ちゅうちょして動きを止めると、ぐみを一瞥いちべつした。


「食べていい?」

「いいよー」


ぐみの了承を得ると、おみはいそいそと残りのお菓子に手を伸ばした。


「ねぇおみ」

「ん?」

「前から思ってたんだけど、何で食べる前に聞くの?」

「え?」


思わぬことを聞かれたためか、おみはきょとんとした顔をした。


「前もこんな風に聞かれたなって」


それは少し前のこと。この時もふたりでゆったりと過ごしていた。


「開けていい?」

「ん?いいよー」


その時、おみはぐみが買ってきたチョコレートのお菓子が食べたくなって、ぐみに食べていいか確認をとっていた。



「……あぁ、あったっけ」

「うん。私の家だと早い者勝ちだったから、なんでだろうって」

「気づいたらぐみが食べてなくなってる時あるよな」

「ごめんって」


じとっとした目付きでぐみを見た後、おみはため息を漏らした。お菓子は共有のかごにそれぞれが買ってきて入れているため、実際にはどちらのものという訳でもない。


「別にいいけど。特に理由なんてないよ、俺も家でそうだっただけ」

「そっか」


おみはその時のことを思い出しながら手に取ったお菓子を口に入れた。


「癖になってるのかもな、そうやって聞くの」


しばらくして、口にあったものを飲み込むとおみはぽつりと呟いた。


「あーなるほど」

「気にしたなら悪い」

「いいよいいよ」

「でも聞かないで食べるのもな……」

「気にしないでいいから!どっちでもいいの!」


思い悩んでしまったおみにぐみは手でストップをかける。


「どっちでも?」

「うん、聞いても聞いてくれなくてもいいの」


なんとなく聞いてみた疑問が思ったよりもおみを考えさせてしまったようで、ぐみはおみの目をじっと見つめながら言葉を継いた。


「だって聞いてくれなくなっても、私に似たみたいでちょっと嬉しいし」


ぐみはそう言って照れくさそうに笑うと、今度はいたずらっぽい笑みを浮かべた。


「なくなったらおみに買って来てもらうからいい!」

「……じゃあぐみも買ってくるんだな」

「確かに……!私も買わなきゃ!」


思わずふっと笑いが溢れた。自分も買うことになるとは考えていなかったらしい。

ぐみは今さら気が付いたように目を丸くした後、おみの緩んだ顔を見て目を細めて笑った。


ただ、年を経てもおみが聞かずに食べることはなく、逆にぐみが聞いてくることの方が多くなっていくとは、この時のふたりには知るよしもなかった。

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