君と共有したいのです

(バレンタインのお話)


「もう私、おみとバレンタインブース来るの慣れたよ」

「なんだ突然」


おみは視線を横にいるぐみへと移した。


「一緒にバレンタインのチョコ選ぶのも慣れた」

「まぁここ数年一緒に来てるからな」


おみとぐみはとあるデパートのバレンタインフェア会場に来ていた。ここではチョコレートだけではなく様々なスイーツが並んでいる。

おみのスイーツ好きが高じて恒例となったふたりでのバレンタインフェアであったが、ぐみには少し思うところがあった。


「でもサプライズ感がないんだよね」

「まぁそうだな。……別行動するか?」

「いやいや、一緒にいるのになんで別行動になるの」

「それもそうか」


さらっと別行動を提案してきたおみに対して、ぐみは物言いたげな目で見つめた。


「……初めておみにあげるチョコ買った時はひとりで悩んで買ったけど、一緒にいれば食べたいのわかるからいいよ」

「そう、ぐみがいいならいいけど」


そう言うと、おみは視線をぐみからスイーツに向けた。

その瞳は照明の光を受けたのかきらきらときらめいていて、そうやって輝くのを見るのがぐみは好きだった。

物語で表現されるように"宝石みたい"なんてことはなくても、確かにぐみには輝いて見えるのだ。


サプライズで渡すのもいいけれど、それよりもこうしてスイーツを前にして輝く瞳を側で見ていたいから。

恥ずかしくてそう正直に言うことはなかったが、ぐみの瞳は紛れもなくおみを追いかけていた。


***


「はい、どうぞ!」

「ありがと。ぐみにはこれ」

「ありがとう!」


1日がもう終わりに近い夕食後。

バレンタインにはお互いが買ったスイーツを食べるのも恒例となっていた。

フェアで買って日持ちしないものは早々に食べてしまうが、必ずバレンタインである2月14日にもスイーツを食べるのだ。


スイーツは一緒に買いに行っているため、何を買ったのかはお互いわかっている。

それでもひとたびそれを目にすれば、そんなことは関係なく心は浮き立つのだ。


そして、お互いが渡したスイーツをふたりで一緒に食べること。

それは普段からしていることでもある。


「美味しいものはふたりで食べたらもっと美味しい」

そうはっきりと言葉にしたぐみと、

「ぐみも食べてみな」

そう言って差し出すおみ。


"美味しいものは共有したい。"

それが共通点があまりないふたりの共通認識だった。


そして、それはこれからも変わらないものだろう。


「これ美味しい!!食べて!!」

「ん、うまいな」

「だよね!!」


こうしてまた今年も物理的に甘い日々は過ぎる。

雰囲気までも甘くなりすぎないのがふたりらしいのかもしれない。

興奮冷めやらなぬまま夜が更けていくのだった。

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