言葉よりも伝わるもの
(クリスマスのお話)
「ただいまー!」
「おかえり」
雪が降り積もる今日はクリスマス・イブ。
帰ってきたぐみの手にはエコバッグが握られていた。
早々に手洗いうがいをしていれば、おみが近寄ってくる。
「ケーキ作っておいたよ」
「ありがとー!楽しみだなぁ」
こんな日はご馳走にケーキがあれば特別な夜に。そしておみが作ったケーキであればなおさらだ。
エコバッグから買ってきたものをふたりで冷蔵庫にしまっていく。
「今日ぐみが作るって言ってたけど、何作るの」
「煮込みハンバーグ!」
「おー、いいな」
「でしょ!」
基本的に手が空いてる方がご飯を作ることにしているが、ぐみの方が作ることが多いのが実情だ。
今日の夕食は張り切っているようで、いつもより動きが素早いように見える。
「サラダとかスープは?」
「かぼちゃサラダとミネストローネにしようかなって」
「それじゃあ野菜切るわ」
「お願いしまーす」
キッチンにふたりで並べば少し動きづらい。
時間のかかる煮込みハンバーグを作っているぐみの隣で、おみは野菜を切りミネストローネを作っていた。
「あれ?そう言えば同じ煮込み料理だ」
「いいよ。味は違うでしょ」
うまいならいいよ、と言うおみの言葉に止まっていたぐみの手は再び動き出した。
それからかぼちゃサラダも作り終え、後はミネストローネを煮込むだけとなり、手持ち無沙汰になったおみはぐみを観察していた。
「……見過ぎじゃない?」
煮込みハンバーグも残す所煮込む工程のみとなり、何をするでもなく見つめられる状況にぐみは耐えられなくなった。
「あぁ、やることなくて」
「えぇ?見てて何かあった?」
「いや?」
「ないんかい!」
そんな中身のない会話をしていればあっという間に時間が経ち、料理もいい感じに出来上がった。
そうして出来上がった料理を器に盛り、炊いておいたご飯も用意する。
「いただきます」
「いただきます!」
テーブルに向かい合って手を合わせる。
ふたりとも始めに口にしたのは煮込みハンバーグだった。
「ん!美味しい!」
「……うまい」
思わず口に出た言葉に続いて、おみの言葉も耳に入ってきた。ちょっぴり口角が上がったその姿を見て、ぐみも笑みが溢れるのだった。
箸も進んだ夕食後には、楽しみにしていたケーキを食べることになった。
おみが作ってくれたのは小さなショートケーキ。
ふたつのケーキは食べきりサイズで、たくさん食べた後のお腹にも残さず入りそうだ。
「……どう?」
「美味しい!!」
おみの作ったお菓子を私が食べる時はいつも問いかけてくる。
そして私を見つめるその瞳の奥は温かくて。
必ず優しい表情を浮かべているから、いつも目を背けてしまうのだ。
だって瞳が、表情が、愛おしいと伝えてくれるから。
***
風呂から上がってふたりでソファーに座る。
隣にぴったりと寄り添えば、確かなぬくもりを感じる。
こんな心が満たされた日には、らしくないことが頭を
側にいるだけでも彩りにも、慰めにもなってくれる人。
君がいれば苦しい時は苦しくとも、どこかに灯る光を見つけられるんじゃないか。
そう思うくらい、君といる時間が大切で。
照れくさくて言葉にはできないけれど、抱きしめたなら何か伝わるだろうか。
そっと背中に腕を回して抱き寄せる。
「ふふ」
首に回った腕と、伝わる熱が答えだろうか。
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