思い出の糧になる
(季節外れですが、夏のお話)
「お待たせ~」
リビングへやってきたぐみは、いつもとは異なる格好していた。
「どう?」
「……いいんじゃね」
「そ? 久しぶりに着たな~、浴衣!」
ぐみは白地に青の
「じゃあ行こ!」
ぐみは我先にと玄関に行ったはいいものの、久々に取り出したからか立ったままだと下駄が上手く履けない。やっと履けたかと思えばバランスを崩してしまった。とっさに伸ばした手が壁に触れる前にぐっと肩を引っ張られ、硬い何かが背中に当たった。
「危ないから急ぐな」
上から聞こえてくる声からして、おみの胸に寄りかかる形になっているらしい。
触れる背中と肩が熱をもつように熱くなる。
「あ、ごめん。ありがと」
びっくりした……
ぐみは肩から手を離された後に端に寄って、無性にドキドキと高鳴る胸を押さえていた。友達のように接っすることの多い彼との、こうした恋人だと実感する瞬間はなかなか慣れない。
「行くぞ」
「うん」
まだ静かにならない胸の鼓動が伝わらないうちに、ふたりで玄関を出た。
人で溢れる道を縫うように歩く。
屋台が並んだ道は思うようには進めない。
おみはこちらを気にしてはくれるものの、気づけば離ればなれになってしまいそうで、ぐみは彼の腕を掴んだ。
そんなぐみを一瞥すると、掴まれた腕を掴み、そのまま流れるようにその手をぎゅっと握った。
さっきまで伺っていた視線がなくなり、頑なにこちらを向こうとしない恋人の態度に、ぐみは自然と口元がゆるんでしまった。
「それにしても高い」
少し不満気な顔をするおみの視線の先にはベビーカステラ。
人の流れから外れて、購入したものを食べることにした。おみはベビーカステラ、ぐみはかき氷を手にしている。
祭り特有の値段設定に文句が出るおみに、ぐみは同意するように頷き笑った。
「確かに高いけど、思い出が残るよ」
「思い出?」
どういうことかわからず、食べる手を止めて聞き返した。
「うん。私はかき氷を買ったんじゃなくて、おみとの思い出を買ったの。ふたりでかき氷食べたな、美味しかったなっていう」
そう考えた方が素敵でしょ?
そう言って自分にかき氷を食べさせて笑う彼女がおみの目に焼き付いた。
かき氷を咀嚼しながら頭の中で彼女の言葉を
「そうかもな……」
「でしょ! せっかくだから楽しい思い出にしたいよね~。ということで、りんご飴買お!」
それから、ぐみに引きずられるようにしておみは歩き出した。
夏祭りを思い出せば、ふたりで食べた物ばかりが思い浮かぶ。
それが思い出の糧となって、これからもそんな思い出で溢れるのだろう。
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