第21話 ちょっとお隣に


 ユーフレナル艦内


  【モール】


 「それでは、星間物質の採取と触媒物質の採掘と精製の為に、

  お隣の星系に行ってきます」


 「ケンタウルス座アルファ星系が太陽系に一番近い恒星系ですね」と京塚さん


 「ところで、多分、私だけで大丈夫なんですが、皆さん来られるのですか?」


 「当然です」

 「クリーンユニットが忘れられなくて」

 「アルファケンタウリに行けるんですよ」


 まずはプロープを飛ばして確認する。


 「あたりまえですが4.3光年でも、プロープ必要なんですね」と京塚さん


 『はい、4.3年前の情報だと万が一がありますから』ユー


  西城さんが、興味深そうに

 「触媒物質と言われていますが、地球では確認されていない材質なんですか? 」


 「いえ、単体元素ではなく、27種類の単体元素を組み合わせたものなんです」


 「27種類を混ぜるんですか?」


 「いえ、特定形状に形成しますし、部分ごとに単体元素が違います」


 「それでは、地球上でも可能だったんですか?」


 「いえ、形成にかなりのエネルギーが必要ですからユーフレナルが必要ですし、

  レシピによると、触媒物質の形成には無重力下で行う必要があります。


  たとえシールドしていても近隣惑星に影響が出るかも知れませんから」


 「連邦では、どこで作っているのですか?」


 「多くは各星系の外惑星付近ですね、居住惑星付近では作っていないです」


 「それで、太陽系では作らなかったんですね」


 「おそらく天王星付近なら大丈夫だと思いますが、私も作るのは初体験なので」


  西城さんが意外そうに

 「モールさんでも、初めてなんですね?」


 「普通は購入する物なので」


  ケンタウルス座アルファ星系にある3つの恒星の惑星と衛星を

  それぞれセンサーでスキャンしていく。


  結果、一番小さな恒星プロキシマの第7惑星が木星のような巨大ガス惑星ガスジャイアントであり

  第6惑星にある大小2つの衛星が触媒物質の採取に有望そうだと判断して、

  恒星プロキシマにユーフレナルを向かわせた。


まずは、第7惑星にニードルを射出する。

この辺りは地球に到着するまでに何度か見た光景だ。


しばらくすると、前方の空間で星間物質の放出が始まる。

音が聞こえないのは残念だけど、何も無い空間から巨大な間欠泉の様に

白い星間物質が噴き出る様子は中々壮観だ。


「ユー、採取チューブを全部出して」

『はい、星間物質の採取を開始します』


ユーフレナルの船体から、数十本のチューブが伸びて、

その先端が星間物質の奔流に飛び込み吸引を始める。


先端部は流されるが、ある程度流されると流れから脱出して、

また上流の流れに飛び込んで吸引を継続する。


しばらくすると、放出が停止した。


『モール、星間物質の吸引完了です。次は第6惑星に移動します』

「ああ、よろしく」


そうして到着した、第6惑星は地球の半分くらいの大きさの氷の惑星だった。


惑星の持つ2つの衛星それぞれに検査ユニットを打ち込んでデータ送信を待つ


 『データを見た感じでは小さい方が良さそうですね』


  小さい方の衛星に全長5m程の3台の採掘ユニットを射出した。

  ユニットが採掘を始める。


 西城さんが、それを見て考え込んでいる瑞野さんに声をかけた

「瑞野さん、何か気になる?」


 「いえ、こうして採掘している様子をみてると、日本で採掘方法が研究されている

メタンハイドレートもモールさんなら簡単に採取できそうな気がしまして」


 「ああ、新潟沖の海底にあるシャーベット状のメタンガスだったっけ」


 「はい、もっともモールさんが採掘を開始したら

  日本はともかく世界中から反対の声が上がったでしょうから」


 「そうなるかな」


 「はい、たとえまだ採掘方法が確立されていなくても、

  今後、採掘出来る可能性があるなら不満と考えるでしょう」


「そうだよね」


「ですから今回、ケンタウルス座アルファ星系で採掘するのは正解かもしれません」


今度は輸送ユニットが射出されて、採掘された土砂を搬出してきた。


カーゴの中の精製モジュールを起動させて、

27種類の特定元素を取り出して集積していく。


『このペースだと精製終了は50時間後ですね』


50時間後に必要量の集積が終わり、

複雑な形状の型に順に特定元素を流し込み60個が出来上がった


 「この型を無重力下で特定出力の破砕レーザーで特定時間、特定部位を加熱するか 

  ユーよくこんな方法のレシピ知ってましたね」


 『23周期前にモールに頼まれた情報パックにありましたよ』


 「そうだったっけ?」


 『はい、この作業完了に120時間必要です』



 【一条寺 紗羅】


  触媒物質の精製が軌道に乗ったのを確かめてから、

  私はモールさんに声を掛けた。


 「モールさん、ちょっとよろしくて?」


 「一条寺さん、どうしました?」


 「いえ、地球に帰ってからなんですが」


 「はい」


 「私を連邦に連れて行ってくださいませんか?」


  モールさんは困った顔で

 「一条寺さん、せっかく故郷に帰れたんですよ」


 「はい、それでも私は、あなたについていきたいんです」


 「あなたは連邦だけでなく、この日本でも未成年ですよね?」


 「大丈夫です、日本では結婚が認められる年齢になりました」


 「ですが、せっかく再会できたご家族とも別れさせることは私には出来ません」


 「両親の許可はもう貰ってますのよ、後はモールさんだけですわ」


  モールさんは、ため息をついて。

 「私だけなんですか?」


 「ええ、イシサルさんも同意していただいてます」


 「もう、地球に帰る事はないかも知れないんですよ」


 「たとえ、それでも、ついていきますよ」


  私はニッコリ笑って、モールさんに抱き着いた。


  これからも絶対に放しませんからね。







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