第14話 記者会見

市ヶ谷の防衛省A棟11階第1省議室で、記者会見が行われようとしていた。


会見席に背の高い灰色の髪の人物が現れた、

白い厚手のボディスーツの様な服を着ている。

左の襟もとに緑色の羽の様な形の飾りが付いている。


司会の女性が「ただいまより、モーレイナス氏の会見を執り行います。

各メディアの質問は会見の後に少し時間を取っていますのでその時にお願いします」


「只今ご紹介に預かりました、モーレイナスと申します。


 日本の皆さんには国営放送の電波をお借りした際、

 大変お騒がせしまして申し訳ないです。


 それと、これは最初に説明をしておかなければいけないのですが。


 私は、この国の国民や国家に危害を加えるつもりはありません。


今回保護した10人が無事日常に戻れたら帰るつもりですし、

 何か対価を請求するつもりも無い事をここに宣言させてください」


「それでは、私が彼女達を発見した経緯から説明します。


私は輸送船で、主に星系間の物資輸送を仕事としています。


その輸送業務の最中、船のセンサーが近くの惑星表面での重力異常を感知しました。


「珍しい反応でしたので、調べようと惑星に近づいた時に

スクールバスと彼女達を発見しました。


 その時の様子が、これです」


 モーレイナスさんが右手を上げると、

そこに1mくらいのスクリーンが表示され、

蜘蛛に襲撃されるスクールバスが映し出された。


メディア関係者がそろって息を呑む


「バスの中に10人、生存者がいるのは確認出来ましたので、

 原生生物を無力化して私の船に保護しました。


 皆さんとは使っている言語が違いましたので、会話が出来ませんでしたが

 バスに使われている技術から連邦文明影響外の人間と判断しました。


 それで連邦本国に報告して指示を仰ぎました。


 翻訳機を作成して会話が成立してからは、彼女達から母星の情報を集めて

 大体の位置を特定したのですが、この惑星まで距離が遠く準備と移動に1年の時間が必要でした。


 彼女達はこの1年の間故郷を想いがんばってきました、どうか皆さん、

やっと帰って来た彼女達を暖かく迎えてあげてください」


「それでは、質問に移りたいと思います。

質問のある記者の方は挙手の上でメディア名と氏名をお願いします」


「モーレイナスさん日本ニューズの武田です。


 国営放送で言われた内容に”火星の衛星軌道で周回”とありました。


 地球からも火星の衛星軌道に全長8kmの楕円形の物体が確認されています。


 これが、あなたの乗って来た船で間違いありませんか?」


 「ああ、モールでけっこうですよ。

  はい、あれが私の乗って来た輸送艦ユーフレナルです」


  記者達からどよめきが起きる。


 「モールさんトーキョーテラネットの岸川です。

あの巨大な船で1年かかるとなると、どこから来られたのでしょうか?」


 「はい、この星からみると連邦は銀河系の中心核を挟んだ反対側に位置します。

直線距離だと5万光年くらいでしょうか?」


 「モールさんTOKIO日報の寺本です、

その連邦は、どれ位の範囲で、どれ位の人が住んでいるのですか?」


 「連邦は正確にはフィフサル連邦という名称で大体250の恒星系の集まりです、

連邦外に他の文明圏と接触した記録が無いので単に連邦と呼ばれる事が多いです。


1つの恒星系で大体100億から140億の人が居住しています

 近くの恒星系開発も進んでいますので、この1年で増えていると思います」


「モールさんニッポン・情報発信社の 三枝です。


 輸送艦ユーフレナルに武装はされているのでしょうか?


 宇宙船同士の戦闘などもあるのでしょうか?」


「航路を確保する為の破砕レーザー等は装備されています。


宇宙船による戦闘は想定されていませんね。


一定速度の隕石等ならともかく、

高速で移動して軌道変更する宇宙船には撃っても当たらないと思います。


小形宇宙船には、先ほどの様な原生動物に使用できるレーザーが装備されています」


「モールさん情報サービスチューブの森川です。


日本語がお上手ですが、今も翻訳機を使っておられるのでしょうか? 」


 モーレさんは襟元の飾りを指さして、「はい、これがその翻訳機です」


「モールさん東日本中央新聞の北加賀です。

彼女達は1年間宇宙空間で生活してきました。


 家族は暖かく迎えるでしょうが、

彼女達が行方不明になった時点で名前は公表されています。


 彼女達が受け入れられない場合は考えられましたか?」


 周囲の記者が、こいつなにを言っているという顔で見ている。


「はい、彼女達を保護した時点で母星が特定出来ないかった場合や、

何らかの理由で日本政府に受け入れを拒否される可能性も考えました。


 その場合、ご家族と相談の上で連邦に連れて帰ります」


「連邦に難民として受け入れると言う事ですか?」


「すみません、連邦には難民という存在がいないので、

連邦市民として保護されます」


「連邦市民の許可は降りるのですか?」


「はい、連邦評議会の許可は既にもらっていますので、

後は本人の意思確認だけです」


「未開の地球人が高度な連邦世界で生きていけるのですか?」


「ご心配して頂いてありがとうございます。

 そもそも彼女達は未成年ですので、衣食住は連邦で保証されます。

 技術や知識の取得も安易ですし、成人してから自分でやりたい事を探してもかまいませんよ」


「保護された方の中には、成人の教員がいましたが?」


「すみません、つい説明を忘れてしまいまして。

 連邦では地球年齢で30歳未満は未成年とみなされています」


  周囲のどよめきが大きくなる


 「モールさんトータル・テレビ・ニュースの箱下です。

失礼ですが、モールさんも未成年になるのですか? 」


 「いいえ、私は地球の年齢に換算すると80歳になります」


 「モールさんジャパン・サテライト・オンラインの鹿島です。

連邦の方は、地球人に比べて長寿なのですか?」


 「連邦の平均寿命で200周期、200歳程になりますね」


 「モールさん東日本中央新聞の北加賀です。

平均寿命200歳の世界に、平均寿命が80歳程の地球人を連れて行っても

とても幸せになれるとは思えないのですが? 」


「そうですか、こちらの平均寿命は80歳位なのですね。


こちらで地球の方のメディカルチェックも行いましたが

連邦の環境なら、200歳の健康寿命は可能だと思います」


  あれ? 記者さんが、驚いた顔で見ている。


「モールさん時事情報・共同タイムスの横山です。200歳の健康寿命なんですか?」


 「そう、考えていましたが、違うのですか?」


 「モールさん日本ニューズの武田です。火星軌道にある大型の輸送艦ですが、

モールさんはあの輸送艦で物資を運ぶお仕事をしているですね。


地球まで1年、帰りにおそらく1年、最低2年使用される事になりますが、

人道的理由とはいえ、

あのような巨大な宇宙船を私的な理由で使用して大丈夫なのですか? 」


 「ああ、大丈夫ですよ。輸送艦ユーフレナルは私の個人所有なので」





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