第13話 国は踊る

 総理官邸


 【東雲内閣総理大臣】


「つまり、こういう事か? 

 日本の国民が自然災害に遭遇して、その影響で国外に漂流する事になった。

 それを見つけた他国の民間人が救助、保護して自分の本国に報告、

 本国の許可を取った上で国を特定して送って来てくれたと。

 官房長官・・・これ良い話だよな?」


「はい、話が宇宙規模で無ければ国から感謝状を贈りたい内容ですね」


「それで、何が問題なんだ? タクシー代でも請求されたか?」


「何も請求されないのが問題なんです。ありがとうございます、

 それではさようならと返したら、国民感情はどうでしょうか?」


「国民の恩人に何のもてなしもせずに帰したのか、この国は、なんて恩知らずなと言われる?」


「しかも、理解の及ばない位高度な科学力オーバーテクノロジーですよ。


 JAXAの聖川代表が1000年後の人類なら

 理解ぐらいは出来るかもしれないと言ってました。


 そんな宇宙人、どうやってんですか?


 高い牛肉でも食べさせますか?」


「その、モーレイナス氏は何て言ってるんだ?」


「保護した10人が無事に日常生活を送れるのを確認したら帰るつもりみたいです」


「そのまま帰したら・・・まずいよな?」


「そうですね、でも他国との関係を考えたら『引き止めましたが帰りました』

が一番いいかもしれません」


「もし自国で用事があるんなら引き止められないよな? 」


「国内メーカーの株価、期待から既に上がってきています、

 経団連からは、なんとか接触できないか、連絡が多数入ってますね」


「俺の地元企業からも、電話がすごいんで止めてもらってるよ」


「聖川代表が余計な事を喋ったのがまずかったですね」


「・・・それ聞いてないぞ、あのじいさん何を言ったんだ? 」


「市ヶ谷でモーレイナスさんが気をつかって羽田の宇宙船

邪魔だったらどけますって声をかけてくれたらしいんですが」


「なんというか、日本人が車止めてるみたいだな」


「どうやら市ヶ谷から、羽田にある、あの宇宙船操作できるみたいで」


「いや、モーレイナスさん手ぶらだったよな?

 それでも出来るのか?」


「しかも、地球上なら、どこでも大丈夫らしくて・・・」


「あちゃ~」


「しかもその話を、聖川さんリップサービスで記者にしてしまいまして」


「あのじいさん、余計な事を」


「メディアからの取材協力要請で広報部が泣いてますね」


「各国大使館を通じて外務省に モーレイナスさん宛ての親書が多数届いてますが、

 流石に国連すら加盟していない国の、それも個人に、 日本からは渡せないと、送り返してます」


「それダメだったかな?」


「国際慣例上だと、この場合許可を貰えば大丈夫ですよ」


「それ・・・ダメって言わないか?」


「同じ理由でモーレイナスさんに表彰や感謝状を贈ったりするのも

 事前に許可が必要ですね」


「それじゃあ何も渡せないじゃないか? 」


「まあ、宇宙人に感謝状を贈っても喜んで貰えるか問題ですね」


「そんなにメディアがうるさいなら、

いっそモーレイナスさんに来日記者会見でもやってもらおうか?」


「日本人じゃ無いんですよ、放送コードとか国際間で言っちゃいけない内容とかを

話されたらどうするんですか?」


「だって、宇宙人の一市民に、これとこれは言っちゃダメとか

言論統制じゃあるまいし、そんな事言えないだろう」


 「それは、そうですが」


 「あの、国営放送の電波ジャックにしても威圧や脅迫とは、かけ離れた内容だぞ。


  あんな放送をする宇宙人が国際問題とか国民感情を煽る事を言うと思うか?」


 「ですが、記者会見というと、記者に質問もさせるんですよね。


  いくら制限しても、バカな質問や失礼な質問をぶつけて

  モーレイナスさんの反応を見ようとする記者もいるかもしれません、

  その内容によっては、モーレイナスさん怒るんじゃないですか?


  記者会見が理由で滅亡した国になるのは、いくらなんでも嫌すぎます」


 「いや、いくら視聴率が欲しいからって、そんなバカは流石にいないだろ」


 「総理、日頃大人しい人ほど怒らせるとまずいのは

  世界共通、いやこの場合、宇宙共通だと思いますよ。


  特に今は、モーレイナスさんの、人の良い一面しか見えてませんから

  万が一の為にライブ中継はやめましょう、

  全国のお茶の間にスプラッタな映像はまずいです。


  あと、お言葉ですがバカはどこにでもいますよ。


  ところで、ごくあたりまえの質問なんですが。


  誰がそれをモーレイナスさんに頼みに行くんですか?」


 「それは、外務大臣だろう。下川田しもかわだちゃんに一任だ」



 下川田外務大臣執務室


【下川田外務大臣】


「いや、だから無理ですって完全に善意で来てくれた宇宙人ですよ。

 横須賀に連行なんてできません。


 え? 連行は米軍がやる? いや、相手は人間の形をしていますけど宇宙人ですよ

 見た所、武装していない様に見えますけど、

 そもそも非武装で来る訳が無いでしょう。


 横須賀基地そちらが消滅して、それに日本国民が巻き込まれたら目も当てられません。


 え? 武装解除? ですから何も持って来ていないんですよ。


 ハンカチ1枚持ち込んでいないんです。


 その状態で地球上ならどこにいても自分の宇宙船を呼べるんですよ。


 え?今度はアメリカに招待したい? いや、聞いてみても良いですが、

 もう帰るって行ってますよ。


 そちらの外交官を会わせろ? いえ、日本の国営放送をジャックしたときに

 他国の干渉は困ると明言してましたので、それは無理でしょう。


 日本が宇宙人の情報を独占? 

 いや、地球の科学者の理解の範疇を超えてますから。


 ちゃんと入手した情報は送ってますよね、同盟国なんだから。


 でも、くれぐれも、こっちは巻き込まないでくださいね。


 はい、はい、宇宙人に話はしてみますが、期待はしないでくださいね」


  「大臣、」

  「なんだ、今度はどこの国の外相だ?」


  「いえ、総理からです。モーレイナスさんに記者会見を頼んでくれ

   ・・だそうです」



 閑話 島本陽菜


「あっ、礼菜れなちゃん。陽菜お姉ちゃんだよ、元気? お母さんに変わってくれる?」


「お母さん、テレビ見た? うん、やっと帰ってこれたよ。

 こっちは元気だから、うん

 大変な目に会ったけど、良い人に助けてもらって地球まで送ってもらったから。

 うん、政府の人も家族に連絡とってもいいって言ってくれたんで、

 やっと電話できたんだ

 政府の公式発表がまだだから、家族以外には電話しちゃダメなんだって。

 だから、親戚とかご近所には、まだ内緒ね」


「お父さん、瘦せて無いかって。

 拾ってくれた人、モールさんっていうんだけど、かなり過保護な人でね

 快適過ぎて、地球の日常生活に戻れるか不安なレベルだよ。

 今はね、自衛隊の施設にいるの、なにかホテルみたいなところだよ。

 うん、多分政府の人からそっちに連絡があると思うけど 

 私は元気なんで心配しないで」

 



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