第10話 帰還計画

『それでは、概算帰還計画について説明させて頂きます。

この計画は銀河系中心部を迂回しながら【地球】を目指します。

現地到着時間は計画開始から800時間が予想されます』


「800時間って?どれ位だろう」「陽菜ちゃん、1年位ね」と生徒会長


『はい、また航路に存在する星間物質の分布データも存在しませんので、

 転移先の宙域に事前に探査プループを飛ばして状況を確認した後、

 その場所への転移を行います。

 行きと帰りの損耗もありますから1000程度のプループの準備が必要です』


「これは途中で補給出来ないから当然だな」


『転移装置の触媒はこの星系で入手できますが、問題は連邦文明圏外での艦のエネルギー補給ですね。星間物質の採取にニードルが30は欲しいです』


ガス状惑星大気回収機ニードルが30・・・モール様

おそらく、この星系に10台も無いと思いますよ?」


「近隣星系から集めれば大丈夫でしょ、30か? ユーもう少し欲しいな」

『集めてみます』

「モース様、ニードルなんてプラットフォームの運営企業が持つモノで

あんなモノ個人が持てるなんて知りませんでしたわ」


桂川さんが手を上げる

「ユー、ニードルについて説明をお願い」


『はい、ガス状惑星大気回収機ニードルは船のエネルギーになる高濃度星間物資をガス状惑星から採取する為の装置です』


「ガス状惑星というと地球だと木星とかだよね?」


『はい、この星系でも第7惑星がガス状惑星ですので、そこで使用されています』


「どうやって使うのか・・・聞いてもいいかな?」


『ニードルをガス状惑星に打ち込みますと、ニードルが自壊するまでの一定時間ですが惑星内の星間物質を重力圏外に転移させ続けます』


「なるほど、そうやって採取するんだ・・・でも、星域に10本て・・・なんで?」


「それは、ニードル1本で採取可能な星間物質があれば、すべての船舶を含めて、この星系の年間使用エネルギーを賄えますからですわ」


「もしかして、行った先の惑星で使うのって? 」


「服を買う為に工場ごと買うようなモノですね。費用効率を考えると、頭が痛くなるような話ですわね」


『話を続けますね、

 全員の生命維持に必要な物資も、往復と不測の事態に備えて3000時間分を確保

 地球にはプラットフォームが有りませんので、

 小形宇宙船も2機程度追加が必要と思われます』


「小型宇宙船の格納はどうする?」


『カーゴ部の改造が必要です。追加で船体外部に補助カーゴを6基取付け、

 増加した質量分は補助加速ユニットと単発式の転移ユニットで対応します』


イシサルさんが、目を見開いて固まった

「単発式の転移ユニットって、使い捨てですわよね? 」


「そうだね、まあ、行きだけだよ。帰りは補助カーゴは破棄済みだろうしね」


『いえ、行く途中で必要の無くなった補助カーゴは順次破棄予定です。

 計画では4基破棄した時点で通常転移装置での転移が可能になります』


「そうか、その手があるか。ユーこの改造にかかる期間は?」

『250時間が必要です』


「では、直ちに改造に掛かってくれ、物資の調達も頼む」


『了解しました』


「モール様? お父様に連絡を取ってもよろしいですか?」

「もちろん、良いけど。帰りたくなった?」


「いえ、惑星クラミルここの経済が一気に潤いそうなのですが。

 この一時需要で調子に乗ると連鎖倒産が起きそうなので警告をしておきます」



閑話 桜元佳乃


【桜元佳乃】


さて、およそ1年で地球に帰れることがわかりました。


お父様やお母様それに琴乃ちゃんの事を考えると、

帰還出来るのは嬉しいのですが、帰った後の事を考えると憂鬱になります。


でも私が居なくなったことで琴乃ちゃんが矢面に立っているなら、

それはあまりにも可哀そうです。


一人ため息をついているとモールさんが声を掛けてくれました。


「どうしたの、桜元さん何かあった?」


「モールさん、いえ地球に帰れるのは嬉しいのですが、

帰っても帰れなくても問題がありそうで悩んでいました」


「何が出来るかわからないけど、話を聞かせてもらってもいいかな?」

と、やさしく聞いて下さいます。


「はい、実は私、婚約者がおりまして」

モールさんの顔色が変わる・・・


「ちょっと待って、それは地球では普通の事なの?」

やはり、驚かれましたか。


「いえ、私の年齢では地球というか、我々の国、日本では珍しいですね」

「そうだよね、でも何故?」


「実家の行っている事業の関係で、私の婚約と引き換えに事業融資を受ける話が出てまして」

 モールさんが引きつった顔をしている。


「待って、それって、合法なの?」

「私自身、両親の許可は必要ですが結婚可能な年齢には達しています。

 事業融資を引き換えにという話は表ざたにはされないと思います」


「あいての人はどんな人なの?」

モールさん優しい声なのに、なにか冷たさを感じますわ。

「写真でしか見ていませんが。47歳で2回離婚をされているようです」


モールさんが真剣な表情で。

「桜元さん、地球に着いたら、私の方でも事業融資の件も調べてみるよ

だから、ちょっとご両親と話をさせてもらってもいいかな?」


「モールさん、私はおそらく行方不明扱いですので、婚約の話は無くなっていると思いますよ」


「そうか、そうだよね。驚かせてごめんね」

あからさまにほっとした顔をしているモールさん。


「ただ、そうなると。私の妹が婚約者にされていないか心配になってきまして」


「そうか、桜元さん妹さんがいるのか、名前は?何歳なの?」


「はい、琴乃ことのといってになります」


モールさんのお顔が、今まで見たことが無い位真剣な表情をしています。

「桜元さん、やっぱりご両親とお話しさせてもらっていい?」



いつもの穏やかなお顔も素敵ですが、真剣な表情はワイルドで素敵です。



閑話 地球


【****】

 「では、次のニュースです。先日、都内の私立姫島女学園で

教員1名と学生9名を乗せたままのバスが消えた事件ですが


 警察の懸命な捜索にも関わらず、現在も、その行方は分かっておりません。

 学園の校門に設置された防犯カメラにもバスの映像は映っていない為、

映像の消去も含めた計画的な誘拐事件の可能性も

視野に入れた捜査が行われています」


 「おねえちゃん、何処へ行っちゃったの」



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