第8話 惑星クラミルの奇跡

今からおよそ10周期前、このイラバニア星系唯一の居住惑星クラミルは

突発的で、それでいて絶望的な危機に直面していた。


未観測の・・・高速で移動中のマイクロブラックホールの軌道と

クラミルの公転軌道がタイミングで重なる。


120時間後にはマイクロブラックホールがクラミルの地殻を貫通する・・・

マイクロブラックホールの存在に気が付いた時には全て手遅れだった。


この惑星に住む120億の住人は絶望の中で死を待っていた。


政府が全力で星外脱出を行ったとしても、生存圏に逃がせるのは、

およそ10万人という絶望的な数字が突きつけられた。


その時、クラミル政府宛てのパックで、とんでもない連絡を送って来た人物がいた。


「こちら、輸送艦ユーフレナルのキャプテン・モーレイナスだ、

 現在、艦の最大出力でそちらに向けて加速中・・・・

 およそ100時間後にマイクロブラックホールにをぶつける。

 計算上、地殻の貫通は避けられるが大気に影響が出るかもしれない。

 住民のシェルターへの避難誘導を進めてくれ」


その時、120億の人間が1人の言葉に救われる事になった。


「こちら、クラミル政府代表のイーメルクだ。

 キャプテン・モーレイナス、君にこれ以上ない感謝を

 我々に何か出来る事はあるかね?」


「イーメルクさん、すまないが、はランダット星系から運んできた

 金属キューブごとマイクロブラックホールにぶつかることになる。

 終わったら、一緒に荷主に謝って貰えるかな? 」


「了解、キャプテン。一緒に謝りに行こう」


 こうして、惑星クラミルは救われた。

 キャプテン・モーレイナスという1人の行方不明者をだして。


 後で調べて分かったのは、途中で船の軌道が不自然に変わって、その後

 船の軌道がマイクロブラックホールの方向に修正されていた事だけだった。


「生存は絶望的だったの、政府主催の国葬が行われたわ、でも国葬の最中に

 大破した小型宇宙船と一緒に漂流しているキャプテン・モーレイナスの生存が

 確認されたの」


「そんなことがあったんですね。」


「ええ、この事はこの惑星ほしの当時を知る人ならみんなが知っているわ。

でもね・・・・・知られていない事もあるの」


「えっ? なんですか? 」


「惑星クラミルが絶望の中にあった時、一人の女の子が助けを呼ぶために、

 他の星系に向けて無作為に大量のパックを送ったの。

 一人だったの・・・たった一人だけ返事をくれてね『どうしたの? 』って」


「まさか・・・・・・・」


「そう、女の子はもうすぐ星がブラックホールで無くなってしまう、

 みんな死んじゃう、助けてって叫んだの、そうしたらね

『ああ、わかった』って返事が来たの。」


「まったく、あの人は・・・・・・・」


「私は嬉しくなって、お父さんやお母さんに話したけど信じてもらえなかった。

まあ、当然だけどね。

でもキャプテン・モーレイナスのパックが政府へ届いた後でね、

その女の子の所にもパックが届いたの

『イシサル、もう大丈夫、もうすぐ行くから待っててね』ってね」


「困っている人を見つけると。あの人は必ず手を差し伸べる・・・」



「私、初めてモール様に会った時に勇気を出して

『お嫁さんになってあげるから連れて行って』って頼んだのに

『未成年は連れて行けませんね』って断られたのよ。

 だから成人してモール様がこの星系に来るのをまってたの。」


生徒会長が「やっぱり、王子さまだ」と泣いている。


桂川さんが「モールさん、やっぱりカッコイイ」と目を赤くしている。


イシサルさんが、私の顔の前に手を持って来る、

そこで初めて自分が泣いている事に気が付いた。


「だからね、モール様には誰かが傍に居ないとダメなの、

 誰かがモール様の事を考えてあげなきゃね」


イシサルさんの優しい言葉が心に響いた。



モールさんがお茶をしている、私達4人を見つけて、手を振りながら

相変わらずの優しい笑顔で、こっちにやってくる。


私たちの表情をみて

「どうしたの? なにかあった?」心配そうに声を掛けるモールさん

 私を含めて、思わずみんな笑ってしまった。


「何か面白い物は有ったかい?」と相変わらずの優しい声で聴いてきた。


「いえ、これから探すところですわ」とイシサルさん


「時間はたっぷりあるからゆっくり探してね」と声をかけて行ってしまった。


「みなさん、私絶対にユーフレナルに乗せてもらいますので、よろしくお願いね」


 私たちは3人共力強くうなずいた。




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