第3話 かわいそう

【モール】


「ユー、連邦からのパック返信はまだかな?」


『おそらく、向こうでも揉めていると思いますよ』


「そうだろうな。そういえばユー、彼女たちの体内時計のパターンは分かったかな?」


『いくぶん不規則ですが判明しています、彼女たちの居住惑星の自転周期も判りました』


「それなら、船内の照明をそれに合わせて、少し暗くしよう。

 昼夜のバランスが狂うと疲れるからね」


『了解です。でも、それだとモールは疲れませんか?』


「私はいいから、あの子達に合わせてあげてくれ」


『わかりました』


「しかし、部屋に閉じこもっていては退屈だろう、何か気晴らしになるような娯楽は無いかな?」


『まだコミュニケーションが取れませんから、簡単なフィジカルゲームでも勧めてみますか?』


「なにか良いのは有ったかな?」


『無重力での球技なら安全だと思いますよ』


「無重力での球技? エリボルか?」



 【朝倉 水穂】


どうやら室内は時間によって少し暗くなる様だ。

スマホの時計で21時頃に暗くなって 朝6時頃に明るくなった。


朝食を食べ終わってゆっくりしていると、モールさんが来て手招きをしている。


昨日の先生の話があったので、みんなでついて行った。


モールさんの後について歩いていくと、1つの大きな部屋にたどり着いた。




大きい・・・体育館か集会所だろか?  なんだろう、この部屋。


部屋の中に大きな白い正6面体のフレームが2個並んで浮かんでいる。


それぞれのフレームの中で30cmくらいの球体が飛び回っている。


モールさんが片方のフレームの下にくると、身体が浮き上がってフレームの中にするりと入って、そのままの勢いで正方形の上面に当たって跳ね返った。


すごい、跳ね返る面は見えないけど、これ6面体内側全部がトランポリンだ。


モールさんは体の捻りと当たる角度を調節して6面体の箱の中を、

縦横無人に跳ね回っている。

気が付くともう一つの正方形にも白い人型のシルエットが同じように跳ね回っていた。


音が変わるとモールさんに向けてボールのような物が射出された。

モールさんはそれをキャッチして、もう一つの白いシルエットがいる6面体に向けて

ボールを投げつけた。


ボールはフレームの中を飛び回っている球体を通り抜けると

男性の側のフレームが1本赤く変わった。


次に白いシルエットが投げたボールがモールさん側のフレーム内を動く球体を通ると、今度はシルエット側のフレームの色が1本変わる。


なるほど、6面トランポリンをしながら、相手コート内を動き回る球体に

ボールを投げ入れるスポーツか。


「すごい、これ無重力で発達した球技だ」桂川さんが目を輝かせている。


モールさんのフレームが12本共赤く変わってゲームは終了。


モールさんはゆっくりと床に降ろされた。


モールさんがにこやかに、どうぞと、勧めてくれる。


桂川さんが真っ先に参加して、楽しそうに歓声をあげていた。


意外だったのが富岡さんだ、日頃の厳しい顔ではなく終始笑顔でボールを投げていた。


私もやってみたが、間違って顔から落ちても痛くないし、

ボールが身体に当たっても何故か痛く無かった。


男性は、その様子をただ優しい目で見つめていた。


ただ、その様子を佐倉先生だけが・・・・冷たい目で見つめていた。





ひとしきり遊んだ後で、部屋に戻った私たちはクリーンユニットですっきりして

さっきのスポーツについて話をしていた。


特に桂川さんのテンションは非常に高かった。


「あ~楽しかった、こういう経験が出来るとは思わなかった」


「面白かったね~」


完全にリラックスしている。


その様子を見た佐倉先生が焦ったようすで、


「みなさん、落ち着いてください。どうか冷静になってください」

と皆に声を掛けた。


「先生、どうかしましたか?」生徒会長が穏やかに声を掛ける。


「皆さんが、あのスポーツを楽しんでいる間、あの男性は皆さんの方を

ずっと舐めるように見ていました」


 あれ? そうでしたか? 


「あの野獣の様な目を見ればわかります」


 あれ? 先生の目が血走っている?


「あの~先生?」


「どうしました桜元さん」


「あれは、どちらかと言うと保育園の保父さんに近い物を感じるのですが?」


「そんな事はありません。それに、こちらに快適な衣食住を提供しているのに

 何も要求してこないなんて怪しすぎます」


「それは、そうかも知れませんが」


「皆さん、若い男性を簡単に信用してはいけません。

 彼らは下半身でしか物を考えられない生き物なんです」


「いや、先生。流石にそれは助けてくれたあの方に失礼ですよ」

あまりにもあんまりな言葉に生徒会長が止めに入った


気が付かなかったけど、先生、精神的に、かなり追い詰められていたらしい。


「あなたたちは、騙されているんです」

「先生が絶対に守りますから、その為なら」

先生が・・・・けっこう大きな声で騒ぎ始めた。


しかもタイミング悪く、そこに、モールさんが現れた


「待たせてすまなかった、やっと翻訳機が完成した。これで君達とちゃんと話が出来るよ」

と日本語で優しく話しかけてくれた。


それなのに、逆上した先生はモールさんの日本語に気付かず。


モールさんを指さしながら、大きな声で叫ぶように・・・


「あなた達の魂胆は判っています、この歳若い少女達に、おのれの汚い欲望を

ぶつけるつもりでしょうが、そうはいきません。

私は教師として、この子達を守ります。決してあなた達の毒牙にはかけさせません。

たとえこの身がどうなろうと、私の生徒には指一本触れさせませんよ」


先生、ゴメン、ちょっと先生の事嫌いになりそうだ。


モールさんは、あまりの事に動けないでいたが


ふと我に返ったようで 


「すまない、どうやら翻訳機に不具合があったようだ、出直してこよう」

と言って部屋から出ようとしている。


だめだ、モールさんが過ぎて涙が出てきた。


桂川さんと桜元さんが必死にモールさんを止めている。


瑞野副会長が先生の耳元で

「佐倉先生、今、この男性が日本語で話しかけて下さっているんですが

気づいてますか?」


佐倉先生の動きがやっと止まった。

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