第31話地獄
モンスターのスタンピートは解決したはずなのだが、またも番屋にしょっ引かれて、ぷりぷりの刑とか石子抱きを受けているの巻でござる、ニンニン。
「またお前かっ、お前のせいで城壁や街道がっ」
「ぷ~りぷりっ、ぷ~りぷりっ」
「アッーーーー!」
モンスターを呼び込んで街を壊した疑いで捕まり、逆さ貼り付けとか水責めとか青竹打ちとか、大量のスパンキングを受けてメスになっている拙僧(賢者モード)。
地獄のダンジョンから溢れ出た、大量の魔物達から街を救ったはずなのに、世の中というのは理不尽なものでござる。
「ああっ、上人様っ、ハァハァ」
番屋の外から見ている若も、何か新しい扉が開いてしまったのか、半裸の男が縛り上げられて責められる状況を見てハァハァしていた。
「吐け、お前が魔物を引き込んだなっ!」
「そんなことをしたら赤ちゃんが出来てしまうわっ」
焼け火箸でもグイグイ責められ、青竹をケツに突っ込まれそうな勢いで責められる。
「アッーーーー!」
「こ、これはっ?」
責め手がなにかデムパでも受信しちゃったらしく、ピキーンとなって刻(とき)が見えちゃったり、顔の前で種割れしている。
「この世の理(ことわり)っ、魔物は地獄の使者でこの世を地ならしする存在っ、これも御仏(みほとけ)の心っ、人はこの地獄で刑罰を受けている罪人っ」
番屋の岡っ引きが今知りたいこと、魔物がどこから来たのか、何のために来ているのか、何を求めて来ているのが賢者の石から伝わったらしく、腰を抜かして「たまげたなあ~」と思ってへたり込んでいる。
「むむ、どうじゃ? 御仏の本心、地獄のあり方を知ったか?」
「やいやい、何をしやがったっ?」
「アッーーーー!」
攻めが一層激しくなり、岡っ引きがケツをバンバンシバいていたが、そいつも前立腺付近を叩くとピキーンとなって、取り調べや拷問までして知りたいことを知ってしまったようだ。
「ああ、ここは地獄の三丁目で俺達は罪人なのか、ここで勘定を終えるまで罰を受けている。余りに酷い戦乱だったから地獄の蓋が開いてしまって……」
「浄化の炎…… あれは地獄にあってはならないものだ、あ、あれは、憎しみの光だーーーっ!」
他の岡っ引きとか同心も「何か見えちゃった」らしく、次々にピキーンとなって刻を見ていた。
「どうじゃ、聖男とは何をしにここに送り込まれたか分かったか?」
「「「「「はい……」」」」」
逆さ水攻めと青竹打ちの、ぷりぷりの刑から解放された拙僧(賢者モード)。少し気持ちよかったのは内緒だ。
「あのババア、おれが居ないのを承知で家で浮気しやがって」
「次男は俺の子じゃないっ?」
「あの男、おれの子だと言ったくせにっ」
他にも知ってはいけないことまで知ってしまったようで、何家族かが崩壊した。
前回はシバかれても賢者の石が発動しなかったのに、今回はケツベントリに入っている従魔や宝物の数が多すぎて「ケツベントリの中がパンパンだぜ」になっているのが災いしたのか、外からパワーアップした賢者の石に触れただけで、天啓でも受ける様にピキーンとなってしまったようだ。
今回は従魔を収容しただけではなく、全ドロップアイテムを一人でガメてしまったので凄まじい量になった。
外れアイテムを含めた質量だけでも相当な物になり、もし全部売り払ったりすると相場が崩壊するほどの量が出た。
「お主ら、大丈夫か?」
「グスン、信じてたのに……」
「俺、これが終わったら離婚するんだ」
メンヘラ男とか女に騙されていて、子供まで他人の子を育てさせられていたATM野郎達が涙に暮れている。
「そう気を落とすな、魔石でもやろう」
「うん、ぐっすん」
他人の子を育てていた男に魔石をやり、僅かながらでも損失補填をしてやり、離婚後の新生活の足しにしてやる。
「俺も次男は俺の子じゃなかったんだっ」
「うむ、辛かったのう、魔石でもやろう」
「ぐっすん……」
拙僧(賢者モード)は賄賂を支払って番所を出た。
「久々の娑婆だ、一週間ぶりか?」
背伸びをして縛り上げられていた緊縛状態のキンニクをほぐす。
「上人様っ」
「聖男様っ」
「お主らも迎えに来てくれたか」
今回も本堂まで逝ってペニ〇リンの製造方法でも渡しに行っても良かったが、まずは寺の方の本堂に行って大僧正に相談する。
「魔物どもは浄化の炎を求めてやって来たようです、とりあえず城壁の外にも魔窟の出入り口にも浄化の炎を置いてきましたが、他の地域からも炎を目指してやって来るやも知れませぬ」
魔窟の出口でも城壁の外でも、救いを求めるように魔物が炎の中に入り自殺して行った。
魔物として生きて行くのが相当苦しいようで、ゾンビやグールといった死人だけでなく、獣達も救いを求めて浄化されていった。
「魔窟を閉じられた後には、そろそろ聖男様も旅立たれる時が来たのやも知れませんなあ」
もう毒気も何も抜けているので、千日回峰行をするとか、倶利伽羅剣を総本山に渡すとか、自分の行(ぎょう)を行うとも出世を目指すとも言わなくなった大僧正。
ダンジョンマスターを討伐し終わり、開いてしまった地獄の蓋を一つ閉じれば、聖男は次の地獄に行って蓋を閉じに行かねばならないと知っている。
足裏は触らせたが、まだケツを触らせた覚えはない。
「左様ですな、それではお別れ前に、警策(けいさく)で尻(siri)を一度叩いて頂けますかな」
「尻をですか?」
座禅を組んで結跏趺坐で座る、呼吸を整え、本来なら姿勢が崩れた時に警策で肩を叩いて正す。
通常線香が一本燃え尽きるまでの時間をかけるが、今回は大僧正が知りたいことを伝える。
尻がムズムズして姿勢を崩すと、警策で尾骨のあたりを叩かれた。
「おおっ、何とっ…… 悟りの境地とは、涅槃とは、彼岸とは……」
余りに情報量が多かったのか、大僧正はその場で昏倒してしまい、寝所へと運ばれた。
後ほど小坊主さんの使いがやって来て、大僧正の目覚めを教えられた。
「お気付きになられましたか?」
「ああ、有難い教えの数々に気付かされました。聖男様の尻にある石に触れると、普通は知り得ない境地に至れるのですな、これからの修行や読経の励みになります」
まだ倒れ伏したまま手を合わせて、今後の住職としての生活にも僧としての道のりにも目途が出来たと喜んでもらえたようだ。
町中の岡っ引きや同心のように、気付いてはいけないことには気付かなかったのかも知れない。
「別の地獄を開いて地続きになされたのも御仏の心、拙僧には知り得ぬ事でしたが、これで宜しいのでしょうな」
何を知ったのかはsiriにも聞かないでおこう、これからの旅の過程で知ることになるだろうし、知ってしまえば決心が鈍る。
「それでは旅立ち前に魔窟守護(ダンジョンマスター)に会って参ります」
「お気を付けて」
大僧正とは余計なことを話さないでも済む間柄になれた、所謂ツーカーの仲だが、この場合ケーツーの仲だ。
「ケツベントリ」
今回新たに入手した具足を出す、大日如来の加護を受けた具足で、これも神話級の装備なのでニンジャが装備しても装甲値が下がらない有難い品だ。
「装着」
武装烈火したり瞬着したり聖衣を装着するように、自動的に身にまとうことが出来る大日如来の具足。そして不動明王の利剣、倶利伽羅剣も腰に装備する。
寺の連中には出掛けるとも何とも伝えておらず、若やケンタにも魔窟での決戦に向かうとは伝えていない。
それでも寺の連中は何かを察したのか、読経で送り出してくれた。
「飛行(フライ)」
暫く住み慣れた街を上から俯瞰し、武士団の屯所も上からフライパスする。やがて南門を超えて暫く飛ぶと通いなれたダンジョンに到着した。
「たのもう、魔窟守護(ダンジョンマスター)とお会いして決戦を申し込みたい」
魔窟(ダンジョン)前に転移門が開き、不死王(ノーライフキング)が現われた。
「こちらになります」
流暢な話し言葉で案内してくれる不死王、こちらの情報も収集して、言語も解析して町中にも侵入し、十分な知識を得て尚、こちらに侵攻してきている相手だ。
「お邪魔する」
転移門(ポータル)を潜ると、神社か寺の境内のような場所に転移した。
『来たか、聖男よ』
念話のような声が頭の中に響き、神殿からドラゴンが歩み出て来た。
「お初にお目にかかる、聖男を仰せつかっておる者でタケルと申す、貴殿との決闘を申し込みたい」
『うむ、お受けしよう。語るまでも無く、当方も阿修羅王の勅令を受け、この世を荒らし焼き尽くすよう命(めい)を受けておる』
「分かり申した。当方は開いてしまった地獄の蓋を閉め、この世に安定をもたらすよう観世音菩薩より命を受けておる」
『では多くを語るまい、この場所では狭いので表に出て戦おう』
「あい分かった、問答無用と致したい」
もう一度背後の転移門(ポータル)を潜って外に出る、不死王は居残ってダンジョンを閉じる手続きをしているようだ。
『狭い魔窟の仲は窮屈だった、元の大きさに戻らせて貰う。そちらは小さくても良いのだな?』
大きさが違うのを宣言してから巨大化するドラゴン。黒いので暗黒属性なのだろうか?
「構わぬ、こちらも大きくならせて頂こう」
巨大化魔法でドラゴンと目線が合う高さまで巨大化する、神話の武器も体に合わせて巨大化する。魔力を消費し続けるが困ることも無いだろう。
『では尋常に勝負じゃ』
「参る」
まずは挨拶代わりのブレス攻撃が来るが、その口目掛けて挨拶のパンチを入れる。
『はああああああっ!』
「うおおおおおおおおっ!」
双方の攻撃エネルギーがぶつかり合い、相殺された物が衝撃波となって周囲に響く。
街からもこの状況が分かっただろうか?
「上人様っ」
「聖男殿っ」
何処かから皆の声が聞こえたような気がする。山の向こうにでも居なければただでは済まない。
零距離でドラゴンの本気のブレスを浴びて血みどろになるが、向こうも腹に全力のパンチを受けて口からも血を吐く。
何度も本気の殴り合いで、ひたすら敵のヒットポイントを削り合う。
衝撃波と音が響き、街まで届いているだろう。
『倒れろっ、聖男っ!』
「死ねっ、ドラゴンッ!」
敵が憎いわけでも、使命を果たさなければならない欲求からでもなく、まるでこうなることが予め決められている人形か儀式のように殴り合う。
「これでも倒れぬか? ではこれを使うしか無さそうだ」
不動明王の利剣を抜き、魔力を通して炎を噴出させる。
『冥土に往くには良い頃合いだ』
ドラゴンも浄化の炎がこの世からの消滅だと知っている。
「参る」
真正面からの突きの一撃、しかしドラゴンはかわそうともせず突きを受け入れた。
『ガハッ!』
「何故避けぬ、この程度、幾らでも交わせたはずだ」
『構わぬ』
任務を放棄した訳でもなく、自殺した訳でもなく、お互いに攻撃を避けもせず殴り合った境地。その終局が訪れた。
『はあああっ!』
天に向けて、結果を報告するようなブレスを吐いてからドラゴンは倒れた。
「南無妙法蓮華経」
リザレクションを掛けようとも、天命を終えて浄化の炎に焼かれたドラゴンは、決して蘇りはしなかった。
再びポータルを抜けて最下層と思われるダンジョンの奥に到達する。
「主は天命を全うされましたかな?」
「うむ、見事な最期であった」
「それでは某(それがし)も叶わぬまでも一矢報いたいと思います。魔窟結晶(ダンジョンコア)は我が胸の中に、参ります」
「参れ」
向かって来た不死王(ノーライフキング)を一刀の元に切り伏せ、ダンジョンコアも砕く。
「お見事……」
不死王が倒れ、ダンジョンコアが砕け散ると、ダンジョンは最後の身震いを始め、倒壊し始めた。
「さらばだ」
不死王の亡骸に声を掛け、ポータルを超えて立ち去ると、ダンジョンが崩壊して地獄が一つ閉じた。
その上に浄化の炎を灯してやり、ケツベントリに収納していた魔物達を全て出し、浄化されて消えたい者は全て消してやった。
残ったのはゴーレム系やリビングメイルなどの無機物と、自分の意志で残ったモルスアやヴァンパイアロード達だけになった。
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