第30話呼び寄せ

 浄化の炎には別の効能があった。


 ダンジョンやフィールドに存在する魔物が浄化を求めて殺到。つまりダンジョンを出られるものは全て這い出て、山や草原にいた魔物まで全部街に向かい始めていた。


 七階層は水で封鎖しておいたが、それさえ通過できる者が攻めて来る。


「奥に逃げるしかないっ、外壁は武士団に任せて逃げろっ!」


 町人は逃げ惑い、城は門を開けて住人を受け入れている。


 何故浄化の炎にここまでの興味を示すのか?


 まず考えられるのは魔物としての生が苦しい物で、一時でも早く浄化されて地獄の四丁目を抜け出し、浄土へと至るか三丁目の住人として輪廻を迎えたいと思っているのかも知れない。


 もしくは地獄を抜け出すような行為自体が許されないことなので、この世界のシステムが浄化の炎を消しに来ている。


 その場合仏の決めたことに反しているのだから、こちらの勝ちは考えられない。


 それでも地獄の三丁目が四丁目に飲み込まれる程度で、仏は痛くもかゆくもないのが癪に障るが、それが世界の立法なら受け入れるしかない。



 しかし、水を掛けようが砂を掛けようが浄化の炎は消えない。他の寺や神社に株分けした火種も少々の事では消えないだろう。


「町人を逃がせっ、奥の院まで後退っ、外壁は破られる物と思えっ!」


 ダンジョンの出入り口を見張っていた武士団数名は全滅、外壁の防御にテイム済みのアイアンゴーレム数体ストーンゴーレム数十体がいるが、そんなものは何の役に立たないだろう。


 スタンピートが起った場合なら巨人種も来るので、ウォールマ〇アの扉は破壊されて、シガ〇シナ区は魔物の遊び場になるだろう。


 現在の従魔二千匹以上に迎え撃たせる方法もあるが焼石に水。


 お約束なら一万匹以上の魔物が来ていて、ほぼ一人で倒さなければならないし、これがサイト君なら七万人対一人だ。


「魔物がっ、魔物がっ」


「あんなに沢山、地面が見えないっ」


 武士団の中でも死番の者は外壁に上って、門番たちと一緒に弓矢を構えて待っている。


 外に出ていた町人や街の外から来た者を収容次第、門を閉じて籠城するのだろう。


 一人で打って出て全てを斬り殺すのも吝(やぶさ)かではないが、一体何日かかることやら分からない、体力が尽きることも考えられる。


「弓矢なんかでは足りねえぞ」


「こんなもん、一体どうするんだよっ?」



 ではどうするのか? ゲーム世界では魔物達は同士討ちをしていた。


 全く同種の魔物は争わないが、別種の魔物の攻撃が当たれば反撃をする、この特性を生かして同士討ちをさせてみる。


「それでは行って参ります、倶利伽羅剣の炎は奴らの目標になるので使わせて頂きます」


 寺の皆にも挨拶をし、利剣を装備してみる。神話の剣や仏具の場合、装甲値は低下しないようだ。魔力や耐久力へのバフも期待できる。


「若やケンタはここに残って浄化の炎を守って欲しい」


「いけません、お一人でなどっ」


「地獄までお供します」


「いや、良いのだ、これでも考えがある、奴らの中を走り回って同士討ちをさせてやるつもりじゃ」


「同士討ち?」


「うむ、奴らは攻撃を受けた時に、魔物同志であろうと敵とみなして攻撃し合う、その特性を利用する」


「それでもお供します」


「いや、拙者の全力疾走や飛行ならケンタでも着いては来れぬ、城壁の上で見物しておいてくれ」


 笑顔で答えて死ぬつもりなど無いのを伝えておく。


「飯でも用意して置いてくれ、昼休憩には戻るつもりじゃ」


「ははーっ」


 パーティー仲間にも法念和尚にも寺の連中にも、飯の心配でもしておいて貰う。


「行ってくる、飛行(フライ)っ」


 カードキャプターさ〇らなら後半のさくらカード編のように背中から羽を生やして飛行する。


 前半のクロウカード編なら杖から生やすのでタマタ〇が当たって痛い、男の子には無理な所業だ。



「カゲヌイーーーッ!」


 門の周辺に到達して、城壁の中に逃げ込もうとしていた町人に襲い掛かっていた魔物に影縫いを掛けてから、この場にも浄化の炎を出現させてやる。


「はああっ!」


 利剣に魔力を込めてやると数メートルの炎が噴き出し、やがて青白い浄化の炎へと変化した。


「これが欲しいか? 取れるもんなら取ってみろっ」


 一部の飛行できる魔物達は空まで着いて来て、地上の魔物は寺にある炎を目指している。


 やはり浄土まで霊道が出来たり、魂まで燃えるような実績がある炎を目指しているのかも知れない。


「波亜亜っーーー!」


 敵方にも手からビームを発射できる奴がいる、それもロックオンする追尾型なので城壁の曲がりを利用して壁伝いに低空を飛び、追尾型でも壁を越えては追って来れないので、城壁に当たって四散した。


 他の奴らも魔法やブレスが撃てる奴は、こちらに向かってジャンジャン撃って来るが、間近の奴に当たってヘイトが撃った奴に向かう。


「ウオオオオオオッ!」


「ギャオオオオオオン!」


 包丁持って血管切れそうに真っ赤になってる奴とか、発狂した女さんみたいな叫び声をあげて同士討ちを始める魔物達。


 これを城壁の周りを何周もして、周囲全部を魔物の敵に替えて同士討ちをさせてやる。


「どうした、もっと撃てっ」


「ヒイイイイッ!」


「シャアアアアアッ!」


 どこかのFINAL DO〇Mみたいに次々に別種族の魔物が殺し合って同士討ちして行く。


 その砲火の中で生きていられる奴の方が少なく、ミスリルゴーレムに踏み潰されて絶命したり、アースドラゴンに間違って魔法を打ち込んでしまいブレスで一瞬で蒸発したり、魔法無効の巨人族に魔法を打ち込んで殴り殺されたり、どいつもこいつも殴り合って殺し合って魔法とブレスで撃ち合い、砲弾が限りなく発射されたり、阿鼻叫喚の地獄が開始された。



「どこか隠れやすい場所は無いか?」


 飛行する魔物とも戦って、別の魔物の攻撃を受けさせて、騒乱の中に帰してから城壁の上に降りてみる。


「おや、いつもの門番ではないか、御精勤だのう」


「おっ、お前は例の聖男っ」


「南門に来れば他の奴らとも会えると思ったが、武士団の連中を見なかったか?」


「武士団なら切り込み隊を作って門から出る所だ」


 無理なことはしないで見物して置けば良いのに、同士討ちになると知らなかったのだろうか?


 南門から飛び降りて、決死隊を止める。


「小扉でも門を開けたら外の奴らが入って来る、今は同士討ちさせておるから放っておけばよい」


「だ、旦那」


「聖男殿っ」


 見慣れた連中が青い顔をしているので、切り込みに出るのをやめさせておく。


「巨人族や聖銀巨人(ミスリルゴーレム)巨竜(ドラゴン)などに攻められれば城壁や門が持ちませんぞっ、座して死を待つなら、せめて切り込んで散華致すっ」


 珍しく赤い顔をして笑顔も崩れている副団長にも怒られた。


 チ〇ちゃんみたいに真っ赤な顔なので「ボーっと生きてんじゃねえぞ」みたいに蒸気も掛けられた。


「破られた時はその時、まあ暫く見物でもして待ってみられい」


「左様か……」


 こちらも打って出て散華するつもりだった団長達も、門の向こうでの阿鼻叫喚の地獄を楽しむために再び城壁を上った。



「ギャオオオオオオン!」


「キシャアアアアアっ!」


 殴り蹴り噛み付いて魔法を放ちブレスを吐いて砲弾を打ち出す魔物達。


 間違って城壁に攻撃したり、登って来ようとする奴もいるが、背後から撃たれて戻って向かって行って殴り合い殺し合いにハッテンする。


 たまに手薄な所があって城壁に向かうのがいたので、もう一度周回してやって魔法やビームを当てさせて数時間同士討ちをさせる。


 門の前に立たせているアイアンゴーレムにも被害は出て、城壁を厚くしているストーンゴーレムも壊れているが、魔物達の方がはるかに被害が大きい。


「空を飛ぶ奴は始末したから、後は手から光線撃って仲間を蘇らせる奴だけじゃ」


 死体の中から適当に選んで復活させて回っている魔物もいるが、そいつ自体の耐久力もヒットポイントも高くはないので、この阿鼻叫喚の地獄の中では生き残れない。


「ウワッウワッウワッウワッ」


 そいつが死ぬ時の独特の悲鳴を何度か聞いて勝利を確信した。



「そろそろかのう?」


 ほとんど死なない巨人族やドラゴン、ミスリルゴーレムなどが生き残り、その他大勢は血だまりの中で折り重なって死んでいる。


「フフフ、風下に立ったウヌの負けよ」


 数が少ない巨人族とズタボロになったドラゴンには一応毒攻撃が通用する。


 また外に出てドラゴンの側に降り立ち、ミスリルゴーレムの砲撃をわざと受ける。


 砲弾はドラゴンに雨あられと降り注ぎ、ドラゴンもミスリルゴーレムに打ち返し、魔法防御も尽きて被害が多かったドラゴンが先に倒れた。


「ミスリルゴーレムは強いのう」


 次は巨人のそばに降り立ち、ミスリルゴーレムの砲弾を巨人に当てる。


 怒り狂った巨人はミスリルゴーレムまで走るが、累積したダメージと有効な物理攻撃により、ゴーレムに届くまでに粉砕された。


 そのミスリルゴーレムも数十体は残骸へと変えられていて、残るはほんの数体。


「オリハルコンゴーレムではないか」


 最後まで生き残っていたのはミスリルゴーレムではなく、さらに強力なオリハルコンゴーレムだった。


「カゲヌイーーーーッ!」


 こちらよりレベルが低いオリハルコンゴーレムには影縫いが効いたので、背後に回って「エ」の字を消してメスにする作業に入る。


「オリハルコンは硬いのう」


 手からビームを出したり目をビカビカビカーと光らせてビームを出しても「エ」の字が消えないので、利剣の炎で焼いてどうにかエメスをメスにしてやった。


「「「アッーーーーー!」」」


 数時間に及ぶ激闘が終了して、魔物の残骸だけが残った。



「範囲復活之呪文(エリアリザレクション)」


「「「「「「「「「「「「「「「アッーーーー!」」」」」」」」」」」」」」」


 いつものお約束により、魔物を復活させてメスの顔で回復させてやる。


 万を超える魔物の数だったので、復活させる手間はかなりかかったが、街の周囲にいた魔物は一掃され、ダンジョン内の強力な魔物も一掃されているはずだ。


 残るはダンジョンマスターと今日以降再生された魔物のみ。


「ケツベントリの中がパンパンだぜ」


 一万匹以上の魔物をメスにして、ケツの中もパンパンにして満たし、大量のポ〇モンをゲットした。

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