第29話浄化の炎

 大僧正と僧正がデレた、それもかなり病んだデレ方をしている。。


 このままではジジイハーレム真っ逆さまのバンジージャンプで、ぷりぷりの刑のオマケ付き。


 領主にもセバスチャンにも馬廻役にも回復魔法は掛けてあるから多少デレていることだろう。



 倶利伽羅剣は一応寺預かりだが、ダンジョン討伐にも必要なアイテムなので、今は預けている形にして、総本山が何を言って来ようと提出供出はさせない事になった。


 それでも持っているのを知られただけで圧力を掛けてきたり、できる事は何でもするはずだ。


 だまって見ていて「あっそう、良かったねえ」なんて言ってくる政治的野心がない奴は、総本山の執行(しぎょう)だとか座主には成れないし成らない。


 念願のファイヤソードを「殺してでも奪い取る」武僧が攻め寄せて来ても、おかしくないぐらいの品物だ。



 それよりも現在の問題として、いつも通り両側に若とモルスアが寝ていることだ。


 その向こうに護衛の法念和尚、頭の上の方にケンタ、足元には足裏に触れていたいと言う小坊主さん達。


 夜に「おい、何してんだ?」の襲撃は受けなかったが、お約束なら新しい奴隷が来たり、ょぅじょが増えた場合は「ちゅぱちゅぱ」されるのを止めるのがお約束だ。


 僧正にもお願いして、お世話係の小坊主さんを寄越すのは遠慮したが、自主的に来るのは禁止されなかった。


 小坊主さんやガチムチのお坊さんが夜に訪ねて来て、「抱かれに来る」「抱きに来る」のは禁止されていないので、拙僧(賢者モード)の愚息で具足とかケツやキンニクが大人気赤丸急上昇なのだそうだ。


 もし入港されたりすると、知りたいことを全て知らされる賢者の石があるので、悟りの境地や涅槃に達して(性的な意味で)しまうのではないだろうか?


 他にも御仏と直接触れた足裏に興味がある者とか、倶利伽羅剣に打たれて浄化されたい者とか火傷したい者(性的な意味で)が大勢いるらしい。困った事だ。


 

 朝方なので膀胱に小便がたまって前立腺が刺激される、つまり拙僧の愚息と両側の「当ててんの」が「ビンビン」な状態なのが困る。


 もし刺激すると「出ちゃった(何が?)」などの被害が及ぶ場合があり非常に困る。


「あん、上人様、だめです……」


 一体夢の中でどんな駄目なことをされているのか? 


「沢山、出来無」


 夢の中で何かを沢山されているようで、もう出来ないと泣いているモルスア。


 これが両方とも美少女なら何の問題も無く、夢の中で思っていることを全部やってやれるのだが、周囲全員男、それもケンドー〇バヤシとかキム兄〇みたいなブサイク系の衆道からモテる男でもなく、美少年揃いとムキムキの僧侶なのが困る。


 そうこうしている間に、障子の向こうにいるガチムチの護衛が交代したようで、法念殿が起きて便所に行った。拙僧(賢者モード)も連れションと洒落こもう。


 腹筋だけで起き上がったが、腕枕にされている腕を抜くと結局起こしてしまった。


「お早うございます」


「早、寝」


 俳句と言うか狂歌の中で「朝立ちは、小便までの命かな」と歌われているように、便所で小便をすると収まったので、本日も童貞と処男?を守れた。



 まだ朝が早いのに、境内では人の列ができ始めていて、これは治療待ちがもう並んでいるのかと、早速身支度を済ませて列の先頭に向かった。


「おや、棺桶、亡くなった方を甦らせば宜しいかな?」


「いえ、何でも有難い不動明王の浄化の炎が寺に持ち込まれたそうで、その火で焼いて頂こうと皆並んでおります」


 この列全員かよ、どこから聞いて来たんだ? 耳が早いなあ。


 小坊主さんとか寺男とか、話好きな人物でもいるのだろうか? それにしても浄化の炎イコール火葬を連想するのも早すぎるような気もする。


 今の完全焼却できる火葬では無く、この時代の焚火程度では生焼けになるのかも知れない。


「どなたか、蘇らせることもできますが宜しいかな?」


 聞いて回っても、全員この世に飽き飽きしていたのか、焼かれて浄土に旅立つのを願っていたようだ。家族も笑顔で見送っている。


「あの、お婆さん、治療なら拙者が」


「いえ、もう痛いのも苦しいのも懲り懲りです、皆さんと一緒に焼いて下され」


 もう両手を合わせて拝み始めている老婆。治療魔法では若返らせたりできないので、筋肉が落ちていたり破骨細胞が上回って骨粗鬆症で骨が弱っているのは治療できない。


「他にも、ご家族に捨てられたり、姥捨て山に送られそうな方には炊き出しもしておりますが」


 へんじがない、ただのしかばねのようだ。


 要は生きているのが苦しすぎるので、死んだ奴と一緒に焼いて浄土に送って欲しい連中が列を作っている。


 トリアージとか安楽死とかムリ過ぎ。


「範囲治療呪文(エリアヒール)」


 全身が苦しいお爺さんお婆さんには通用しなかった、僧侶が回って聞き取り調査までしている。


「もう宜しいのですか?」


「はい、もう十分生きました」


「それでは楽に逝ける毒などお持ちしましょう」


「はい」


 どうも自決用の毒が用意されるようで、その後に不動明王の利剣で燃やす段取りらしい。

 もしかしないでも拙僧(賢者モード)がやるの? 他の和尚では何メートルも火が出ないし。



 焼き場ではどんどん準備が進み、通常の料金さえ支払えば焼いて法要も埋葬もしてもらえるようになり、足りない者は免除された。


 治療の甲斐も無く、爺さん婆さん嬉しそうにゴックゴック毒を飲んで昇天して、荼毘に付す櫓に積まれていった。


 おまわりさんここです、安楽死が許可なく行われています。


「ありがたや、ありがたや」


 この時代の人命など二束三文、現代のように不審死であろうが何であろうが「自殺」で済ませるように、寺で死んだ奴をわざわざ検めるような人物はいない。


 どこかの一揆でも「極楽浄土へ行けるなら」と、わざと群衆の中で倒れ、踏み殺されてあの世に行く人物が続出したそうで、生きるのが苦しすぎて浄土へ行けるならと自殺する人物が出た。


 初日でこれなら後日噂が広がればもっと増えるだろう。



「さて、第一陣、聖男様、お願い致します」


 着火程度なら法念和尚でも他の和尚でもできるはずだが、火力で選ばれてしまった。


「うむ、お送りしよう」


 本堂から持って来られた不動明王の利剣で着火、青白い強い炎で浄土へ送ってやった。


「般若波羅密詫、不殺生、不偸盗、不邪淫……」


 大規模な野焼きと法要が行われ、寺総出で読経していた。


「第二陣もお願い致します」


 先日までブラック〇ャック気分だったのが、急にキ〇コ医師になったでござるの巻。


 どこかから「人間が生き物の生き死にを自由にしようなんて、おこがましいとは思わんかね?」と問いかける本間医師の声が聞こえてくるようだった。



 今日はそれからも続々と死を望む人の群れが押し寄せた。


 大金を寄進して死ぬ者も、自分の法要や埋葬料も払えない者もいたが、不足分は全部こちらで出してやった。


 回復呪文でも復活呪文でも救えない人々。


 現代でも発達障害やボーダーと呼ばれる軽度知的障害などで、生きることすら難しい人物が大勢いると聞く。


 医者に行っても薬は出ても治らない、障碍者と認定されることも無い、薬を飲んでも健常者の「振り」ができるだけで作業すらまともにできない。


 有名な文学賞の新人賞を在学中に取れるほどの人物でも、食えないからとアルバイトをしてもテーブルの名前すら覚えられず、注文された品をどこに持って行くのかもわからない人物がいる。


 文字や文章を認知する文字性IQが高くても、作業性IQがボーダー以下の人。


 ケーキを三等分にする知能すらない少年院の住人。


 農民としてなら生きて行けたかもしれないが、町人や商人としては生きられない者達。

 そんな者達も今日は救いを求めてやって来ていた。



「流石地獄の三丁目だ」


 地獄を離れて極楽浄土へ行けると噂が広まり、輪廻の輪から抜け出そうともがく人々。


 仏陀と云うのは輪廻から解放された人を表す言葉で、どこかの教団の教主のような「仏陀の生まれ変わり」は存在せず、仏教を根本から否定している新興宗教だ。


 浄化の炎の噂がこれほど早く広まったのだから、ここが地獄の三丁目だという話も、街中にとっくの昔に広まっているのだろう。


 余りの多さに制限が掛けられ、まずは生きていけない苦痛を抱えたご老人から優先され、檀家ではないなど過去帳に記入されていない者を帰したり、生き苦しい人物は出家するなり銭を渡したり食べ物を食べさせ、説法をしてから帰らせた。


「このような安易な救済はあってはならない物かも知れませんなあ」


「真に……」


 朝から死者を送り続けている和尚達とも、浄化の炎イコール極楽浄土ではないのを確認しておくが、小坊主の中にさえ炎に触れて火傷して、自らを浄化しようとする者が多くいた。



「願う事なら拙僧も、この炎で焼かれながら旅立ちたいものです」


「左様ですなあ」


 大僧正や僧正まで死人の目をして、浄化の炎を見つめている。


 案外この二人や寺の僧の問答が始まりになり、街中に噂が広まったのかも知れない。


 世の中には自分の体が自分の物では無いと言い、手足を切り落とすのを希望する者も少なからずいて、体全体に違和感を覚えて自ら命を絶つ者もいると聞く。


 宗教的や精神的な体の不適合ではなく、生物学的な何かで合わない人物もいて、自己免疫で自分を攻撃する大腸過敏だとか上位互換のクローン病なども存在する。


「輪廻から抜け出せなくとも、せめてもう少しましな地獄へ行けますように」


 転生や輪廻は良い事ばかりでなく、抜け出せない地獄で罰なのだと思い知らされる一日だった。


 聖男に選ばれたからには、もう少し宗教的な心も持たなければならない、武士団の連中からちやほやされて、恋愛などにうつつを抜かしている場合ではない。


 武士団の方も、午前中は二日酔いで使い物にならなかっただろうから良い骨休めになった事と思う。



 結局、浄化の青い炎は消えなかった。


 一度点火すると燃える物が無くなっても燃え続け、家屋や建物には燃え移らなかったが、骨も残さず燃えてしまい、埋葬や回向の手間すら無かった。


 他の寺や神社からも種火だけを貰いに来たり、不動明王を信仰する場所なら利剣を持って行って点火もした。


 町中で自殺が流行したが、老人介護問題が解決し、回復呪文ですら取り切れない苦痛が取り除かれた。

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