第28話鑑定品

 とりあえず一階層まで引き上げて、収穫品の鑑定を済ませる。オリハルコンなど使える武具も結構出た。


「団長殿、十分な数が出たので、今後の支給品をもっと良い物にして、団員に貸し出していた聖銀の武器は売り払ってしまおうと思う」


「左様か、もうそんなに数が揃ったか」


「全部武士団の収益に回しますよってご心配なく、群がっている商人や、どこかの家中の御家人にも行き渡ることでしょう」


「うむ、雲霞のように纏わりついて邪魔だったが、これで減ってくれると助かる(////)」



 表に出るといつものようにダフ屋みたいな商人が集まっていた。


「さあ、聖銀無いか? 聖銀無いか? あったら高く買い取るよ~」


「聖銀一個ズバリ百両、壊れてても買い取るよ~」


 修理する技術はないはずなのだが、どこかで地獄の鍛冶屋でも雇ったのだろうか?


「聖男の旦那、売って下せえ」


「うむ、良い知らせだ、今日も収穫したから聖銀はあるだけ出す」


「よっしゃあああっ」


「ありがたい、これでやっと国に帰れる」


 どこかの御家人が「殺してでも奪い取れ」と命令されて買い取りに来ているようで、入手できれば帰国できるようだ。


「旦那、数はどのぐらいありやす?」


「五十本は出せると思う、競りにするから良い品から買ってくれ」


 不肖、俺がオークションの呼びかけをして、会計は副団長、監督や警備に隊長連中が並ぶ。


「金額が大きいので、街の両替屋での支払いで宜しいかな」


「構わんぞ」


 現金買取だと襲撃される商人が多いので、大抵は両替屋(銀行)で決済する。


 以前も偽金を持って来た奴がいたので鑑定してすぐに腹パン入れてタイホ、偽金造りは死罪か遠島か?



「まず本日の目玉、聖銀に四段階魔法が欠けてある刀だ、片刃で日本刀と同じように振れる」


「四百っ」


「四百五十」


 最初の品で目玉商品らしく青天井で値上がりする。


「五百」


「五百二十」


 予算が少ないどこかの御家人は、一瞬で踏み上げられて蹴散らされた。


「八百」


「八百六十」


「他無いか? これで終わりか? ヨシッ、落札」


 細身の剣で目片は少ないが、美術品としての価値と刀としての攻撃力で、重量の倍ほどの値段で落札された。


 他にもこの調子で五十本以上売り切り、本日も万両の収益を得た。


 街中でもオークションを開催するので、もっと売れるだろう。



「どうする? このままでは帰れぬ」


「もう腹を切るしかない」


 深刻そうな御家人を見付けたので声をかけてみる。


「どちらのご家中か? お困りなら予算の相談でも致しますぞ」


「忝い、当家の殿から……」


 どうやら殿さまが無類の好き物の収集家で、刀剣だけでなく聖銀の鎧も買い付けてくるよう申し付かっているらしく、買えれば栄転、買い付けできなければ切腹と言う厳しい状況らしい。


「分かり申した、まずお気に入りの品物をお渡しします故、殿と相場をご相談の上でお支払い下され、目片売りでも米や名産品と交換でもよろしいぞ」


「有難い、無理を言ってすまぬ」


「もし万両出せるのであれば、折波留紺(オリハルコン)や狒々色金(ヒヒイロカネ)でもお譲り致すが如何に?」


「おお、それでは」


 殿の小遣いでは払えそうにないが、今までの収集品を売り払ってでも欲しいそうなので、今年の収穫米での支払いでも受け付ける。


 先方の住人は重税で苦しくなるかもしれないが、こちらの住人は助かる。


 引き渡すと今までの鉄剣と皮鎧がゴミに見えてしまうので、収蔵品を売り払うとそれだけで支払えるかもしれない。


「それではまず聖銀の品から」


「忝い」 


 御家人は感謝して帰れるようになり、武士団と領内が非常に潤った。



 本日も武士団では宴会が行われ、先に帰った子供達も役場が開いているうちに帰らせたので、討伐の報酬などは受け取っていることだろう。


 こちらは両手に花と言うか、両手に美少年がぶら下がったまま寺まで移動した。


「三郎太、敵」


「モルスア殿、離れなさい」


 若が離れてくれないので、今夜は寺で一騒動起きるの巻でござる、ニンニン。


「はは、若様、モルスア殿、そんなに張り付いては聖男様がお困りだ」


 ヤダ、和尚様がイケメン、抱いて。そのまま若とモルスアが見えない所でキャットファイトしながら帰還した。


 この時代、戦国時代から江戸時代は古代ギリシャと同じで、美少年に言い寄られてなびかない男は性的におかしいと定義された。


 困った事に時代のアイコン井原西鶴が「男色カッコイイ、美少年サイコー、女犯(仏教的に女性と交わるのは穢れた行為で犯罪)カッコワルイ(意訳)」と宣言してしまい、実際の江戸時代でも男色が大流行。


 三代将軍家光はガチホモで大奥なんかに足を運ばなかったが、困り果てた春日局が「美少年風の女の娘」を連れて来て、ようやく跡継ぎができたとされている。


 若衆歌舞伎にドハマリして自分でも化粧して演じたり、伊達政宗の小姓や稚児が舞い踊る姿を見せられ超ご満悦。


 男を次々に小姓にして嫉妬から手打ちにしたり、稚児で小姓を大名に取り立て見たり、浮気されて女と子供を作ったらお家お取り潰しまでした。(本当)



 やがて寺に到着したが、今日は大僧正に怒られるようなことはしていない、お土産があるので褒めて貰えるかも知れない。


「大僧正殿や僧正殿にご面会の予約を、魔窟で出た品の中にお土産があり申す」


 小坊主さんにお願いすると、治療の列を減らしている間にすぐに面会許可が出た。


「聖男様、お土産とは何でしょうかな?」


 物欲からは解脱している人達なので金でも魔石でも転ばない、所謂「生臭い」行為はしない人達だがこれならどうだろう?


「本物の倶利伽羅剣(くりからけん)で御座います、屋内なので燃やすと危ないですが魔力を込めると炎が出ます」


 まず炎が出ていない素の状態の倶利伽羅剣を差し出す、これは不動明王の利剣で、不動明王自身でもある。


「おお、これがっ」


「ああ、ありがたい」


 これも神話級の武器で、真祖や不死王(ノーライフキング)を倒す時に使える。


 魔法の炎が噴き出していて、鑑定しても何で出来ているのかすら不明なので、人間に作れる品ではないと思う。仏から授かった仏具のはずだ。


 デーモンの集団を倒した時に出たと思われるが、仏具なので寺に引き渡す。


「ちょっと土間か屋外で炎を出してみましょう」


 大僧正まで泣いて喜んでいるので既に勝った気分だが、縁側に出て用意されていた草履を履いて外に出て、グリップを握って魔力を大量に流し込むと、数メートルの高さまで炎が吹き上がった。


「これが、これが……」


「不動明王様の利剣っ」


 寺の一同も何事かと表に出て来て、他の者も障子を開けてみたり、既に拝み始めている者もいた。


 お約束なら屋内で発動させてしまい、屋根が吹っ飛んで大説教を食らう所だが、ダンジョンで試しているので失敗しない。


「寺の皆、本日魔窟で取り出した不動明王の利剣、倶利伽羅剣でござる」


「ああ、ありがたや、ありがたや」


 神聖な炎が最初は赤く、温度が上がると白っぽく青白く染まっていく。


「はあ~、これぞ甘露、浄土の炎」


 寺の僧侶たちも僧正も大僧正も泣いているので大分勝った。金額には換算できないが、貴重な仏具なので寺の総本山と取り合いになるかもしれない。


「まだ熱いですぞ、持ってみられますか?」


 裸足で駆けだして来た僧侶たちが猫まっしぐら、坊さんでも壁を越えてやって来ると言うファッチューチュンと言う中華料理かチャオちゅ~る並みにまっしぐらだった。


「ありがたい、ありがたい」


 炎が出ていた刀身もそれほど熱くなっていなかったのか、片手で持って拝んでいる。


 肉が焼ける匂いがしたので、わざわざ自分の手を焼いて修業とか、浄化の炎で自分を焼いて清めているのかも知れない。


 どこかの七丁念仏みたいに「地面に落とすことなど決して許されない剣」なのか、奪い合いにはならなかったが、列を作っておさわり体験していた。


 おさわりまんここです。(仏教的事案発生)


 即座に感謝の法要と読経が始まり、数時間読経三昧だったので、中座させてもらって治療の列を減らしに行った。



 就寝時間になって、もるすあと若と小坊主さんの三角カンケイで揉めるかと思っていたが、大僧正と僧正がお礼に訪れて暫く話もした。


「拙僧の若い頃に、作務の途中独鈷所(どっこしょ)を見付けましてな、他の小坊主と一緒に「我こそは不動明王」などど語って遊んでしまい、大層怒られた記憶がございます」


 何やら毒気まで抜けてしまい、浄土の炎で残りの命(しゅぎょうきかん)も浄化されたのか、今にも成仏してしまいそうな雰囲気で話す大僧正。


 この場合、思い出話も失敗談も死亡フラグだ、このまま即身成仏するとか、浄化の炎に焼かれて極楽浄土に向かいたいとか言い出さないで欲しい。


「いや、有難い物を寄進して頂いた、この目で本物の倶利伽羅剣、不動明王の利剣を目にすることが出来るとは……」


 大僧正が涙ぐんで言葉に詰まってしまい場が静まり返った。


 利剣は御本尊の前で展示され、武僧が警備して寝ずの番で守っている。


「これを機に千日回峰行(せんにちかいほうぎょう)を始めたいと思い当りましてな。これほどの品、比叡山が黙っておりませんから、利剣と共に本山に戻り、彼の地で千日回峰行を行おうと思いまする」


 死亡フラグキターーー!


 確か七年かけて行う行(ぎょう)で、比叡山の周りを駆け抜けて、失敗すれば自害して果てるので埋葬料を持参して走る荒行だ。


「い、いえ、七階層に往けばもっと色々出ますので、倶利伽羅剣も暫く寺に置いて頂いて、他の仏具が出ましたらお改め頂きたいと思いまする」


 もし七年かけて満願成就しても、そのまま即身成仏の荒行もしそうな感じだ。


「いえ、あの浄化の炎を目にしただけで十分で御座います」


 何か話し言葉も丁寧だ、もう目が死んでる。


「こちらは鑑定結果が不確かなので、お出ししようか迷ったのですが、仏舎利(ぶっしゃり)では無いかと?」


「おおっ」


「これこそ御仏の遺物」


 仏舎利、本来なら仏陀の遺骨なのだが、模造品多数アリ。仏弟子アナンダさんは空中爆発したらしいので骨も残っていないはずだが、他の仏弟子で悟りを開いた人物のなら一応仏舎利になる、はずだ。


「一度鑑定に出してお改め下さい」


 何かタスクを掛けておけば死ぬ死ぬ言わないかと思って出したが、予想以上に盛り上がってしまった。


「ああ、仏舎利とは何と有難い、天竺まで行かなければ目にすることすら叶わぬ品……」


 僧正まで即身成仏しそうな勢いで泣いているので出したのは失敗か?


 ちょっと筋斗雲でも出せば、十万八千里を一息で飛んで天竺までいけないことも無い。


「今宵は御仏の手に乗ったような心地です」


 俺の足裏を触って、観音様に触れたようだと泣く僧正達。


「いえ、まだまだ出ますので、その度にお改め下さい」


「しかと承りました」


 とりあえず大僧正の自殺行は阻止できたらしい。


 後日、死んだ人間だけでなく、明かに生きている奴まで浄化の炎に焼かれて浄土に旅立とうとする奴が多くて困ることになる。

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