第27話六階層

 子供達が表にいると六階層に潜れない。事案発生や連れ去りの心配もあるが、ダンジョンから魔物が溢れた場合防げない。


 武士団なら一、二階層の魔物ならどうにでもできるが、敵方のストーンゴーレムでも出てくれば全滅してしまう。


「拙者達は六階層に潜る、何が起るか分からんので、お前たちは引き上げる連中と一緒に街に帰れ」


「「「「「「「「はい」」」」」」」」


 金は十分稼がせてやったので今回は素直だ。討伐部位と魔石(小)だけでも結構な値打ちになるだろう。


 それでもミスリルソードなど持たせると、また一騒動起こって奪い合いになったり、商人に騙されたり取られたり、真面目な商人でも喉から手が出る商品らしく狂いだしてしまう。


 念願のアイスソードみたいに、選択肢の二に「殺してでも奪い取る」が出てしまう品物だ。


 三、四階層ではミスリルはありふれたドロップ品になってしまい、魔法のエンチャントが無い物なら一般武士団員でも持っている。


 売りに行ってそのまま逃げださないように、出る時にはケツベントリに回収はしているが、武士団としても盗まれても腹が痛まない品物。


 最近ではダンジョンを出てすぐの場所で商人が待ち構えていて、性能が低い物でも割れや錆がある物でも競りが始まって高額で買取されていく。


 何でもステータスや美術品としても価値があるようで、以前にどうしてもと言うのでエンチャントも弱いオリハルコンの品を渡すと一万両になった。


 大半は武士団の収益として領主や藩に上納されているが、取り決めにより聖男パーティーで得た品々は、自由に売り買いして良いことになっているので結構な金持ちになった。


 若やケンタは受け取ろうとしないが、タロウは引退してニートになっても今後生活できるようになっている。


 武士団も領主も寺も左うちわでウハウハらしく、地獄様様、魔窟様様状態。その分炊き出しなどで頑張ってもらっている。


 輸出品、密輸品として大好評で、他藩との対外赤字が消滅、信用度も上がったのでどんな物でも輸入できる状態らしい。


「暴落する前に全部現金に替えておくかのう?」


 まだまだ高騰しそうで、伝家の宝刀を売ってでも欲しい品物らしく、需要の方も無くなりそうにないが、オランダのチューリップなどと同じくいつ大暴落が始まるかは分からない。


 どこかの殿さまや道楽で集めている人物から、どんなことをしてでも「殺してでも奪い取れ」と命令されている気の毒な家中の人物に分けられるように常備しているが、金に目をつけない人物でも、オリハルコンが出だすとミスリルを買った中から「騙された」と言い出す連中も出ているのが現状。



(ダンジョンとダンジョンマスターが動き出しました、各フロアに魔物が再配置されます)


「うむ、天使の軍勢が動き出したか? 約束の時が間近なのだろう、天使之喇叭(アポカリティックサウンド)に気を付けよ」


 どこかの黒猫か鳳凰院狂魔みたいに中二病台詞満載で、自分の尻(siri)にある賢者の石と会話してみる。


「人類の命運を賭けた戦いが始まる」


 それを見ていた法念和尚が、何やら有難いお経を唱え始めた。


「観自在菩薩般若波羅……」


 気の毒な中二病患者に唱えるお経ではない、らしい。



 おふざけの方ではなく、リアルにイギリス人やオランダ人が暗躍しているのも気になる。

 インドネシアやフィリピン辺りから、船で数万人の奴隷兵士を連れて来るのは難しいが、中国朝鮮から短い距離を船で渡らせて来るのは不可能ではない。


 元寇のように被害を考えずに済む明の兵士や、責める気満々の朝鮮王が居たりすると海を越えてやってくる。


 それもキリシタン大名の領地から神の軍勢が無血上陸したりすると防ぐ手段が無い。


 この時代、世界で一番火縄銃の数が多いのは日本だったはずだが、戦国時代も中止になって開いてしまった地獄に対応している。


 イギリス本土も地獄が開いて大変なはずだが、莫大な利益を上げる植民地経営を元手にして、あちらにも聖男が現われていて早めに地獄を閉鎖していると海外進出も早めるだろう。


 冶金技術を進歩させて、ミニエ銃やスプリングフィールド銃にアームストロング砲の開発もしなければ防げない。



「さて、子供も新入りの団員も、元死人と一緒に帰らせましたから、昼からは六階層に行きますかな?」


「うむ、半分以上残して帰ったから何やら心残りでな、あれだけ良い品を放置して、別の魔物が持ち去ったと思うと何故か悔しい」


「拙者も半分出たクソが奥に引っ込んだようで何やら心地が悪い」


「はははっ」


 一番隊隊長も、一度ケツに入れられたブツを半分程度で抜かれてしまったようで心地が悪いらしい。


「本日はわたくしも同行します」


 若も六階層に潜りたがっている。盾役のアイアンゴーレムがいるので前回ほど危険ではないが、団長との同行はできない。


「本日は某が残ろう」


 団長が譲ってくれたので通常の聖男パーティーで降りる。法念和尚以外にも信念殿など、念シリーズのお坊さん護衛も同行する。



「前回は一番の売り上げと珍しい武具が出たからな、今回も出ると良いのう」


 まずは脱酸素して普通の魔物は死滅させる、現場ヨシッ! 指差呼称ヨシッ!


「炭塵之術(ボンバーマン)っ!」


 とりあえず六階層全体を爆破してからエントリーする。


 六階層入り口付近の部屋から探索すると、四つ目ぐらいの部屋で先日は空き部屋だった場所で魔物が出た。


「はああーーーっ!」


 アイアンゴーレムの入場に続いて、後衛にいる坊さん達の護衛が手からビームを発射して魔物を掃討する。


 本来なら機銃掃射の十字砲火や罠を食らいやすい扉を避けて、壁を爆破エントリーして「アルファワン、ゴー」するべきだがダンジョンの壁を破壊できる強力な爆薬が無い。


「カゲヌイーーーッ! 沈黙!」


 まだ生きている連中に影縫いと沈黙の呪文と春花の術で麻痺。


 レッサーデーモンやガーゴイルは何体か死んでいるが、親玉のデーモンが数匹生き残っている。



 鑑定 悪魔(デーモン)


 大部分は異世界に本体が存在している悪魔、物理攻撃は大半が効かないが、相手を超えるレベルの者なら無効化を跳ね返せる。


 魔法攻撃と神聖魔法でダメージを与えられる存在。


 倒すまで無限に攻撃魔法を唱えて来る。


 窮地に陥ると仲間を呼ぶ。



 レベル上げには便利な敵だ、呪文を唱えられないように魔法無効空間になっているが、声や念波で仲間は呼べる状態。


 元々物理攻撃を仕掛けて来ないで攻撃魔法が基本、本体がこの世界に存在しないので物理攻撃は比較的弱い。


「悪魔を数匹生き残らせておけ、そうすると仲間を呼ぶから格を上げるのに役立つ、もう魔法を唱えられる心配はないから腕や足の攻撃だけ気を付けろ、大した攻撃はしてこないっ」


「格上、便利」


 モルスアはこの方法を知っていたのか理解したようだ、魔法攻撃をしない。他の連中は悪魔の出現に怯えている。


「はああーーーーっ!」


 武僧達は理解できなかったようなのでひたすらデーモンに攻撃を加えているが、それでも与えられるダメージが少ないので倒せはしなかった。


「たああっ!」


 武僧の攻撃に続いて若とタロウの攻撃でデーモンが倒れて、アイテムをドロップして魔石を残して消えた。


「必ず二匹は残すようにして倒し過ぎないように。もう戦わないでいい、交代で休んで仲間を呼ばせて増えたのは倒しても良い」


 極限状態のメンバーは全力で戦っていたが、アイアンゴーレムの盾の奥で休ませる。


 そのまま十分ほど戦っていると要領を覚えたのか、殺し過ぎず増やし過ぎず、経験値を稼ぐように持って行く。


「これは、地獄狼の時と同じですか?」


「そうだ、奴らほど攻撃を仕掛けて来ないから、考えようによってはこいつらの方が楽だ」


 新しく呼ばれた連中は魔法無効を知らないので、まず魔法で攻撃を仕掛けてくる。


 乱戦の中で何度かやって、自分の魔法が使えていないのを知ってから手足で攻撃してくるが、武器を用意してまで手で攻撃するのに慣れていないので脅威ではない。


「もう少し増やさせろ、どうせ魔法は使えない」


 戦いが終わるまで魔法無効空間は消えない、こちらも魔法攻撃はできないのでしないし、無駄な労力は省いて物理で殴り続ける。


「上人様、もう疲れましたっ」


 三十分ほどで若が音を上げたのでそろそろ終わりにする。


「もう始末するぞ、はあっ!」


 デーモンに腹パンを入れてやって残りを始末する、戦いに勝利した。



「はああっ、疲れました」


「拙僧はここまでです」


 百匹近いデーモンを倒して各メンバーはレベルが大幅に上がった。


 大量の魔石もケツベントリに入れ、ドロップアイテムもすべて回収した。


 鑑定は後からするが、オリハルコンの品も出たことだろう。


「凄い、こんなに格が上がったのは初めてです」


 若が団長のレベルを超え、法念和尚も更にムキムキになった。


「ああ……」


 ここで恒例の作業もやっておかなければならない。


「範囲復活之呪文(エリアリザレクション)」


「「「「「「「「「「アッーーーーー!」」」」」」」」」」


 貴重な魔石だが仲間に欲しい魔物だ、地獄の知識も欲しいので魔石を使って数十体蘇らせておく。


 戦う時間よりも復活させてメスにして回収する作業の方が手間がかかった。


「おじちゃん、疲れたよ」


 レベル上昇酔いになる者もいたので、一旦五階層に戻る。



「いやあ、凄い戦いでしたな」


「半刻近く戻らないので、こちらから見に行く所でした」


「いや悪い悪い、悪魔に出合ってな、仲間を呼ぶ魔物だったので、延々殺さないで仲間を呼ばせて格上げに利用していたのだ」


 五階層で待っていた団長達も、ストーンゴーレムを先頭にして出発する所だった。


「三十も格が上がり申した」


「タロウはサムライになっても良い頃合いじゃのう」


「え? もう成れるの?」


 治療呪文は大抵覚え、復活系の呪文は全て覚えていないが、そこまですると成長に非常に時間がかかる。


「格が高い復活之呪文も覚えるか? そうするともう少し時間が掛かる」


「うん、覚えておくよ」


 やはり一度父親を失っているので復活之呪文は必要なようだ。


 タロウの父親は、もう天命を失っておるようなので、熊をイメージしたりより高度な呪文が必要になるはずだ。



 休憩させるのにメンバー交換が必要だったが、ケンタと法念和尚は外れようとしなかったので同行、団長や副団長が参加する。


「先日の意趣返(リベンジ)しとしましょう」


「うむ、落し物(ドロップアイテム)の残りを回収したい」


 また悪魔でも見付ければ、仲間を呼ばせて格上げして、ドロップアイテムも魔石も大量収穫すれば効率は良いのだが、マッピングと探索も進める。


 またヴァンパイアやヴァンパイアロード、眷属のグールやゾンビにスケルトンも大量に出たので人間化しておく。


「カゲヌイーーー!」


 大半の魔物には効くが状態異常に強いヴァンパイアロードからの攻撃。


「氷雪之呪文」


「稲妻之呪文」


 それでも数が少なかったので、ヒットポイントが少なめのケンタなども生き残る。


「はああっーー! 太陽之欠片(ビートエックス)」


 まずは太陽光線でヴァンパイアロードを倒してしまう、そうしなければ延々魔法攻撃かエナジードレインを仕掛けてくる困った奴だ。


「範囲復活之呪文(エリアリザレクション)」


「「「「「「「アッーーーーー!」」」」」」」


 グールやゾンビの中でも、いつも通り天命を失っているものは成仏し、半数程度が生き返った。


「高度解毒(ハイキュア)」


「「「アアッーーーーー!」」」


 ヴァンパイア共も元に戻して治療し、仲間に欲しいヴァンパイアロードは全滅後に復活させる。


「拙者のケツを舐めろ」


 ヴァンパイアロードの灰にケツ液を掛けてやると、いつも通りメスの顔をして復活した。得られる知識も多いだろう。


「「アアッーーーー!」」



 やがて一刻ほど探索を続けて六階層の大半を見て回り、七階層への階段を見付けた辺りで撤収を考えておく。


「大分格も上がり申したし、今宵はここまでとしては如何ですかな?」


 メスにしたアイアンゴーレムの仲間も増やし、前衛後衛ともアイアンゴーレムに切り替えたので、一瞬で全滅させられるようなことも無くなった。


 ゴーレムを従魔にしておくと都合が良いのが、経験値を必要としない無機物なので、経験値分配で取られる必要が無いため武士団を成長させられる。


 その分ゴーレムを成長させることができないが、盾役に便利な上、そんなに愛着も沸かないので消耗品として使い潰せる。


「素晴らしい収穫ですな、後ほど鑑定をお願いしますよ」


 珍しく上機嫌で、いつもの笑顔の副団長、良さそうな品を鑑定してやるとオリハルコンの槍+5だったので引き渡すと喜んでいた。


「うむ、また今日も万両を稼ぎ出せたようだ」


 ほんの少し死亡フラグだが、美形の団長は始末されないはずなのでセーフ。



「ついに七階層をも視野に入れたか、折波留紺の刀に槍、某は感動した」


 美形でもムキムキ過ぎて、お約束の「カキザキーーー!」も有り得る一番隊隊長、マックスやミリアのように最後まで生き残れるキャラじゃない。


 殺されてでも奪い取られる系統の死亡フラグは勘弁してもらいたい。

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