第26話人質
「坊主、ちょっと肩を揉んでくれんか? 痛くて溜らん」
「押忍、揉ませて頂きます、押忍」
武士団員が休憩中、少年に肩を揉ませる健康的な光景、団員も故郷の息子を思い出しているのか、目を細めて楽しんでいる。
「ああ、楽になった、助かったよ」
肩を回して凝りがほぐれたのを確認している団員。
「どれ、お礼におじさんが手伝ってやろう、ふんどしを取って」
「え?」
事案発生です、皆さん速やかに活動してください。
「カゲヌイーーーっ!」
武士団有志や隊長達が詰め寄る。
「てめえっ、何をしようとしたっ? 吐けっ」
「ああっ、下層階の奴らが、元死人に渡す着物とふんどしを持って来いって言ってたから、その手伝いをっ……」
事案では無かったようです、皆さん撤収していただいて結構です。
「ボウヤ、ちょっと手を痛めたから捻ってくれんか?」
「押忍、手を捻らせてもらいます、押忍」
マゾの変態が出ました、事案発生です、皆さん迅速に行動してください。
「カゲヌイーーーッ!」
武士団有志や隊長達が詰め寄る。
「てめえっ、何をしようとしたっ? 吐けっ」
「ああっ、腕を痛めたことがあるから、筋肉を捻って貰って柔かくしようと……」
普通の柔軟体操でした、事案では無かったようです、皆さん撤収していただいて結構です。
「小僧、ちょっとあっちまで来てくれんか?」
「押忍、御一緒します、押忍」
「ハアハア、一寸でいいんだ、先っぽだけでも」
「ええっ?」
変態が出ました、事案発生です、皆さん迅速に行動してください。
「カゲヌイーーーッ!」
武士団有志や隊長達が詰め寄る。
「てめえっ、何をしようとしたっ? 吐けっ」
「ああっ、槍の切っ先が欠けたから、先っぽだけでも削って研いで尖らせてもらおうと……」
普通の武器の手入れで研ぎ仕事でした、事案では無かったようです、皆さん撤収していただいて結構です。
「むうっ、仕事にならんっ」
六階層に降りるどころか、一階層から離れられない。
子供の行動範囲を広げると、ヴァンパイアにケツを吸われてしまう、ゾンビやグールに噛まれてしまうなど問題山積。
スケルトンに押し倒されて腰をカクカクされたりすると親御さんに顔向けできない。
「まあまあ、隊長連中も一緒ですから、問題は起こらんでしょう」
性善説過ぎる一番隊隊長。
「いや、あのやさぐれた連中ですからな、何が起っても間違いない」
初対面の時の酷い対応を見て、美少年など見たら何をしでかすか分からない武士団員。
「子供を見て故郷にいる自分の子でも思いだしたのでしょう。もっと長い目で」
「暫く泳がせてみますが、何かが起こってからでは遅い、怪しいことをすれば罰しますぞ」
「ええ、そうですねえ」
笑顔じゃない青ざめた副団長からも同意してもらえたので、士道不覚悟の者は斬る。
「おい、子供が何人かおらんぞ?」
立った。死亡フラグが立った、死亡が一人で立てた、うわああん。
などと言っている場合ではなく、子供が何人か連れて行かれたようだ。
いつものように下層階で死人を復活させては連れ帰り、昼頃に来ているはずの加賀藩の連中に引き渡すつもりでいたが、一階層か外をうろうろしているはずの子供が数人行方不明になった。
好みの少年を暗がりに連れ込んで、良からぬ事をしようとした連中は隊長に見つかって士道不覚悟により切り落とされたが(何を?)、魔窟の外で大勢待っている他藩の武士達に言葉巧みに誘われて「金になる」「銭が多い仕事がある」と他の子供も誘われていて、判断が付かなかった子供が四人ほどついて行ってしまったようだ。
そいつらも茂みの奥にでも連れ込んで、良からぬことをしているのかと思ったが、どうもそちらのお誘いではなく、聖男を自分の領地で働かせるか、自分の領地に開いてしまった地獄を封鎖させるまで働かせ、手前の武士団を成長させて聖銀や魔石魔道具を取り出そうと画策しての勧誘だったらしい。小賢しいことをする奴がいた物だ。
今は脅迫状なり勧誘のお知らせが届くのを待っているが、誰の仕業か分かればすぐ飛んで行って、従魔二千匹で城攻めしてやる。
ダンジョンの外で待っていると町人風の男に声を掛けられた。
「おや聖男殿、私共では優秀な人物を武士団に勧誘しておりましてな、指導していただける方も募集しております、是非如何ですかな?」
最近、レベル100を超える武士団員を引き抜いて、自分の所のダンジョンを攻略させようと躍起になっている領地があるらしい。
「どちらのご家中の方ですかな? ここが終われば何れお邪魔します」
自主的にヘッドハントして人手を集めているのか、どこかの藩が命令しているのか、一応確かめておく。
「お判りいただけないようで困りますな、お手伝い頂けないと、まだお若い少年が危ない目に遭いますよ? 宜しいのですか?」
こいつが人攫いか?
「自分で選んだ道じゃ、野垂れ死ぬも、はらわたをぶちまけて死ぬも、そ奴の勝手じゃ」
「聖男と呼ばれるほどの方がなんと言う事を、私共で危ないことをさせてあげても宜…… ぐほおおっ!」
とりあえず全部言い終わる前に腹パン。
「死ね」
オッサンは目と鼻と口と耳からも汁を出して、腹の中身も全部出して苦しんでいる。
「なんと言う事を、このお方は町一番の大店(おおだな)の…… げふううっ」
全部言い終わる前に腹パン。中身を出して苦しんでいる。
「お止め下さい、子供…… げぼおっ」
「子供は連れてきますから…… ぐぼおおっ」
この要領で最期の一人になるまで全員殴り倒した。
「今すぐ子供を開放しないと、ここいる全員が死ぬ、どちらか選べ」
「つ、連れてきますっ」
悪は滅びた。
この後は中古のふんどしでも高価買取してもらうか、ノーパンで帰ってもらうしかない。
暫くするとさっきの殴り残しが子供四人を連れて来た。
「死ね」
とりあえず腹パンを入れてやって中身を全部出させてやる。
「ぐはあああっ!」
最長不倒距離を飛ばしてやったが、テレマーク姿勢で着地しなかったので点数が悪い、やり直し。
「がふっ!」
最初の大店の店主か番頭を蹴って飛ばしてやる。屈伸のまま脚前挙でブーメラン状になって飛行したので高得点だ。
「あ、え、その……」
子供は何か言い訳をしようと考えている。
「お前らの顔は覚えた、二度とここには来るな、武士団にも来るな」
この手の奴らは決まり事もルールも理解することができない、「ケーキを三等分できない少年達」みたいに知能が低すぎてどれだけ努力しても理解ができない奴らだから、わからせようとする努力自体が無駄。
「帰れ」
「旦那、待ってください、あっちの方が賃金が良くて、武士団の人にも一日二両出すって言ってたんだ、俺らも誘われて……」
「お前らは疑って行かなかった、こいつらはここを離れて行こうとした、だから二度とここには来させない、終わりだ。夕方武士団と一緒に帰ったらもう来るな」
許してもらえるよう言って来たリーダー格の少年もいたが、この手の奴らは自分だけ二階層以下に降りても構わないと思って死ぬ、だから行かせない。
「こいつらが明日も着いて来るようなら、お前ら全員首だ、決まりは守れ」
「はい」
理不尽だと思うだろうが、自分の命を捨てに行く馬鹿は面倒が見きれない、買い手市場なのだから無理矢理ふるいに掛けても残る奴だけ残す。
倒れている商人どもは放置、もし撤収までに死んでいたら生き返らせてやる。
「聖男殿……」
ムカついていると昨夜の加賀藩の連中が姿を現した、一部始終を見てドン引きしている。
「おや、昨夜の、お恥ずかしい所をお見せしました。死人でしたら数十人引き上げておりますので、文字の読み書きができて、何か仕事ができそうな者でもお連れ下さい」
午前中に五階層までの死人を回収した。リッチは出なかったがヴァンパイアも数人、人間に戻して連れ出して、当りと外れを選別してある、ジョブ持ちで魔力持ち、鍛冶屋などは幕府優先、この領地や藩にも少々、それ以外は適当に選んで連れて行ってもらう。
ジョブなしでも案外使える(何が?)奴がいるかもしれないが、顔と体で選んでもらうしかない(性的な意味で)。
まさかこの場で事に及んで、具合とか味?で決める訳にも行かないので、川で洗って髭でも剃って、いい匂いがするとか仕事が出来そうな奴とか、そんな理由で選ぶしかない。
「おお、これで殿にも喜んで頂ける(性的な意味で)」
案外地獄の四丁目の出身から、加賀藩の殿の愛人や寵童が出るかもしれない。
折角生き返ったのだから第二の人生は安楽(スローライフ)に送って欲しい所だが、仕事も計算もできない場合はソッチ系の能力で水商売でもして生きて行くしかない。
案外コミュ力だけで「シャンパン入りました~」とか「ググっと行くとこ見てみたい~」と言っていれば一財産稼げる奴も存在するので、残りの人生は強く生きて貰いたい。
魔窟前に集まっていた他の藩にも元死人を渡し、態度が良い所にはミスリルでも魔石でも魔道具でも融通した。
本来の聖女物なら、作るポーションが五割増しで効果が高いとか、大怪我で瀕死の騎士団の団長を救って感謝されてちやほやされるとか、ポーションで近視が治って折角の眼鏡をはずしてしまうとか、ポーションで感謝されたお礼に台所を増設してもらうとか、その台所で薬草を使って現代風の料理をすると評判が良くて脳力アップの効果も高いとか、そのぐらいで喜んでスローライフしないといけなかったのに、全然スローライフじゃなかった、反省。
「川沿いにも鉱床があるな、一度試してみるか?」
オリハルコンなどは海水から集めるぐらい少ないそうなので、山の成分が強い川の水からも集まるだろう。
昼飯後の休憩に川まで行き、魔力を通して鉱石を集めてみる。
「オリハルコン、ヒヒイロカネ、ミスリル、金、銀、銅、鉄」
投網でも使うような要領で魔力の網を作る、目を瞑って集中していると、網がずっしりして来たので目を開けると鉄が大量に集まっていた。
「うむ、砂鉄は良く集まるなあ、砂金もミスリルも少々出る」
川底を漁ると砂鉄ばかりごっそりと出た、神に愛されたりすると高純度の鉄のインゴットを作成できていたようなので、一度試してみる。
スライムの集団は飼っていないので、アイアンスライムとかは作れない。
「錆びたままだから酸化鉄か」
一度還元するか何かしないと錆が取れないので、そのまま数十キロをケツベントリに入れておく。
「後で武士団が世話になっている鍛冶屋にでもやろう、砂鉄を取りに行く手間が省ける」
針が無い釣りをして、太公望の気分で釣りを続ける。
「貴金属は少ないのう」
アシタカが米を数キロ買って、米を値切ってくれた人物と一緒に飯を食えるぐらいの金が採れたが、末端価格グラム数両するオリハルコンなどは数ミリグラムしか取れなかった、残念。
「小僧ども、砂金が少々出た、これもやろう」
聖男の側にいれば何かお零れが貰えるだろうと、近くまで来ていた少年達に砂金もやる。
川底全てを漁ると出ないことも無いようだ。
「旦那、こいつらこれからもお願いします」
魔窟前まで行くとリーダー格の少年と「顔の形が変わった」少年が数人いた。
「拙者が覚えた顔の奴はおらんようだ、好きにしろ」
「はい」
鉄拳制裁で教育したらしく、顔が腫れ上がって元の顔が分からない奴が四、五人ほどいたが、わざわざ面倒を見て教育する奴がいるようだから任せてみる。
リーダーも決して優秀ではないが、頭角を現した奴に任せて行くしかない、顔が腫れるぐらいぶん殴って、痛みで教育すれば何とかなるのだろう。
Fランク大学まで行って権利とか自由とか学んでしまったり、武士団員みたいにやさぐれた中年になると手遅れだが、昔のように中卒から教え込むとどんな業種でも熟練工になれる「金の卵」だそうだから、この年齢から教育するとどうにかなるのかも知れない。
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