第25話団長視点

 某は次郎衛門時貞、武士団の団長を拝命している。


 聖男殿が来てから早一か月、また大問題が発生した。


 魔窟内の死人や骨まで聖男殿の復活之呪文で甦らせると、地獄の知識を持った職人が現れ、幕府直轄の事業として扱われることとなった。


 暗号文でやり取りされ、ほんの一握りの人物しか知らない内容が敵方や外様大名に漏れ、豊臣や織田、上杉に武田と言った武将が暗躍し始めた。


 長州薩摩や、毛利長曽我部といった遠距離の武将たちもいずれ動き始めるだろう。


 以前のように聖男殿を直接浚う様な真似は出来ないと分かったので、もう無理はせんと思うのだが、子供達や弟を人質に取って勧誘してくることはあるかも知れぬ。



 先日は加賀藩の連中が接触して来たそうで、聖男殿の悪い癖で聖銀の品や魔石などを多数引き渡したと聞いている。


「一体どこから漏れた物か、領内から知られたと判明すれば責任問題じゃ」


 父上も情報の漏洩先を心配している。


 箝口令が敷かれるまでは武士団連中が死人が生き返ったと酒場などで話して回り、瓦版にまで載せられたのが何といってもまずかった。


 死人が有用な知識を持っていたと知らされたのは後から、武士団員を責める訳にも行かぬ、いざとなったら某が腹を切ってでも責任を取る。


「やはり学者を利用して、言葉を理解しようとしたのが悪かったのでは?」


 奴らも箝口令を無視して仲間同士で情報を共有して相談し合う、酒場での話題や自慢話、どこから漏れてもおかしくはない。


「いや、学者を雇ったのは最近、幕府の中に間者が紛れ込んでいたとしか考えられん」


 時系列から考えれば幕府方だが、聖男殿が現れ「病人が全て治り、死人が生き返っている」と噂が流れ始めた頃から既に動き始めたのだろう。


 どの藩も聖銀や魔道具は喉から手が出るほど欲しい物で、大量生産できれば天下も取れると評判だ。


 特に伴天連共(ばてれんども)のように火縄銃を連発にしたり、遠距離も狙えると云う絡繰(からく)りを仕上げた者が天下を制す。



「魔窟前にまで豊臣方が現れ、聖銀や死人を攫って行ったと聞く、奴らの手勢を如何にして洗い出すか、さらに企みを止めねばならぬ、困った事だ」


 聖男殿と示し合わせ、読み書きもできぬ者を甚九郎(副団長)が押し付けたと聞いたが、幕府(西方)を名乗ったのだから、あの場で取り押さえるべきであった。


「魔窟前で軽く合戦になり申したので、聖男どのが仲裁して読み書きもできぬ者から与えたようで、流出して困る情報は無かったかと思われます」


「うむ、どちらの顔も潰さず合戦を止め、機転を利かせてくれて助かったが、いずれ地獄の知恵が上様以外にも知れ渡ってしまおう」


「聖男殿は御仏と会話して知識を得ることも可能と漏れ聞いております。聖銀を得る手段や新式の鉄砲を得る手段、一度聖男殿にもお聞きになられては如何?」


「其方からも一度、それとなく聞いてみてくれ、余り毎日のように登城を即しては、またご機嫌を損なうかもしれぬ」


 父上は座敷牢から出して貰えた恩を忘れてはおらぬが、豚鬼や石の魔物に城を囲まれた怖さも忘れておらぬ、せめて屯所か魔窟で問うてみよう。



「他にも、聖男殿は不死王までも復活させ、今も寺まで連れ歩いておるそうではないか、不死王と言えば一国を落としてしまえる程の魔物と聞くが如何に?」


「いえ、それは不死王の中でも「のおらいふきんぐ」と呼ばれる種で、もるすあ殿は「りっち」と呼ばれる下位種だと聞き及んでおります」


 もるすあ殿を怒らせると、この街ですら安泰ではないと注意されたが、国落としではなく街落とし程度の力だと言う。


「それでも魔力が強く、お主らを十人合わせても勝てぬと言うておるではないか」


「聖男殿の話では「元は悪鬼羅刹でも仏に帰依しておるから安心である」と聞き及んでおります。阿修羅王のような存在で、仏敵であっても仏に帰依すれば魔窟でも強い味方かと心得ます」


「それでも野に狼を放ったようで心配じゃのう」


「いえ、聖男殿の監督下であれば……」


 先程から聖男殿をかばう発言ばかりしているではないか、これでは某の心が聖男殿に傾いておるのが父上にも見透かされてしまう(////)カアアッ。


 いや、既に初めから見透かされていて、それで婚約を内示されていたのでは?(//////)カアアアアアッ。


 三郎太を聖男殿から引き離すために寺から帰るように上申したのも某だし、もう父上にはすっかりバレてしまっているのではないか?(////////)。


 この際もるすあ殿を引き離す策も考えておかなければ(////)。


 許せ、甚九郎。



 屯所


「聖男殿、魔窟以外で聖銀を得る方法を御仏に問うて頂けんだろうか?(////)」


「うむ、拙者も先日も問うてみたのだが、鉱山に行って魔法で崩し、湧き出た物も魔法で集め、練り直すにも魔法、とにかく何もかも魔法がいるようじゃ」


「左様ですか、それだけの作業、聖男殿以外に出来る方はおらんでしょうな」


「いや、モルスアや吸血貴族なら可能かもしれんでな、確かめるには一度鉱山に行くしかあるまい」


「では、日を改めて鉱山にご案内しよう(////)」


 普通に接したつもりだが、顔色を見られたかも知れぬ、恥ずかしい。


「それと、伴天連(ばてれん)共だけが持つ新式の鉄砲の作成方法もお聞き願いたい」


「うむ、一度聞いてみよう」



「団長、何をご相談なさっていたのですか? 鉱山まで行って聖男殿と逢引ですか?」


 甚九郎め、聖銀を採る手段まで聞いておきながら逢引などと抜かしおって、小賢しい奴だ。


「聖銀を採る手段を講じるのは幕府からも藩からも言われておる悲願だ、馬鹿にするでない(////)」


 もう甚九郎にまで心根を見透かされてしまった。いや、父上が悪いのだ、婚約や嫁入りなど話すのはまだ早い。


 三郎太の奴も聖男殿に命を救われて慕っておるのだから、三郎太を嫁に出すと言えば良かった物を、なぜ某に振るのか?


 元服か、三郎太の元服が間に合わぬほど早くに旅立たれるのが分かっておるから某なのだな(////)。



 それにしても、本日はやたらと子供の数が多い、屯所の中でも掃除や洗濯をしておる少年が多数。


 また聖男殿の悪い癖で、子供に銭を稼がせる手段を講じてやっておるそうだ、もしや魔窟まで連れて行くのでは?


「円崔(一番隊隊長)、子供が多いが何人ほどおる? もしこれだけの数、魔窟に入り込まれては仕事にならんぞ」


「はあ、よもや聖男殿も危険な魔窟には入れんでしょうが、それとなく言っておきます、伝令などには便利なのですがな」


 うむ、目尻が下がり過ぎだ、こやつも子煩悩すぎて話にならぬ、甚九郎から言って聞かせるか。



「……ですから、あのような者達を武士団や屯所に入れるなど以ての外、今すぐ追い出して下さい」


「仕事が欲しいと頼って来られたのだ、平原で魔物を捕まえて討伐させるまで、それ以上の事はさせぬ」


 早速聖男殿とやり合っているようだ、昔から嫌われ役は奴に任せっきりで悪いが、特に聖男殿とは盛んに火花を散らして居る。某を取り合っての事だろうか?


「なりません、同行させるなど武士団の士気にも関わります、子供の遊び場と同じに思われては困ります」


「先日まで其方らも子供の遊びと同じであっただろうが、この頃ようやく魔物の相手ができるようになっただけで、一階層に入れるか、六階層に入れるかの違いだけ、子供に毛が生えたようなものだろうっ」


 甚九郎の嫌味が過ぎて聖男殿も言葉を荒げだした、引け、甚九郎。


「甚九郎、どこにおる? 甚九郎」


「団長、こちらです、聖男殿が屯所に子供を連れてきてしまったので苦言を呈していた所です」


「仕方あるまい、お主も浮世絵で人気なのだろう? 鬼の団長、仏の副団長などとな、実際はお主の方が鬼だと言うに、ははっ」


「からかわないで下さい」


 実は浮世絵(ブロマイド)が売れて推し面などと言われて、内心嬉しがっているのはこ奴も一緒だ。


「奴らも命がけで来ておる、あの目付きを見たか? 将来の武士団員じゃ、大目に見てやれ」


「はっ」


「聖男殿、魔窟までは困りますぞ」


「うむ」


 分かったような分からないような曖昧な答えをされた。先日の某共と同じで魔窟で鍛えるつもりなのだろう。


 もしやこれが先日聞いた「死亡ふらぐ」では無いだろうか?

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