第24話子供達

 とりあえず宴会が解散になったので寺に帰る。これでも一応聖男と言う聖職者なので、酒や生臭物を口にしたと知られれば怒られる。


「今宵は随分とお楽しみでしたな? 聖男様」


 事前連絡があったのか、大僧正が門前まで出て拙者が帰るのを待っていたでござるの巻、ニンニン。


「アッーーー!」


 モルスアは和尚が寝所へ連れて行き、俺は小一時間説教された。


 その後で夜の治療活動をして奉仕、夜の読経の後はお約束で……


「三崔と申します、今夜はこちらにおりますので何でもお申し付けください」


 となって、起きたモルスアと一騒動、ガチムチの僧侶が入室してくるのを阻止、寝てからは左右から「当ててんの」をされて安眠を妨害され続けた。



 翌日、死人の中でもエリート層の、ヴァンパイア多数とヴァンパイアロードまで連れて来たので、当然のように大問題になった。


 ハズレ枠の読み書きもできない連中を他の藩に渡したのは見逃して貰えたが、豊臣方に渡したと言うのが気に食わないらしく、また番屋か地下牢にでも引っ張って行かれそうだ。


 地獄の知識が欲しくて、転生物でお約束の複式簿記とか銀行制度とか農業の知識とか品種改良とかが知りたいなら、ケツの賢者の石に聞けば教えてくれるが、ミスリルの生成方法は知っているかどうか分からない。


「ヘイ、s〇ri、ミスリルの生成と鍛造方法を教えてっ?」


 自分の尻にミスリルの作成方法を聞いてしまう俺、発音している所を見られるのが少々恥ずかしい。


(ミスリルは魔法の影響を受けやすい金属で、魔力と魔法によって抽出します、ミスリル鉱山で……)


 何か大賢者的な音声が答えてくれたようだが、内容が難しくて俺が分からない。


 要は鉱山に行って魔法でガツンとヤってから、駄々洩れになっているのを吸収して集め、トロトロのふあふあの間に型に入れて、叩いて鍛造すると壊れるので魔法で粘土細工してやって魔力を込めてエンチャントするらしい。



「オッケーグー〇ル、オリハルコンとかヒヒイロカネってどうやって集めるの?」


 アイ〇ォンの次はアンド□イドの□ーグル先生に聞いてみた。


(鉱山の中から貴重な鉱石を見付けるか、海水を生成してごく稀にある元素を魔法で集めます、海水に魔力を込めて……)


 海水から集めんのかよ、どれだけ貴重なんだよ。



 後は賢者の石でイオ〇系列のスーパーでネット通販を使って買い物出来たり、世界のアマゾ〇通販が現地通貨のまま使えると便利なのだが、今の所通販機能や元の世界への転移機能が無い。


 金貨八万枚はないが、ミスリルソードとかミスリルの防具を頑張って換金すると、一万両ぐらいになるかもしれないので、是非元の世界に転移する機能が欲しい。


「教えてア〇クサ、賢者の石に通販機能や転移機能はないのっ?」


(ありません)


 賢者の石にはアマ〇ンにトイレットペーパーやミネラルウォーターの定期便の通販を頼むような機能はなかった。


 通販か商人のレベルを上げるかしないと無理なようで、今でも照明器具の操作とか気分に合った音楽のリクエストぐらいなら探してくれるかもしれない。



 一人で会話している所を、いつも通り法念和尚に見付かってしまい、有難いお経で見送られた。


「観自在菩薩、般若波羅……」


 あとで聞いてみると、気の毒な人に対する読経ではなく、聖男が仏と会話しているのを見て有難がっていたそうだ。


 以後の言い訳も「御仏とチャネリングしていた」で通すことにしよう。



 他には不死王リッチなど連れて来たものだから、街を滅ぼせる魔王クラスか四天王かと恐れられたが、ただの六階層の住人だ。七階層以降なら複数出る。


 ちなみに街を滅ぼすつもりなら、モルスアなら簡単。


 最下層近くになると不死王の中でもノーライフキングが出て、絶対物理防御と絶対魔法防御を持った奴が出てくる。


 こいつらの場合、神話の武器とか御仏の利剣が無ければ倒せない。



 とにかく城の方はいつも通りの大混乱で、困った事しか起こっていない。


 一度大僧正や法念和尚に相談してから登城して、色々と説明したり隠したりする内容は決めておいたので、その場で緊縛されたりケツの中を改められることも無くどうにか済ませた。


 死人と片言で会話したり、御仏に聞いてミスリルの採り方を教えて貰ったことにしたので、一度廃鉱山に連れて行かれるらしい。



 さて、異世界物のお約束と言えば、一段落した後に教会やスラムの孤児たちを見つけ、余りの貧しい生活にひと肌も二肌も脱ぐのがお約束だ。


 ユ〇ちゃんにも熊装束を脱いでもらってリバーシブルにして、いや何でもない。


 寺では毎日炊き出しが行われているが、今朝はタロウが近所の子供たちに脅迫されて寺まで連れて来てしまい、銭を稼ぐ手段を探しに来ていた。


「旦那、俺達にもタロウみたいに金稼がせてくれよっ」


 タロウは武士団に入っている扱いなのか、金も稼ぎまくって稚児にも選ばれて近所では有名になり、父親にも孝行していると評判らしい。


「うむ、でも魔窟は危ないからな、これをおっかさんに渡して美味い物でも食ってくれ」


 巾着ごと渡して全員に金を配る、所謂「これで家のもんに甘いもんでも買うて帰ってやりいな」だが、ダンジョンに入れないような女の子は納得したが、タロウより年上の少年達は納得しなかった。


「俺ら金を貰いに来たんじゃねえっ、稼ぎに行きたいんだ」


 男の子なので冒険がしたいようだ。一人前扱いしてもらって自分で金を稼いで独り立ちがしたい年頃。


「よし、おとっつぁんやおっかさんの許可を貰った奴は連れて行ってやる」


「ほんとかい?」


「ああ、怪我しないで格が上がるよう案内してやろう」


 少年たちはすっ飛んで帰って親の許可を貰いに行ったが、五分もしないで帰って来た。



「許可はもらって来たか?」


「「「「「「「「うん」」」」」」」」


 正直者は損をする、ちゃんと許可を貰おうとした子は閉じ込められて折檻、嘘でも許可を取ったと言い切った奴が勝ちになる。


「最初はタロウもクマに襲われていて足をやられてな、それでも今ではクマよりも強いぞ」


 もう少年たちは目の色を変えてしまい、自分たちも憧れの武士団に入れて貰い、最初は手伝いでも掃除でも何でもして、浮世絵に書かれている団長や隊長連中に可愛がられたい(性的な意味で)と思っているらしい。


「何からやる? 武士団の掃除や洗濯でもできるか?」


「「「「「「「「「「うんっ」」」」」」」」」」


 結構な数の少年ライダー隊が出来た。



 朝の治療も早々に切り上げて、武士団の屯所に到着。


「こいつらにも何か手伝いをさせてやってくれ」


「へい、旦那」


 一般の武士団員にも稼がせてやっているので、こちらが言う事は色々と聞いてくれる。


「押忍、何でも言ってください、押忍」


 子供達には「武士団員に対して、口からクソ垂れる前と後に必ず押忍を付けろ」と言ってあるので実行しているようだ。


 ハッテン場での「オッス(やらないか?)」「オッス(オッケー)」とは意味が違う。



 父親や母親の許可を貰ったというのは嘘だろうが、身長に合わせて小刀や大刀をくれてやった。影縫いしておいて止めを刺す方法ならレベル上げも問題ないだろう。


「押忍、自分が掃除します、押忍」


「え? ああ」


 掃除している団員から雑巾を奪い、自主的に掃除を始める子供達。


 どこかのサッカークラブか野球クラブにでも所属していて「指示待ち人間はいらないよ~」とでも教育されていたのだろうか?


 正式な団員のように日当に一両出る訳ではないが、団員に小遣いを貰ったり、俺が自主的に日当をやったり、憧れの団長から直接貰えるなら小銭でも喜ぶだろう。


「おいおい、やたら子供が増えたなあ」


 一癖も二癖もある腕っこきの傭兵だったはずの団員も、目を細めて子供が掃除しているのを見守る。


 やはりエリ〇88のアフリカ編の傭兵か、荒野〇七人のチャール〇ブロンソンのように子供をかばって死んだり、盾になって死ぬ死亡フラグを立ち上げる人物が続出した。


「腹が減っては戦はできん、まず飯を食え」


 武士団員だけでなく子供たちにも食わせてやる、数日食べていないような奴は粥から、父親がちゃんと稼いでいて体が出来つつあるような奴なら固形物を食わせても大丈夫。


 ちなみに終末収容所から解放されたユダヤ人達も、西側の米軍に救われた者は固形物を与えられ、せっかく助かったので胃痙攣で亡くなる人物が多くいたそうで、東側で解放された人たちは、本当の飢餓を知っているロシア人達は、やせ細った人物には固形物を与えず、スープやシチューから始めて、多くの人が助かったらしい。


 

 まずは実習訓練、出立の時間を早めてフィールドで出会える魔物でレベルを上げさせる。


「カゲヌイーー!」


 魔物を呼び寄せてから影縫い、子供達に止めを刺させて討伐部位も取らせてやる。これで地域行政から「魔物一匹百文、鼠一匹一文」の報償が貰える。


 ゴブリン程度なら利益は出るが、地獄狼や地獄熊は強すぎて命懸けでも負けるので割に合わない。


「旦那、これ本当に全部貰ってもいいんですか?」


 貧しい労働をし過ぎて、魔物を刺して解体するだけの簡単なお仕事で数百文貰えるのが信じられないらしい。


「構わんぞ、タロウの奴は千両役者並みに稼ぐはずだし、魔窟に潜れば百両だって稼げる」


 こう言ってしまうと子供達の現場猫行動を誘発しそうだが、鞭の前には飴を与えて、やる気を出させてからでないと動いてくれない。


「ありがてえ、これで弟や妹も食わせてやれる」


 見守っている武士団たちも、一日働けば手当てが出るので、子供の小遣いを取り上げるような真似はしなかった。


 一時間程度トレーニングに費やし、魔物の亡骸も増えたのでテイム。


「範囲復活之呪文(エリアリザレクション)」


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「アッーーーーー!」」」」」」」」」」」」」」」」」」



 レベル2程度だった子供達に、いきなり地獄熊や地獄狼など倒させたものだから一瞬でレベル10超え。


 お約束なら成長痛で体が痛んだり成長酔いを起こしたり、寝ている間に体がビキビキ大きくなって成長して、デブでチビでいじめられっ子だった少年が八頭身を超える超絶美形に変身して「これが私?」みたいになるものだが、ちょっとムキムキになる程度で済んだようだ。


 ダンジョンに入らせるにも、ヒットポイントを上げたいのと、逃げ足的にも最低レベル20は欲しいので、全員それ以上になるまで鍛えた。


「ようし、大分格(レベル)が上がったな? 今日はここまででも良いから街に帰って金に換えるもよし、魔窟の入り口だけでも覗きたい奴は連れて行ってやれるぞ」


「いいんですか?」


「金が欲しい」


「魔窟を見てみたい」


 母親がシングルマザーで親や兄弟を食わせたい奴は街に帰り、一人で冒険したい奴らは魔窟まで同行する。



「武士団整列っ!」


 魔窟の入り口前で子供達まで刀を差して、端っこの方で整列している。


 その光景を見て頬を緩ませたり、目を細めて自分の子供を思い出しているような奴は死亡フラグだ。


 子供の盾になって倒れて、他の団員に抱きかかえられて、松本零士戦記シリーズみたいに「お前がディズニ〇を失業させてやるんじゃなかったのかよっ」とか声を掛けられて、満足して死んでいくキャラだ。


「本日も引き続き一階層から五階層までの掃討を続け、選ばれた者だけで六階層に侵入するっ!」


 憧れの武士団団長の朝礼を聞いて、顔を赤らめたり輝かせたり複雑な表情をしている少年達(性的な意味で)。


 街中では魔窟(ダンジョン)の中で大活躍をする武士団の浮世絵が大人気で、魔物を倒して歌舞いた表情と恰好をして大見得を切り、六歩踏んでるような絵に解説が付いた物が子供にも受けている。



 例の陸軍軍人がバックから伸し掛かって「エイ、ロスケメ、イマトドメヲサシテヤルゾ」の春画だとか、戦後の赤本や貸本のように、子供たちが奪い合って読んでいるそうだ。


 マーベルコミックのように、大口を開けて手を伸ばし、左手は地面、右手は天を突くような恰好をしているのが「イッツマーベル」と呼ばれるポーズだが、それに近い物がある。


 ちなみに聖男の絵だけ、「現場ヨシッ!」のポーズで指差呼称、「どうして……」のポーズで受話器をもって絶望している絵が売られている。



「俺らも入っていいんですか?」


 目の色が変わっている少年に聞かれるが、ダンジョン内まで入れるのは厳しい。


「一寸待ってくれ、カゲヌイーーー!」


 目をビカビカビカーと光らせて影縫いを行うと、一階層と二階層の入り口付近まで効いた。


「一階層までだぞ? 武士団について行って、伝令とか、必要な物を取りに来るとかそこまでだ、魔物と戦っちゃあいかん」


「押忍」


 これは自分用に死亡フラグを立てたような気がするが、一階層程度なら大丈夫だろう。


 いやこれも「その時はこんなことになるなんて、思ってもいませんでした」と言うお約束で死亡フラグだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る