第23話宴会

 六階層を半分回っただけで、今までの日数全てと同等の収益を得た武士団。


 陽が沈む前から屯所で祝いの宴会になり、六階層に降りた者は強制参加になった。


「生臭物はご遠慮させて頂きます」


 法然和尚は酒と肴が全部駄目。豆とか米とか味噌汁まではオッケー。


「いようケンタ、食っとるか? 後はもう「男」でも抱けば一人前じゃのう、がははっ」


 この世界では童貞を捨てるのも、一人前になるのも「男」を抱いた後になるらしい。


「はい……」


 まだ十一歳程度で飲めないので、色々と酒の肴を食わされているケンタ。


「儂のケツで良ければ、いつでも貸してやるぞい、ふははははっ」


 武士団はとても教育に悪い酔っぱらいの集団に戻った。


「おい、おでんが煮えたぞ」


 土間から煮えた鍋を持って来た団員、これは? 寺では食べられない生臭物ではないか?


「うっ、ごぼう天がっ、茶色くて黒光りしている立派なものがっ」


 俺がごぼ天を食べようとすると、すかさず光のモザイクが飛んできて食事風景を隠した。


「うおっっぷ」


 熱い汁が口の中にっ、火傷しそうだ、それに久しぶりの肉の感触、タンパク質がたっぷりだ。


 先程から食べさせられているケンタにも光のモザイクが到着して、太い物を咥えている状況を邪魔している。


「あつっ、こんな太いの咥えられないよっ」


(健全な食事風景です)


 ああっ、おとっつあんを連れて来たタロウにまで。


「うわあ、ち**が熱い、それに太くて食べられないや」


(チクワバーを食べている健全な光景です)


 珍しく武士団長にまでモザイクがっ?


「ふむ、酒に合うな、よく汁がしみている」


 ああっ、王子様がそんな下卑な庶民の味に武者ぶりついてっ!


「だ、団長っ」


 その光景がたまらないと、団長の表情をアテにしてグイグイやっている副団長。


(健康的な飲食の風景です)


「こんな熱々の物を食べるなんて初めてです」


 毒殺を恐れて毒見済みの冷えた物しか食べたことが無い若にまで被害が。


「あつうっ、げほっ、げほっ」


(がんもどきの中に入っていた熱々の汁に襲われて、少し火傷しただけの光景です)


「若っ、ハアハア」


 セバスチャンもその光景を見てグイグイやっている、何て体力を消耗する食事会だ。


「熱々、無理」


 美少年で髷も結っていないモルスアまで。


「づっ」


(ごぼう天を食べてしまい、熱々の汁が出て少し火傷をしました、健康な証拠です)


 さらにキ〇兄ぃやケンドー〇バヤシみたいな、衆道の抱かれたい男、殿堂入りみたいなブサイク系の武士団員にまでモザイクが。


「あつうっ」


「ぬふうっ」


(以上、飲み会のありふれた光景でした)



 さらに飲み会は進み、驚くべきことに地獄の四丁目の一般人にまで酒を飲ませ、聴取の邪魔をしている武士団。


「あsfsjgつぇええおjgr」


 所謂「酒が入った方が口も軽くなる」と言う酒飲み理論であった。


「我、飲酒、不可」


 聴取前の景気づけに連れて来られたモルスアと、ヴァンパイアロードであるはずのアステカまで呑まされている。


 両方とも年齢は数百歳だろうが、モルスアの体の年齢は元服前に見える、お約束のロリババアならぬショタジジイだ。


 この国にはビールとかエールが無いので、軽い酒がアルコール度数15%の日本酒しかない。その上はアルコール度数40%近い焼酎になる。


 ヒロシ兄さんみたいな薄すぎるお湯割りください。


「jfしぃあhぇgpsds」


「おお、そうかそうか、家とかあちゃんが恋しいか、分かるぞ」


 泣き上戸なのか泣いている元死人、何故か会話も成立している。



「あ~、カッポレカッポレ~」


 飲んで踊って歌う阿呆共。酒代と肴代は出してやったが飲まされるのは困る。


「全く、いつも通りですねえ、ここは」


 異様に速いピッチで飲んでいる割には、顔色一切変化なし、口調も行動もいつも通りの副団長。


 蟒蛇(うわばみ)と呼ばれる蛇の化け物がいる。


「某(それがし)は結構好きだぞ、格式張らないで、陽気に大騒ぎするのは」


 やたら色っぽい表情をして、ほんのり赤くなりながらチビチビやっている団長。


 その表情だけでご飯三杯でも一升酒でも行けるらしく、対面して湯呑酒をグイグイ飲んでいる副団長。


「どうじゃ? 飲んでおるか、聖男殿」


 周囲を巡回して、やたら注いで回って飲ませる側に回る一番隊隊長。


 どこかで自分が飲まされないには注いで回るのが一番と聞いたが、そこまで一般武士団員と仲良くないので飲まされる。


「ほら、まず駆けつけ三杯」


「い、一杯だけ……」


「寝……」


 この後学者が来次第、元死人の事情聴取なのだが、素面(しらふ)のモルスアに聞き取りすると、笑顔で人を殺しをしそうなので怖かったが、今の調子なら大丈夫な気がする。


「拙者は嬉しい、今までは鼻つまみ者の集団だった武士団が、ここまでの花形になるとは、死んだ奴らへの良い花向けになる」



 これがお約束なら、「こんな楽しい事が、これで最期になるなんて思ってもみませんでした」と言う死亡フラグだが、他の地域の武士団と同じで結構な数がすでに死んでいる。


 目が覚めて起きてみたら全員ヴァンパイアに吸われていてグール化しているか、団長や隊長は吸ケツ鬼と言うパターンか? もるすあの怒りに触れて全員ぶっ殺されて首から上が取れているパターンだ。



「上人様……」


 元服前ギリギリで飲酒不可のはずの若も一番隊隊長に飲まされ、二合ぐらい飲んで寝てしまった。


 この後寝所などに運んで休むと「チュパチュパ」「おい、何してんだ?」をモルスアと争いそうで怖い。


 逆に武士団員とかアステカに若達のショタケツが狙われているので、兄か副団長の所に置いて帰るか、寺にでも連れて行くしかない。



「おい、学者先生来たぞ」


 死番(しばん)で下戸の連中は勤務を続けていて、学者が来たのを知らせ、死人の中からまだ使い物になりそうな元ヴァンパイアを連れて行った。


「おsぢふlgj;sr」


 手を振り合って挨拶している所からも打ち解けたようで、その後の聴取も上手くいったらしい。


 その後、聴取や対話の前には一杯引っかけてからが通例になったとかならないとか。



 仮聴取部屋


 モルスアの番が来たので俺も同行する、今でも現役のヴァンパイアロードを放置するのも怖いので同室で待機。


「名前、書く、依頼」


「盛諏亜」


「仕事、職業、専門」


「不死王、大賢者、魔法」


「魔法、使用、限界」


「全使用、無限」


「格 強さ」


「千二百」


「ヒッ!」


 順調に聴取が進んでいるが、魔法が全部使えるのと格(レベル)が1200もあるのがバレてしまった。


 いずれバレるので仕方ないが、今でも一般人が生活魔法を使う程度の労力で、簡単にこの街を消せる魔法使い。


 元リッチでリッチ歴が長いだけあって殺人への抵抗が一切ない。


 どこかの勇者パーティーのメンバーみたいに、魔王を倒した後に死刑になったり、勇者と一緒に処刑されたりして、恋人の為に王国を一個滅ぼしているかも知れない。


「この少年は聖男殿の従魔なのですか?」


「そうだ、こ奴は不死王と言う魔物じゃったが、骨(スケルトン)や死人(ゾンビ)のように蘇らせた、拙者にだけは逆らわんが、怒らせないように注意して欲しい」


「不死王ですと? 恐ろしい」


 学者なので一応リッチの存在は知っているようだ。


 今は肉体の快楽に負けてしまいデレているが、年取って足腰が痛くなると、すぐにでも不死王になる儀式をおっぱじめてしまうだろう。


「眠、寝……」


 学者がこちらと会話し始めたのでモルスアは眠ってしまった。


「こんな恐ろしい少年を置いて大丈夫なのですか? 御館様にご報告しなければ」


「まあ拙者と一緒にいる間は魔窟に潜る強い味方なので大丈夫じゃ、引き離そうとしたり処刑しようとすれば敵になる。拙者の時と同じだ、刮目(かつもく)しておれ」


「承知しました……」


 一対一で対面して話すと、会話が成立せずもどかしいので笑顔で射殺、な~んて事が起りそうだったが、酒が入っていたので無事終了した。


 魔法の才能と格はこちらが保証したので、恐ろしい存在なのは理解してくれたようだ。



 アステカの場合


「名前、書く、依頼」


「明日手家」


 カラテカみたいな名前だ。きっと題名の後にkapuとかchuとかが入っている力の大妖怪で、パン見せ(ふんどし見せ?)しながらキックを放つのがオチになるのかも知れない。


「仕事、職業、専門」


「吸血貴族、魔法、魅了」


「魔法、使用、限界」


「全使用、無限」


「格 強さ」


「八百」


「ひいいっ」


 目の前の相手が吸ケツ鬼なのは最初から伝えていたので怯えていたが、力が弱い学者がもし童貞だったりすると一瞬で抑え込まれて魅了されてケツを吸われる。


 結構な年の学者でも、凄い年下になるので適度に熟れた貴腐ワインのように味わえるのではないだろうか?


 いつもの門番の前を通過するときはケツベントリに入っていたが、ケツを吸いたそうにしていたので餓えている状態だ。


 あの門番も童貞なのだろう、分かります。(性的な意味で)



 二人の調査が終わった頃に学者から質問を受けた。


「あの、聖男殿は何か貴重な石を持っておられますか?」


「奇石ですかな? 収納袋(ケツベントリ)に魔石など沢山持っておりますが」


 ケツの中に大きな奇石である賢者の石を持っているが、この学者鑑定眼持ちか?


「よく見えないのですが何かの石とだけ見えております」


 ハガレンでも最終目的の石が序盤からゴロゴロ出てしまった。


 モルスアとかアステカの職業も見破れなかったので、鑑定レベルが低いのかも知れない。


 正確な情報が見れていないのはレベル差や低レベルが原因なのだろう。


「はて、腎臓結石ですかな? こんな魔石もありますが」


 内心ビクンビクンしながら偽装の魔石を出してみる。


「おお、素晴らしい、一度でも良いので研究してみたいものですなあ」


「それでは何個かお持ち下され、他の研究者の方にも割ってお分け下さい」


「ありがたい、それでは頂戴していきます、研究者も大勢喜びます」


 混じり物が多い安物でも喜んでくれたので数個渡して誤魔化す。


 喜んで荷物をまとめて大急ぎで帰ってくれたので、賢者の石はバレないで済んだ。


 バレると切開手術か、置物にされて調べもの専用のケツに加工されて入港されるか、河童でも連れて来られて尻子玉をヌかれてしまう。



 他にも俺の手勢にリッチやヴァンパイアロードが入ったとなればまた大騒ぎになりそうだが、まずはエリート層の元ヴァンパイアや、読み書きができる職人が大量に見つかったので、幕府に送るのにも色々揉めるかもしれない。


 豊臣方だけでなく、松平だとか水戸の方面でも職人を欲しがるだろうし、収益が欲しい外様大名も暗躍しそうな気がする。


 ホモ将軍の所に寵童を連れて来てご満悦にさせた、伊達政宗とかも将軍と仲が良いので、きっと職人を所望されるに違いない。


 やがて宴会も解散になり、若やセバスチャンは護衛付きで城に戻った。


 ヒロインがゲロを吐く作品、銀〇とかこのすば!は名作になるらしいが、若もゲロを吐いてから帰った。


 街中でヴァンパイアロードを歩かせる訳にもいかないので、ケツ液を少々与えてからケツベントリに収納し、モルスアを連れて護衛の法念殿達と一緒に寺に向かう。



 治療を要求する一団が待っているだろうから寄り道しないで向かっていると、武士の一団が歩み出て来た。


「聖男様の一行と知っての狼藉かっ?」


 念シリーズの武僧達が前衛に出るが、武士の一団は土下座を始めた。


「ご無礼を承知でお願い致します、拙者共の領地にも地獄が開いてしまい難儀しております、是非聖男様のお力を拝借したいと願いに参った次第です」


 こうやって来てくれると揉め事が起こらないのだが、力尽くで連れて行こうとする奴らが多過ぎて困る。格(レベル)の違いを理解していない奴が多いのだろう。


「どちらのご家中の方かな? こちらの地獄を閉じ次第、次に向かう予定だが?」


「はは~、有難き幸せ、加賀の家中の者に御座います」


 日本海側で加賀百万石か 今は江戸の近くだから遠いな。


「遠いですな、この藩中からも地獄折伏を依頼されており申す、他の聖男を探してみられては?」


「いえ、何の手掛かりも無く難儀しております、民は餓え、天候は荒れ、地獄の周囲では作物も取れず……」


 要は資金が欲しいから、加賀としても聖銀とか欲しくて、地獄からの職人も欲しいのだろう、作物がある限り金で解決できる。


「まずはご領主様にこれをお渡し下され、魔石なども融通し申す」


「おお、これは聖銀の品々、貴重な魔石なども、忝い」


 礼儀正しい面々なので、いつもより大目に渡しても大丈夫だろう、全部領主まで届くはずだ。


「魔窟前でお待ち頂ければ、地獄からの職人もお連れ戴けるように話を通しておきます故、お手を上げて下され」


「ありがたや」


 手を取って立たせると、武士の一団は泣いて感謝していた。真面目な御家人もいた物だ。


「それでは聖銀の品などを殿に買い上げて頂き、その費用で炊き出しなどをお願い致しまする」


「確かに、承りました」


「明日、昼頃か夕刻に魔窟に来て頂ければ、蘇らせた死人もお預けできます、連れ帰る道中は大変でしょうが、上屋敷で話を聞いたりもできましょう」


 藩主が上屋敷にいれば近いが、荷物だけなら加賀にでも送れるだろう。


「それでは、明日魔窟までお伺いします」


 武士の一団は静かに去って行った。

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