第20話死人(ゾンビ)

 先日、地獄の四丁目の住人と思われる死人(ゾンビ)を何人か生き返らせたが、その取り調べがようやく終わった。


 非常に日本語に近い言葉を話すが、とにかく言葉が通じないらしい。


 大日本帝国陸軍でも、陸軍などは解散するまで居住地の県ごとに大隊の区切りがあった。同県人でないと訛りが違って話がなかなか通じなかったそうだ。


 ゴール〇ンカムイの登場人物でも、言葉が通じない他府県人なので、実はあまり会話が成立しない。


 九州人同士が日常会話する所を実験的に見せられたが、まるで韓国語かフランス語で、全く会話内容が分からなかった。


 各家庭にラジオが行き渡って、テレビなども生産され三種の神機と呼ばれるほど普及して、NHKのアナウンサーが話す標準語に言葉を話す前から順応していなければ標準語も認識できない。



 結局武士団では手に負えず、幕府から言語学者が来て連行し、漢字の読み書きができる人物がいて、やっと意思疎通の手立てが出来たと言う。


 中国人と会話するレベルの、文字だけでの筆談だったらしい。


 死人(ゾンビ)達が地獄の四丁目の住人なのは間違いなく、働かないで監禁されるだけで飯が貰えるなど有り得ないそうで、監獄に入れられるような者は全員餓死か死罪。


 武装集団か魔物の王が支配する世界で、ヒャッハーな感じで馬賊が走り回り、世紀末覇者達が戦うマッ〇マックス感丸出しな世界らしい。


 勿論男と男で結婚して子供を作り、魔物に襲われて負けて出産するのも普通、男に襲われて出産させられるのも普通、遊郭と言うのは全員男だけで春を売らされている場所だそうだ。


「たまげたなあ~~」


 問題になったのは、その中に聖銀(ミスリル)や折波留紺(オリハルコン)、狒々色金(ヒヒイロカネ)を扱えて、魔法のエンチャントも込められる鍛冶師がいたのと、魔石を加工して魔力を込められる魔道具師の職人がいたことだ。


 それからは幕府から早馬が駆けて来て、柳生風回状みたいな暗号文で書かれた書状が何度も行き来して、どんな事をしてでも地獄の四丁目の職人を生き返らせて幕府に献上するよう要請があった、らしい。


 現在他の地域では、ゾンビでも平気で生き返らせる聖男は来ていないようで、そんな人物を発掘できるのはこの領内だけ。



 魔窟前


「高天原に神留座す。神魯伎神魯美の詔以て。皇御祖神伊邪那岐大神。筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に御禊祓へ給ひし時に生座る祓戸の大神達……」


 魔窟(ダンジョン)前で宮司が唱える詔(みことのり)が響き渡る。


 宮司に魔力があるわけでもないので何の効果も無いが、気休めとか心が洗われる効果がある。


「はて、これからは魔窟の死人(しびと)は全員生き返らせなければならんのですな?」


「左様です、何としてでも鍛冶職人や鉱山の山師を蘇らせるようにと指令が出ました」


 珍しく笑顔じゃない副団長から聞かされたので、城砦の領主より上の藩主、さらに上の上様(ホモしょうぐんいえみつ)から指令が出ているのが分かった。


 法念和尚の手から出るビームも聖なる技なので、ゾンビなら分解してしまい、魔窟内なら魔石になる。


 分解させないには、俺を呼んで即生き返らせるかテイムする技しかないので、武士団は盾を装備してシールドバッシュで防ぐ以外にない。



「武士団出立!」


 先代武士団が一旦復帰したが、全員既に二階級特進?していたので、死なないで済むような職場に出世していたそうだ。


 レベルを上げたい武闘派だけが隊長として復帰し、五番隊以降の隊長になっている。


 やさぐれた酔いどれ集団だったはずの武士団は、今では一日で千両万両を稼ぎ出す花形部隊で、全員レベル50を超える兵(つわもの)揃い、一日の手当てが一両を超える千両役者(ロックスター)のような憧れの職業になり、レベル150を超える団長や隊長連中の歌舞(イッツマーベル)いた浮世絵が飛ぶように売れている。


「本日はついに六階層を目指すっ、心して掛かれいっ!」


 武士団全体の底上げも済み、自分のパーティーである仲間もレベル100を超える兵(つわもの)揃い、セバスチャンまでが魔法を駆使する心強い仲間になった。


 でもまだ悪魔(デーモン)とかに出くわすとヒットポイントが足りないので、魔法の波状攻撃を食らうと死ぬ。


 一階層で各部屋に飛び込んで、復活している小物を倒すのは後続の新入り達に任せ、先頭は急いで五階層を目指す。


「死人(しびと)を探せ、四階層と五階層はくまなく調べろ」


 上からの命令と武士団の方針で、今はとにかくゾンビゾンビゾンビがお目当てらしい。


「死人(しびと)発見っ」


 声がする方向に走って行き、今日はヴァンパイアも人間に戻せるのか試してみる。


「範囲復活之呪文(エリアリザレクション)っ!」


「「「「アッーーーー!」」」」


 ゾンビは半分ほど復活したが残りは成仏し、ヴァンパイアは元に戻らない。


「高度解毒(ハイキュア)」


「「アアッーーーーー!」」


 ケツを吸われて感染した毒を駆除してやると一旦人間に戻ったようにも見える。


 どこかの火炎魔人さんみたいに、火種でヴァンパイア細胞を焼き払わないといけないはずだ。


 このまま話が通じなければケツを吸いに襲って来そうな勢いだ。


「外、出る、家、帰る、食い物、ある、握り飯」


 団員もカタコトと身振り手振りで話しながら握り飯を差し出す。


「あしで? またり」


 話が通じないが、漢字の木札を出すと元吸ケツ鬼が気付いた。


 朝鮮半島などと同じで、日本人が教えた漢字の読み方と意味は同じ、ハングル部分が全く違う言語になっていると考えた方が良さそうだ。


「飯!」


 暫くケツ液を主食にしていた連中でも、人間に戻ると腹が減ったのかも知れない。


「飯、食え」


「くう」


 吸ケツ鬼が一人減って人間に戻った。寺の用語でいうと「悪鬼を調伏して仏に帰依」させた。


 もしかすると吸ケツ鬼というのは漢字を読める知識階級なのかもしれない。


 知力が低いと成りそこないのグールになるので、ケツが吸えるのはエリート。


 ヴァンパイアロードになると学士や学者レベルかも知れないが、ロードになるまでケツに依存していると社会復帰は難しいだろう。



 本日の収穫として、吸ケツ鬼も人間に戻せるようで「たまげたなあ~」だったが、今日も十人ほど地獄の四丁目の住人を連れ帰れた。


「三番隊、救助者を地上まで案内しろ」


「はっ」


 新たに出現した魔物を駆除し、ゾンビとヴァンパイアを連れ出して上からの指令は満たした。次は六階層だ。


「ここで居残り組を分けようと思う、生命力が強くなければ波状攻撃で死ぬ、一回で受ける傷も段違いなので若い連中とセバスチャンは残って貰いたい」


「わたくしもですか?」


 レベルが高く達人レベルの使い手である若が異論を唱えた。


「団長と若様を同じ場所に連れて行くことはできません」


 そんな苦情も副団長から一瞬で却下された。


 領地として街全体の総意として、同じダンジョンに入っていること自体が間違いで、団長は直ちに武士団を辞めて次期領主の仕事をしなければならないはずだが、レベル上げに固執して今でも団長を続けている。


「団長も副団長も残って貰って指揮を続け、まずは隊長連中で志願者だけを調査に連れて行きたい」


「いけません、俺も付いて行きます」


 ケンタまで六階層に付いて来たがり、見捨てられた動物のような表情をしているのが怖すぎる。


 ドーパミンやセロトニン不足でガタガタ震え、平常心も失っている。


「そう言うな、五階層までなら自由に歩けるが、これから下は本当の地獄だ」


 言われた程度では聞いてくれないだろうが、一応説得してみる。


「駄目です、そんな地獄に聖男様だけで行くなんてっ」


「今は空気も無い、水で満たしてあるが、これから水を抜く、どんな魔物がいるか見てみると良い」


 水魔法で満たして置いたダンジョンから六階層だけ水を抜く、谷川から延々水を流し込んでいたがそれも止める。


 やがて水の塊をトコロテンのように抜くと、水の中の生き物、水龍が現れた。


「水龍が生きておったか、こいつは水程度では死なぬ、はああっーー!」


 両手を合わせて手からエネルギーを発射、水の塊もろとも水龍を破壊する。


「おおっ!」


 全長十メートルにも及ぶ水龍は、半分に千切れても尚ビチビチと動き回って、下半身にまで意思があるように周囲の者を攻撃する。


「一番隊っ! 止めをさせっ!」


「「「「「「「応っ」」」」」」」


 ミスリル製の武器ですら貫けない皮膚を持ち、せいぜい小傷程度、動く速さも今までの魔物とは段違い。


 そんな魔物は半分になった胴体から血を流し続けると、ようやく動かなくなって死んだ。


「なんてバケモンだ、半分になってもずっと動いてたぞ」


「こんな奴どうやって仕留めるんだ?」


 隊長達に持たせてあるオリハルコンやヒヒイロカネの武器で。やっと傷付けることができる魔物、基本的にレベルが低すぎて隊長連中では倒せない。


「負傷者はっ?」


 俺の周りに手足をへし折られた者たちが並ぶ。


「範囲治療呪文(エリアヒール)」


「「「「「「「アッーーーーー!」」」」」」」


 結局一番隊のほとんどが負傷させられた。


 隊長からの視線が、恋から愛に変化しているのがもっと恐ろしい。



「さて、まだまだ出るぞ」


 次に出て来たのは不死王(リッチ)単体、物理攻撃がほとんど通じず、魔法攻撃さえ無効化する。


 もっと下層になると集団で出現するが、一般兵からすると攻撃する手段が存在しない。



 鑑定 不死王 リッチ

 

 最上級の魔導士が自ら不死の禁呪を唱えて、様々な生贄を捧げて不死化した魔物。


 人の頃の記憶や人格も持ってはいるが、生者を憎み神聖魔法を操る者を真っ先に殺しに来る。


 物理攻撃がほぼ無効、魔法攻撃もほぼ無効、魔法でエンチャントされた武器だけで傷付けることができて、神聖魔法でのみダメージを与えられる。

 

「沈黙っ!」


 まず第一に沈黙させないと、延々と上位攻撃魔法を唱え続け、パーティー内で低レベルで低ヒットポイントの者が全滅する。


「…………」


「上級復活之呪文(ハイリザレクション)」


 神聖魔法の一部が通用して、回復や復活系統の呪文でダメージを受ける魔物なので、復活の呪文を与えると元に戻ろうとする部分と反発して破壊できる。


 最近のお約束では、愛する人を失っているので実は死にたがっていて、高位の僧侶からターンアンデッドやディスペルされるのを願う、暖かい系統のオチが望まれている。


 違うお約束ではボスキャラレベルの骨系のアンデッドは、復活させるとバインバインの美少女になって生き返るが?


「亜ッーーーーーーーーーー!」


 やはり美少年になって甦った、残念。


 肌色成分が多すぎるので、すぐに光のモザイクと水が飛んできて、元リッチの少年の全裸を隠した。



「我 沈黙 何者? 人化 嬉無 不具合 空腹 怒 (////)」


 リッチの少年も漢字の発音だけなら意思疎通ができると気付き、何やら不平をいっているようだ。


 大体、「あたしを黙らせるなんてアンタ何者? リッチを人間にするなんて頭おかしいんじゃないの? ふんだ、こんなの嬉しくも何とも無いんだからねっ、不死王(リッチ)の方がお腹もすかないし便利だったわよ、一体何してくれてんのセキニン取りなさいよ(////)カアアッ(意訳)」な感じらしい。


 老化する前まで戻して生き返らせてしまったが、関節痛とか腰痛が無いのをさかんに確認している。


「回復(ヒール)」


「亜亜っーーーーーーー!」


 美少年は爪を噛んでビクンビクンしていた。


「快楽 負無……」


 頭は良さそうなので、じきにこちらの言葉も覚えるだろう。

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