第18話奉行所

 ついに奉行までが盗みを働いたと聞いて激怒したが、頭の中でブツリと言わなかったのでまだキレてな~い。


 今の所、上から話が通せるのは領主か大僧正程度。


 武士団と云うのは身分が低い雑兵の集まりなので、団長まで身分が低い。


 昨日からの新人事で出世していないだろうか? 次期当主として話してくれれば、奉行にも話が通るかも知れない。


「もし奉行や寺社奉行が盗みを働くようなら成敗してやる」


 寺の連中にもよく聞こえるように呟いておく、寺社奉行の捕り手と桔梗屋?一同は、死の行軍を始めて魔窟まで歩いて行った。


 この場でオークに負けさせても良かったのだが、境内でそのような行為をさせるのを寺が許さないし、昨日説教を食らったばかりなのでできない。


 この連中は魔窟に辿り着くまでに、魔物に襲い掛かって返り討ちだろう。



 ゴタゴタしていても現在禁足なので寺を出られない。


「聖男様、従魔を放っての出立などなりませんぞ」


「分かっております」


 僧正や主管まで出て来て注意された。


「僧衣を着ての話し合いでは如何でしょか?」


「聖男様は前歴がありますからな、話し合いが決裂すれば実力行使をなさる」


 その通りです、信用はゼロ以下のマイナスだ。


 大僧正と言えど奉行や寺社奉行を召喚するのも無理があり、教主だとか猊下と呼ばれるレベルでないと難しい。



 やきもきして動けないまま待っていると、武士団の一同が馬に乗って寺にやって来た。


「どうどうっ、止まれっ」


 まだ少し(///)カアアッな状態の武士団長と、女房役(性的な意味で)の副団長も来た。


「聖男殿、聞き及んでいると思うが、武士団の連中が魔石や武具を売りに行って全員捕まり申した。武士団からの申し出は一切受け付けて貰えないので、聖男殿から下賜された品だと書状を頂けぬか?」


 次期当主の申し出すら受けないので既に嫌がらせのレベル。


「宜しかろう、寺の印鑑でも貰って、武士団員が独自に魔窟から拾い上げた品だと書状を作って頂く」


「忝い」


 今の所、武士団員が盗んだと言う疑いだけで、奉行や同心が懐に入れたのは確定していない。


 それでも儲けを独り占めさせるような甘い連中ではないので、大金を持ち込まなければ釈放されるはずもない。


 曰く「儂は聞いていない」「一口噛ませろ」「甘い汁を吸わせろ」と言う事だ。


 魔石一個百両なら、最低でも二、三割は請求される事だろう。五割寄越せと言ってくれば暴れる。


 奉行が総取りでガメてしまうか、出世の為に上役に献上するか、値が張る聖銀なら直接上様にでも献上して、もっと出世を狙えるといった所か?


「汚らしい絵図を描く奴ばかりだ」


 流石地獄の三丁目で、四丁目との境が無くなった世界、商人も役人も全員汚染されている。


 今日も手柄の争奪戦か、寺社奉行もあからさまに商人の味方をしたし、奉行も同じだろう。


 破れ〇行や長崎犯〇帳のような奉行は一人もおらず、こちらが桃〇郎侍や破れ傘刀〇になって成敗するしかないようだ。


「こちらの手勢のタロウも、商人の所で魔石も武具も全部巻き上げられましてな。寺の方で商人を捕らえたはずが、寺社奉行の捕り手が来るとすぐに商人の方を解き放って、こちらを捕らえようとしたので「ていむ」して魔窟まで歩かせている所でござる」


「寺社奉行まで?」


 笑顔のままの副団長も、渋い顔をして寺社奉行所まで汚染されているのを知った。



「上人様、わたくしが代わりに行って参ります」


 若が動いてくれるようなので自動的にストーンゴーレムも動く。


「左様ですか、護衛に石の魔物をお連れ下され」


(ストーンゴーレムよ、動け)


 昨日、城の周りの丘の下に配置したまま、示威行動を取らせていた若のストーンゴーレム。それを五体ずつ奉行所と寺社奉行所に挨拶に行かせる。


 これで城の方では、今日も動き出したゴーレムを見て、阿鼻叫喚の地獄になっているかも知れない。


 それでも別に街を破壊するわけでもないし、昨日と同じく道に大きい足跡を残すだけだ。


 ゴーレムが少し消えたので、領主が調子に乗るかもしれないが、地下牢の門番はオークのまま、反乱を起こせばすぐにオーク達に負けて貰う。


「一緒にこやつをお連れ下さい」


 ケツベントリに入れたままだった馬廻役を出してやる。賢者の石の近くにいたんだから多少頭も良くなっているだろうか?


「……ここは?」


 テイムしたので多少はデレて(////)カアアッになっているようだが、まだ少し足りないようなのでギアス注入。


 こいつらには自由意志とか人権とか必要ないだろう。


「アッーーーー!」


 主人の声を聴くと馬の方にも反応があり、どうも厩の方で繋がれているようだ。


「昨日、信念殿が乗って帰った馬はおりますかな?」


「あちらです」


 さっきまで飼葉を食って水を飲んでいた馬が、本来の主人を見つけてせわしなく動き回って嘶(いなな)いている。


「主人の方は阿呆なのに、馬は賢いのう」


「おお、お主も無事だったか」


「ヒヒーン」


「感動の再開が終わったら手勢を率いて奉行所に行け、昨日と同じで聖銀や魔石は領主の預かりと言って取り返して来い。武士団には懐に隠せる物程度は持ち出してよしと言っておいたが、奉行所がどうしても金を寄越せと言うならいくら欲しいのか聞いて来い」


「ははーっ」


 馬廻役が出立して行った。



「これで書状が出来上がれば、馬廻役の力で釈放出来ましょう。魔石が戻って来るかどうかは馬廻役に任せて、売り先と武士団員への褒賞は考え直さんといけませんのう」


「左様ですな、毎回捕まったり奉行所に手数料を抜かれたり、悪徳商人に盗まれておっては魔石がいくらあっても足りませぬ」


 笑顔のままの副団長も恋人?に貢ぐ金額が減ると困るだろう。知恵が回る頭で売り先を考えているようだ。


「安くても良いなら一旦城で引き取るか、御用商人でも呼んで買い取らせるか?」


「ええ、個人で持ち込むと必ず捕まって、品物の奪い合いになりまする」


 団長と副団長で相談し、領主が持っている公金で買い取るか、目利きの商人を使って買い取らせる腹積りのようだ。


「全部小銭に替えて街中で撒いてしまえ」


 案外そうするのが一番で、町人が小銭で甘い物を買い食いするか酒場で一杯やる、それぐらいが一番平和そうだ。



 まず馬廻り役が出発したので、城まで戻って自分の手勢を連れて奉行所へ。


 書状が出来上がった後で武士団が出発。


 最後にセバスチャンを連れた若がストーンゴーレムと合流。タロウ稚児も護衛に付けてやりたかったが、輿に乗って移動速度が遅くなるので遠慮した。


 既に本人が達人レベルなので護衛は不要だろう。


 奉行所はさぞや楽しいことになるだろうが、この目で見れないのが残念だ。


 

「ケンタはおるか?」


「はっ、控えております」


「小坊主さんを何人か連れて、奉行所で何が起ったか見ておいてくれ、大事が起り始めたら小坊主さんを使いに出してくれ」


「はい、分かりました」


 まだ賢者の見習いなのに、ニンジャみたいに消えたケンタ。



 まずは魔石などを巻き上げて喜んでいる商人と奉行所。


 昨日と同じで馬廻役が行って全部ボッシュートか、強欲共がプチ合戦。


 書状が行って捕まっていた武士団員は出所できそうだが、金を寄越せと言われそうなので安心できない。


 そこに遅れてストーンゴーレムが参上、牢破りはしないまでも、若が笑顔で立っているだけで奉行所も寺社奉行所も恐慌状態で御家人逃げまくりでござるの巻、ニンニン。


 まあ作務や治療でもして気長に待っておこう。



「ああっ、奉行所に火の手がっ!」


「馬廻役の佐伯様と奉行所が合戦だとっ?」


「武士団が牢を破って逃げ出た模様」


「火事場泥棒が奉行所に入って、何もかも盗み出したそうだ」


「石の魔物が仲裁に入って、侍共が逃げ惑い、どうにか合戦が収まったらしい」


 三十分ごとに新しい情報が入って来て、楽しい結果を知らせてくれる。


 奉行や奉行所の同心が欲をかいて、魔石などを引き渡さなかったのでプチ合戦開始。


 出所するのに金を要求され、納得がいかない武士団員も合戦に呼応して暴れて牢破り。


 魔石を狙っていた泥棒も火事に付け込んで盗みを働く。


 若が率いているストーンゴーレムが五体ほど集結して、予想通りニコニコ笑っているだけで全員が逃げ惑う結果になったようだ。


「平和だなあ」


 寺の中は平和の一言で、治療待ちの住人が並んで、昨日奉納した品々で儲かっていたのか、炊き出しまでして病気の住人を歓迎していた。


「範囲治療呪文(エリアヒール)」


「「「「「「「「「「アッーーーーー!」」」」」」」」」」


 ニ、三人セキニンを取って腹を切る事態にハッテンしそうだ。



 それからさらに一時間ほどすると奉行所から怪我人が搬送されて来た。


「刃物傷と火傷だ、助けてくれっ」


「範囲治療呪文(エリアヒール)」


「「「「「「「「「「「「「「「アッーーーーー!」」」」」」」」」」」」」」」


「馬廻衆が強くて、同心や岡っ引きが」


「範囲復活之呪文(エリアリザレクション)」


「「「「「「「「「「アッーーーーー!」」」」」」」」」」


 結構な人死にが出ていたようだが、とりあえず全員復活した。


 結局、危険すぎる魔石や聖銀は領主が全部ボッシュートして買い取り。


 魔石などを買い取らずに、難癖をつけて奪い取って自分の物にしようとした商人は全員免許剥奪。


 何の権利があるのか? 意味不明の理由で金に目が眩んで自分の物にしようとした奉行が切腹。


 奉行所は半焼して、御白洲も煤だらけになって砂を入れ替え。


 商人と癒着していた寺社奉行も失脚、浪人になったので切腹した、らしい。


 色々と皮算用して「百両欲し~い」と言っていた武士団員は、ほんの一両ほどの手当てを貰って涙を呑んだ。


 対して欲をかかず、寄付だけを受け取った「坊主丸儲け」という結論が出た。


 神社は何も儲かっていない、何か奉納しに行こう。


 転移三日目は結構な休日で、骨休めにもなった。

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