第14話侵攻
重い足音を響かせてプチ地ならし部隊が出動する。
「やめさせろっ、次郎衛門っ!」
「お許し下され聖男殿、佐伯殿の無礼は拙者がお詫びいたす故(ゆえ)」
まず団長がヘタれて泣きを入れて来た。兄である領主や、前領主の愛人である馬廻役と喧嘩する覚悟は無いのだろう。
もしかして佐伯とやらが団長か領主の母親なのかもしれない。たまげたなあ~。
「おやめください、上人様」
若も故郷が燃えて無くなるのには耐えられないのか、同じくヘタれて泣きを入れた。
「若の従魔じゃ、お好きになされ」
「どうやって止めるのです?」
「強く願えば叶うでしょう」
ストーンゴーレム共は、聖男である俺の思考の影響を強く受けてはいるが、基本は若の従魔なので止めようと思えば止められる。慣れていないので止められないのだろう。
長らく自分を邪魔者扱いし続け、命まで狙ってくる連中を破壊したい願望があるのかもしれない。
「たわけがっ、昨夜寺から報告があったぞ、魔物は街に張られた結界を超えられぬわっ」
この馬鹿者はまだ物事を理解していないようなので教育してやる。
「その結界とやらは拙者が張った物、問題なく素通りできる。もし通れないなら即刻結界を解いてやる」
「何ぃっ?」
頭が悪すぎて目の前に立っているのが聖男だと認識できないらしい。
今は安物の着物を作業服にしているが、寺で着せられたゴテゴテした装束で袈裟も掛け、冠までかぶった姿でないと聖男だと思えない思考回路なのだろう。
そこで先程、城まで行った連中を思い出し、どうなったかを問い正す。
「先代の武士団長が蘇った後に報告に行ったな? どうなった」
「ふんっ、魔物に殺されてから数名だけおめおめと帰って来たのだ、どうせ魔物の使いになったに決まっておる、明日切腹を命じられて出来なければ無礼討ち、全員三途の川を渡り直す」
せっかく生きて帰った武士団長や先代武士団は、領主の逆鱗に触れて明日切腹予定らしい。
余りの理不尽さに目が眩み、周囲の光景が揺れて頭の中でブツリと音が鳴った。
「よくもやってくれたな、お主達全員を無礼討ちにしても良いが、貴殿の腹一つで納めてやる、腹を切れ」
「馬鹿なっ、拙者は馬っ……」
もう一度顔を踏みつけて馬の小便の中に漬けてやる。
この馬鹿の頭の中ではずっと、馬廻役>>>>聖男なのだろう。
「御仏の使いを舐めるな」
今度はストーンゴーレムを呼んで、ゴーレムの足で土下座させてやることにした。
「やめろ、止めないとどうなるか、ああっ! ぎゃああああああっ!」
佐伯はプレス加工機のような石の下で、皮一枚の干物になり、血だまりを作って死んだ。
団長か若の願いでもあれば後で生き返らせてやる。
生き返れなくなるまで繰り返し死ぬ拷問を与えてやって心を折っても良いし、オークに負けて人生を踏み外させて生き恥をかかせるのも良い。
「なんと言う事を……」
流石に笑顔を崩して真っ青になっている副団長。
「無益な殺生をなさいますな、聖男様」
悲惨な死に方をした人物を見て、法念和尚は涙を流した。
「聖男とは聖人ではない、もっと苛烈な力の象徴だ。地獄の蓋を閉められる力を与えられた悪鬼羅刹か荒ぶる神と言った方が良いか?」
力による驕りもあるだろうが、聖男とはそんな存在でしかない。歯向かう者や民衆の敵、善良な者の命を奪う相手に対しては容赦しない。
本当なら今日も武士団を無視して、若やタロウも連れ歩かなければ、一人でダンジョンマスターを血祭りにあげて地獄の蓋を閉めるのも可能だった。
今後もこの街を守るための人物のレベル上げをして、金を稼ぎたい少年には力を与えてやる、しかし邪魔者には死あるのみ。
「団長殿、佐伯を生き返らせて欲しければ後で蘇らせてやる、それまで犬にでも食われなければな」
「くっ」
こやつは団長の母親では無かったようだが、ナーロッパ的な第一王子派で現領主の後見人のような存在らしい。
狗や魔物が頑張れば、百トンプレスを食らった皮でも掘り出せるかも知れない。
「某を貶(おとし)め武士団に送り込んだ張本人だが、ここまでの恨みはない」
団長の身分を下げ、下郎と下種とうつけの集まりの武士団に送り込んだ連中の頭目なのだろうが、失脚しろとか死ねとは思っても、ここまで悲惨な死は願わなかったのだろう。
「さて、諸君はどうするかな? 主の仇討に、敵わないまでも一矢報いたいかな?」
「ひっ」
邪魔者と目撃者は消さなければならないが、これから百トンプレスを食らって、例え母親でも区別がつかない皮一枚の死体と血だまりになりたくはないようで、震えている馬廻衆一同。
桃〇郎侍のように毎週のように大殺陣(おおだて)を繰り返し、何の罪もない御家人を全員惨殺する訳にも行かないので、馬廻役の手下はテイムして生かしておく。
「広域治療呪文(エリアヒール)」
「「「「「「「「「「アッーーーーー!」」」」」」」」」」
治療の快楽により、馬廻衆はメスになってテイムされた。全員「ドッキーン」とか「(///)カアアッ」と擬音を発している。
恋愛フラグが立って好感度が上がるだけの効果だが、もうこうなるとギアス並みの絶対服従魔法に近い。
武士団の中でも、副団長以外は掴みかかって来るような者は居ないようなので影縫いを解除してやる。
「動いてもヨシッ」
若のゴーレムと俺が操作できるゴーレム、低速の一団を先行させているが、武士団には物理的にも止められない。
「聖男様っ、街まで焼くのはお許し下さいっ」
まず法念和尚が駆け寄って跪いて合掌し、街を焼き払うような不法を止めようと懇願して来た。
「元より街は破壊せぬ、大通りでも歩かせて城を包囲するまで」
「ははー、有難うございます」
団長たちも混乱して話し合う。
「甚九郎っ、先触れを出せっ、佐伯殿は聖男殿の怒りに触れて無礼討ち、先代団長達の切腹と三郎太の命を狙うのを中止しなければお怒りは収まらん、石の魔物が城まで攻め上っている途中だと知らせよっ!」
「はっ!」
副団長と誰かが馬に乗って早駆けして行った。
城の方では宮廷闘争などを繰り返し、音楽に合わせてダンスなど踊り、軽食と美酒を楽しみながら優雅に嘘をつき合っている事だろう。
「大変なことになりますぞ、聖男殿」
険しい表情の団長に駄目出しを貰ったが、こちらも穏便に済ませる気はない。
「大変なことにするつもりである、先代団長達を救い出す」
こちらの怒りの表情と口の周りだけの笑顔を見て、それ以上言い争うのを止めて引いてくれた。
もし邪魔をすると武士団ごと踏み潰されるのを悟ったようだ。
先代団長達を救って欲しいのは武士団も同じ、余程懇意にしていたのだろう。
「全員出て来いっ、ケツベントリ」
これ以上武士団と言い争わないで済むように、自分の周囲を千匹を超える魔物で囲んだ。
オークにゴブリン、ストーンゴーレムに地獄熊と地獄狼の群れ、日も暮れたので吸ケツ鬼やゾンビにスケルトン、百鬼夜行を超える千鬼が続々と歩き始める。
「魔物従魔衆前進っ! 先代団長を救うぞっ!」
「ガオウ!」
「アオオオオーーーーン!」
地獄狼は仲間を呼んだ。
「武士団っ、馬廻衆っ、従魔に先行して街まで戻るっ、早駆け用意っ!」
点呼もせずに走り出した武士団と馬廻衆、隊長連中は馬に乗っているが、他は軽い鎧を着込んで槍など持ったままの行軍だ。
民衆を逃がすためか、町方には悪意がない魔物だと知らせるためか、どちらにしろ逃げ惑う民衆の誘導は必要なので焦って走って行く。
ちなみに馬廻衆は全員テイム済なので俺の手下だ。武士団も治療されたり生き返った者は団長の命令よりこちらを優先する。
「走れっ、まだ間に合うっ!」
こちらの進行速度は最低速のゴーレムに合わせているが、地獄狼に騎乗したゴブリンや地獄熊は人間より速い速度で先行する。
瞬間の速度は魔物が勝るが、持久力では人間の方が勝るだろう。
「信念、誰か馬に乗せて走らせよ」
念シリーズの坊さんがいるようで、護衛の法念和尚から部下に下知された。
「これに乗って行くが良い、回復(ヒール)」
「アッーーー!」
佐伯が乗って来た馬を提示し、緊急時なのでメスにして徴発する。
「かたじけない、行けっ!」
武士以外は乗馬を許されないが、緊急事態なので街か寺までの道中を駆け抜ける。
「御同行します」
法念和尚はこちらに同行するつもりらしい、街は破壊しないが寺に不利益になる行為をするなら殺してでも止めるはずだ。
「さて、この死骸はどうするか?」
平べったい血の塊を見て、地面から剥がせないし持ち運びにも困るので困惑する。
「とりあえず生き返らせてやる、復活之呪文(リザレクション)」
ペッタンコの皮一枚から、どこかの巨人が生成されるように、ユミルちゃんが頑張ったのか骨や血管が作られて佐伯馬廻役が復活した。
「やめっ、いやだあああっ、殺さないで」
死の瞬間の恐怖が拭えないのか、生き返っても取り乱し続ける佐伯。今後も頭を抱えてガタガタ震えて壁に向かってブツブツ言い続ける人生が開始された。
「回復(ヒール)」
心を修復する機能はないがとりあえずテイム。
「アッーーーー!」
馬廻役も治療の快楽によりメスの顔になってテイムされた。
魔物の数も多かったので渋滞が発生した。全部ケツベントリに入れたまま飛行魔法で飛んで行った方が早かったが、街と城に脅威を与える暇ぐらいはくれてやろう。
何も知らないまま城を破壊して、何が起ったか分からないうちに首を飛ばしても面白くない、切腹を言い渡された連中のように、魔物千匹に襲われる死の恐怖をたっぷりと味合わせてやる。
「地獄狼とホモゴブリンだっ」
「地獄熊もいるぞっ」
「太刀打ちできん、命がいくつあっても足りんぞ、逃げろっ」
先頭が街に近付き怒号が響き渡る、レベル十程度の一般人では素早い地獄狼に対処できない、三メートル近い熊など百人がかりでも無理だろう。
「豚鬼に吸ケツ鬼だっ、どうするんだよっ?」
城門の上の方で見知った顔があったので、こちらも先行して挨拶に行く。
「よう、いつもの門番じゃないか、逃げんのか?」
武士団と先触れに言われ、南門は閉じたようだが逃げ遅れている門番。
日本人的に職務に忠実で、職場で命を落とす覚悟で残っているのかも知れない。
「あんたは聖男とか抜かした奴、魔物に囲まれて何してるんだ? そうかお前が操ってるんだな」
顔面蒼白だが門を守る気概に溢れる表情をして槍を向けてくる門番、レベルも低いのに立派なことだ。
「門を開けよ、壊すには忍びない」
周囲に堀はあるが門前の吊り橋までは無いので、土の通路があってストーンゴーレムでも通れる。
「誰が開けるかっ、開けたらこの街はおしまいだっ!」
最後まで門を守って住人の避難でも助けているのだろう、戦う腕は無いのに立派な志だ。
「お前には言っておらん、武士団、馬廻衆、開けよ」
「ははーっ」
門の中で守っている振りをしていた武士団と馬廻衆が大門の閂(かんぬき)を抜いた。
「開門っーー!」
「ああああああっ!」
門番達の絶望の声が響き、南門が開かれて地獄狼や地獄熊達が街中を駆けて行く地獄絵図が展開された。
武士団から民衆には害がない従魔と説明は受けているはずだが、魔物を使役するような人物は存在しないので信じられなかったようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます