第8話おい、何してるんだ?

 夜になって休めるように布団がある部屋に案内された。


 若を守るなら同室の方が良いが、助けた時にメスの顔をしていたので夜中に布団に潜り込まれて「おい、何してるんだ?」「チュパチュパ」的なお約束があると困るので別室の方が良いだろう。


 お約束ならば買ったばかりの奴隷ょぅじょや欠損系のょぅじょがベッドに潜り込んで来て、「おい、何してるんだ?」が嬉しい展開だが、この世界では望めそうにない。


「失礼します」


 小坊主が障子を開けて入ってきて茶や菓子を置いたが、帰らずに部屋にとどまった。


 障子の向こうにも体格が良い僧侶が護衛として待機している。


「わたくしは一哉と申します、今宵同室させていただきますので、御用があれば何でもお申し付けください」


「は?」


 ちょっと片肌脱いでソッチ系の顔をして、明かに誘っている美少年で細身の小坊主。


 成人している聖男に酒も肴も出さない寺だが、寺や教会と言えば男子児童への性的虐待。


 そちら方面の娯楽は豊富らしく美少年を宛がわれてしまった。


 今夜はジャニさんみたいに「YOU来ちゃいなよ」「チュパチュパ」「ぬふうっ!」をしなければならない窮地に陥ってしまった。


 これは「俺の弟をファックして良し」な状態で、据え膳食わぬはなんとやらな訳だが、小坊主で童貞を捨てる訳にはいかない。


「さ、どうぞ」


 小坊主は寝巻を脱いで畳み、一つしかないダブルサイズの布団に入った。


「いやいやいやいや、そう言うサービスいらないからね、厠の場所も教えてもらったし、お茶もあるし、もう帰って良いからね」


「ご遠慮なさらず、さあ」


 何が「さあ」なのか知らないが、布団を持ち上げて誘ってくる小坊主。


「聖男様はもっと逞しい殿方の方がお好きでしたか? それとも先ほどの若様と?」


 この世界で、さらにこの寺では「女の子が良い」と言う選択肢が無いようだ。


 もしこの子を追い出すと、外にいるガチムチで髭が濃そうな森のクマさん系統の僧侶がオッスオッスと入って来て、足りなければさらに若い寵童がやって来る手筈なのだろう。


「違うからね、殿方はダメだからねっ、拙者は普通に女の子が好きで……」


 腰が抜けたように後ずさる俺に、ふんどし一丁の美少年が迫って来る。


 ちょっとバタバタして騒がしくしていると、隣の部屋から誰かが来て障子をスパーンと開いた。


「上人様っ、何をなさっておられるのですっ」


 まるで浮気を咎めるような表情の若が来てしまった。え? もしかして修羅場?


「これこれこういう訳で小坊主さんが帰ってくれない」


 事情を説明しても、夜伽に自分を呼ばなかったことに怒っているのか、若の機嫌が悪い。


 その間、小坊主の方はまるで事後のように、体をくねらせながら「受け」の身のこなしで、色っぽく寝巻を着て身なりを整えた。


「若、聖男様はそのような下劣な趣味はございませぬ、お気を確かに」


 セバスチャンからのナイスフォローで、ソッチの趣味がないのを説明してもらえた。


「今宵はわたくしもこちらで寝ますっ、爺っ、布団をこちらにっ」


 今度はもしかしないでも、自分から俺の布団に潜り込むつもりで同衾しようとたくらむ若。


 このままでは「おい何してるんだ?」「チュパチュパ」コースか、目が覚めたら全裸の若がメスの顔をして腕枕と言うパターンになってしまう。


 いや、最悪のジジイと同衾していて朝に若にシバかれるコースか?


「一人で寝かせて~~っ」


 そうこうしている間も、若が俺の布団に入ってしまって、無言で隣に入るように布団をポンポンと叩いている。


「聖男様、今宵は私共(わたくしども)の寝所にも私の寝床はありません、こちらでご一緒させていただきますね(ニッコリ)。若様はこういったお世話など、ご経験など無さそうですし、全て私にお任せください」


 小坊主は笑顔のままこちらを向きながらも、若に向かって嫌味を言って宣戦布告するという器用な行動をした。


「上人様っ!」


 小坊主の放言なのに拙者が怒られたでござるの巻、ニンニン。


 結局、若の布団に小坊主、ぴったり引っ付いた距離に俺、隣に若が寝て両側を美少年に挟まれて寝る配置になった。


 セバスチャンは若の貞操に気を配る立場なのだから、是非反対して欲しかった所だが、自分だけ安眠を求めたのか、若の初夜を邪魔しないようにしたのか、自分一人で隣に退出した。


 配置にもめると何度かガチムチの僧侶が入室しそうになったが、どうにかそれだけは阻止できた。



「ううん」


「だめえ」


 両腕に美少年が絡みついて、就寝後も「当ててんの」も両側から実行された俺。


 どうにか手の甲だけで阻止して、手を裏返されて手のひらや指で包み込むように配置されるのも阻止した。


 何度か「おい何してるんだ?」「チュパチュパ」の危機に陥ったがそれも阻止できた。


 普通なら美少女に囲まれて、ょぅじょにまで迫られて「もう勘弁してくれよ(笑)」と言うパターンになるはずだがリアルに?


「もう勘弁してください」


 と言う羽目になったの巻でござる、ニンニン。


 翌朝、結局半裸になった美少年が両側にいて腕枕、という末路を歩んだ俺。手の甲と腕は汚されてしまったが、聖男として貞操は守り切れたと思う。


 警護役?のガチムチの僧侶にもその状況を観察されて「聖男様は美少年の寵童でご満足なされた」「若様もご同衾なされたので聖男様はそちらがお好み」と報告されてしまったらしい。


 その後、朝飯食って牛乳飲んで出撃する前に、法衣をやたらゴテゴテと着飾らせられ、袈裟まで掛けられた。


 独鈷杵だか不動明王の利剣を持たされて攻撃力も下がった。


 本物の倶利伽羅剣なら炎を纏っている利剣のはずだが、青銅製の仏具らしく攻撃力が無い。


 出動した所で全部脱いで保管、元の攻撃力と防御力にしてからダンジョンに入らないといけない。


「聖男様、ご出立です」


 やたら仰々しい儀式と鳴り物で出立の儀式まであった。


 和風の寺の鐘が鳴り響き、ナーロッパ世界とは違う雰囲気で出立する。


 まずは武士団の屯所で初顔合わせ、その後オーク達と合流、道中で魔物を討伐しつつ魔窟到着と言う段取りらしい。


「聖男様、ご同行出来て光栄です、わたくしは法念と申します」


 護衛を仰せつかった武僧から話しかけられるが、最下層まで行くには到底無理なレベルなので実は足手まとい。


 同行する僧侶数人はレベル60程度の武僧で錫杖のメイスを装備している。


 僧侶的に他者を傷つけるのが前提の刃物は持てず、撲殺する系統の武器を持ち、このレベルだと回復魔法だけでなく、氷雪の呪文など攻撃魔法も使えるはずだ。


 若やセバスチャンまで同行するので、レベル上げしまくってからでないと下層階には入れない。


 やがて境内に出ると、昨日治療した者たちが野菜や銭を持ってきたらしく、托鉢の器で受け取っていた。


「おや、今日は托鉢に出かけんでも良さそうですな」


 現代の葬式仏教の金、金、金の生臭い廃課金システムではなく、托鉢や寄進によって細々と収益を上げている寺。


 永代供養一聖地500万円などと謡っておきながら、坊主の世代が変わると会員制に切り替えて毎年集金して見たり、墓参りの案内を出しても返事がなかったり墓参りに来なかったら一瞬で墓石を撤去して積み上げ、空いた場所を永代供養一聖地500万円で売りに出す金の亡者。


 墓石に数人名前を刻むと「もう彫る場所がありません」などとうそぶいて石板を置くのに数十万円、一人分名前を彫ると10万円とか言い出す生臭すぎる集団とは少々違う。


 まず住人や檀家が貧しすぎて野菜や米でしか支払いができない。墓石なんてのは大金持ちだけのもので蘇東坡を立てられたら金持ち、荼毘に付せられたら金持ち、棺桶買って土葬にでもできれば金持ちの世界。


 この時代の香典システムというのは、どうにかして葬式代をかき集める互助会システムだ。


 この世界では死人(ゾンビ)や食人鬼(グール)にならないよう、何人かまとめて火葬されるらしい。



「聖男様っ」


 住人の中からタロウの他に、昨日の包帯欠損系の少年が治った元気な姿を現した。


「ああ、タロウに昨日の少年」


「ケンタと申します、昨日はありがとうございました」


「そうか、治って間がないから無理はするな」


「はい」


「タロウの方はお父つぁんは大丈夫か?」


「うん、おじちゃんのおかげで生き返ったって言ってたよ」


「そうか、これから魔物討伐だからお主も一緒に行くか?」


「うん」


 魔物を討伐すると「鹿を狩ったら現金五千円」みたいな褒章システムがあるらしいので現金が稼げる。


 昨日はそのままテイムしてしまったが、討伐の証拠に耳や牙などを取っておくと役場で換金してくれるそうだ。


「聖男様、これからはタロウのようにご一緒させて頂きます」


「え? ああ」


 ケンタは既に狂信者の目をしていて目の色が普通の奴らと全然違う。


 一緒に着いて来るのは決定事項で、魔物にでも襲われそうになったら自分の命を盾にする気マンマンの、シャヒードでも命を弾として散華する気もマンマンの狂信者が完成してしまった。


 タロウが気安く「おじちゃん」などと呼んでいるのすら気に食わないようだ。


「一緒に行くと格(レベル)も上がるし報奨金も出る、危険な所までは行かないから安心すると良い」


「いえ、地獄の底までお供します」


 ヤバイぐらいの狂信者ができてしまった。若やタロウと仲良くしていると、二人とも暗殺されそうだ。


「双方むき出しの奈良刀ではないか、昨日の奴らの刀でもやろう」


 拾って来たのか盗んできたのか、錆びた包丁程度のナイフしか持っていない二人。


 大人用の大刀は身長に合わず、地面を切るか自分の足でも切りそうなので、無頼漢共から奪った小刀を予備も入れて二本づつ手渡した。


「生涯大事に致します」


 ヤダ、この子何でも重過ぎ。


 防具も2セット欲しい所だが、武器屋と言うのも存在するのかどうか分からない。


「セバスチャン殿、若様の防具のお古でもあれば、こ奴らに分けてやって貰えぬか?」


「は、用意しておきます」



 寺を出ても同行する坊主の数が多すぎる、それもレベルが低すぎる僧侶職、このままではダンジョン内など到底入れそうにない。


 昨日大僧正が使ったような籠は小さすぎて入れない上に、この体重で身長だと二人掛かりで持ち上がるのかどうかも不明なので断った。


 移動中もずっと経を唱えているので見世物状態の行列、毎日これをやられると死ぬ。


 それから半時(一時間)もかけて、念仏を唱えつつ移動する遅い集団が、ようやく武士団の屯所に到着した。


「ようこそおいで下さいました、聖男殿御一行」


 笑顔のまま「そんな大勢付いてくるんじゃない糞坊主」と苦言を呈してくる副団長。


「副団長おん自らお出迎えとは痛み入ります」


 護衛の僧侶も笑顔のまま「聖男様を血生臭い魔窟になど連れて行くんじゃねえ糞ったれ」と見事な返答をした。


「さあ、団員が待っております」



 敷地内に入ると郷士や町人農民の団員の舐めるような目線の品定めの洗礼を受ける。


「へへっ、まだ前髪も降ろしてない餓鬼がいるぜ、俺が剥いてやろうか?」


 これがベルサ〇ユの薔薇なら、近衛隊に転属した〇スカル様が決闘して力でねじ伏せないといけない連中だろう。


 もしかしないでも生活が苦しくて刀や銃を質入れしたり、物資を横流ししていても団長から罰せられず、アンドレからの提案で隊員の貧しさを知り、団長の資産で買い戻すような結果になり、隊員も感動して心酔しているのかもしれない。


「ふえっへっへっ、ふるい付きたくなるような美少年だぜ」


 どいつもこいつも一癖も二癖もありそうな腕っこきで、エリ〇88のアフリカ編に出てきそうな傭兵揃い。


「ヒッヒッヒッ、いいケツした餓鬼まで連れてるじゃねえか、あの懐き具合、毎晩たっぷり可愛がってやってるんだろうなあ?」


 きっと子供を連れ歩くうちに打ち解けて、子供の命を救うためなら自分の命を惜しまないで、盾になって守って死ぬようなヘタレに転向するに違いない。


「貴様らっ、いい加減にしろっ!」


 隊長らしき武士が下種な連中に呆れて黙らせようとするが余計に火が付いた。


「若様~~、俺と一緒に寝てくれよ~~、いい思いさせてやるぞ~~」


「「「「「「ぎゃはははははは」」」」」」


「屑どもめっ、黙らんかっ、聖男殿の御前だぞっ」


 ここで殴りかからないような奴は舐められて、スクールカースト最低のナードに入れられるそうなので、全員に精神を注入してやることにした。


「影縫い、沈黙」


「なっ?」


 沈黙の呪文も追加してやり、悲鳴を上げるのも禁止した連中の前まで行き、全員に腹パンを入れて行く。


「げふうっ!」


 内臓が破裂しないよう多少手加減してやったが、全員体が持ち上がるぐらい飛んで、背中に衝撃波が突き抜けて木の葉が揺れた。


 カーフキックを入れるまでもなく全員腹を押さえて地面に転がり、目と鼻と口とケツから汁と具を出して悶絶している。


「団員の教育が悪いようですな、少し教育しておきましたが宜しかったかな?」


「は、はい……」


 治療とテイムは後回しにして、団長と挨拶する間は地獄の苦しみを味合わせておくことにした。


 起床から武士団長の部屋に行くまで一刻(二時間)以上を要した。

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