第9話団長に会う
やっと団長との面会が果たせる。
屯所と言うだけあって平屋の長屋で、他は団員多数が雨風をしのげる程度の掘立小屋と物置。
城門の近くで、外側にも内側にも出動可能な寄合場所。
人命が二束三文で、新しく入った連中も初回の出動で簡単に死に、長いこと居る連中もいつでも死んでも普通の出来事、遺品も遺言もあったもんじゃない。
福島第一に集められたような「死んでも構わない連中」「命がいらない連中」が屯(たむろ)している場所だ。
太秦にあるような現代の技術で立てられた、どこかの藩の江戸屋敷や京都の詰所を使っている豪華なものでは無く、ナーロッパ世界の異様なまでに豪華な城でもない。
韓流映画やボリウッド映画の歴史物も、やたらと住処や衣装が豪華だが、李氏朝鮮時代でも藁ぶき屋根の掘立小屋が普通で、ソウルの街中は馬糞や人糞だらけ、兵士の鎧まで染色されていない綿の服。
バラモン僧の服はオレンジではなく糞掃衣。
工業用機械など存在せず、人力だけで組み立てられる限度の長屋レベル。家賃はタダだが排泄物は家主の物、という賃貸住宅システムが成り立っていた時代の代物。
浅葱色の連中や赤報隊も多分ここと同じで、碌な装備もなく大小の刀2本と敵味方識別の法被(はっぴ)程度、全身鎧など配給されず、鍋はあっても鉄兜は無い。
二八蕎麦がダジャレで十六文だった頃に、命が草鞋(わらじ)より安い。
「たのもう」
護衛の僧侶と若、セバスチャンだけで入室する。他の者は狭いので全員は入れず、外で待たせるしか無かった。
「おや、おいでになったか、ささ、男所帯で汚い所だが、遠慮せずどうぞ」
真ん中に暖炉がある部屋で車座になって、ござを編んだような丸い物に着席する。
「鳴り物を鳴らして読経しながら来る行列で到着が遅くなった、申し訳ない」
「いや、こちらこそ団員が失礼した」
木と紙で出来た長屋なので、外の出来事など筒抜けだ。邪魔な袈裟などを脱ぎ捨てながら、お互いの非礼を詫びる。
実務的な人物らしく、喧嘩腰で非難の応酬から始まらなかったのはありがたい。
副団長と護衛の僧侶の笑顔の応酬は続いている。
まずは顔合わせに部屋にいる人物の自己紹介と挨拶を済ませた。
「早速だが、町の南に開いている地獄、今の所、立ち入り禁止にして誰も入らせていない。と言うか入った者は大抵帰ってこれない魔窟だ。そこから魔物が溢れ出して難儀している」
ゲーム内設定では、小さな口が開いたダンジョンから弱小な魔物だけがすり抜けて来れて、強大な力を持つ魔物は何かのイベントが無ければ出て来れない。
「うむ、火責めと水攻めを考えておるが、出来そうですかな?」
ダンジョンは普通の3Dダンジョンだけで、中で広大な空間が広がっていたり、次のフロアに入ると日の光が当たる草原が広がっているような前例は無かった。
ゴブリ〇スレイヤーさんのようにハイエルフに禁止されていないので、火責めか水攻めを馳走してやる。
多分、入口を閉鎖しておいて、熊をイメージしたファイアボールでも多数打ち込み脱酸素してやると、リッチとかスケルトンとかゴースト、ゴーレム系の魔物以外は死ぬ。
「これは大掛かりな? 谷川から水を引いて来るとなると大工事。火責めとなると藁や薪がいくらあっても足りませんぞ」
笑顔のままの副団長が「経済的に無理、人手も足りません、資材搬入も集めるのも無理」とやんわり拒否してきた。
「心配無用、拙者の土魔法か火魔法で出来る範囲でやり申す、問答はまず現場を見てからに致そう」
「以前、拙者共で斬り込んでも、一階層を見回るのがせいぜい、何人も討ち取られて這う這うの体で逃げ帰った所です」
隊長クラスの人物が発言したが、顔に大きな爪痕が残り、片目を失ったのか眼帯、大きな痣も消えないで残っている。
これは乙女ゲーで、地位も身分も高く超絶美形で長身でスタイル抜群でありながら、顔の傷と痣(あざ)だけで容姿にコンプレックスを抱いているキャラで、聖女の治療魔法で治るか、傷を気にしないヒロインが気に入ってフラグが立って攻略可能、ハッピーエンドと言う系統のキャラだ。
「痛々しい傷ですな、まず御挨拶代わりに治療して進ぜよう、範囲回復(エリアヒール)」
「おおっ」
まず団長や副団長、一番隊隊長の古傷が回復した。屯所の外でも団員のうめき声が消えて行った。
武士団はテイムしていないのでまだまだ逆らいそうだが、駄目ならオークに負けて貰う必要がありそうだ。
「円崔、顔の傷と痣が治っておるぞ」
ここで手鏡など持っている人物でもいれば「まるで女子(おなご)のような」とか数千の英霊に怒られてしまうので、小柄を出した副団長が、漆塗りの鞘や磨き上げられた刀身に顔を映してやり、一番隊隊長も「え? これが私?」みたいになっている。
「目が」
眼帯を外して失明していた目が治っているのにも気付き、感動の涙を流し始める。
「かたじけない、まさか目まで……」
テイムまでは出来なかったが、心のパンツはビリビリに破いてやったので一番隊隊長からの好感度が異様に上昇した。
でもフラグを立ててしまったので告白とかされると困る。
そうこうしているとドタドタと誰かが走って来て、会議中の部屋に転がり込んで来た。
「御注進っ! 南門周辺に豚鬼と小鬼多数出現っ、街を遠巻きにしてこちらを伺っておるようですっ!」
どうやら待たせ過ぎたようで、昨日置いてきた豚鬼共が迎えに来たらしい。
「数はっ?」
「豚鬼将軍一っ、豚鬼二十っ、旅小鬼(ホモゴブリン)二っ、小鬼五十っ!」
オークジェネラルやホモゴブリンの数まで同じなので、昨日テイムした奴らで間違いない。
「豚鬼将軍だと……」
武士団長以下隊長連中の顔色が、青から土気色に変化した。
オークジェネラルってそんな怖い魔物だっけ? 序盤プレイなんか忘れて麻痺してるなあ、まあレベル50ぐらいだと集団でも死ぬか?
「なんとっ!」
珍しく笑顔を崩した副団長も、右手に取った刀を腰に挿して出動しようとしていた。
レベルが低い武士団隊士なら、この数だと大半が死んで隊が壊滅する程度の強敵だろう。
「人質と思われる者も多数確認されておりますっ」
食い詰めた浪人共もオークにたっぷり可愛がられて、子連れで来ているらしい。
「武士団出動っ! 失礼っ、中座させて頂くっ!」
「いやいや待たれい、その豚鬼共は拙者が昨日従魔にした連中だと思われ申す」
驚かせてしまったようなので種明かしはしておく。
「しかし人質がっ?」
「昨日、若様のお命を狙った浪人共がおりましてな、懲らしめるのに豚鬼と小鬼を宛がってやったのでござるよ、まずは御一緒しよう」
「豚鬼将軍や豚鬼をニ十体も従魔に?」
青ざめて武士団と街が壊滅する危機を恐れていた一同も、どうにか落ち着きを取り戻し、それでも慌てて装備を整えてから出動した。
ここで問答していても何一つハッテンしないので、まずはオークに負けてしまったと思われる連中を回収し、地獄が開いた場所の下見にも行く。
読経しながら歩く連中は魔窟で即死するかもしれないので帰し、死んでも構わない連中やレベル上げした仲間は連れて行く。
まず団長や隊長連中の武士が馬に乗って出撃、徒武者(かちむしゃ)の雑兵は槍を持って走って行く。
「逃げろっ! 豚鬼が出たっ!」
「どけーーーっ!」
関所や門は大騒ぎで、豚鬼と小鬼を恐れて逃げ戻って来る住人多数、外から来た者も木札を翳(かざ)しながら駆け込んで来る。
「おや、昨日の門番ではないか?」
慌てて出て行く武士団と一緒に関所を通り過ぎようとしたが、昨日足止めさせられた門番を見付けた。
「昨日押し通った奴だな? 何故武士団と一緒なのだ?」
「豚鬼が出たのは聞いておるな、拙者が行かないと皆食われて(性的な意味で)街が壊滅してしまうぞ?」
「は?」
「聖男殿っ、お早くっ」
「身分は明かしたぞ」
門番を陥れたり、ざまあしている暇はないのでオークどもの処置に急ぐ。
オーク達と多数のゴブリン囲み、槍を持ってガタガタと震えている武士団一同。
この数で押し寄せられると、レベルの低いものは連れ去られて子供を産まされ、武士団や門番が蹴散らされると、街中の若い男が全員孕まされる事態にハッテンする。
相手がオークならすぐに負けてしまい喜んで子供を産む羽目になるが、ゴブリン如きに後れを取ってヤられた場合「くっ、殺せ」では済まないほどの恥辱だそうで、周囲にバレるとハラキリ物らしい。
「おお、お前らか、たっぷり楽しんだか?」
「ブヒーー」
オーク達は昨日の浪人共を差し出した。子供を抱いて母の顔になって、穏やかな表情で子供に乳をやっているのを、頭を掻きながら紹介した。
「見て、あたしの赤ちゃん、可愛いでしょう?」
ゴツくて汚らしいオークの赤ん坊を抱き、こちらに見せびらかす浪人共。
地獄絵図を見せられ、心あるものは目を逸らした。
「これはこれは、メスの顔どころか母の顔になったか、菩薩の表情だのう」
昨日あれだけ険しい顔をしていた浪人達が、目を細めて我が子を抱き、大きく張り出してしまった乳房から乳を出して子オークに吸わせている。
「ありゃあ、お尋ね者の半端物でねえか?」
「弥太郎……」
農民か町人出身の武士団員が、顔見知りの野盗を見付けて震える。
食い詰めて武士団に入ったか、野盗になったかの違いだけで、何か歯車の掛け違いがあれば、自分もあちら側でオークに負けて子供を産まされていたのだと思ったのだろう。
「お主らもあちらに行っても良いんだぞ? 拙者や連れに何かすれば、今日にでもあちらに送ってやる」
「ひいいっ」
一度オークに抱かれてしまうと社会復帰は無理で、若いうちに老衰で亡くなるまで何度も子供を産まされる。まあどちらが幸せなのかは語るまい。
「あれだけゴツイ物を産んだんじゃから、もうケツの穴は駄目だろうな?」
今後クソは垂れ流しになるか、括約筋が切れてガバガバ。使い物にならなくなり子供も産めなくなると子オークに食われるそうだ。
「どうじゃ、お主も子オークの餌になるまで子を産むか?」
「そ、それだけは勘弁してくださいっ」
失礼だった武士団員も、その末路だけは歩みたくないらしい。
「こ奴らだけでなく隊長連中まで怖がるのでケツベントリに入っておれ」
「ブヒー」
最後にオークジェネラルが姿を消すと、ようやく団長や副団長の緊張がほぐれ、震えていた武士団も逃げ惑っていた住人達も落ち着きを取り戻し始めた。
「あれほどの恐ろしい魔物、それもあの数、一体どうやって従魔にしたのだ?」
団長ですら恐れる数十体のオーク、総勢百人にも満たない武士団では防げないのだろう。
「では、道中実践してみますかな?」
昨日と同じ要領で魔物達を呼ぶ、街を離れて森に近付くほどに魔物の気配が増え、地獄の猪や狼に囲まれ始めた。
「左翼が魔物と接敵っ! 総数五十を超えますっ!」
通報する笛の音を聞いた馬に乗った侍が、どこかの調査兵団ぐらいに慌てふためき、頭の天辺から声を出して報告した。
「どれ、拙者が「ていむ」して進ぜよう、影縫い」
春花の術まで馳走してやらなかったが、腹パンも入れて瀕死にして下ごしらえ完了。
「ケンタ、お主が一番、格(レベル)が低い、止めを刺して来るとよい」
「はっ、分かりましたっ」
「タロウ、討伐部位を切り取って全部銭にして良いぞ」
「本当っ? こんなに沢山」
ケンタには経験値を、タロウには銭になるよう手柄をくれてやる。
「まさか、威圧だけでこれだけの魔物を動けなくするとは?」
暫く待つと処理が終わったようなのでテイム作業に入る。
「範囲復活之呪文(エリアリザレクション)」
「おおっ」
広範囲に倒れている魔物を一度に甦らせ、テイム用の魔法の指?を複数出現させる。
「回復(ヒール)」
「「「「「「「「「「アアッーーーーーー!」」」」」」」」」」
今回もオークや地獄熊が増え、いつもの狼や猪、地獄鹿などもテイムできた。
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