第3話旅小鬼(ホモゴブリン)も懲らしめる
少年と一緒に街に向かう途中、後から馬の足音が聞こえて来て、砂煙を上げて何頭かが走ってきた。
「若っ、お逃げ下さいっ、某(それがし)がここで食い止めまするっ」
「爺っ!」
老齢の武士が停止して下馬、まだ前髪も上げていない元服前の若侍は、戸惑いながらもこちらに向かって来た。
結構距離があるのと慌てているので、向こうはこちらに気が付いていないようだ。
「何事か?」
その後ろからは狼に乗った数十匹の小鬼(ゴブリン)が押し寄せ、ひときわ大きい鬼もいた。
「あれは?」
鑑定スキルで魔物の正体を探る。
旅小鬼(ホモゴブリン)? いや、ホブゴブリンじゃなくてホモゴブリンなのかよっ? ルビが小さくて気が付かない所だよっ。
ホモゴブリン 旅小鬼
ゴブリンと同じくメスの個体は存在せず、人間の若い男を攫っては子供を産ませる地獄の小鬼。
サムライや騎士などはゴブリンに犯され子供を産まされるのを恥と感じていて、事後に切腹を命じられることも多いため、捕まる前に自害するサムライが大半。
ゴブリンの子供まで生み落としておいて、おめおめと生き残ると、お家断絶の危機に陥る。
「何だよ、男に子供を産ませるって、どんな地獄だよ」
ここは地獄の蓋が開いてしまった世界なので文字通り地獄。それも地獄の四丁目らしいのでコキュートスが近い結構な地獄だ。
先日、古代ギリシャでは他人の恋人の美少年を寝取ったような奴は、衆目環視の中で縛り上げられ、ケツに大根(ラディッシュ)や魚を突っ込まれる恥辱刑を受けると聞いたが、この世界のサムライもゴブリンに捕まってレイプされ、子供まで産まされるのは耐えられない、らしい。
やがて若と呼ばれた少年もホモゴブリンとゴブリンに回り込まれ、馬が嘶(いなな)いて立ち上がってしまい立往生をした。
「助太刀いたすっ、少々待たれいっ」
俺もゴブリンに向かって走って行ったが、多勢に無勢、年配の武者はたちまち複数のゴブリンに取り囲まれて斬られ刺され、若侍も馬上で刀を振り回すばかりで、抵抗も空しく落馬させられてしまった。
今度こそ貴族令嬢や姫を助ける展開かと期待したが、今回も若様だった。
「若っ、若ーーっ!」
必死の形相の年配の武者も、軽装を切り裂かれて小手を切られ、ついに刀を取り落とす。
ゴブリンたちは老人が子供を産めないのを知っているのか、嘲笑うように剣や槍で責め立て、若侍の方に行けないように邪魔をする。
「最早これまでっ! 無念っ!」
刀を取り上げられてゴブリンに押し倒され、袴をはぎ取られた若侍は、早々に諦めて舌を噛み切り、懐中の小刀を出して自分の首を刺した。
「あああっ~~~!」
絶望の声を上げた年配の武者。そこでようやく俺も到着し、魔法?を放った。
「カゲヌイ~~ッ!」
まずニンジャとしてゴブリンとウルフどもを麻痺の魔法、影縫いの術でその場に止める。
「フフフ、風下に立ったウヌの負けよ((C) 白土三平)」
顔が白土三平調になり、先ほど拾い集めておいた痺れ薬の毒草を粉末にして撒き、風魔法で魔物どもにも吸わせる。
「ぐああああっ」
春花の術(C 白土三平。出典 サスケ、カムイ外伝 課題図書)を食らった魔物どもは、影縫いの後に痺れ薬まで食らい、その場に倒れた。
伊賀の影丸の木の葉隠れの術にも似ている。
「若様っ、若~~~っ!」
痺れ薬が効いたまま若侍に這い寄り、自分も腹を切ろうとして小刀を拾う年配の武者。
「そこの御仁、介錯を頼めるか? 若様の亡骸も城に届けるか事情を知らせてほしい」
涙でヌレヌレのジジイを何とか落ち着かせ、若武者を抱き起す。
「待たれい、まだ間に合う」
怪しい熊装束の人物に介錯を頼む年配の武者を押しとどめ、まずは若侍を復活させてみる。
「復活之呪文(リザレクション)」
まだ心臓も止まっていなかった若侍は、すぐに息を吹き返してヒットポイントも3ぐらいに回復した。
「おおっ、黄泉帰りの術とは、どれほど修業を積まれた上人(しょうにん)様か?」
この世界では余程修業を積まない限り、復活の呪文が使えないらしい。
「回復(ヒール)」
指を若武者の口の中に入れ、喉に詰まった血の塊を吐き出させ、スペペーッ!(C 小林よしのり)と噛み切った舌にも治療呪文を掛ける。
「うぶう、ぶちゅうっ」
美少年の口に指を突っ込んで回復していると、やはり光のモザイクが飛んできて手を隠し、余計に卑猥な絵面になった。
「ぬう、いかんっ、一度命を落としているから効きが悪いっ」
熊装束を脱いで肌を合わせ、膝の上に抱き起して下から回復させる。先ほどと同じ円光和尚スタイルで横抱きをする、茶臼スタイルではない。
「南無妙法蓮華経(ヒール)」
「アッーーーーーーー!」
(事案発生ですが真面目な治療行為です)
若侍もメスの顔をしてビクンビクンして、回復による快楽のためか愉悦の表情をした。
「アアッーーーーーーーー!」
よく考えると奇跡の呪文を使って復活させ、1レベル下げられて経験値の差分を埋めた方が良かったかも知れない、そこの所は次回の課題として考えよう。
「ふうっ」
(治療に)満足した俺は美少年をジジイに託し、熊装束を着込んでチャックを上げた。
「わ、若様っ! かたじけないっ、若様のお命をお救い戴いて、どのように感謝すれば良いのかっ?」
まだ涙でヌレヌレのジジイの腕の中で若武者が目を覚ました。
「爺?」
やはり若侍はメスの顔をしていて、残念ながら俺にテイムされてしまったようだ。
「おおっ、若様、こちらの上人様が小鬼どもからお救い下さって、蘇りの魔法で若を復活させて下さったのです」
「し、上人様……」
潤んだ目で頬を紅潮させて上目遣い、これが美少女なら早速戴いていたところだが、美少年なので断念した。
「ささ、其方も酷い怪我ではないか、治療して進ぜよう」
ジジイの傷は浅かったので、指突っ込むところまで行かずに済んだ。
「危ない所であったな、拙者はタケルと申す者。どうやらこの魔物達は誰かに操られていたようじゃ。お二方、お命を狙われる心当たりは?」
ジジイは目を伏せて悲しそうにして、恥じらいながら答えた。
「恥ずかしながら、今、我が城ではお家騒動の真っ最中。若様は兄上からお命を狙われ、護衛も付けてもらえずお母上の墓参りを命じられ……」
涙で言葉に詰まってしまい後が続かなくなる、母親が下賤の出で差別されているパターンか。そこでジジイが跳ね上がって後ずさりをする。
「もしや? そこまでの腕前に魔法、貴方様は幕府からの隠密ではっ?」
何か勘違いをされてしまったようなので、嘘をつくのも面倒なので本当の事を告げる。
「いやいや、拙者は異世界から呼び出され、聖男?として地獄の蓋を閉めるように仏から仰せつかった者。隠密ではござらんよ、ははっ」
「せっ、聖男ですと? ああ、ありがたや」
目を丸くして驚くジジイに更に言葉を続ける。
「この世界に連れて来られて間もないもので右も左も分からん有様、これからあの少年に街まで連れて行ってもらっておる所だ」
追い付いてきた地獄熊と一緒に少年も歩いてきた。
「あれは地獄熊っ、あのように恐ろしい魔物が何故子供とっ?」
真っ青になって驚くジジイを見て、Cレベル程度の魔物を恐れるのを訝(いぶか)しむ。
「いや、あの熊は拙者が使役(テイム)し終わった従魔でな、安心してもらいたい」
「おいらタロウって言うんだ」
三流の魔物程度で驚く所を見て、若侍とジジイのレベルも鑑定しておく。
「レベル10?」
若侍の経験が浅いのは仕方がないとして、年配の武者まで新入り程度のレベルで驚かされた。
文官なのか、ただの世話係なのか、ゴブリン程度にも後れを取るようでは今後も命が危ない。
「レベルとは?」
この世界の住人は鑑定眼がないのか、レベルで人の強さを測る手段がないようだ。
「どうかな若様? あの魔物共を殺せば格(レベル)が上がるのは間違いない、一度試して見ては?」
若侍に痺れ薬が効いた魔物を倒すように促す。まだ若く幼い若侍は、倒れている魔物を殺すような覚悟は無いようだった。
「命を保つため、あのような魔物など、経験値の助けにしてしまなさい」
刀を握り、覚悟を決めた若侍がゴブリンとウルフを殺して回る。
まだ経験が浅かった若侍はレベルが3上がった
「申し遅れました、某(それがし)は背場巣張(セバスチャン)と申します、若様の幼名は三郎太様と申します」
ジジイの本名に度肝を抜かれて驚きを隠せないが、外国人ではなく愛のニックネームだと思われる。
魔物達も別人からテイムを受けて操られていたが、俺の再テイムを受けて復活、従魔として登録された。
俺達はゴブリン数十匹、ホモゴブリン2匹、地獄狼数十匹、人間四人、馬4頭、地獄熊一匹、と言うパーティー編成で街の城門を目指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます