第2話地獄熊をこらしめる

「ふう」


 どうやら名前を連呼するのが正解だったようで、ゴロリと転げ落ちて目が覚めると全裸で草原の中にいた。


「どこだ、ここは?」


 遠くに城塞都市が見え、これがセイ*トマッスルなら股間からケツのキンニクと太もものキンニクの間から都市を俯瞰する。


「残念、そこは私のおいなりさんだ」


 性器がないような聖人とは違い、お稲荷さんと小便をするのに便利な竿が付いている俺。風でパタパタとおいなりさんが揺れ、全身を風が通り抜ける。


 放送に適さない状態なのか、即座に光のモザイクが飛んできて股間を隠す。


「凄い筋肉だ」


 両腕の筋肉もポパイみたいな凄い筋肉量(バルク)で、腹筋は6つに割れていて、胸筋と二の腕の筋肉がぶつかって脇が閉まらない。


 細マッチョだった高校生から体も成長し190センチ超えの大男になり、シュワちゃんみたいなミスターユニバースも夢じゃないようなマッチョな体に変化していた。


「ちょっとプヨってるな」


 大会や撮影の為に用意した、血管が浮いてるようなカッチカッチでムッキムキの仕上がった体ではなく、筋肉に栄養を与えるために脂肪もある体、こうでないと全裸なら一瞬で風邪をひいてしまう。


「神様か仏様か知らないけど、パンツ一枚ぐらいは着せて欲しかった所でござる」


 コマンドー(ぱんつはいてない)な状態なので、何か装備や手持ちはないかとインベントリを探したが、インベントリ自体がない、文字通り裸一貫だ。


「寸鉄すら帯びておらぬ、何? インベントリじゃない、ケツベントリではないか?」


 収容場所が異空間ではなく、ケツの中のキンニクに挟むように収容されるらしい。テイムした魔物まで収容できると書いてある。


「ステータス」


 お約束のステータス表示が出ないかと草原の中で大声で叫んでみる。


ステータス 職業 ニンジャ

経験値 120562478 レベル 3200(次のレベルアップまで11562478)

力 32612

魔力 62155

装甲 22511

素早さ 24668

知力 22654

幸運 18659


 どうやら育ててきた中では最高の賢者にしてもらえたようで、サービスでニンジャに転職もしている。


 それでも賢者とニンジャの経験値の差額?を要求されるので、次のレベルアップには1千万以上の経験値を要求されている。


 差分を消して通常の経験値で済ますには、どこかでバンシーとかヴァンパイアでも探してエナジードレインでも喰らわないといけないが、ここまでレベルが高いとまず状態異常を食らわない。


「おお、魔法も使えるではござらんか」


 全ての回復魔法と攻撃魔法も使える状態、しかし話し言葉が時代劇調に自動変換されるのが気になる。

 回復魔法も攻撃魔法も範囲攻撃も問題なく使えるようだ、この程度なら魔力の減りが少ないのでほぼ無限に使える。


「街にでも向かってみるか」


 全裸の男が街に近づくと事案発生だが「追剥にあってふんどしまで取られた」と説明するしかない。どれだけマニアックな追剥だよ。


 以前オークションで相撲部の男子高校生が3年間使っていた「ふんどし」が高額落札されたことがある。

 ふんどしは基本洗濯をしない。洗濯をしない。(大事なことなので2回言いました)


 男子高校生が3年間青春を全部かけて、熱い汗や涙や変なおつゆまで全て吸い込んだふんどしが高額落札された。


 使用法としてはまず匂いを嗅ぐ、頬ずりしてみる、小出しに切り落としていって鍋などで煮込む、などが考えられるが、なんともマニアックな人物がいるものだと感心した。


 葉っぱ隊みたいに葉っぱで隠してみたが、魔法?でも張り付かないので腰みのを作ってみたが、その程度ではブランブランして一向に隠れてくれない。


 諦めてしばらく歩いていると、絹を裂くような少年の悲鳴が聞こえた。


「あああああっ!」


 ここでは普通、美少女や貴族令嬢、命を狙われている第3?王女などを救って惚れられたり、そのまま護衛に雇われたり家庭教師に雇われたりするのがお約束ではないだろうか?


「どうしたっ?」


 駆けつけてみると地獄熊に襲われている少年を見つけた。既に一撃食らっているらしく跳ね飛ばされて転がっている。


「助けてっ!」


「うむ、今行くぞ」


 地獄熊、全長3メートル近い獰猛な地獄の熊。時速60キロ以上で走行し、木に登って逃げようとも人間よりも木登りが上手いので一瞬で捕まえられて捕食される。


 9ミリ38口径程度の拳銃では全く歯が立たず厚い毛皮も骨格も貫通できない。眼球から脳への一点を狙わない限り倒すことができない。


 俺は急いで少年と熊の間に割って入り、熊の攻撃やヘイトをこちらに引き付ける。


「来いっ」


 熊は素人丸出しのテレフォンパンチを繰り出してきたのでダッキングでかわして素早く後ろに回る。


「ニンジャにそのような攻撃は通じぬ」


 がっちりとバックチョーク、いかに体力があろうと脳への血流が止まれば倒れる。


「アッーーーーーーーーー!」


 後ろからマウントしたような状態で、紛らわしい悲鳴を上げる地獄熊。


 裸締めを振り払おうと暴れ、後ろ手に腕を振るうがマッチョ過ぎて手が後ろに回らない。顔や腕に爪が当たるが気にしない。


「うむ、この鋼鉄の肉体に、そのような貧弱な爪は効かぬ」


 この世界の忍者とはレベルが上がるごとに装甲値が上がる、寸鉄も帯びていない状態が最強なのだ。


 着物程度は許されているが、手裏剣一個装備しただけで回避値が下がるのか、凄まじいまでの装甲が失われる。


「拙者はあと一回の変身を残している」


 腰みのを取った状態になるとニンジャの能力は最高になる。剣や槍を装備した方が攻撃力は上がるが、3万を超える腕力(かいなじから)から繰り出される攻撃を耐えることはできないのだ。


「出来る、出来るのだ」


「ボキュ」


 更に締め上げてやると首のあたりから変な音を出して、首の骨が折れたか頭蓋逞骨折でもしたのか地獄熊が絶命した。


 野生動物は後ろに倒れる事は無いので潰される心配はない。


「無益な殺生をした」


 どこかのハンターのように子育て中の母熊を殺した嫌な殺しではなくオスだったが、地獄の熊とは言え殺生をしてしまった。


「まずはその毛皮を寄越せ」


 魔法?で熊の背中にチャックを取り付け、毛皮を剥いで一皮むいてやる。


「乾燥」


 生活魔法?で内側のぬめりを乾燥させてから全裸の上に着込む。


 装甲値が落ちたが全裸のまま城門に行ったり、街中を歩いたりするよりは大分とマシになった。


 地獄熊は憐れな因幡の白兎のように、皮をはがれた無残な死骸をさらしていた。


「哀れな。うむ、拙僧が「ていむ」して進ぜよう」


 皮をはがれ仰向けに倒れている熊を抱き起こし、まずは復活の呪文を馳走してやる。


「復活之呪文(リザレクション)!」


 首の破損が回復したのか生き返ってヒットポイント1ぐらいの状態の熊。すかさず開いた口に腕を突っ込み内側から回復してやる。


「回復(ヒール)」


 どこかの奴隷魔術のディアブロがレムたんのナカに指を突っ込んで、封印されていたょぅじょの魔王を引っ張りだしたように、内側からやると効果が上がるのだ。


「うぶうっ、ぶちゅう、ニチャア」


 絵面が汚かったのか、すかさず光のモザイクが飛んできて俺の腕を隠したので、余計に卑猥な構図になった。(注:治療行為です)


 剥いだ皮も回復し黒い皮膚が戻って来た。毛はまだ生えて来ないのかトゥルンツルンの熊が出来上がっていく。


「やや、下半身の回復が悪いではないか?」


 口から手を突っ込んでいるためか下半身の回復が悪い。


「仕方ない奴じゃのう、下からじゃ」


「アッーーーーーー!」


 腰に手を当てて治療してやると地獄熊は悲し気な悲鳴を上げた。


(注:治療呪文です)


 改悪ではない治療呪文を送りこんでやると、今度は回復魔法による愉悦のためか、歓喜の声を上げる熊。


 地獄熊はメスの顔をして頬を紅潮?させビクンビクンして爪を噛んでいた。


「ふうっ」


 俺はチャックを上げて熊の毛皮を着こんでから立ち去った。


 それから、忘れていたわけではないが熊に襲われていた少年に向き直った。


「どれ、怪我などしておらんか?」


「ヒッ」


 一連の地獄絵図を見終わった少年は、身を固くして小さく悲鳴を上げた。


 もし怪我をしていれば熊と同じ目に合うと思っているのだろう。


「た、食べないで(性的な意味で)」


「食べないよ(ニッコリ)」


 笑顔で対応したが少年の怯えは消えなかった。


 かばんちゃんとサーバルちゃんのようだったが、俺は現在熊の毛皮を着ているので絵面が怖いクマくま〇ベアーだ。


「ぼくは、わるいスライムじゃないよ」


「え?」


 お約束のネタは通じなかったようなので、とりあえず近寄ってみる。


「む、いかん、足が折れているではないか?」


 俺はドリーム〇ンター麗夢3で、雨に濡れてしまった美少年をひんむいて体で温めた円光和尚のように、少年を抱きかかえて体の接触面積を増やした。


「アッーーーーー!」


(事案発生ですが接触治療しているだけです)


「南無妙法蓮華経」


 僧侶としてありがたいお経を唱え少年の傷を癒す。


 ちょっと後光が差したり蓮の花が開いたりしたが、やっぱり光のモザイクが飛んできて余計卑猥な構図になってしまった。


「ふう」


 少年も癒し終わった俺は、一仕事終えたため息をついてから、チャックを上げて熊の毛皮を着込んで立ち去った。


 少年も「治療の」快楽によりメスの顔をして、熊と同じようにテイムされてしまったようだ。


「その足では家に帰るのも大変だろう、送って行こう」


「う、うん」


 抱きかかえたりお姫様抱っこしたり肩車すると事案発生で通報されてしまうので、くまゆるみたいな穏やかな表情になった地獄熊に載せて少年を運ぶ。


「家は街中かな?」


「うん、そうだよ」


 貧しい着物姿の少年は、病気の家族のために薬草を取りに来たそうで、危険な森の中まで入ってしまったようだ。


「そのご家族も治しに行こう。家に美人のお姉さんとか居ないかな?」


「いないよ、病気なのは父ちゃんなんだ」


 美人の姉はいなくても、せめて美人の未亡人とかがいれば、治療のために未亡人下宿に居座ろうかと思ったが、母親を早くに亡くして父親と二人で暮らしているそうだ、残念。


 俺達は城門を目指した。

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