第3話 手紙は届かなかった
来客を告げるベルが鳴る。会社指定の寮にはガバガバセキュリティのエントランスがあり来客は訪問する部屋番号を入力して呼び出すあれだ。なのでインターホンのモニターにはその来客の姿が写っている。
「どうぞ」
解錠してやり来客が自動ドアを通るのを見届けた俺は玄関先で対応すべく服を着る。
程なくして今度こそ玄関のベルが鳴りドアを開ける。そこに立っていたのは
「あれ?ヒロキ?郵便屋さん来てなかったか?」
モニターに映っていたのは郵便マークのついた帽子を被った男だった。だからこそ誰なのか用事も聞くことなく解錠したのだが。
「いんや。さっき鳴らしたのは俺だよ?」
そういやLINEで“もう着く”と連絡が入っていた。じゃあさっきのは──
「まあ、寝起きで変な夢でも見てたか?それより暑い、入れてくれえ」
「お、おう。麦茶でいいか?」
ヒロキを中に通して、俺は扉を閉めた。
「変なハガキが届いた──って話、だよな?」
「そう、それがさ」
たしか麦茶でいいと言っていたはずのヒロキは、冷やしてあったチューハイを開けて飲んでいる。
「これ」
朝方、休みの日で寝起きの通知チェックしているとヒロキからのLINEで“なんか変なハガキが届いてたから見せに行くわ”という写メでいいだろ的な連絡に“わかった”とだけ返した俺。どうせ暇なんだから構わんがそのチューハイは俺の好きな味で最後の一本だったのに。
「ん?これってこの間の──」
裏面には朝顔がプリントされた普通の暑中見舞い。しかし問題は表──宛先の書かれた面、だった。
「“あて所に尋ねあたりません”だって?そりゃあそうだろ。この間のやつ2枚書いていたのか?」
送ったはいいが届けられなかった時に送り主に差し戻されるやつだ。けどあんなところに本当に収集に来るわけもない。そもそもが天国宛てというふざけた内容なんだから。
「ここまでがオチだったわけか」
ヒロキのイタズラはよくあるが今回はかなり雑だ。いや、いつも雑だけど。
「いや、そうならよかったんだけど、ここ。これ覚えてるだろ?」
ヒロキは“よかったんだけど”と言う。じゃあ悪い何か?ヒロキの指差す先にその答えがあり、言いたいことが分かった。
「──郵便番号」
そこだけは複製不可である。なぜなら先日の郵便ポストの前で投函直前に“俺が書き足した”ものだからだ。その筆跡も間違いなく俺のものである。
「それで“あて所に──”ってわけか」
郵便番号が7桁になった時にその利便性は上がったわけだが、それでもさすがに番地は書いておかないと普通届かない。
「じゃああそこは普通の郵便ポストとしても使われている、のかな?」
形自体は正規のそれだったんだ。もしかしたらそういうこともあるのかも知れない。俺は仕方なく別の味のチューハイを開けて喉に流し込む。休みの日の朝から飲むのは最高だ。
「まあそう。そうなんだけど──」
なんだかヒロキは浮かない顔をしている。チューハイよりはビールの好きなコイツのことだ。どうせ飲んで車も運転出来ないんだ。この後は居酒屋にでも行こうかね。
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