第4話 お届け物は
「実は郵便局でちゃんと回収していて、その訳の分からんイタズラが送り返されたんだもんな。きっと配達員も苦笑いだと思うと少し気恥ずかしいもんかな」
ヒロキはハガキの表を見て、裏を見て──俺にまた手渡す。
「宛先不備はその通り、なんだけど」
そう、郵便番号だけで届くほど俺は有名人でもない。有名人なら届くのか?分からんけど。
「そのハガキ──」
俺が改めて両面を見て、また見返して気づいて探して口をポカンと開けた辺りでヒロキはやっと言った。
「差出人の名前も住所も書いてないんだよ」
ヒロキの言葉と同じタイミングで、ベルが鳴る。
ビクッとした俺はチューハイを取りこぼして床にひっくり返してしまった。
「くっそ。ああもう、誰だよ」
モニターを見るとそれはエントランス側ではなくこの部屋の扉の前が映っていた。そうだ、今のはエントランスのではなくて玄関のインターホンが鳴らされた音だった。そしてそこに映っているのは。
「なにそれ、郵便屋さん?」
床を拭いてくれたタカオもモニターを見て呟いている。
「そう、さっきタカオの来る前に鳴らしたのがこの人。ちょっと出てくる」
俺はそう言い残して玄関でサンダルに足を突っ込み、鍵を開けてドアノブを──取る手を掴まれて鍵とチェーンを掛け直された。走ってきたヒロキによって。
「ど、どうしたよ?」
「タケシ、お前──今どきあんな帽子被った郵便屋さんとか見たことあんのか?」
「えっ──」
俺は一気に身体が冷えたような感覚に襲われた。確かにカブに乗っている人も軽バンに乗っている人も、被っているのは見たことない。少なくともあんな郵便マークのついた真っ赤な帽子なんて。
2人ともしのび足でモニターまで戻る。もうさっきのやりとりで物音だらけなんだから意味はないだろうけど。
改めて映したモニターには相変わらずの郵便配達員が映っているが、俯き加減のその顔までは伺えない。
「今の、あいつらのユニフォームはキャップみたいだな。少なくともこんな配管工のあいつみたいな色の帽子は──ない」
スマホは便利だ。どうやら配達員も被っている時はあるようだが、それでもデザインは全く違うそうだ。
「あの、顔を見せてくれますか?」
それでも、こんな白昼堂々と出てくるものではないだろう。実在する人間で、もしかしたら郵便局の何かしらの記念日なのかも知れない。そんなのがあるのかは知らないが。俺はそちらの可能性の方が当然高く、次にイタズラか不審者だと思う。まだ昼間だし。なのでマイクで問いかけてみたものの
「反応ないな」
タカオもモニターを凝視するがピクリとも動かない。
「こいつ、暑くないのかな?」
再度声を掛けてみようと思ったのだが、扉の開け閉めの音がして少し待つことにした。やがてモニターの端に見えたのは、メリハリのあるボディラインをしたお隣の女子大生だ。この時期は目の保養になるとタカオと2人で喜んでいたお隣さん。そして右から左へと歩く姿に、今回は2人とも声を押し殺していた。漏れ出そうな情け無い声を。
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