第12話,恐ろしく巨大で寛大で悍ましい

その姿を何に例えたらいいだろう。

何類かと言われると確実に虫なんだけど、何虫かと言われると途端に答え辛くなってしまう。


シルエットとしては蜘蛛に近いが、胴体部分は平べったい感じで蠍を連想させる身体付きだ。


紫色のゴツゴツとした甲殻の所々から毛が生えており、呼吸のたびにそれが震えている。


そしてこちらに向けてグッと近づけられた顔は虻にそっくりである。


全長は14〜5メートルは有りそうかな。

もはや生き物というより建物と話してる気分。


『おやおや、そんなに女性をジロジロ見るのはいけないよ。でも偉いねぇ、ワタシを初めて見た子は大抵叫び声を上げるんだけど』


言葉はどうやら口で発しているわけではなさそうで、口吻はあまり動いていない。


「お姉さんが僕らの太守様ですね!初めまして!!」


僕が元気よく口を開くと一瞬動きを止めて、すぐに周囲に風が巻き起こるほど体を震わせて笑い始めた。


『アッハッハッハ!お姉さん?ワタシにそんなこと言った子は坊やが初めてだよ!お姉さんだってえ?!アッハッハッハ』


ビリビリと震える空気と共に噴き出した魔力が威圧感となり体が縦に揺れる。


あ、ちょっと気が遠くなりかけた。


僕のモットーである誰が相手でも笑顔で挨拶が無ければ耐えられませんでしたね。


『はー、久しぶりに笑わせてもらったよ。それで。坊やの名前はなんて言うんだい?』


「僕はグリムです!グリム・シュガーボックスです」


『シュガーボックスって事はバクスターの小倅の子かい。可愛いねぇ、可愛いねぇ。お前達はみんな本当に可愛いよ』


バクスターと言うのは僕のお父さんの名前です。


「あの、それでこれは一体どう言う事なんでしょうか。お父さん達には太守様にお会いしてくるように言われただけなんですが」


『ああ、そうだね。まぁ用事というならもう半分済んだんだけどねぇ。そうだね、一先ずワタシの名を教えてやろうかね。私の名は『ターシュ=ノエグラ=マグラ』。お前達は太守と呼ぶね」


その名を聞いた時ぐわり体が揺れました。


それは『力ある言葉』と呼ばれる類のものだったから。


この世界では、存在が魔法そのものといった絶大な『力の化身』とも呼べる存在達がいる。


が何と呼ばれる物なのかは種族や勢力によって様々だけど、ゲームに置いてはこう呼ばれていた。


即ち、


異形の王ゼ=アスの一柱オールド・ワン…」


『おや、坊や良くそんな言葉を知っているね。

そうさね、ワタシは定命の者どもが言うとこの異形の王ゼ=アの一つだよ。…でも妙だね、ここの子らはもちろん周囲にそんなことを触れて回るような奴らは居ないはずなんだがね』


僕の呟きに反応した彼女は、その丸々とした体に敷いていた腕を浮かせて僕をひょいと摘み上げて目の前まで持ってきた。


その腕はまさに昆虫のそれであり、端くれだった細長い腕に細かい繊毛がびっしりと生えており、先端にはヌラヌラと奇妙な輝きを放つ爪が6本生えていた。


手のひらだけでも僕の体の倍はあろうかと言う大きさのそれで優しく、優しぃく僕を摘み上げている。


僕は初めて人間につままれる虫の気分を味わいましたが、ただ掴まれているだけでも自分を簡単に握りつぶせる存在にやられると凄まじいストレスですね!


『地虫どもを通じて村を見ていたよ。坊やはとても普通の子供じゃないとは思っていたが、俄然興味が湧いたね。あぁ、ああ。そんなに震えなくても大丈夫だよ。何も取って食いはしないさ。と少しお話しして欲しいだけさね。見ればアンタ何かね。坊や、アンタは一体何なんだい』


キラキラと光を反射して赤々と煌めいている複眼に映る僕の顔は、流石にちょっぴり強張っています。


「なるほど〜、僕の事についてお話しすればいいんですね!聞いていただけますか?聞くも涙語るも涙の僕のお話を!!」


ええい、こうなったらヤケですよ。


変に取り繕って気に触ったらなんかこのままプチッと行かれそうですし。


僕は自分の事を特に隠し立てする必要もないですしね!


















ところで混じってるって何?

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