第6話
「何する?」
そう言ってトキは軽やかに滑り台の上に腰掛けた。
なんのこと?
私があまりにも呆然とした、だらしない顔をしていたのだろう。宙ぶらりになっている足をばたつかせながら、トキは一人でに話を進めた。
「一緒に遊んでくれるでしょ。僕、ちょうど暇だったんだよ。そうだ、コンビニにでも行こうか」
「いや、私お金ないし」
「僕が奢る。セブン行こ」
そう言うなりふわりと滑り台から飛び降りて、ふりむきもせずに歩き出した。
ちょ、これついて来いってこと?マジでなんなのこいつ。
しかし、このあまりにも非常識なコミュニケーションが心地よかった。年齢も、住んでいる場所も知らない人と、無人で無機質な世界の中、ただ淡々と言葉を繋いでいく。全てがどうでも良くなる。身じろぎもできないハリボテのコミュニティも、本当はどうでもいいのに掴んで離さなかった好感も、目の前の人に対する嫌悪を必死に隠そうとしたオモテの自分も_____
目の前で、私より頭ひとつ分くらい小さい後ろ姿が小刻みに揺れている。
こいつの前では何をしても意味がない。何をする必要もない。誰も見ていなくて、誰にも繋がっていない。殺されそうなほど憎まれたら、明日には会わなければいいのだ。
「____バカかよ」
「何?」
「こんな時間にさ、公園で絡んできて。私が殺人鬼だったらもう逃げらんないよ?」
自然と口角が上がった。
ああ、今私最高に悪役みたいな笑い方してんだろうな。でもなんだろ、今最高に楽しいわ。子供っぽく言うと、わくわくしてる。
「バーカ」
鏡の中でばけ狐が嬉しそうに笑っていた。いや、鏡じゃない。トキだ。
トキはさらににやけた顔で私を見つめた。
「大丈夫だって。僕こう見えて結構強いんだぜ。それにコトちゃん今ついてきてくれてるじゃん。もし殺人鬼だったらとうに殺されてるって」
「コトちゃん…って。まさか私のことじゃないよね」
「君のことだけど。こと…何とかって名前だったじゃん確か」
「まあいいけど」
ウィーン
コンビニの自動ドアが私たちを察知して開く。足を踏み入れると同時にピロリロ、
と聞き慣れた電子音がなる。流石に暗闇の中を歩いてきたので、人工的な白い光に目が眩む。
トキは目を細めながら真っ直ぐお菓子コーナーと書いてる看板の方に向かった。
「お前いくら持ってんの」
「200円」
「すっくな」
色とりどりのパッケージを眺めながら、小声で話す。
へえ、今時お菓子ってこんな種類あるんだな。
そんな馬鹿みたいな感想を考えているうちに、気がついたらトキが両手に2つの商品をなぜか自慢げに持っていた。
「これなら買える」
サイダー味のシャーベットアイスを持ってレジに並ぶトキの横顔を眺めながら、
「いや、相談しろよ」
と呆れながらつぶやいた。
バリバリ
外側のパッケージを剥がし取ると、淡青の表面がキラキラと光っていた。まるで…
「宝石みたい」
隣を見ると、トキはすでにその宝石にかぶりついている。
シャキ
アイスと歯の間で涼しげな音が鳴り響く。うっすらと放つ冷気が指先に当たるのを感じる。少し地面より高い滑り台は案外座り心地が良くて、アイスを片手にごろりと寝転がりたくなる。
「て言うかさ、トキって結構イケメンじゃね」
「まじ、うれし」
「いや、さっき明るいところで見たらなんかモデルみたいな顔してんなあって」
「じゃあモデルになろっかなあ。それで稼いだらまたアイス奢ってやるよ」
「いや、私あんまり借りは作りたくないから」
「じゃあ今日の分は?」
「えーっとじゃあ……明日またくるわ。そのとき奢る」
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