往・古
今日も彼女は挨拶をする。
「こんにちは」
そして私はそれに返す。
今までならそこで終わっていたはずなのに、今日はなぜか続きがあった。
「あなた、いつもご飯をここで食べてるじゃない。お友達は?いないの?」
--私と彼女が出会ったのは、やっと桜が満開になった頃だ。
入学から一週間とちょっと。周りの子はどんどん新しい友だちを作っていたが、当時はまだ、クラスで気軽に話せるような人がいなかった。よって休み時間のたび感じる居心地の悪さ。あの子また一人でいる、みたいな目で見られるのは、慣れているとはいえ知らない人も多い。勝手がわからないこともあって、疲れていた。
特に昼休みの昼食。
クラスメイトの大半が友人とともにワイワイと食べているのに、私だけは自分の席で一人黙々と食べる。
時折聞こえる悲鳴みたいな声や、女子の黄色い声。どこからともなく流される噂話に、最近の流行り話。混ざりたいけど、混ざる勇気が持てない。成長しても受動態でしか動けない自分が、惨めに思えてならなかった。
ふと屋上に足を運んだのも、このままは無理だと心のどこかが悲鳴を上げていたからかもしれない。
学校の屋上というものはなぜかよく、小説などで話題に挙げられる。
そんな印象もあって、まあ何となく、どうにかしてつまらない日常に終止符を打とうと行動しただけなのだろう。
誰もいない階段を登り、行き止まりにあったドアを開けた。
もしかすると鍵がかかっているかもしれないという心配をしていたのに、それを裏切られるほど、ドアはあっさりと開いた。
「こんにちは」
まさか人がいるなんて思いもしなかった私は、掛けられた声に反応できなかった。
「こんにちは」
もう一度、おなじことをおなじように言われた。
「こんにちは......?」
今度は返すことができた。
しかし彼女からの返しはなく、そのまま空の方を向いてしまった。
彼女は屋上の扉を開いてまっすぐ向いた先の柵に足を浮かせて腰掛けていたから、普通なら、危ないとかそんなかんじのことを思うのだろう。
でも私はそんな彼女の姿を、すごく綺麗だと思った。
それと同時に、こんなに青空が似合う人は他にいないと思った。
この人をずっと眺めていたくて、私は彼女が見えるところに座った。
びゅうと吹いた風が、彼女の長い髪と私の髪を揺らす。
髪の毛に視界が遮られたら、彼女は消えていなくなりそうだった。
さっきの挨拶から、彼女は私に一瞥もくれない。
いないもの扱いしているのではなくて、単に興味がない人がとる態度だ。
他者とともにいることに疲れている私にとって、とても心地よい空間だった。
こうして私は、彼女がいる屋上へ通うようになった。
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