私達は、死に場所を探す

涼水 ゆい

空蝉

 さわり、と木の葉が揺れた。そのまま風は窓を気にせずやってきて、私を撫でて過ぎ去った。短い髪が、かすかに揺れる。

 気付けばもう、高校生になって初めての春が終わろうとしていた。

 換気のために開けられている窓は、ついこの間までその景色一面に鮮やかな桜の花を見せていたはずだ。それなのに、その場はもう、爽やかな緑に取って代わられている。それがどうにも、私の気に食わなかった。


 出会って間もないひとたち。使い古された教室のもの。敷地の中に点在している大きな幹の樹。

 いままでこの学校で過ごした人の名残はそこら中にある。だけどそれらは感じ取れるだけで、私達が昔を知る理由になれない。集団の中での生活は、水を通して世界を視たようにちぐはぐで曖昧だ。まるで、合わせるための焦点がはじめからないかのような錯覚を覚える。


 新しい生活が始まって一週間経とうが一ヶ月経とうが、教科によって楽しさに違いがあることは変わらない。今の授業は外れだった。中身が理解できないわけではない。ただ単に先生の話がつまらなさ過ぎる。それこそ、聞いていて眠くなるほどに。そうだとしても、あまり欠伸をするのは良くないので、適度に噛み殺しながらノートをとる。


 果たして、本当に意味のない時間は何なのだろうか。無駄にしている時間とは。駄弁っている時? 聞き流している時? それとも、停滞している時? 全ては平等でなければいけないが、同時に全てに価値は必要だ。ならそれを決めるのは誰。私? 他人? いるかわからない観測者と呼ばれる人々?

 わからないのは楽しいが、わからないままなのをつまらないと思うのはまた、当然のことなのだろう。


 キーンコーンカーンコーン。丁度話のきりがいいところでチャイムが鳴った。散乱していた思考が一つにまとまり、過去になりゆく今に集中できるようになった。


「今日はここまで。範囲のところの宿題をしてくること。号令」 

「起立、気をつけ、礼」「ありがとうございました」


 中学校から変わらない挨拶とともに、授業が終わる。

 さあ、昼休みの開始だ。ある人は弁当を買いに行き、ある人はさっきまでの授業について話しながら、さっそく昼食を広げている。ほんと、クラスの人同士の結び付きが強くてなによりだ。

 そういう私も、一緒に食べないかと誘われた。


「ねね、もしよかったら一緒に食べない? 相原さん、いつも教室にいないみたいだから、たまには」

「ごめんね。先約があるんだ。また今度誘ってくれない?」


 先約があるというのは嘘だ。具体的な約束として口に出していないので。だがもう雨の日以外はあそこで食べると決めている。

 にべもなく断って、自前の弁当を片手に私はひとり、教室を去った。

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