第17話 本当の強者
別館の西側にて…
「ウガッ…!」
「グギャッ…!」
「ぶぐわあああ!」
傭兵達は次々と倒れていた。
傭兵達を倒していたのはムスビだ。
「…(やはり別館にも敵は多いな)」
本館で騎士達を殆ど倒せたが、それでも別館には傭兵が控えており、既に20人以上と戦っていた。
「ウガアアアアアアアッ!!?」
そして周りの敵を全員倒せたムスビは近くにある階段に向かおうとしたが…
「待て!ハァ…そこのお前!ハァ…止まれ!」
その言葉をかけられたムスビは足を止めて振り返った。
「…お前は」
「俺はハァ…セブンス・グラット!お前もハァ…屋敷に入った侵入者か?」
「…そうだ」
「やっぱりそうか!ならお前を捕まえた後、ハァ…さっきの吸血鬼を捕まえてやる」
「…(やはりその火傷の痕はミレアの火の魔法で間違いなさそうだな)」
「ハァ…お前達も油断するなよ!」
「も、もちろんです!それよりグラット様も無理をしすぎです」
「…思ったよりボロボロだな」
「ふんっ…!敵に心配なんてかけられる俺では…ないぞ!」
グラットはそう言って斧を振り下ろすが…
「避けられた!お前達奴を…!」
「お任せ下さい!」
「うおおおおおおおおお!」
傭兵達はムスビに続けて襲い掛かるが…
「…遅い」
「うげっ…!?」
次々と返り討ちとなってしまった。
「お、お前達!く、くそ…!」
グラットは再びムスビに向かっていくが…
『バシィィィッ!!』
グラットは腕に棒を叩きつけられ、グラットは持っていた斧を手放してしまった。
「あぐあっ…!?」
続けて顔を棒でフルスイングで殴られていた。
「…終わりだ」
「ぐっ…!お、お前…!何故こんなことを…!何故グリド兄さんに逆らう…!」
「…不思議な質問だ。事情を理解しているなら心当たりぐらいあるだろう」
「クソッ!お前こそ理解していないのか!グリド兄さんはこの国にとって重要な人なんだ!それに逆らってこんな真似して…、この国の皆からしたら迷惑極まりないぞ!」
「…迷惑か。まあ、否定はできないが。では逆に聞くが何故ミレアを、お前らは吸血鬼を狙う」
「そんなのグリド兄さんが欲しがってるからだ!グリド兄さんはこの国の皆が豊かになるようずっと頑張ってるんだ!それに吸血鬼を捕まえればもっと皆の生活が良くなるってグリド兄さんも言ってたんだ!」
「…皆の為に吸血鬼を?」
「そうだ!この国の農家とか漁師とか大工とか色んな人がお金に困ったら兄さんはその人らを助けてきた!俺のところの傭兵だって助けてもらった!お金がないと皆お腹が空いて不幸になるんだ!でもそんな困ってきた時にはグリド兄さんが皆を助けてきたんだ!」
「…それで何人もの人間をその幸せってやつの犠牲にしてきたわけか」
「それが世の中だ!誰かの幸せは誰かの不幸の上に成り立つものだ!だったらせめて今ある幸せだけでも続くように頑張るだけだ!」
「…誰かの幸せを望む心があるなら、何故他人の不幸を考えない?何故不幸を撒き散らす?」
「黙れ!子供のお前には分からないだろう!今ある幸せを維持するってのも大変だっていうのが!」
「…そうか、残念だ」
「ぐふっ!!?うぐぉっ…!!!」
「…幸せを分かち合うこと、そこに犠牲を認めたらどうしようもないだろう」
ムスビは階段を駆け上がっていった。
場面は少し戻り、グリドの屋敷から離れて王国内の川辺へ…
「そっちはどうだ?」
「隊長!通報のあった十四か所全て見ましたが大きな被害はありませんでした。また、怪しい者の目撃情報も今のところ…」
「そうか…。それにしても川で煙が上がっていると通報があったから来てみたが、誰が一体こんなことを…」
「わざわざ川辺で放火してくれたおかげですぐ鎮火出来ましたがいったいどういうことなんでしょう」
「悪戯でしょうか?」
「しかしそれにしてはいろんな場所でこんなことする意味はないんでは…」
「まあ、大火事になってないだけいいですよ」
『ドガガガガガ、ドガガガガガガガガガガガガガッガッシャーーーーンッ!!!!ガガガッガッシャーーーーンッ!』
静かな夜に轟音がほんの一瞬響いた。
「!?」
「なんだ今の音は!?」
「音はどこからだ!?」
川辺に集まった騎士達は混乱していた。
複数箇所で煙が上がっているという通報があり、川の近くを捜査していたが、手掛かりがつかめていないその矢先に急な轟音が響いたのだ。
轟音はグリドの屋敷からのものだ。
そして煙を上げたのは…
「良かった。ムスビちゃんの作戦通り上手くいったよ」
ミサキだった。
『ダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッ…』
ミサキは再びグリドの屋敷に向かって駆け出して行った。
そして場面は別館のムスビに戻る…
『バタンッ!』
ある部屋の扉をムスビは勢いよく開けた。中には二人の男が居た。
「はじめまして僕はセブンス・グリド。坊やは吸血鬼の仲間かい?」
一人はムスビ達が狙うセブンス・グリド、そしてもう一人はグリドのボディガードのザイコーである。その二人とムスビは対峙していた。
「グリド様、お下がりください」
「…」
ザイコーは前に出て、ムスビの前に立ちふさがった。
「まあまあ、君なら楽勝でしょ。坊やここまで来るの大変だったろう?騎士やグラット達とは戦ったのかい?」
「…(この男…俺より強い…)」
「何も喋らないな坊や」
「でやああああああああああ!!」
「…!」
ザイコーは声を上げてムスビに切りかかった。大剣の横薙ぎがムスビに襲い掛かる。
(ギリギリか…!)
ムスビは何とかその攻撃を避けていた。
(避けたか…だが…!)
『ブオンッ!』
「グッ…!」
追撃の蹴りがムスビに直撃した。
「…」
「次で殺す」
『バーーーーーーーーーンッ!!』
「…!(ミサキ!手筈通りやれたんだな)」
「ん?」
「ぬ?なんだ今の爆発音は…」
『バシューーーッ!!』
「煙玉か!?グリド様ご無事ですか!」
「こっちは大丈夫だよ。それより坊やに逃げられたんじゃないの?」
『シュパパッーーー!』
「いえ…」
『カキンッ!』
ザイコーは自分達に投げられていた石ころを大剣で防いだ。
「まだ逃げる気ではないようです」
「…(煙で視界が悪いのに防がれちゃったか。やっぱり小細工を使っても今の俺では敵いそうもないな)」
「次で…」
ザイコーは大剣を構えてムスビに切りかかろうとしたところだが…
『シュパパパパパッーーー!』
再びムスビは石ころを投げつけていた。
「ぬ!グリド様!」
石ころはグリドに向かって投げられたがザイコーがギリギリで守っていた。
「ありがとうザイコー、おかげで助かったよ」
「ご無事でよかったです。それより警戒を!小僧とは距離を取ってください」
「その必要はないみたいだけど?坊や逃げちゃったし」
「な!?ここまで来て逃げたのかあの小僧!?」
「追って行ったら?」
「いえ…、あなたの元を離れるわけにはいきません。グリド様…別の部屋に行きましょう」
「そうしよっか」
そうして移動するところでグリドの元へ五人の傭兵が来た。
「グリド様!ご無事ですか!」
「ああ、君達はグラットの傭兵達か。無事だったんだね」
「グリド様はこれから別の部屋に移動する。お前達も一緒に来い」
そして二階の部屋から別の部屋にグリドは移った。
それに対して一度逃げたムスビは別館の一階に隠れていた。
(…俺一人じゃ奴に勝てない。ミレアと合流するしかないか)
「そんなところに逃げていたか…」
「…!」
ザイコーに見つかった!
(…護衛役ならグリドからは離れないと思ったんだがな。俺にウロチョロされる方が厄介だと思われたか?)
「小僧…。さっきのように逃げられると思うな」
「…」
「やあああああああああああああああああ!!!」
ザイコーは大剣をムスビに向かって振り下ろした。
『ザンッ!』
ムスビはそれを横に避けた。
『ブゥンッ…!』
次の攻撃が繰り出されていた。横薙ぎだ。
「…ッ!」
ムスビは体を転がしながら追撃から逃れていた。そして…
『シュパパッーーー!』
ムスビは石ころを投げつけ反撃するが…
『カキンッ!』
「そんなの通用するか」
『バゴッ…!』
「うぐっ…!」
ムスビは腹を殴られた。まだ終わらない。
『ベギッ…!』
「がはっ…!」
今度は蹴りだ。蹴りの勢いでムスビは廊下の壁まで吹き飛ばされた。
「小僧…、これで終わりだ。分をわきまえた生き方が出来なかったお前はここで死ぬんだ」
「…それはどうかな?」
『ブゥンッ…!』
ムスビは持っている棒でザイコーに殴りかかるが…
「無駄だ…」
ザイコーには通用しなかった。
『バシィィィ!』
『カランカランッ…』
ムスビは持っていた棒を弾かれ、手から放してしまった。
「小僧いい加減死ね…!」
「…(まずい!)」
ザイコーはムスビに大剣を振り下ろした。
『ガッキンッ!!』
金属同士のぶつかる音が廊下に響いた。
「な、なに…!?」
「…ミ、ミサキ!?」
振り下ろされた大剣はミサキに二本の剣で止められていた。
「な、何故俺の剣がお前のような小娘に止められた!?」
「ムスビちゃん、もう大丈夫だよ私が守るから」
「…やっぱり(強えな…ミサキ…)」
「いったいどんな仕掛けが…、いやそうか!確か船では透明な壁が騎士達の攻撃を阻んだのだったな。それのせいか」
「そんなのあなたなんかに必要ないよ」
「…(俺がもうちょっと強かったら…)」
「小娘…!調子に乗るな!」
「悪いけど容赦出来ないよ。私の大事な人にこれ以上傷ついてほしくないから」
「…(いざって時にお前に守られるんじゃなくて俺がお前を守ってやれるのに…)」
「やあああああああああああああああああ!!!!」
「ムスビちゃん…、剣じゃ殺しちゃうから棒を借りるよ」
「…(背伸びして頑張ってもお前の方がずっと強くて…)」
『ベシイイイイイイィィィィィィッ!!!』
「おぐあっ…!?おおぉぅ…」
『ドサッ…』
「はあ、何とか無事に勝てた…」
「…(なんか情けないなぁ…)」
「ムスビちゃん!終わったよ!」
「…やっぱり強いなミサキ」
「そ、そんなことないよ…。私なんて本当は戦うのが怖くてしょうがないもん…」
「…ははは、山の相撲大会で俺が勝てなかった熊に勝った時もそう言ってたな」
「そ、そうだったかな…」
「…けど、おかげで助かったよ。いつもミサキには助けられてるよ、ありがとう」
「や、やめてよ急に…。なんだか恥ずかしいよ…」
「…まあ、そうだな。礼はちゃんと全部終わってからにするよ(…いつの日かお前が戦わなくたっていいぐらい強くなってみせるぞ)」
そして場面は変わりある一室へ…
「ねえ…ここから出してよ」
少女は部屋の外に居る男にそう言っていた。
「ふんっ、化け物の頼みなんか誰がきくか」
「もう逃げないから。というか逃げられないもん」
中にいる少女は部屋に閉じ込められていた。全身を鎖で縛られ、手枷と足枷をつけられ完全に身動きが取れない状態だった。
「だまれ。また魔法で痛めつけられたいか?」
「でもいい加減暇だよ。ちょっとでいいから出してよ」
「だめだって言ってるだろ。はぁ、このモリモン様が見張りだなんて面倒なことさせられるとは…」
「お姉ちゃんが来てて忙しいの?」
「………無駄な希望は抱かないことだな。お前は一生幽閉されたままだ。今日からは一人から二人に増えるだろうが」
「じゃあもういいよ。無理矢理出るから!」
『ガチャガチャガチャガチャ!ジャラララララララ!』
中に居る少女は自分の拘束を解こうと暴れだしていた。
「ちっ、いい加減にしろ化け物が!」
外に居る見張りの男は扉を開けて中に居る少女に魔法を放とうとしたが…
「吹きすさべ突風よ!」
「何!?ウグワアアアアアアアアアアッーーーーーーー!!?」
だが、男が魔法を放つ前に中に居る少女が先に魔法を放っていた。男は風魔法で突き飛ばされた。壁に体を叩きつけられ気絶している。
「アハハ!成功しちゃった!おじさんの真似したら私魔法使えちゃったよ!」
少女は拘束されたまま、魔法を使って男を返り討ちにした。
そして男が持っている鍵を回収して自分につけられた枷を外して少女は自由となった。
「よいしょっと、久しぶりに自由になれて嬉しいなぁ」
「じゃあ、行かなくちゃ。お姉ちゃんも来てるみたいだし」
閉じ込められていた少女は自由になった。
そして場面は戻り三階のある一室にて…
『バタンッ!』
扉が勢いよく開けられていた。
「だ、誰だ貴さ…ごふっ!?」
「グリド様をおまもりし…うがっ…!?」
『バタッ…、バタッ…』
部屋に居た護衛の傭兵達は次々と倒れていった。ムスビに倒されたのだ。
「さっきの坊やだね…、まさかまたこっちに来るなんて…」
「…さっきの護衛はもう来ないぞ」
「驚いた…。まさかザイコーがやられるなんて…」
「…」
『グッ!』
ムスビは素早くグリドの両手に縄を縛った。
「うげっ…。全く手荒だな」
「…皆を閉じ込めている場所まで案内してもらう」
「………しょうがないか。分かったよ、案内すればいいんだろ?」
『スッ…』
ムスビはグリドのポケットから鍵束を取り出した。
「あっ、鍵が…」
「…先に頂いていく」
「まあ、ついてきなよ」
そしてグリドの後ろをムスビは付いていった。そしてムスビは別館の一階より更に下…、地下室への道へ案内された。
「さあ、ここだよ」
「…ここか」
道を進むと一つの扉へとたどり着いた。
「…鍵がかかっているな」
「当然それぐらいはするさ」
「…それにしても…扉に変な図形が描かれているな」
「なんだ、怖気づいたのかい?」
『ガチャ…』
(ククク…、これで…)
「…大丈夫か?」
ムスビは部屋の中に入った。すると部屋の奥には檻があった。檻の中には少女が閉じ込められていた。
(爆破魔法が起動する…!爆破まであと十秒ちょっとだ。部屋の中に居るお前は絶対に助からない)
「…今助けるぞ」
(お前はここで死ぬ。俺を部屋の外に置いたまま入るなんて愚か…)
「…先に言っておくが爆破魔法は不発だぞ」
(!?)
「…扉に描かれている魔法陣は既に解除済み。扉の鍵を開ける爆破条件を満たしたところで何も起こりはしない」
「な、何…?(な、何故爆破魔法のことを…?)」
「お前が罠を仕掛けるのは分かっていた。あの爆破魔法の魔法陣が本で見たことがあったのはラッキーだったがな」
「そうか。子供だと思って見くびりすぎたか…。ふふふ…」
「…(余裕だな)」
第十七話 本当の強者 終
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