第16話 炸裂する魔法!強敵を打ち倒せ!

屋敷の本館がゴミで飲み込まれ、大量の騎士達もそれに飲み込まれて戦闘不能となったところだが、その一方で別館のある一室…

『ドガガガガガ、ドガガガガガガガガガガガガガッガッシャーーーーンッ!!!!ガガガガッガッシャーーーーンッ!ゴドゴドゴドゴドゴドゴド………』

「ん?何の音これ?」

「少し見て来ます」

「頼むよクレジ」

この屋敷の主であるグリド、その執事のクレジ、ボディガードのザイコーの三人が一つの部屋に居た。その部屋の窓からは本館の様子は見えないのでクレジが別の部屋の窓から本館の様子を覗きに行ったのだった。

『ダッダッダッダッダッダッダッ!!コンコンコン!ガチャッ!!』

その後、様子を見に行った執事が慌てた様子で部屋に戻って来るのだった。

「どうしたクレジ?」

「ハァ、ハァ、大変でございます!本館がゴミで埋もれています!」

「は?」

「どういうことだ?」

部屋で待っていたグリドとザイコーの二人はクレジの言うことに困惑している様子である。

「嘘のようなことですが本当なのです!」

「まあ、そんなに言うならちょっと僕も見に行くよ、ザイコーも来て」

「承知しました」

そして三人で別の部屋に移動し、そこの窓から本館の様子を見てみたが…

「うわっ、なにこれ」

「さっき騎士から吸血鬼が来たって報告はあったが…、本館がこんなゴミまみれになるなんて一体…」

「………マジックボックスでも使ったのでしょうか。あれならこれぐらいのゴミを収納できるものだってあるでしょう」

「やっぱりそういうのなのかな…。いやでもそんなの用意できる金とかあるんだったら他の手だってあるよね。それにマジックボックスは決められた所有者しか開けられない。他人から盗んで使うことも出来ないし、売る側だって身元不明の吸血鬼とかに売れるような物じゃないし。僕みたいな後ろ盾の存在があるって話なら別だけど…」

「色々と分からないですね。少数で来たと思ったら、屋敷をゴミまみれにするなんて。どんな手を使ったのか、何でそんな手を使ったのか…」

「まあ、考えても仕方なさそうだね。それに何も悲観することばかりでもないしね」

「どういうことです?」

「僕らの居る別館であんなことされなかっただけまだいいでしょ。まあ、第二弾があるのかもしれないけど。それにあっちがやられてもまだこっちに戦えるのは沢山いるでしょ?」

「それはそうですが…」

「とは言っても…、魔法使い達に吸血鬼を捕まえてもらおうかと思ってたんだけどこれじゃ多分全滅か…。クレジ、吸血鬼捕まえてきてくれない?」

「ハッ!承知いたしました」

「グリド様よろしいのですか?」

「何だい?一人じゃ僕を守れなさそうかい?」

「いえ、そんなことは…」

「ハハハ、大丈夫だって、君の力は信頼しているよ?でもそれは吸血鬼の方も同じだよ。グラットの傭兵達だけじゃちょっと荷が重いかもしれないけど、クレジが居れば安心でしょ?」

「お任せください。私も魔法の心得は少々あります」

「うん、頼んだよ。じゃあザイコー。僕らは元の部屋に戻ってようか」

「承知しました」

そして執事クレジはグリドの元を離れ吸血鬼を探しに行くのだった。


そして別館の一階では…

「吹きすさべ烈風よ!」

「ぐあああああああああああ!!」

「うわああああああああああ!!」

「ほんわあああああああああ!!」

ミレアの風魔法が傭兵達に炸裂した。

「さてと…。アズキ、このにおい追えそう?」

ワンッ…

現在ミレアはアズキを連れて別館を進んでいる。


時は作戦会議のところまで戻る…

「…ミレア、お前にはアズキを連れて行ってもらう」

「え…、アズキを?」

「危ないからアズキちゃんは置いていった方が良いんじゃ…」

ワン…?

「…まあ危ないのはそうだが。それでも今回はアズキの力が必要だ」

「必要と言うけどいったい何をさせるの?」

「…ミレア、お前の妹…ショコラっていう子だったな。その子の持ち物とかないか?それとミサキも家族達の物があれば出してくれ」

「え、そうね…。これなんてどうかしら、あの子のお気に入りのリボンなんだけど…」

「えっと何かあったかな…。あ、これじゃダメかな。ルーナに描いてもらった絵なんだけど」

「…よし。ならその二つのにおいをアズキに追ってもらおう。アズキならそれの臭いを探せる」

「た、確かにアズキちゃんなら皆を見つけられそうだね」

「でも、本当に上手くいくかしら…。もし匂いの痕跡が消えてたら…」

「…まあこれは出来なかったら出来なかったで別に良い」

「いや、良くはないでしょ…」

「…アズキにはこれとは別の作戦に必要だからな。むしろそっちの方が重要」

「アズキちゃんが必要?」

「…ああ。と言っても、賭けになるがな」

「あなたいっつも賭けてない?」


そして場面は別館のミレア達の方へ戻る…

『ガチャッ!バタンッ!』

『ガチャッ!バタンッ!』

ミレアは部屋のドアを一つ一つ開けて中に誰が居るのか確認しながら一階の廊下を進んでいた。

においを追跡して閉じ込められてる部屋を捜すのは無理だったようだ。となればしらみつぶしに一部屋一部屋見ていくしかなかった。

「侵入者だ!侵入者がい…」

「吹きすさべ突風よ!」

「うぐああああ!」

「はぁ、とっさに魔法使うっていうのは集中力使って疲れるわね…」

別館に入って既に何十人かの傭兵達とミレアは戦っていた。

グルルルルゥ…!

「アズキ?どうしたの?」

「お前がグリド兄さんの言ってた吸血鬼か!」

「ッ!」

暗い廊下を進む中後ろから声をかけられ、ミレアは一瞬動揺していた。

「ん?いや、グリド兄さんは確か黒いローブを着た奴が吸血鬼って言ってたな…?てことはお前…、誰…?」

「…(まさか後ろに立たれてたなんて…)」

後ろを振り返ると身長が二メートル程の大男が大きな斧を持って立っていた。

「もしかして俺んとこの傭兵団の新入り…?」

(いや、そんなわけないでしょ…)

「いえそんなわけないですよ、間違いなく侵入者ですって!」

頓珍漢なことを言いだした大男に対して周りの男達が違う違うと話していた。

「そうなのか?おーいお前、何か言えよー」

「残念ながら新入りじゃないわ。吹きすさべ烈風よ!」

『バチンッ!ブオーンッ!』

不意打ちでミレアは風魔法を繰り出した………だがそれは大男達に直撃はしなかった。何故か透明な壁が現れてミレアの攻撃を阻んだのだ。

「うおっ!?いきなり何すんだ!」

「今のは魔法!?」

「情報だと風魔法を吸血鬼は使ってたって…、まさかお前が吸血鬼か!」

「ど、どうして…。魔法が………まさか…」

「ほっ、グリド兄さんがくれたこれのおかげで助かったぞ…」

大男は首にかけていた深緑色の宝石のペンダントを見てそう言っていた。

(やっぱり…。ミサキちゃんの星のブレスレットみたいな力があるのね、あの宝石…それにしても…)

「グリド兄さん…?」

「何かおかしいか?俺はグリド兄さんの弟、セブンス・グラットだぞ」

「ッ!(き、気付かなかったわ…)」

「ハハハ!どうだ、凄いだろこの宝石!風の魔法を全部吸い取ってくれるんだ!まあ、すっごく高いらしいけど…」

(厄介この上ないわね…)

前方に広範囲に攻撃できる烈風だが、その攻撃は全てあの石で無力化されてしまった。グラットは勿論、周りにいる傭兵達にもその攻撃は及んでいなかった。

こうなるとミレアも参ってしまう。ミレアは吸血鬼の人間離れした身体能力を発揮することが出来ていない。魔法がミレアにとって唯一の攻撃手段だったのだ。

『ダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッ!』

「あっ!おい、待て!」

ミレアは振り返って廊下を走りだした。そして途中にある部屋に入り込もうとしていたが…

「逃がすか!食らえ!」

「ッ!グッ…!」

傭兵達は逃げるミレアに矢を放ち、それがミレアの左肩と右足に刺さってしまった。

『バタンッ!』

それでも何とかミレアは部屋に飛び込みドアを勢いよく閉めたのだった。

『バシュッ!バシュッ!』

部屋に入ってすぐ、ミレアは刺さった矢を引き抜いた。矢が刺さっていたところからは血が噴き出していた。

「ハァ…ハァ…、やっぱり痛いわね…アズキ、怪我はない?」

ワンッ!くぅーん…

「私は大丈夫よ…、アズキは危ないから下がってて」

『ダンッ!ダンッ!ダンッ!』

鍵が閉められた扉を外に居るグラットは体ごと突き破ろうとぶつかっていた。

『バゴーンッ!!』

そして扉はグラットに突き破られた。

「焼き尽くせファイヤーボール!」

ミレアはその瞬間に火属性魔法を放っていた。手のひらサイズの火球がグラットに直撃した。

「うぎゃあああああああああああああ!!?あちいいいいいぃぃぃぃぃ!!!」

「あ、兄貴ぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

「どうやらその石じゃ火属性までは防げないようね………、宝石はもらってくわよ」

「ま、待て!これは渡さん!グリド兄さんからもらったもんだからな!」

「………」

「この!兄貴から離れろぉ!」

「焼き尽くせファイヤーボール!」

「あちっ!あっつ!あちいいいぃ!」

「だ、大丈夫か!?」

「だ、大丈夫じゃねぇ!火消してくれぇ!」

「あ、兄貴!大丈夫です!火なら今消します!」

「俺は良いから先にあいつの方を消してやれ!」

「し、しかし兄貴だって!」

「水だ!水を持ってこい!」

「………」

『ダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッ…』

そして一緒に居た傭兵達は燃えているグラットや傭兵を何とかしようと必死で、その場を離れていくミレアやアズキには気づくことが出来なかった。


そして別館の二階にて…

ワンッ…?

「………。気を取り直していかないとダメね、早くショコラ達を助けなきゃ…!」

「残念ながらそうはいきません」

「ッ!次から次へと…!」

ミレアが向いてる廊下の先からある男が歩いてきていた。

「お久しぶりです、吸血鬼のお嬢さん。グリド様の執事を務めさせていただいてるクレジと申します」

「…(あの時………、私達の家が焼かれたあの時グリドと一緒に居たあの執事ね…、やっぱり憎い…。………憎くてしょうがない!)」

グルルルルゥ…!ワンッ!ワンッ!

「犬…ですか。うるさく吠えて…躾のなってない。そんなのを連れてグリド様の屋敷をうろつかれては屋敷が汚れてしまいますね…」

「ッ!?危ない!」

キュウン!?

目の前の執事はアズキに向かってナイフを投げつけていた。そしてミレアはそれに反応しアズキをギリギリでかばっていた。

きゃうぅん…

「ごめんねいきなり…、びっくりしちゃったわね…」

「ふんっ…、同じ畜生同士かばい合いですか?」

「………。悪いけど消えてもらっていいかしら?この子あなたの臭いが嫌いみたいなの。あなたの下水道のドブみたいな臭いが」

「はあ、全く人間でもない…、吸血鬼の分際が…」

「吹き荒れよ風よ!燃え盛れ炎よ!風炎弾!」

「!」

「ハァ…ハァ…」

「驚きました」

「!?」

「まさか複合魔法が使えるとは…」

(私が編み出したとっておきよ…!?威力だって突風やファイヤーボールとかと比べても格段に高いのに…!)

「不思議ですか?私が無事なのが…。まあ、これがなかったら間違いなくアウトでしたが…」

そう言い執事は胸元から紙切れを取り出していた。

「その紙切れは…一体…」

「魔道具の一つ、魔導壁の護符です。一時的に敵の攻撃から身を守ってくれる防御壁を出してくれて便利なんですよ。優れた魔法使いにしか作れないので相当値が張りますしレアなんで使いたくはなかったのですが…」

「ご丁寧にどうも…」

「良いんですよ、あなたでこの損失は取り返させてもらいますので」

「吹き荒れよ風よ!燃え盛れ炎よ!風炎弾!」

「身を守れ!光の円盾!」

『ブオーンッ!』

ミレアは再び魔法で攻撃したがそれは執事に当たりはしなかった。

執事も同時に魔法を使っていたのだ。使ったのは防御魔法の一つ、使用者が手のひらを広げるとその方向に円形の透明な壁を一時的に発生させて敵の攻撃を防ぐ魔法を使ったのだ。

「まさか、防御魔法を使われるなんて…」

「諦めはつきましたか?」

「冗談じゃないわ、吹きすさべ突風よ!」

「吹きすさべ突風よ!」

『ズドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!!』

二人の魔法が衝突した。二人の魔法は拮抗するかに思われたが…

「ッ!きゃあ!」

ワンッ!?

「ふむ、どうやら私の方が魔法の練度は上みたいですね。複合魔法を使えるそのセンスは大したものですが…」

突風同士のぶつかり合いはクレジに軍配が上がった。同じ魔法でもクレジの方が威力が高くミレアに突風の魔法が直撃してしまった。

「………なるほど、魔法ってこんなに痛いのね…。自分が食らうのは初めてだけど…すさまじい威力だわ…」

ワンッ!ワンッ!

「はあ、うるさくてかないません。吸血鬼の前にこっちの犬から…」

「吹き荒れよ風よ!燃え盛れ炎よ!風炎弾!」

「ッ!身を守れ!光の円盾!」

ミレアは再び風と火を複合させた魔法を放つがやはりクレジは素早く防御魔法を使っていた。

『ダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッ…』

「しまった…、逃げられてしまいました。ですが…」

クレジが見る先の床には血の痕が続いていた。ミレアが流した血で間違いないだろう。

「追うのは難しくなさそうですね」

クレジはミレアが残した痕跡を辿って行った。痕跡は二階から一階へ続いていった。

「これは…」

そしてその痕跡は別館と本館を繋ぐ渡り廊下へと続いていた。

「まさか玄関から出るつもりですか?」

そしてクレジは本館に行くが…

「これはどこに居るのか迷ってしまいますね…」

本館の廊下、そして廊下から行ける部屋のいくつかにも血の痕が続いていた。

ワンッ!ワンッ!ワンッ!

「だ、ダメよアズキ!今吠えたら…!」

「フッ、フフフ…。愚かですねぇ。そんな犬を連れているからこんなバカな末路を辿るっていうんですから…!」

執事は勝ち誇ったようにアズキが吠える音がした部屋へ向かって走り出した。

(チャンスは一回…)

(例えさっきみたいに魔法の打ち合いになっても単純な魔法の練度は私の方が上です。複合魔法を使われたらこちらは光の円盾で防げばいいだけ…。複合魔法の魔力消費は私の風魔法や防御魔法よりも遥かに上回るはず。持久戦に持ち込めば先に魔法が使えなくなるのはあなたの方です。もっともさっきの魔法の連発の後で持久戦が出来たらの話ですが…)

(私が使う中でも最大の威力を誇る暴風の魔法ならこの執事一人なら何とかなるかもしれない…。もしそれでここを勝てたとしてもその後に戦う力は殆ど残らないわ…。ここで決めるしかないわ)

「さあ終わりです!」

「吹き荒れよ風よ!燃え盛れ炎よ!風炎弾!」

「(無駄だ!)身を守れ!光の円盾ッ…?」

ミレアの魔法に対応しいち早く防御魔法を使ったクレジだったが…

(何…?何故………、部屋に誰もいない?)

アズキの吠える音が聞こえた部屋に入っても誰もいないのである。

そして…

「うぐわああああああああああああああああ!!?」

クレジにミレアの風炎弾が炸裂した。背後から…

『ドガシャァァァァァァァァンッ!!』

吹き飛ばされたクレジは部屋の壁に勢いよく叩きつけられた。

「………」

クレジは完全に気を失っていた。それどころか骨のいくつかは折れた状態になっていた。

「一撃当てるだけでこんなになるなんて…、自分で使っておいてなんだけど恐ろしい威力ね…」

ワオーンッ!

アズキは喜びのあまり遠吠えをあげていた。

「はは…、アズキったら…。まあでも………私も嬉しいわ…」


時は作戦会議まで遡る…

「どういうことなの?私がアズキを連れて行くなんて…」

「…長くなるが聞いてくれ。まず、ミレアはこの中で唯一魔法が使える」

「それはそうね…」

「…そして、相手もミレアが魔法を使えることは知っている。船での戦いでな」

「うん、思いっきり使っていたし真っ先に伝えられそうな情報だね」

「…ではそれを知ったグリド側はどうその魔法に対処すると思う?」

「そうね…。部下を大量に向かわせるとかかしら。でもそれじゃ船の時とあんまり変わらないわね…。船の時には大砲を使ったり飛竜に乗って襲ってきたりもしたけど…」

「私達があの屋敷に潜り込んで、そこで戦うとしたらそんなの向こうも使えないよね…」

「となると魔法の対処なんて相当限られてくるわね…」

「魔法………、あっ…!私のブレスレットみたいに壁を出せるならミレアちゃんの魔法も防げるんじゃ…」

「あっ、確かにそうね…!」

「…そうだ。あの本にも防御魔法のページがある。まあ、ミサキのブレスレットとは違って周り全部を防御するのは難しそうだったが…」

「確かに…、あの壁を敵に出されたらそれを破るのは私じゃ難しいわね…」

「…と言っても、そう多くはないはずだ。もし何百人も魔法使いを抱えているって話ならお前の追手や船での襲撃の時に居たはずだ。多くても二桁いるかどうかだろう」

「そういえば私達が倒したアボーも魔法使いは雇っていなかったわね」

「でも、お金持ちなら何で魔法使いをもっと沢山雇わないんだろう?ミレアちゃんの魔法とか見たらその方が騎士を雇うよりも良さそうなのに」

「んー、どうしてかしら…。私も多少のことは分かっても、人間の生活を間近で見てきたって訳じゃないからどんな事情があるかまでは…」

「それに何で今まで魔法の対策はされなかったんだろう…?魔法を知ってる人が居るならそれをどうにかしようとする筈なのに…」

「…多分だが必要ないからだろう。この旅の中で俺達は魔法を使う人間を見ることは殆どなかった。モクドラや港町、王国みたいな人が沢山居る場所でもな。おそらくだが実戦的に使える人間は極少数なんだろう」

「そうなのかしら…。でも私とかは結構すぐ使えたし、何だか皆使ってくるんじゃないかって不安よ」

「ん~、不安はあるけどそれでも敵全員が使ってくるようなものでは無さそうだよね…。ムスビちゃんの言うように使える人は本当に少ないのかも…」

「…話を戻すが、敵に魔法使いが居るならそいつらは魔法を使えるミレアを優先的に狙うはずだ。そうじゃなくても敵の最優先はミレアだから高い戦力はそっちに向ける」

「確かにそうかもしれないけど…、それでも私がアズキを連れていく理由が分からないわよ。話の通りになったら余計危険じゃない」

「…いや、お前には俺に変装してもらうから狙われない」

「え…?」

「ム、ムスビちゃん…?な、何を言ってるの?」

「…ミレアには俺に変装してもらう。逆に俺はミレアの変装をする」

「そ、それってつまり…」

「…俺がそいつらから追われる囮になる。そうすればミレア…、お前が妹を探している間に会う敵の殆どは魔法の攻撃で倒していける奴らになる。まあ、それでもグリドの護衛とかにまだ強いやつは居るはずだから油断はできないが」

「何言ってるのよ!あなたそんなことしたら無事じゃ済まないわよ!いくら逃げ足が速くったってそんなの長くは持たないわ!場所は敵の本拠地なのよ!」

「…まあそっちはそっちで策はあるが、それは後で話す」

「ちょっと、大事な部分後回しにしないでよ」

「…ちゃんと話すから、まずミレアの方の話からさせてくれ。ミレアはこの戦いで一番重要なんだからな」

「………。分かった…。でもあなたが危険を伴いすぎるようならそんなのは受け入れられないわ。ろくな作戦もたてられない私が言ってもただのわがままだけど…」

「…なに、気にするな。俺がお前でもそうするだろう。それならそれでしょうがない。話の続きだがミレアには屋敷の中をアズキを連れて探して貰う。そして俺が囮となっている分、お前が強い敵に会う可能性はある程度低くなる。だがそれでも俺達の作戦が成功に向かえば向かう程強敵との戦いは避けられないだろう…。そうなった時、ミレアのサポートとしてアズキに活躍して貰う」

ミレア・ミサキ「?」

「まず、ミレアが敵と出会ってもそれがミレアだとは気付かれない可能性がある。俺に変装してる上に船でアズキを連れていたのは俺だからな。敵の知っている情報から考えて俺であると勘違いするかもしれない」

「それはまあそうでしょうね」

「…そうしたらお前はいきなりでも逃げる振りをしてからでも良い。油断しているところを魔法で倒してくれ。船で俺は魔法を使っていないことも報告にある筈だ」

「つまり不意打ちで魔法を使えってこと…?」

「…そうだ。そしてそれで倒せないような敵が居た時は迷わずに一旦逃げろ。屋敷の何処かに身を隠すんだ」

「で、でもそれってどうしたら…。そんな奴が居たらとても逃げきれるとは…」

「…大丈夫だ。完全に撒く必要は無い。逃げた方向は分かっても正確な位置が分からないって言うぐらいが理想的だ」

「理想的?」

「…アズキの鳴き声を利用する。敵がお前を一度見失った時に連れているアズキの鳴き声がしたら間違いなく敵はそこに注意が向く。それをお前は後ろから不意打ちで魔法を叩き込め」

「でもそれってその状況になったらアズキちゃんが一番危ないんじゃ…」

「まさか、アズキを犠牲にしろって言うの…?」

「…いや、これを使う。これは声を録音する魔導具だ。アズキの鳴き声をその時になったら流してくれ。お前とアズキが居る場所と真逆の方向からな」

「そ、そんな作戦を…。確かに上手くいけば敵を上手く騙せるかもしれないけど…、でも本当に上手くいくかしら…」

「…大丈夫だ、お前ならいける。因みに録音機能を試したが約三十秒が最大の録音時間だ。その時間を上手く使えば必ず敵を騙せる」

「けど結構な賭けよそれ…。わざわざ狙ってやるようなものじゃ…」

「…だからこそ、敵の意表を突かなきゃこの差は簡単には埋まらない。無謀な賭けに勝つぐらいやってのけないとな…。それにこれは短期決戦。その場に居る中でも放っておくとヤバイ奴から倒すことが俺達にとって重要だ」

「そうなのかしら…、でも、迷って何もしないよりましかもしれないわね…やってみるわ!」

「…頼んだ。だがこれは最終手段だ。敵に防御された時の対応としてのな。これでも通用しないならすぐに逃げるんだ」

「分かったわ」


そして場面は再びミレアがクレジに勝利したところへ戻る…

「はぁ…、死ぬかと思ったけど、アズキが居てくれたおかげで何とかなったわ。ありがとうね」

ワンッ!

「………さてと、アズキご褒美よ」

ワンッ!ガウッ…ガウッ…!

ご褒美のサツマイモをアズキは嬉しそうに食べている。

アズキが食べ終わるとミレアはアズキを連れて部屋を出ていくのであった。


第十六話 炸裂する魔法!強敵を打ち倒せ! 終

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