第11話 飛竜部隊と海の略奪者達

 一面に広がる青い海。その上を進む三隻の船。そしてその船にかかるいくつかの影…

(…さて、誰から狙うかな)

 飛竜に乗り、はるか上空を飛行するムスビ達とそれを追う四体の飛竜に乗る騎士達…

「我ら飛竜部隊に空中戦を挑むとはいい度胸だ!」「一体はやられてしまったが、最早さっきのような不意打ちは残った我らには通用しない!」

次の瞬間、飛竜から炎のブレスがとばされていた!

「…飛ばすぞ!」

「きゃっ!」

「うっ、風圧が…!」

炎から逃れるため、飛竜を凄い勢いで飛ばせているがその分だけ乗っているミサキやミレアにも負担はかかる。

「…ミレア、今は太陽が出ている。これを…」

「これって騎士の兜…?」

「…見張り台に居た奴からついでに借りておいた。これで日光を…」

追跡が続く中でミレアは渡された兜を何とか被った。そして被り終わるとムスビは先程までよりさらに飛竜の飛ぶスピードを上げていた。

「さらにスピードが上がった!よぉしならばこちらも!」

負けじと騎士達もスピードを上げた。これでムスビ達との距離は離されることなく保たれたままとなった。


 一方船上では…

「ええい!皆のもの!飛竜を一体奪われ、さらに一体倒されてしまったが怯むでない!飛竜部隊だけに任せずこちらも矢や大砲の準備をしろ!」

隊長と思われるものがそう号令をかけていたが…

「しかし隊長!我々の使命は吸血鬼の捕獲!もし飛竜ごと海に撃ち落とせば、流水が弱点の吸血鬼は確実に死んでしまいます!」

「分かっている!だが、奴らを捕獲するためにはもう一度この船に戻らせる必要がある!そのためには飛竜での空中戦は不利と思わせる他ない!」

どうやらあくまでも捕獲が命令の為、殺してしまう危険が大きい空中への攻撃を何人かは躊躇しているようだ。

(…確かに船の奴からも牽制気味に来られたら厄介か。なら…)

「二人共、しっかり掴まっていてくれ」

「へ?」

「一体何を…?」

 ミサキ・ミレア「って、きゃあああああああぁぁぁぁぁ!!!??」

「な、小僧!何処へ!?」「我々から逃げるのか!」

 この時天高く舞う飛竜の一体が、後ろからの騎士達の声に目もくれずに船目掛けて急降下していた。背中に乗る少女達が悲鳴を上げながら…

「な、何だとこっちへ!?」

「ひ、怯むな!むしろ好都合!少しでもダメージを与えろ!」

「…思いっきり頼む」

ムスビのその言葉に応えるように、飛竜は船上目掛けて焼き尽くす炎を吐いていた。

当然、船に居る騎士達はその餌食にならないよう迫り来る炎から逃げようとしていた。

そしてこれにより…

『ズドオォォォォォォォン!!!』

「な、何だ!?」

「隊長!今の炎で積んでいた火薬や大砲の玉が爆発しました!それにより船の一部が破損!大砲も吹き飛びました!」

「な、何ぃ!?」

「隊長!炎の被害が甚大です!消火活動に移っていますが、これでは奴らを狙える人員が…」

「ぐっ…。………!まずい!皆のもの!反対の船には手を出させ…」

『ズドオォォォォォォォン!!!』

隊長の言葉はまだ途中だったが、反対側の船も同じく爆発していた。これで三隻ある船の内、両サイドの船は飛竜への対処に加わるのは難しくなった。

「ぐっ、やはり反対側も狙われたか…!揺れも激しい…!ここまでの被害出すとは…!」

ムスビ達の乗る飛竜は既に船から離れていた。そして上空に飛行するが…

(…これで真ん中以外は俺達を狙う余裕はない。加えて、真ん中に至っては左右の船のように大砲が置かれているわけでもない。後は追ってくる奴を…)

「小僧!やってくれたな!」「まさか、船を狙うとはな!」「最早容赦はしない!」

後ろから飛竜部隊が追跡していた。そして…

「灼熱の炎をその身に受けろ!」

追われるムスビ達の前には追跡に参加せず、上空で様子を見ていた飛竜部隊の一人が待ち構えていた。

そして次の瞬間、ムスビ達に飛竜の炎を浴びせていた…

『ブオーン』

「くはは、どうだ!これでしぶとい吸血鬼以外は焼け死にだ!ハハハハハハ!」

 だが…

「なっ…!!?」

炎に包まれたはずだった…

出てくるのは苦しみながら火だるまになってる三人であるはずだった…

だが騎士の目に写ったのは焼け死ぬどころかやけどの一つもない三人と飛竜の姿だった…

そしてそれは瞬く間に騎士まで距離を詰めていた!

「な、何故…!?炎が効かな…!?」

騎士が驚いてるのも束の間…

ムスビは飛竜の尻尾を騎士に巻き付け、かっさらっていた…

「ひ、ひいっ!?」

下を見て思わず自分に巻き付いている飛竜の尻尾にしがみついてしまっていた。騎士からしたら尻尾に巻かれながら上空を飛んでいる状況は恐怖そのものだった。

「ハア…ハア…。し、死ぬかと思った…」

「も、もうダメ…」

「…良くやってくれた。あとさっきのもう一回頼む」

ミサキ・ミレア「………え?」

「二人共、もう一回しっかり掴まっていてくれ」

「ま、まさか?」

「さ、さっきのもう一回…!?」

ミサキ・ミレア「って、きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」

 ムスビは飛竜に感謝し、再び急降下をしてもらった。同時に先程と同様に二人の悲鳴が空に響いていた…

「ぶはっ、だ、誰か!助け…」

そして波にのまれている人物、この飛竜に元々乗っていた騎士の方へ向かった。

「ぶへっ、って、うぇ?」

飛竜の足で鷲掴みにし、限界寸前の騎士を引き上げた。そして船に向かい…

「な!?また向かって…!?」

「…こいつら返す」

「は?うわっ!?」

「うげっ!」「ぬげっ!」

隊長に向かって二人の騎士を船に放り投げた。そして再び船上を通りながら上空へ逃げていく。

「くぅ!あの小僧おちょくりおって!」

「ふ、伏せてください!」

「何?って、うわっ!?」

隊長はすぐに立ち上がり飛んでいくムスビ達へ目を向けていたが、後ろから声がしたため振り返ってみると追跡している飛竜部隊達が隊長にかなり近いところを飛んで来ており、隊長は咄嗟に伏せるのだった…

「はあ…はあ…、危なぁ~……」

「ほっ、隊長には当たらずに済んだか…」「我々もヒヤッとしたが、もうあの小僧の好きには…、…!?」

飛竜部隊もぶつかりかけた隊長を確認するため、船上に注意を一瞬向けていた…

しかし…

「なっ!?」

それにより、空中でUターンして戻ってきたムスビ達への反応が遅れてしまい、向こうから来る炎のブレスを三人共まともにくらってしまった。

「うぐおぉぉぉぉ!!?」「ぐおあぁぁぁぁ!!?」「あがぐぅぅぅぅ!!?」

飛竜には炎の耐性があり、たかだか一回のブレスではそこまでダメージは無いようだが、乗っている三人の騎士達は別のようである。

「ぐっ、なんのぉ!」「これしきぃ!」「我らはまだ倒れん!!」

「…そうか」

「…じゃあもう一回頼む」

騎士達「…は?」

次の瞬間には、再び飛竜の炎攻撃が飛んできていた…

「ウギャアアアアアア!!!??」

騎士達は全身火だるまになっていた。そして皆耐えきれずに、火を消そうと下にある海へ三人共飛び込むのだった…

(…次は)


 ムスビは上空から船を見下ろす…

騎士達の四十人以上が爆発や炎に巻き込まれ、戦闘不能になっていた。そして左右の船で四十人ずつが消火活動に移っている。現状戦いに参加できる騎士は五十人程度しか居ない…

「全員、一斉に矢を放て!」

多くの矢がムスビ達目掛けて射たれていたが、それも無駄だった…

「ぐっ…!全て弾かれている…!」

ミサキのブレスレットは通常の矢が何本飛んでこようが光の壁でそれを弾く。飛んでいる飛竜に当ててバランスを崩させることも防いでしまう。

そして、その守りを崩せるはずの飛竜は全て騎士の操作がなくなっている。加えて、大砲も破壊されている。騎士達に勝ち目はない…

「…一旦降ろしてくれ」

ムスビ達は飛竜に真ん中の船の中央近くに降ろしてもらった。

ミサキとミレアはまだプルプルと震えが止まっていなかった…

二人は二回目の急降下からは意識が飛ぶんじゃないかと、言葉を発する余裕もない状態であった…

そして船に降りると同時に飛竜を操り無茶な飛び方をしたムスビを訴えるかのような目で見ていた…

「…ふぅ、飛ぶの怖かった」

ミサキ・ミレア「それはこっちのセリフ(だ)よ!!」

と話している間にまた騎士達に囲まれていた。最も、その騎士達も飛竜が近くに居る現状では無闇に飛び込めない様子だが…

「で、ムスビ…。まだまだあいつらは戦えるようだし、全員倒したとしてもこの船に乗ったままだとヤバイんじゃない?」

ミレアの言う通り、騎士達が乗った船と同じ船に乗っている状況は三人にとってとてもいいとは言えないだろう。

「…策はなくもない」

ムスビはそう言うが続けて…

「…まあ今回は失敗するかもだが」

「いつも綱渡りみたいな作戦立ててるのに今回はさらに失敗しやすいって一体何しようって言うの…」

「ムスビちゃん、作戦って」

『ドッゴォォォォォォォン!!!』

ミサキの言葉は爆音により途中で掻き消された…そして…

「な、何!?この揺れは!?………!!」

「ま、また爆発?でも火薬は皆さっきので燃えたはずじゃ…」

「い、いえ!あれを見て!」

「うっぷ…、オエッ…」

「あっ、ムスビちゃん…。大丈夫…?ゲエゲエする?」

「ムスビ…。一旦飛竜に移った方が楽になるんじゃ…ってそうじゃなくて!あっちよあっち!あそこら辺の海!」

ミレアにそう言われ、ミサキはミレアの指差す方を見る…

「え、あれは…!」


「ぐっ、な、何だと言うのだ!さっきみたいに爆発し揺れて!また小僧共の仕業か!」

「隊長!敵襲です!海賊が現れました!」

「なっ!?馬鹿な!まさかこの揺れもそいつらの…ええい!今は小僧共で手一杯だと言うのに!それで敵の船の数はいくつだ!」

「三隻です!三隻の船がこちらへ向かっています!あのマークは海賊アオシオのものです!」

「ア、アオシオだと!?最悪なタイミングでなんて奴と遭遇してしまったんだ…!」

「隊長!指示を!」

「ぐっ、今の状態では戦っても分が悪すぎる…、どうにか大砲で威嚇し距離を稼ぐんだ!」

「む、無理です隊長!いくつかの大砲は既に潰され、玉もこの船には残っていません!」

「な、ならば飛竜部隊を…いやダメだ…さっき皆やられてしまった。大砲も使えない以上、これでは何も遠距離での奴らへ対抗する手段が…」

『ドッゴォォォォォォォン!!!』

「くぅおぉ!?」

 のんびりと話している時間はない…

こうしてる間にも第二第三の攻撃は次々と容赦なく叩き込まれてしまう…

 バサッ…バサッ…

そうこうしている間に飛竜が吸血鬼含めた三人を乗せて飛び立っていた。

「なっ、奴ら飛竜で逃げる気ですね」

「確かにそれがあいつらが助かるには確実か……、仕方ない…。全員を真ん中の船に集めろ!五分経ったら両サイドの船は捨てる!例え五分後に人がまだ残っていてもだ!」

「し、しかし!五分では両サイドの怪我をした騎士達は…」

「そんなのは見捨てろ!このままだと両サイドの船と一緒にここも沈む!」

 最早、騎士達に余裕はなかった…

隊長の命令により、両サイドから騎士が負傷している者を置いて真ん中の船に集まっていく…

 そして五分が経ったが、両サイドの船の損傷はさらに激しくなっており、また海賊船もどんどん近づいていた…


 一方、海賊船の方は…

「船長、真ん中の船が逃げようとしてます」

「両サイドのは捨てる気か?だが、逃がさないぞ」

「しかし、何でこちらに反撃しないんですかね?」

「上を見ろ、何でか知らんが飛竜があの船の上を飛び回っている。多分あいつらのせいでこっちへの攻撃が出来ないんだろう」

「飛竜ですか…どうしやす?飛竜が居るとなっちゃこっちも迂闊に近づけないっすよ?」

「なに、飛竜なら大砲で追い払えばいい。それにいざとなれば俺が片付けるさ」

「流石船長、頼もしい」

「しかし、これ以上はあっちの船が持ちそうにありませんね。俺達が行く前に飛竜が船沈めなきゃいいんですが…」

「心配するな。多分あれは騎士達お抱えの飛竜だ。あれでこちらを攻めない理由は知らんが…。あれが人に育てられた飛竜なら命令もなしに人を襲うことはまずない」

「分かりやした。じゃあ遠慮なく、もっとあいつらに近づきやしょう」

 そうしてどんどん海賊船は騎士達の船へ近づくが、それに対して騎士達には何の抵抗手段も無かった。

「いやぁ~、今回は一段と楽っすね!運が良いっすよ!」

「油断はするなよ、こっからは船に乗り込んで戦うんだからな」

「分かってやすよ、船長。………?」

海賊の一員がそう言ってると、さっきまでとは打って変わり、一つの異変が起きていた…

「船長!影がこっちに!飛竜がこちらへ飛んできています!」

「なんだと?あれか…、すぐに大砲を撃て」

 海賊達はすぐに迫り来る影に向かって砲撃を開始したが、影は更に空を上り、大砲の玉を避けていった。

「避けられた!?」

「次の玉の準備だ!次の玉を持ってこい!」

「他の二隻にも撃たせろ!あの飛竜を撃ち落とせ!」

 次々と撃たれる大砲の玉も遥か上空を飛び回る飛竜には当たらず、飛竜を何とか近づけさせないでいるのが手一杯と言うところだ。

「中々撃ち落とせませんね…」

「だが、飛竜も避けてばかりでこちらに近づくことは出来ないようだな。それどころか段々と玉も当たりかけている。絶えず攻撃を続けろ」

(何も問題はない…、飛んできているのはたかが一匹…。誰が操っているかは知らんがたった一人じゃもう終わりだ…)

 しかし、少し遅れてある疑念がアオシオの頭の中には生まれていた。

(待て…、船の上に居た飛竜は一匹じゃなかったはず…。だが今あの船の上に飛竜は一匹もいない…?他の飛竜は…まさか…!)

『ドッゴオオオオオオオォォォォン!!!』

『ドッゴオオオオオオオォォォォン!!!』

「!!」

 既にそれに気付いた時には遅かった…

何故ならアオシオが振り返ると二隻の海賊船が炎に包まれていたのだから…

「…作戦成功」

飛竜に乗る少年が燃える船を見てそう呟いていた。


 ムスビ達が飛竜に乗り、船から離れた直後に遡る…

「ムスビちゃん、少しは落ち着いた…?」

「あ、あんまり無理しちゃダメよ…?」

二人の言葉にムスビはGOODサインを出していた。船の揺れから逃れてひとまず大丈夫なようだ。

「ところでムスビ、作戦って何なの?」

「…本来は飛竜をこのまま借りてシュガー島まで送って貰うことを考えていた。多分この飛竜達なら故郷のシュガー島までなら行けるはず」

「成る程、確かにそれならこの絶体絶命のピンチも切り抜けられるし私達が何処に居るかはバレにくくなるわね」

「…でもこの策はダメだ」

「ど、どうしてよ?確かに船なら物資だって補充できて便利かもしれないけど、あいつらと一緒じゃなきゃ船を操縦できない私達じゃシュガー島には行けないのよ?」

「ミサキの馬を連れていけない」

「あっ」

「う、うん。確かにそれは思ってたけど…。でも馬さん達なら私達とは違って船に残っても酷いことはされないんじゃ…」

「…それも考えたが、育てる者が居なければ殺される可能性もあるし、海賊が現れたことも考えると俺は残しては行きたくない」

「それは…そうね…」

「…それでも馬を檻に居れて、飛竜に檻を運んで貰い脱出、何てことも考えたが…」

「考えたけどやらないんだね」

「…ああ」

「…海賊が居るのに船の奴らを置いては行けない」

「じゃあ一体これからどうするの…?」

「…こうする」

 ムスビは飛竜を操り、他の飛んでいる飛竜へ飛び乗る。そして飛竜の首輪を外すのだった。それと同様のことを他の飛竜にも行う。

「…じゃあ頼んだぞ」

「…ミサキとミレアは他の飛竜と一緒に海賊達の後ろに回り込んで攻撃してくれ。俺は前で注意を引いてる」

「え?まさか囮に…?そんな危ないこと」

「…行ってくる」

ムスビの乗る飛竜は海賊船の方へ向かっていった。

「あっ、行っちゃった…」

「私達も言われた通りにやるしかないわよね…」

 そうして残った飛竜達はそれぞれバラバラに飛んで、二隻の船の後ろに回り込み、炎のブレスで焼きつくしたのだった…


 そして今現在…

「やっ、やったわ…!これで、こいつらも船なんて襲ってる場合じゃないわ!自分達の船で手一杯になるはずよ!」

「で、でもこれ海賊の人達助かるのかな…」

「焼け死ぬことは無いんじゃないかしら、ここは海の真ん中なんだし。それに、まだ一隻残ってるんだからそれに助けて貰えば…」

 そう話している所、ミレア達にその無事な海賊船から砲弾が飛んできた。

「ビ、ビックリした!!」

「!?あ、危ないわね…」

「まだ私達燃えてる船とそんなに離れてないのに…」

「容赦なく狙ってきたわね…。仲間よりも私達を倒す方優先って訳ね…」


「やってくれる、この海賊アオシオ様の船を二隻も…!」


 騎士達との決着もつくかと思った所に海賊達に襲われてしまい、更なる混乱が生まれてしまった船上での戦い…

 迫り来る海賊達に一泡ふかせることに成功したムスビ達だったがまだ、船長アオシオが残っている…

 ムスビ達は無事、この海の騒動を切り抜けることが出来るのだろうか…

                                 次回に続く…


 


 第十一話 飛竜部隊と海の略奪者達 終

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