第12話 何はともあれ 上陸シュガー島
海上の炎上している船から悲鳴があがる…
「く、くそ!火が消えねえ!」「み、水が足りねえぞ、もっと大量に掛けねえと」「も、もうこの船はダメだ!船長、お助け~!!」
海賊船で無事なのはもう船長の乗る一隻のみ、だが…
「情けねえ悲鳴あげてんじゃねえ!あれ撃ち落とすまで泳いで待ってろ!」
船長は飛竜に剣を向けながらそう言い、それを聞いた船員達は「そ、そんな~!」と嘆いていたが、燃え広がる炎から逃れる為、皆船長の言うように海に飛び込むのだった。
「ミ、ミレアちゃん。は、早く離れた方が良いよね?」
「そうね、まあもう船は一隻だけだから油断しなければ…」
現時点で飛竜が倒される要素は残りの一隻から飛んでくる大砲位であり、飛竜の飛行スピードを考えると逃げに徹すれば避けることは難しくなかった。
「お前ら、目一杯大砲を打ち続けろ!」
船長がそう指示を出し、飛行する四体の飛竜に大砲の雨が向けられた。
「い、いっぱい来ちゃった!!」
「あ、当たりませんように!!」
二人の口からは不安が漏れているが、実際のところ距離をとって飛行している飛竜にはそうそう当たりはしない。
だが…
『グギャアァァァァァァァァ!!!!』
ミサキ・ミレア「!?」
二人は自分達の乗っているのとは別の飛竜の叫びに肩をビクッと震わせ驚くが、目の前の光景は二人をさらに驚かせるものだった。
「これで、まずは一匹…!」
何故なら先程まで船の上にいたはずの男、海賊の船長・アオシオが今、宙に舞う飛竜の翼を斬り、飛竜が打ち落とされていたのだから…
「な、何で!?さっきまであそこに居たのに!」
「ど、どうやら相手にしない方が良いようね…、早く逃げるしかないわ!」
だが、そんなことさせないと答えるようにアオシオは飛んでくる砲弾を足場にして再び飛竜に狙いを付け、斬りかかるのだった。
『グギャアアアアァァァァァ!!!!』
「ち、近くのも斬られちゃった…!」
「も、もっと早く逃げて~!!!」
アオシオから逃れようとする二人だが、アオシオは更に砲弾を足場にして次の標的に狙いを定めた。
「ほう、こいつにはガキが乗っていたか」
二人はその言葉で次は自分達に狙いを付けられたことに気付き、震えた。
「せ、船長~!こ、こっちヤバイです!マス…」
何やら船員達が騒いでるようだがアオシオの耳には届かない。
「運のないガキ共、ここで沈め」
アオシオはその手に握る剣を大きく振り、先程までと同様に飛竜の翼を切り落とそうとするが…
『ガキーンッ!!』
「あ…?」
アオシオ渾身の一撃も透明な壁が邪魔をし、剣から金属音が鳴り響くだけだった。アオシオは当然困惑するのだった。
「ハア…ハア…助かった…」
「光の壁がなかったら今頃…、とにかく今の内に出来るだけ離れないと!」
ひとまず二人は助かった安堵していたが、早くアオシオ達から距離を取ろうと全速力で逃げ、既にアオシオが狙うには遠すぎる位置に飛び去るのだった。
「ちっ、斬れなかった理由はよく分からんが………、指示してた砲撃が止んでやがるな…?まあいい、船に戻って確認してからもう一回突っ込むか決めるか…」
アオシオは足場となる砲弾もない為、そのまま落下した。その後は海に漂う船の壊れた部分の破片を足場にしながら自分の船に戻ろうと目を向けるが…
「な、マストが折れてる!?」
「せ、船長!さっきの飛竜がこっちにもう突進してきてマストがやられました!」
「み、見りゃあ分かるがそれをやったのは今どこだ!!」
「も、もう向こうまで逃げられてしまいやした!」
船長は船員の指差す方向を見る。そこにはムスビの操る飛竜が飛び去っていく姿があった。
「ぐ、ぐぎぎ…、おのれ…」
「せ、船長…」
「………。お前ら、一度引き上げるぞ、海に居る奴ら全員引き上げてこい!」
「え…、いいんですか船長、してやられっぱなしで」
「これ以上追おうとしても逃げられるだけだ。それよりも今はこれ以上こっちが損しないことを考えろ!奪うのは次の獲物の時でいい!」
「ア、アイアイサー!!」
船長はしてやられたことに怒り顔を歪ませていたが、その後すぐに冷静になり船員達へ指示を出すのだった。
一方…
「…ごめんな、仲間死なせちゃって」
ムスビは乗っている飛竜を撫でながらそう呟いていた。
『ギュルルル…』
飛竜の声が静かな空に響いていた。
そこへ飛竜二体とそれに乗っているミサキとミレアが合流した。
「海賊の奴ら私達を狙って来ないわね…、諦めたのかしら?」
「…」
「きっとそうだよ!取り敢えずこれで一安心だよね?」
「…いや、まだ船のゴタゴタは解決してない」
「そう言えばそうね」
「………」
(あれ?ムスビちゃん、珍しく悩んでる…)
ムスビの様子を見たミサキはそう感じていた。
一方船上に居る騎士達の様子はと言うと…
「い、一体なんだと言うのだ…。我らは弱い吸血鬼の捕獲に来たはず。だがその吸血鬼は前まで使えなかった魔法を使い遥かに強くなっていた…。加えて妙な仲間共まで連れているとは………」
「妙な壁を張って我々からの攻撃をしのぎ、訓練を積んだ飛竜部隊でもないのに飛竜をああも自由に操る等想定外だ………。ましてやアオシオを退けるなど…有り得ないはず…」
「最早我らの使命は達成出来そうもないぞ…」
「我々にはもう大砲や飛竜の切り札もない。弓矢も少なく、戦える者も最初の4分の1程度しか残っていない…」
「あ、あいつらの目指すシュガー島に行くのに船を使うならここは狙われてしまう…」
「残るこの船を取るためには我々は邪魔…」
「だが、最早我々ではどうしようもない…」
皆諦めムードと言ったところだった。
騎士達は皆何故こうなってしまったのか不思議だった。勿論、自分達の相手は吸血鬼であり、グリドからもアボーの傭兵達が倒されていると言うのも伝えられていたから、ある程度の被害は覚悟していた。だがそれでもこれだけの人数の武装した騎士達、周りは吸血鬼の弱点である流水で囲まれ逃げ場等ない絶対的有利である船上での戦い、大砲や飛竜と言った切り札、これだけの用意さえあれば、子供で本来の力を引き出せていない吸血鬼の一人ぐらいなら捕まえられるはずだったのだ。
だが今は逆に完全に手がなく自分達が追い詰められている状況だ。
次は自分達がやられると騎士達全員の考えが一致していた。
『バサッ…バサッ…』
羽ばたく翼の音が飛竜が船に降りてくることを騎士達に伝えた。
騎士達(来る…!)
当然騎士達は身構え、飛竜達を迎え撃つ準備をするのだった。
ムスビ達と騎士達の戦いが再開される。
そして、その二日後…
「やった着いたよ!!シュガー島に!!」
「な、何はともあれ…到着…ね…」
ワンッ!
ヒヒーン!
『グルルルゥゥゥ………』
「…」
あの後ムスビ達は一先ず騎士達を倒した。その後のシュガー島に行く方法だが、騎士達が捨てた船の一隻を使うことにしたのだった。
船は当然ボロボロだったが、既に火は消えており、沈まない程度には形を保っていたので、要らない積み荷や乗っていた怪我人を無事な一隻に移し、その後ミサキの馬や必要な荷物だけ持っていき、飛竜には道案内兼船と鎖で繋げて引っ張ってもらい、ミレアには魔力が回復したら風魔法で船を進めてもらう役割をしてもらい、何とかシュガー島へ辿り着いたのだった…
「…お疲れ様」
「はぁ…はぁ…島着く前に死ぬかと思ったわよ…」
『グギュルルルゥゥゥ………』
当然船を無理矢理進ませていた飛竜やミレアは島につく頃には全身クタクタの状態となっており、島について真っ先に休むのだった。
「でも、置いていったあの人達は今どうしてるのかな?」
「分からないけど明日までには着くんじゃないかしら?あの船に関しては殆ど無事なんだから島にはちゃんと着くはずよ」
「そう言えばあの船って私達以外にもお客さんが乗ってたんじゃなかったっけ…。その人達も無事に着けるかな…」
「…多分そんな奴らは最初から乗ってなかったと思う」
「え?私達で丁度二十人の締め切りだって話だったのに…」
「そっか、あの二十人で締め切りも罠だったのね…」
「全部嘘だったってこと…?」
「そう言うことになるわね」
「でも何でわざわざ締め切りなんて嘘を…」
「多分受付で私かどうかを確認するためね。あいつらには元々顔はバレてるし」
「…受付で狙いのミレアが来たら俺達の時みたいに乗せて、それ以外の奴は締め切りに間に合わなかったと言い、追い返せば済むからな」
「何だか怖くなっちゃうな…。これから町に行ったらこういう風に待ち構えられてるかも知れないんだもんね…」
「そうね…、それにあの騎士達がシュガー島に戻ったら、奴らに私の魔法やミサキちゃんの光の壁とかもバレちゃうわね…」
「それってヤバイんじゃ…」
「まあそれ含めてこれからどうするか話さないといけないわね」
「…そうだな」
上陸した砂浜でシチューを食べながら三人で本格的に作戦会議を始めた。まず現状の把握を行うこととなった。
「まず私達が上陸したここはシュガー島の南にある砂浜の筈よ。そしてここから北に向かうとクリーム・パンケーキ王国が、そしてそこから少し西に向かうと港町があるわ。そしてその港町が一番その王国から近い町でもあるわ」
「どっちもここからだと数日はかかるんだよね」
「そうよ、そして騎士達は船で港町を目指すわ。そして港町からクリーム・パンケーキ王国に居るグリドへ連絡を送る…。そうなったら私達の情報は筒抜けよ」
「もうこっちの戦力は船の戦いで殆どバレてるんだもんね…」
「それどころか、飛竜もどっかに飛んでいってしまったから、船の時より戦力はむしろ下がっている位だわ」
既に飛竜達は飛び立っていた。島に上陸して一時間もせずに行ってしまっていた。
「どちらにしてもあの人達が私達のことを伝えることは確定的、その上王国以外の町でも危険がないってわけじゃないわ」
「でも一番危険なのは王国だよね」
「その通り。王国に居る時点でグリドの方が有利だわ。私達には王国のどこにグリドの味方が潜んでいるか分からないし警戒は十分にするべきよ」
「どうする?王国を目指すか他の町を寄ってからにするのか…」
「私は王国を目指すべきだとは思うわ。ここからなら港町よりも早く着くだろうし、危険はあっても必要な物や情報はより集めやすいはずよ」
「そうだね、お金はまだ余裕はあるから向こうで何を買うかだけど」
「正直、武器か何かを補充する分を考えると日数増やしてお金使うのも嫌なのよね…。そもそも、移動にそんなに時間かけたくないし…」
本来、ミサキやムスビなら王国に滞在することがあっても大して怪しまれることは無かったが騎士達が生きている以上は二人も正体がバレているので王国内、特に人の多い中心街の辺りに近づくことは難しくなったと考えて良いだろう。ミレア一人じゃなく、三人で動いていることがバレている現状では王国内で出来ることも制限される。騎士達の帰還が三人にとって嫌な影響をもたらしている。
「………ねえムスビ、本当に今更だけど騎士達にあの時何もしなかったのは悪手だったんじゃないかしら…」
ミレアはついそう口にしてしまった。
「ミレアちゃん、そんなこと…」
ミサキはその言葉を否定しようとした。
「ミサキちゃん、そうは言うけど…」
「…まあ、助けるのだけ優先ならあの騎士達は殺しとくべきだったと思うよ」
ムスビのその言葉に二人は一瞬固まってしまった。
だがミレアと同じことをムスビも考えてはいたようだ。
「やっぱりそうよね……、せめて次からは」
「そんなことないよ…、きっとそんなことしなくたって…」
ミサキは再びミレアの言葉を否定していた。
「ミサキちゃん…私だって…。でもそれぐらい出来なきゃ誰も助けられないわ…」
ミレアは少し辛そうにそう言っていた。
「…確かに現状からしたらミレアの考えが自然だよ」
そう、いくら否定しようと、元々不利には違いないこの作戦をさらに悪くしているのは、敵を生かしている三人の甘さである。
もし、自分達の目的の達成を第一とし、騎士を殺し、船や物品を全て自分達の物にすることを選んでいれば三人の情報はグリドに伝わらず、船に積まれている物資を手に入れ、ミサキやムスビの素性もバレてない状態でシュガー島に辿り着けたのだ。それは間違いない。
グリドに立ち向かうならミレアの言っていることが正しいだろう。
「…が、あくまでも狙いはグリドだ」
「ムスビちゃん…」
「何を甘いことを………。騎士達だって私達の敵でしょ!事情はどうあれ私達を襲ってきてたじゃない!」
「…確かに俺達の邪魔をしてたし、グリドの味方なのは間違いないだろう」
「やっぱりそうじゃない!敵なら情けをかける必要なんて……かけてる場合じゃ…」
「ミレアちゃん…」
「私は…、いや私達はあいつらに襲われたのよ…。家を焼かれ…。その時に私達を逃がすために母さんは殺されたわ…。そして妹も…。その後は私を追いかけて…。挙げ句の果てにミサキちゃん達まで…!あいつらに情けなんか無用よ…!!」
ミレアは話していくと少しずつヒートアップしていた。グリド達への恨みがこの中で一番強いミレアからしたら、騎士達もグリドの手先となって襲ってきた敵である。グリドと同様に憎むべき敵に映っているのだろう。
「…ミレア。お前の怒りは分からない訳ではない。…がそれでも騎士達は殺さない。出来ることなら元凶のグリドもな」
「……………あなた何言ってるか分かってるの?向こうは絶対殺しに来るわよ!」
「え?でもミレアちゃんを生かしたまま捕まえるために向こうは襲ってきたんじゃ…」
「私は吸血鬼なのよ!簡単には死なないわ!それこそ剣で串刺しにしたってね!奴らからしたら殺すつもりで私を追い詰めても問題ないのよ!でも二人はそうじゃないわ!こっちも殺す気で行かないとみすみす殺されちゃうのよ!」
吸血鬼は通常の人間を遥かに上回る生命力がある。矢で射貫かれても、剣で斬られても、大砲を撃たれたとしても、ミレアなら生き残るだろう。それだけ吸血鬼の生命力は侮れないものなのだ。故にグリドに狙われるだけの価値があるのだ。
「…俺は殺して解決したいんじゃない。グリドを倒すのは、またこんなことが起きないようにする為だ」
「じゃあ、グリドを倒したら殺しもせずに生かしておくって言うの?」
「…そうだ」
「グリドを生かしてどうするつもり…?」
「…一度牢屋に入れて、改心してもらう」
「今更そんなことして何の意味あるのよ!そんなことでグリドのしてきたことは消えはしないわ!」
「…もしグリドが牢屋で改心したらミレアやミサキ達のようなこれから出る被害者はきっと減る。グリドなら自分と同じような商人も、そこ顧客達も沢山知ってるだろうし、その手口もいくつか分かるようになる」
「……、それはまあそうかもしれないけど」
「…」
「でもそんなことで改心するような奴ではないでしょ!」
「…」
「ま、まあ一旦この話は置いとこうよ!今はまだグリド達をどうこう出来る訳じゃないんだから」
「………………。そうね、そうしましょう…。作戦の続きを話しましょっか…」
意見の対立で少し悪くなった空気だが、ひとまずこの話題は保留として他のことを話し始めた。三人には課題となる点が山積みである。仲間割れで時間を使っている暇はない。
その後手持ちの武器、物品の確認をした。
あるものを並べていくと、
武器は今までの旅の道中で盗賊から頂戴したナイフ、弓矢、毒瓶二つ、他には村を出た時に持ってきた水や食料、地図、魔導書、それらを入れている鞄、そして星のブレスレットと大会で手に入れた魔導具、これぐらいであった。
星のブレスレットを使うには空に雲がかかっていないような天気である必要がある。作戦の決行日はその日の天気が晴れであることが最低条件だろう。
大会で手に入れた魔道具だが、その見た目は笛の形に似ており、ボタンが縦に八個並んでいる。そしてそのボタンを一つ押すと押している間の人の声を記録することが出来る。記録したその声はボタンをもう一度押すことで再生されるのである。一度記録した声の破棄はこの魔道具の先端部の回転できる部分を半分回した状態でボタンを押すことで可能となる。つまり、録音が可能な魔道具である。便利なものではあるかもしれないが戦いに役立つものと思えるものではなかった。
また、ミレアは頭を振り絞り、自分が覚えてる限りのクリーム・パンケーキ王国の町の大まかな情報を書くのだった。
「じゃあ今までの話を踏まえて、どんな作戦にするか一人ずつ案をぐるぐると出していきましょ」
そうして次々と作戦が挙げられた。
屋敷に忍び込みグリド達の食べ物に毒を盛る、武器庫を爆破し混乱に乗じて救出、兵士に変装し屋敷内で奇襲をかける、グリドの店を買い物をする振りをして占拠し物資を得ると同時に捕まっている者達を要求、わざと捕まる等…
どれも正直イマイチで無理のあるものばかりだった。そこに至るまでの過程やそれをした後にどう繋げて救出するのかがまるで考えられていないのだ。
結局、三人は実際に町を下見してからでなければ決められないと言うこととなり、話し合いを一度止め目的地であるクリーム・パンケーキ王国に向かって進み始めた。
海賊アオシオの襲撃を退け、騎士達とも一先ず決着を着けたムスビ達…
遂に三人は目的のシュガー島にまで辿り着いた。これからが本当の戦いの幕開けである…
次回に続く…
第十二話 何はともあれ 上陸シュガー島 終
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