第18話 強化アイテム
「ほう。また妙なものを買ってきたのだな」
また翌日、講義が始まる少し前に集まった俺たちは、お披露目会と称してポイントで購入した道具をイシュタルテとシノアに展覧していた。
購入したのは何の変哲もないただのアルテミアス鋼。
西方にある鉱山都市アルテマが産出国なので、東の出であるイシュタルテには見慣れないものらしい。
「昨日夜遅くまで何やってるのかと思ったら、この鉱石の加工をしてたのね? 見たことがない模様だけど、これって本当に使えるの?」
「まあ見とけって」
加工したアルテミアス鋼は親機と子機に分類できる。子機はチップみたいな小さな板状。親機はそれを差し込む本体だ。
さっそくいくつか用意しておいたチップを一枚親機側にセット。
「スキャン」
魔法の呪文を唱えると、親機から赤色のレーザーが水平方向に照射される。この状態で羊皮紙の上をなぞると、その内容を読み取ってくれる読取魔法だ。
読取の終了はスキャンエンドで指定。
「これで今、アルテミアス鋼内部に一時的なデータとして羊皮紙の中身が格納されたんだ。それを今度は、チップ側に暗号化して書き出す。エンコード!」
ジッと烙印を押し付けるような音がした後、差し込んでいたチップを取り出す。まだ手を付けていないチップと並べればその差は一目瞭然。
「ふむ。小さいカードのほうに、本体に刻まれているのと似た模様が描かれているな」
「え? 本当ね……良く気付いたわね」
訂正。
思った以上にこまごまと書き出されたせいで、注意深いイシュタルテしか最初は気づかなかった。
だが彼女が言った通り、チップの一端に正方形の2次元コードが書き込まれているのがわかる。
「実はこのノイズみたいなコード自体が、暗号化された魔術式になっているんだ。今チップに書き込んだのは羊皮紙に書いてあった中身ってわけ」
「え⁉ あの紙がこんなにちっちゃくなったの⁉」
「にわかには信じられんが……」
「はいはーい! じゃあじゃあ! あたしがその魔法を使えるか試したい!」
「なるほど。確かにヒナがアッシュの魔法を使えれば、このチップに魔術式が格納されたことがわかるな」
「あー。それは」
「なに? なにか問題でもあるの?」
あると言えばある。
が、今解決するより、後で解説したほうが印象的かと思い後回しにする。
そういうことで、チップをヒナが持ち、魔法を唱えることになった。
唱えるのは始まりの魔法。
「ウォーターボール・
しかし何も起こらなかった。
「あれ?」
「不発か。失敗か?」
「ふっふっふ、実はだね」
ヒナが魔法を使えなかったのには理由がある。
「使用権限?」
「そ。魔術式を使えるかどうかの認証処理って言えばいいのかな。ほら、そもそもの話、『触媒を盗まれたらどうする?』ってことだったろ?」
「ということは、アッシュ専用の魔道具なのか」
「ちっちっちー。それがそうでもないんだな。グラントユーズマジック! ヒナ、もう一回魔法を唱えてくれる?」
「ふえ? うん! わかったー! ウォーターボール・
ヒナが発動した魔法はぐいんと彼女の周りを旋回した。これは俺のオリジナル魔法。それを唱えられるということは、魔術式の記述された触媒をヒナが持っているということになり、それは間違いなくこのチップだった。
「うわぁ! すっごいすっごい!」
「とまあこんな感じで、使用権限は他の人にも付与できるんだ。付与できるのは権限を持ってる人だけだけどな」
「じゃあじゃあ! あたしがイシュちーに魔法使っていいよー! ってしてあげるのもできるってこと?」
そういうこと。
「すさまじいな。携帯性がよく、隠し持ちやすい。暗号化されているから機密性も高い」
「それもだけど、本当に常識破りなのは記述効率よ! 一般に魔道具って多くの魔術式は刻めないの。でもアッシュの場合、この小さなチップに、魔道具何個分もの魔術式が格納できるもの!」
俺はシノアの意見を肯定した。
俺がヒナのブレスレットを見たときに思ったのは、多種多様の魔法を操るには不便そうだということだった。
その理由は、魔術式を職人が手彫りしていることにある。
いくら職人の技術が精巧と言っても、人の手で刻める精密さには限りがある。
だから俺は、この部分を魔法で代替することにした。
これまでに思いついたことがある人もいるかもしれないが、そもそもが魔術式の中身が判明していない世界。
これだけ高密度の回路を作れるのは俺だけだろう。
「で、肝心の外部動力装置はどうするのだ?」
「ふっふ。それはだね、マジックチャージ!」
チップの外周。
そこに刻まれた小さな溝が4分の1周ほど、ほのかに発光を始める。
「マジックチャージは物に魔力を込めるだけの魔法なんだ。そして今、俺の魔力の一部をチップに移した。外周が光ってるだろ? チップが貯えれる魔力量が1周分で、今は4分の1が蓄積されてる状態なわけ」
「なるほど。チップそのものが魔力の貯蔵装置になっているというわけか」
よく思いつくなと感心した様子で、イシュタルテが目を見開く。主席に一目置かれると気恥ずかしいな。
「なあ、アッシュ」
「ん?」
イシュタルテが何か思いついたように声を発する。
「こういう魔法を作ることは可能か?」
教師が来るまでの時間、イシュタルテは使いたい魔法の仕様を事細かに話してくれた。
ゲーム内には存在しない魔法だ。
でもまあ、これまでに得た知識を組み合わせれば可能かな?
「できると思うけど、何に使うんだ?」
問いかけると、イシュタルテは意地の悪い笑みを見せた。
「鬼退治」
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