第10話 ポーションをつくろう!
アルカナ学園では講義ごとに教室が決まっていて、大体の科目では自由な席で授業を受けられる。
俺、シノア、ヒナ、イシュタルテは自然と近くに集まった。
周りのグループと比べても、ここだけオーラが段違いだ……もちろん、俺以外の。3人とも美人だから、華やかな雰囲気がにじみ出ている。
ちょっとした優越感を覚える。
男子からは「なんでお前みたいなさえないやつが混ざってんの?」ってまなざしを向けられている気がするが、気のせいだろう。
講義は初日ということもあり、オリエンテーション的な緩い雰囲気で進んでいく。ただし、演習を織り交ぜながら。
例えば1コマ目の魔法学概論では実際に魔術式を羊皮紙に書き取りファイアボールを発動させてみた。
2コマ目では実際に簡易ポーションを作り、市販の低級ポーションと飲み比べてみた。
自分たちで作ったポーションはドロドロしていて、臭みがあり、市販のポーションは飲みやすかった。
これはレシピや下処理の精度、精製工程が関係しているらしい。
次の授業までに改良したポーションを提出できればその品質によって成績が加点されるという。
「ねね! アーくん、イシュちー、しぃちゃん! みんなで一緒にポーション作りに挑戦しようよ!」
「私は構わんが、同じようなものを提出しても問題はないのか?」
「あら、4人で開発しましたって明記しておけば大丈夫なはずよ?」
「そうか、助かる。私の故郷の回復薬は丸薬が主流でな。正直、液状にしろと言われて頭を悩ませていたところだ」
「リーベンには固形の回復薬があるのか?」
「見るか?」
イシュタルテはベルトに携帯したポーチから巾着を取り出す。口を開けば直径5センチほどの球体が詰まっている。
「食べてみろ」
「え⁉ いいの⁉ ありがとう! んー⁉ おいしいっ!」
「本当ね。この香りは……すり胡麻?」
「粉っぽさがなく、べたつきもしない。携帯性も抜群。すごいな……武将国」
俺はゲーム知識でリーベンで使われる丸薬のことを実は知っていたけど、実物を見るのは初めてだ。まして口にするならなおさら。
「祖父の代までは食べられた物ではなかったらしいがな。世代を重ねるごとに改良されていったらしい」
「ねえ、ポーションを作るときに胡麻を混ぜるのはどうかしら?」
「いや……こちらのポーションは薬草の香りがすり胡麻よりはるかに強い。それに苦みの問題も解決できん。別の、苦みを打ち消す、さわやかな香りの素材を探すのベストだろう」
「えへへっ! じゃあじゃあ! オレンジなんてどうかな⁉ おじいちゃんが言ってたんだけど、酸味は苦みを打ち消すんだって!」
「なるほど。柑橘なら香りもさわやかだし確かにぴったりかもしれないな」
ちなみにここまで
本来だとこの後市場をまわるのだけど、そっちは無駄足。
悪くはないが、市販品に劣るという結論に至る。
まあ俺たちの錬金レベルって、かろうじてイシュタルテが心得あるって程度だからね。
そりゃ専門職を相手にしたら負けるよ。
と、いうことでそのあたりはカットだ!
「だったら俺がいい場所知ってるぞ? 『神秘の森』――アルカナ学園にある自然系のダンジョンなんだけど、その中腹にある果樹園の果実は味も香りも良くて人気があるんだ」
『神秘の森』は『ダンジョン
出てくる魔物も緑色のスライムやマタンゴっていうキノコみたいな雑魚モンスターばかり。
森と言っているがそれほど広いわけではなく、初心者向けのダンジョンとしては文句のつけようがない。
「へえ、いいじゃない。みんな放課後って空いてる?」
「はいはーい! 空いてるよー!」
「私も問題無い」
「俺も。じゃあみんなでダンジョンに挑戦しようぜ!」
「おおー!」
しいて不満点を挙げるとすればエロゲダンジョンの代名詞ともいえるエロトラップが存在しないことだけど……今は仲良くなるターンだ。
親交を深めてパーティを固定で組むようになればそういうダンジョンに訪れる機会もある、はず。
*
ちなみにポーションの改良は、ヒナがパーティメンバーにいる場合に確定で発生するイベントだ。
裏を返せば、ヒナと別行動していれば時短できることを意味している。
俺の予想が正しければ、ロイドは今、奇行に走っているところなんだが……。
「うわ、マジでやってるよ」
ダンジョンに行く前に回復薬をはじめとする道具をそろえに足を向けた市場。
そこにはパンツ一丁にハチマキというエロゲでもなければ許されない変態的姿をさらす主人公の姿が……!
ちなみにあのハチマキは防御力の半分を攻撃力に転換する効果を持つRTA走者御用達の装備品。
そこそこ値が張るので序盤でこれを買おうと思ったら防具を売りさばかなければいけないのだ。
(どうしよう、革装備くらいプレゼントするか?)
常人の熟考に値する逡巡。
答えは決まった。
(やめよう。どうせ換金するだけだろ)
触らぬ神にたたりなし。
無関係な通行人を装って通り抜けよう。
「キャー! 変態ー!」
あっ、通報されてる。
「待ってくれ! 誤解だ!」
全然誤解じゃないんだよな。
お前はエロゲの主人公という業を背負った変態だよ、間違いない。
とはいえ、放っておくわけにもいかない。
牢屋の中でも筋トレはできるけど、休憩による回復効率が極端に落ちるからな。
無理な鍛錬が祟って負傷なんてことになったら再走案件である。
はあ、しょうがねえな。
「おーいロイド! 頼まれてた革装備持ってきたぞ」
「アッシュ⁉ なぜここに⁉」
「いいから早く着ろ!」
「すまん、恩に着る」
恩に着ろって言ったんじゃねえよ!
さっさと服を着ろ服を!
つかまりたくなかったら二度と裸になるんじゃねえぞこの変態野郎!
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